神を喰らいし者と影   作:無為の極

177 / 278
第166話 反旗

 

「ナナ、何かあったのか?」

 

ミッションの傍ら毎回では無い物の、ユノの見舞いに行く回数が多くなる頃ミッションの合間の休憩だとばかりのラウンジへと足を運んでいた。いつもであれば穏やかな空気が流れているはずが、どことなく重苦しい物へと変わっている。

そんな中で見知った人間い聞くのが早いからと、北斗は画面をジッと見ているナナへと声をかけていた。

 

 

「もうミッション終わったの?」

 

「軽めだったから、この後もう一つ入れてあるんだ。今はその休憩だ。で、何だか何時もとは違うみたいなんだけど、どうかしたのか?」

 

北斗がナナに確認しようとした時だった。どうやら先ほども同じ様な内容のニュースがずっと流れていたのか、その場に居たゴッドイーターが食い入る様に画面を見ていた。

 

 

《番組の途中ですが、予定を変更して独立機動支部フライアのクーデター事件のニュースをお知らせします》

 

 

無機質なアナウンスと共に流れた情報は、まさに今のフライアの様子を放映した物だった。突然入ってきたニュースに北斗も何があったのか確認するかの様に息をするのも忘れる程に画像を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれってどう考えても俺達が奪還したのが原因だよな?」

 

「私も詳しい事はこのニュースで知ったんだけど、ジュリウスが率先してやってるんだって言ってた。やっぱり私達がやったからなのかな……」

 

突如として飛び込んだニュースはあの時の搬出による突入作戦がキッカケになったのではと、誰もが考えていた。確かにあれが無ければ今頃こうやってニュースに出る様な内容は起こらなかったと考える事は出来る。

しかし、それが本当かどうかは当事者にしか分からない内容でもあった。

 

 

「ナナさん、それは違います。あれは非人道的な実験とも言える様な内容を誰もが知らなかったからこそ極秘裏に進める事が出来ただけで、今はそれ以上に何かをする算段が立ったと考えた方が建設的です」

 

今はグレムの会見を放送しているが、そんなどうでも良い様な話を聞く事も無く、自分達がやった事が正しかったのかと考えるのか、ナナはそれ以上何も言う事は無かった。

 

 

「あのさ……今回の件なんだけど、実際にここの外部居住区でも結構深い部分にまで話は出てるんだよ。実際に今回の放送以降、黒蛛病に罹患した人間は役立たせる為にフライアに出したらどうだって話も結構出てるんだ」

 

沈黙を破ったのはコウタだった。今回の声明発表に於いて一番の要因は既に罹患した黒蛛病患者の処遇についてだった。何かしら検体の様な扱いと同時に何かを利用している事実は巧妙に隠し、患者を差し出した所へは積極的に神機兵を貸与する事も混乱を招く一因だった。

 

 

「何が正しいのかを選択出来る程今の状況は穏やかじゃないのは間違いな。コウタの言葉を借りるなら、今は居住区全体にそんな空気が蔓延している」

 

「ハルさんも何かあったんですか?」

 

コウタの言葉だけではなくハルオミからも同じ様な言葉が告げられていた。コウタは元々外部居住区に住んでいる事から近隣にたいしての人望は厚く、またちょっとした揉め事があればコウタが度々出向く事で何とか決着をつける事が多かった。

しかし、第4部隊でもあるハルオミまでとなれば話は大きく変わってくる。今の段階では何が正しいのかを判断出来る余裕が居住区には無い事だけは間違い無かった。

 

 

「一言で言えば、今回の内容はあまりにも住人に対しての内容が良すぎるのが一番の原因なんだろう。ただでさえ接触感染する黒蛛病患者を引きとって貰えて、なおかつその守護として神機兵が派遣される。

言い方は悪いが、体の良い厄介払いが出来て、なおかつ今の住人の命の保証までされる。そうなれば断る理由がどこにも無いんだ。まだアナグラの内部に住んでるならばまだしも、外部居住区に住んでいる人間からすれば本当の事が分からない。幾らフェンリルとして批判しようが、ここ数日の神機兵の稼動状況を見れば文句は無いからな」

 

ハルオミの言葉が全てを表していた。今回の内容に関しては偶々奪還したからこそ内容が発覚しただけの話であって、外部の人間は何一つ知らされていない。

ジュリウスの声明だけ聞けば非人道的と言っているだけのフェンリルの方が全うだとは考えにくい部分が存在していた。

 

 

