神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第164話 フライアの真実

 

「丁度良かった。北斗君、またレアの所に行ってくれないかな?何か話したい事があるみたいだから」

 

暫くの間は小型種の討伐任務が続いた事により、北斗達は負傷どころか、汗一つかかない程に簡単なミッションをこなしていた。そんな中で弥生からの話は、また一つ何かが分かる可能性があると考えていた。

幾ら頭を捻ろうが、何も分からない状況では満足な答えは出る事が無い。そんな事を考え、今は弥生が言う様にレアの下へと足を運んでいた。

 

 

「レア先生。もう大丈夫なんですか?」

 

「ええ。弥生だけなく、貴女方にも心配かけたみたね。前よりもマシになったと思うわ。でも、一人になると色んな事を考えるの。どうしてあの時そんな結果になったのか、どうしてあの時気がつかなかったのかを今になってから思い出すの」

 

レアの言葉はある意味ラケルの偏食因子の投与と同等に驚きを示す物だった。元来ラケルは無人運用を是とはせず、むしろ今まで以上に有人型の発展を推奨していたはずだった。

しかし、レアが気が付いた時には既に遅かったのか、まるで最初から決められていたかの様に無人運用に舵を切ったと思う程に九条博士の為に制御装置を完成させていた。

しかし、それが不完全だった事はその後のロミオの事件で発覚し、そのまま九条博士は神機兵の開発メインストリームはら外される結果となってた。

ここまでであれば当時のグレムの言動からすればある意味当然の事だと思えた結果ではあったが、そこに何故かレアまでもが外され、結果的にはラケルが一人で神機兵の開発に専念する結果となっていた。

 

 

「あの事件以降の事は言った通り、九条博士は開発から排除、私も開発に関しての結果を残していないと言われ同じく排除されたわ」

 

「しかし、それだと有人型は完全に開発が進まないのでは?」

 

「ええ。有人型の開発は無期限での凍結となったわ。それにとって変わるかの様に神機兵の開発にジュリウスが加わる事になり、神機兵はそこから有人でも無人でも無く、遠隔型制御へと舵を切ったの」

 

この時点で漸く通信を繋いだ当時のジュリウスの状況が見えていた。確かに今の神機兵の動きを見れば、どこかジュリウスの戦い方に似ている様な気もしていた。身体の大きさが違う事もあり、比較するには時間がかかるが、確かにあの行動原理はジュリウスのそれとよく似ていた。

 

 

「これは私の推測なんだけど、今後の神機兵は更なる情報をフィードバックする事で今以上に統制する事になると思う。その結果、ジュリウスは彼らの王として君臨する事になる。そしてそれが恐らくは……ラケルが考えていた最終目的の一つなんだと思う。私はラケルに負い目があったから薄々は感じていた事に目を背けていたの。今となってはあの時点でラケルが何を考えているのかすら考える事を…放棄していたんだと…思うの」

 

今までの事が感情となって襲い掛かってきたのか、再びレアの表情が悲しみに覆われると同時に、それ以上の言葉を聞くのは難しいと考えていた。しかし、この場に於いてこれで終わると、また先へ進むには更なる時間を要する事になる。

今の状態で話を聞く事によってレアの精神が壊れる可能性もあったが、今はそこまで悠長な事を考える余裕はなかった。今の話からすればこの先に待っている未来がどんなものなのかは誰に聞いても想像できる。

 

 

「レア博士、聞きたい事が一つある。ラケル博士、いやラケルは何を考えてるんだ?今の話が本当ならば、あれは人間の心を持たない何かの様にも思えるんだ」

 

「北斗、それは言い過ぎでは」

 

北斗の言葉はストレートにレアに届いたのか、それとも考えられるであろう未来に何かを見つけたのか既に遠慮は無かった。あまりの内容にシエルも制止しようとするが、北斗は敢えて気にせずにレアを見ていた。

 

 

「あの子の事は私にはもう分からない。どんな顔をして何を考えているのかすらも。今さらだけど、私は神機兵以外については何も知らない。いえ、知らされてすら無かった。マグノリア=コンパスの事もだけど、何をしていたのかは父が詰問した際に初めて知ったの。あの時点で気が付いていればこんな事にはならなかったのかもしれない。シエル、あなたには知る権利がある。私の事は構わないけど、貴女には知って欲しい事が

あるから」

 

そこらかの意を決したレアの話はシエルが予想している物とは大きくかけ離れていた。マグノリア=コンパスは孤児を集め再教育する事で改めてこの時代で生きていく事が出来る様にする為の施設だと聞かされていた。

 

確かに当時の状況はシエルにもおぼろげながらに記憶があったが、そこから退園した人間が再び訪ねて来た事は今までに一度もなく、またその後どうやって生活しているのかすら確認する事は出来なかった。

当時は幼心もあってか言われた言葉をそのまま鵜呑みにしていたが、今考えると腑に落ちない点が幾つも存在していた。

 

 

「レア先生。それは一体?」

 

「あそこは人体実験をする為に人間を集める為の施設だったの。元々偏食因子が適合しない前提で無理矢理投与すれば自身がオラクル細胞に捕喰されて絶命するのは知っての通りなんだけど、ラケルはそれを知った上で子供達に投与していたわ。で、ある日それを父に咎められたんだけど、あの子はまるで人形で遊ぶかの様に神機兵のプロトタイプで殺害したの」

 

まさかの言葉にシエルだけではなく北斗も絶句していた。確かジュリウスだけではなく、ロミオとナナも同じ施設出身であれば、今生きているのは偶然だと言える結果しかなかった。人間の所業とは思えない劇的な事実にシエルの拳が僅かに震える。

そんなシエルに気が付いたのか、北斗はシエルの手をやさしく握っていた。

 

 

「ラケル先生。最後に一つだけ良いですか?フライアでは確か黒蛛病患者の治療をしていたと思うのですが、神機兵の開発と並行してやってるんですよね?」

 

シエルの言葉は一つの賭けだった。以前サツキから聞いた際には、今のフライアに薬一つ搬入されておらず、本当に治療をしているのか懐疑的な部分だけが存在していた。事実として黒蛛病に関する特効薬の話は未だ出ていない。それが今に至る為に、その事実だけは最低でも確認したいと考えていた。

 

 

「シエル。貴女の言いたい事は分かるわ。フライアはあくまでも神機兵の開発と生産だけをしている。運ばれた黒蛛病患者は何らかの形で神機兵の制御に利用されているんだと思う。私はすでに排除されているから詳しい事は何も分からない。けど、以前に何かそんな事を言っていた記憶はあるわ」

 

レアの言葉が関係者である以上、今のフライアは完全に真っ黒だった。この事実をどう捉えるのかは自分達が考える問題ではない。そもそも神機兵に利用されているのであれば、今回の情報を下手に扱えばどんな現象が起こるのか想像するまでも無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかそうなっているとは……」

 

レアの言葉をそのまま榊に伝えると、弥生経由で話を聞いたのか、その場には無明も同じく壁にもたれながら話を聞いていた。治療の名の下にフライアに集めたまでは良かったが、どんな扱いをしているのかはさておき、明らかな人体実験は幾ら命が軽いこの時代であっても重大なコンプライアンス違反となる。

ましてや人体実験で得られたデータをそのまま公表する事になれば、フライアの特性上、フェンリルそのものに批判の目が向かう効能性を秘めていた。

 

 

「このままではいくらフライアが弁明しようが批判されるのは間違い無いでしょう。確かあそこの局長は…グレムスロアだったか。責任を取る様な真似は絶対にしないだろうな。あるとすれば自己弁明位だろう」

 

無明の言葉に北斗とシエルは驚いていた。フライアの上層部は他の支部とのつながりは殆どない。局長ゆえに名前と顔は知っていたとしても、その人物像まで知っている可能性は低く、同じフライアに居た際にもそこまで話をした記憶は今まで一度も無かった。

 

 

「無明さんはグレム局長を知ってるんですか?」

 

「知っている。何度か舞踏会で見たが、あれがフライアのトップだとすれば、そのラケルは余程うまくそそのかしたんだろうな。あれは案外と金に汚い男なのはその筋では有名な話だ」

 

無明の一言は良く知っている人間からすればある意味当然だったのかもしれなかった。当時初めて見た際にはユノに媚びへつらう姿勢を見せていたかと思えば、今度は製造に関する面だけではなく、ロミオの事ですら無駄だとばかりに吐き捨てる様に言っていた記憶が蘇っていたのか、北斗の表情は大きく歪んでいた。