「そんな考えは間違ってる。ジュリウスは確かに人類の為だって言ってるけど、それとこれは違う。私が…少なくとも私達が知ってるジュリウスはそんな考えじゃなかった」

 

 

ナナの言葉に今までの言動を思い出していた。確かに世間に疎い部分はあってもサテライトでの話や今後の事についてとジュリウスは何かを犠牲にしながら物事を進める様な事は今まで一度も無かった。

少なくとも自分の手の届く範囲の事位は何とかした。そんな考えが有った様にも思えていた。

 

 

「そうだな……そんなドライな考え方はらしくないだろうな。となればやるべき事はただ一つ。ジュリウスを力づくでも連れてくる事だな」

 

「北斗の言う通りだよ。帰ってきたら皆でお説教しないと!」

 

ナナの言葉に全員が立ち上がる。これから何をすべきなのかは口に出すまでも無くたった一つだった。かつては上司でもあり、良き友人でもあったジュリウスの奪還。

ここから先がどんな道が待っていようと、今はただ足を止める様な考えを持つものはこの場には誰も居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと北斗君。少し時間あるかい?」

 

ラウンジでの決意を元に、これからの行動予定を考えようとした際に、偶然ロビーに来ていた榊に呼び止められていた。先ほどのニュースを見たからなのか、それとも何か進展があったのか、今の榊の表情をみた所でそれが何を示すのかが北斗には分からなかった。

 

 

「お話とは何でしょうか?」

 

支部長室へと足を運ぶと、そこには無明までもが待っていたのか、この時点で随分と深刻な状況に何かが陥ったのではないのかと北斗は考えていた。対した内容でなければロビーで話せば事が足りる。しかし、ここまで来たのであれば、何かしらの重要な内容である事は直ぐに理解していた。

 

 

「態々ここに来て貰ったのは、ユノ君の事なんだ。体面上ユノ君が罹患している事は伏せられているからね。ここならばそう大きな問題にならないだろうと判断したんだよ」

 

榊のその一言でユノの件である事は直ぐに理解出来ていた。ユノはここ極東支部だけではなくフェンリルとしても今はVIPの扱いを受けているからなのか、万が一罹患した事実が公表されれば何かと問題が起こる可能性が高い。

いくら自分でやったと本人が言った所で、それが事実であるかどうかは本人以外には判断が出来ない。情報漏洩を防ぐ為の措置である事だけは理解出来ていた。

 

 

「実はユノ君に関して何だが、どうも他の患者と数値が大きく違っているんだ。黒蛛病に関しては本来であれば数日間の潜伏期間を設けた上で体表に蜘蛛の痣が浮かぶんだけど、彼女の場合、その進行が早すぎる。個人差はあるにしてもなんだけど、他の患者に比べれば些か早すぎる。事実、今はネモス・ディアナにもゴッドイーターが一人罹患しているんだけど、それはゴッドイーターが故の身体能力の結果ではあるんだ。もちろん今まで罹患してそのまま命を落としたケースはこれまでに何度も見てるんだけど、彼女に関してはその考えが当てはまらない」

 

榊の言いたい事は何となく分かるが、それでも理解が追い付く事が無かったのか、既に北斗の目を見れば理解していない様にも見える程に目が泳いでいた。

 

 

「榊博士。それでは北斗は理解出来ません。もっと簡潔に言わないと」

 

「そうかい。では簡潔に言おう。今のユノ君の病気の進行は今までに見てきた患者の中でも断トツと言える程に早い。今はその根拠となる物は何もないが、恐らくはユノ君に関しては何らかの形で黒蛛病に対する資質があると睨んでいる。今はまだその結論をおいそれと出す事は無いが、今までの可能性を考えれば間違いないだろう」

 

榊の前向きな言葉に明るい何かが見えた様にも思える。今はまだ手探りではあるが、それでも何かしらの対策が取れるのであれば希望を見出す可能性だけは記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかと思ったんだが……これもまた天の配剤なのかもしれないね」

 

「となれば、早急な対策を講じる必要があります」

 

ユノの様子を慎重に見ながらの結果は、榊にとっても無明にとっても一番可能性が低いと思われていた内容であると同時に、どこか納得できる様な部分もあった。しかし、それと同時に今回の件に関しては前回の様な対策を打ち出す事が出来ない事に頭を抱える事になった。

 

決定的に違うのは媒体が完全に完成されていない事だけではなく、未だ未完成である以上、今後はどうやって完成に近づいて行くのかは常時監視する必要があった。今までの事を考えればこの仮説は仮説では無くなる可能性が極めて高い。これをどうやって考慮するのか、どうやって対抗手段を考えるのかが何も見えないままに時間だけが悪戯に進んでいた。