 

 

「とにかくあれの事はどうでも良いが、今後の事を考えると極東支部としては今回の件に関しては容認する訳には行かない。今後は速やかに査問委員会への働きかけをし、今後の件に関してフライアの権利をはく奪する事になるだろう。これは可能性の一つではあるが、今のフライアは神機兵の製造や調整を一手に引き受けすぎている。今後の事を鑑みれば、我々が査問委員会に提訴した瞬間に本部は直ぐに動く事になるな」

 

北斗達は知らなかったが、現在のフライアは神機兵の製造や調整だけではなく、更なる発展した物を開発していた。対アラガミ兵器としての能力が今回の件で確認出来た事で各支部からも神機兵に関する問い合わせが殺到していた。

 

このままではフェンリルとしては単なる一部署が全体を掌握する可能性があると考えていた部分もあるのか、現在の所は水面下では何かしらの対策を立てる必要があると連日の会議の議題に上っていた。

そんな中で極東から査問委員会に正式に提訴されれば、それを元に本部は堂々とフライアへ乗り込むと同時に、全権限の剥奪と管理者の変更を迫る可能性が極めて高かった。

 

 

「一つ質問ですが、宜しいですか?」

 

無明の言葉はある意味、現実味を帯びた可能性でもあった。実際に上層部の内容もある程度把握している以上、会議の場で何が行われているのかは容易に想像出来ていた。

だからこその可能性を口にしたが、その内容があまりにも現実的過ぎた事も影響したのか、シエルは自分の考え方と可能性を確認したいと考えていた。

 

 

「今の話が仮に事実だとした場合ですが、神機兵の製造と調整で黒蛛病患者が何らかの形で利用されている場合、本部はどう動くのでしょうか?」

 

「上層部の連中は技術に関しては何も知らない輩が殆どだ。恐らくは製造の権限され握れば後で確認すれば良い位にしか考えていないだろう。特に黒蛛病患者の処遇については、技術的な部分で確認が出来なければそのまま切り捨てるだけだろう。ただでさえ致死率が100%である病原体をそのまま管理する必要が無いなら、どこかにまとめて隔離するか、そのまま秘密裡に処分するだけだろう」

 

無慈悲な回答ではあったが、この件に関してはシエルも似たような考えを持っていた。レアの言葉通りであれば、黒蛛病患者をどうしているのかはラケルしか知りえない事になる。ただでさえ今の時点でフライアの職員の殆どを排除した事により情報漏洩の危機は全くあり得ない。

となれば摂取した際に関連性が無ければ早急に処分だろう考えを持っていた。

 

 

「無明君。今回の件に関して何だが、僕としては患者は何も知らずにフライアに行っている。そんな中でいきなり処分となれば何かしら問題点も含まれると考えてる。だから査問員会への告発は少しだけ様子を見てからにしようかと思うんだ」

 

今回の件に関して既に対策を立てていたのか榊が無明に提案していた。証言がある以上、万が一の事が起きてからでは甚大な被害を被る可能性を考慮した結果、本部が乗り込んでも問題無いと判断した結果ですると宣言していた。

 

 

「となれば、やるべき事は一つだけだね。これからミッションを発注するからヒバリ君の所に居てくれれば問題ない。これはわたしから君達への特務だと考えてくれたまえ。ただし、場所が場所なだけにアラガミの侵入の可能性は低くても、そこには神機兵が待機している可能性も捨てきれない。もし行くのであれば、一旦はリッカ君に頼んで神機のチェックも頼んだよ。我々としても、いや、一科学者としても安易な人体実験をむざむざの見逃す様な事はしたくないからね」

 

「では早速ブラッド全員で任務に当たります」

 

榊の言葉はすぐさま現実となっていた。ロビーではヒバリに確認すると、既にデータが来ていたのか特務のファイルを北斗へと渡す。話を聞いからなのかギルもナナも目に怒りとも取れる炎が宿っている様だった。

神機兵の教導に携わるジュリウスはこの事実を知っているのだろうか。

これよりフライアへの侵入及び、黒蛛病患者の救出がメインの任務が発生されようとしていた。

 

 

 

 


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