 

 

「……もう少し時間をかけないと何とも言えないんだが、これがもしそうだと仮定した場合、単独では無い可能性も捨てきれないのも間違いない。果たしてどうしたものか」

 

榊の呟きに対して無明も何も言う事は出来なかった。仮にそれが複数あった場合、最悪の事態に陥ると連鎖反応を起こす可能性があると同時に、その個体の寿命との競争結果が誰にも分からないだけではなく、どうなるのかすら考える事が出来ない。

 

荒ぶる神の原始の能力がそうさせるのか、それともそれを人類が克服するのが早いのか、その答えを出すには未だデータが少なすぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「榊博士の話だとユノさんは治る可能性があるって事なのかな。だったら早く治ってほしいよね」

 

「確かに早く治ってくれるのが一番だとは思いますが、私の気のせいなら良いのですが、何となく榊博士の中ではある程度の結論が出ている様にも見えました。何がと言われれば明確には言えないんですが」

 

榊からの説明は少しだけ明るい未来が待っている様にも聞こえていた。しかし、シエルの言葉にもある程度うなずけるだけの根拠もある。

これだけ猛威をふるっている黒蛛病に関しては、本当の部分では完治の為のメカニズムすらまだ解析されていない。致死率が100%を下回らない以上、ナナの様に楽観視しすぎるのは都合が良すぎるとまで考える事が出来ていたがそれを口に出した者は誰一人居なかった。

 

 

「北斗。丁度良い所にいた。これから整備室に来てくれ」

 

ラボから帰る途中で北斗はナオヤから呼び止められていた。神機の事で何か変わった事でもあったのかと考えはしたが、ここ最近の中ではアップデートの話も無ければバージョンアップの話すら出ていない。そんな中で呼び止められはしたが、心当たりは何も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「丁度良かった。実は君の神機なんだけど、少しだけ取り付けたい物があったんだ。で、暫くの間はそれを付けたままにしてほしいんだよ」

 

分からないままに技術班へと呼ばれると、そこにはリッカも作業をしていた手を止めて北斗の方まで近づいてくる。心当たりが無い以上、これから何が起こるのか皆目見当もつかなかった。そんな中で取り付けられたパーツは確かに小さい物ではあった。恐らくは戦闘中でも気兼ねする事が無い程度の大きさにこれが一体何のパーツであるのかが理解出来なかった。

 

 

「これは神機の活性化を計る計測器なんだけど、君の場合は暴走の可能性があるから、実際にはどこまで活性化するのかを数値化し無い事には制御する手段が見つからないんだよ。で、その為には現状を把握しないと先に進まないからその一歩だと思ってくれれば助かるよ」

 

リッカの言葉で漸く北斗は理解していた。暴走状態に陥るとなれば、それがどのタイミングになるのかだけではなく神機が最悪暴走状態の数値をトレースし始めれば、今度は運用そのものが出来なくなる可能性があった。暴走する以上は本人のオラクル細胞の活性化は間違い無く、またそれを制御する為にはそれなりの器が必要になる事が理解出来ていた。

 

 

「まあ、そう簡単になるとは思えないんだが、万が一感応種が出れば、今のままでは最悪の可能性がある。ましてや暴走状態を止める事が出来る人間が早々都合よく戦場に居る訳では無いから、ある意味当然の措置だな」

 

マルドゥーク戦の二の舞だけは確実に避けたい事実が確かに存在していた。あの時の状況は今でも脳裏にこびりつくかの様に残っていると同時に、今後の事を考えればトラウマとなるレベルでもあった。自分で制御が出来ない以上、今は神機からのアプローチで制御するのはある意味当然だと考えられていた。

 

 

「分かりました。それとその数値を出すに当たってはどれ位のサンプルが必要になりますか?」

 

「数値化するならば数は多ければ多い程良い。出来る事なら50ミッション位はこなしてほしい所だな。今は神機兵の事もあるから数値的には厳しいかもしれないが、それ位ないとサンプルとしては役に立たない」

 

ナオヤの言葉に今の現状が思い出されていた。言われた数値は以前であれば困る程ではないが、今は神機兵が率先してやっている関係上、個体数は激減し、目標値にまで届かそう物ならばどれ程の時間がかかるのか想像すら出来ない。

だからと言って、自身に爆弾を抱えたままでは危険な事もまた事実である以上、今の北斗に拒否する事は出来なかった。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。