神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第162話 意外な人物

 

「流石は極東産だな。傍から見ても今までの神機とは明らかに違うのが良く分かるぞ」

 

試し斬りならぬ試運転で、手ごろなミッションを受注し、現在に至っていた。既に討伐対象だったグボロ・グボロ堕天とコンゴウ堕天は霧散し始めていたのか、既に形を維持する事無くそのまま消え去っていた。

 

 

「ギルもそう思うか。今まで使っていたクロガネも悪く無いとは思ってたけど、まさかここまで違うとは思わなかった」

 

「それがあれば今後のミッションは随分と楽になりそうですね」

 

今まで使っていた物に愛着はあったが、今回託された刀身はその遥か上の結果をいとも簡単に出した事で改めてここが激戦区である事を理解されられていた。一番最初に搭載された際には見ただけで今までの神機とは格段に違う事は予想出来たが、ここまでの能力であったとは思ってもいなかった。

一番最初に聞かされたのは、このパーツがまだシェイクダウンしたばかりの為に、これから徐々にアップデートを施すと聞かされていた。またこれ程の能力が無ければ高難易度ミッションをこなす事が出来ない事も嫌が応にも理解していた。

 

 

「でも、これで今まで以上に高難易度ミッションには確実に駆り出されるのは間違いないだろうな」

 

「それは仕方ありません。今はエイジさんとリンドウさんも不在となっていますので、我々も確実に戦力の数に入っている以上、結果を求められるのは必然でしょうから」

 

シエルが言う様に、今回の試運転の際にはナオヤに使用感や実際にどんな使われ方をしたのか、いつも以上に細かいチェックが入る事を事前に通達されていた。エイジの黒揚羽とは特性が違うとは言え、最新型の刀身パーツのデータは今後の開発にフィードバックされる事になる。

その結果が今後の対アラガミ兵器に昇華されるのは、ここ極東ではある意味当然だった。

 

 

「とにかく早く終わる事は良い事だよ。早くアナグラへ戻らない?」

 

時間を見ればそろそろ昼食の時間に差し掛かろうとしててたのか、ナナはどこか急ぐ様な素振りで話を進めるが、生憎と帰投用のヘリの到着にはまだ時間がかかる。そんな中で不意にアナグラからの通信が割り込んで来ていた。

 

 

《任務完了後に申し訳ありません。今いる地点より南東の方向約30キロ地点に民間人が運転していると思われる車がアガラミの襲撃を受けているとの通報がありました。現在帰投用に向かっているヘリでそのまま現地へと移動する事になります》

 

「襲撃って、車は何台?」

 

《こちらで確認しているのは1台です。今の所は何とか大丈夫だとは思いますが、その地点は遮蔽物が無い為にそのまま逃避する事は難しいかと思われます。今後の事を考えれば楽観視できる程の状況にはありません。民間人の保護を最優先とし、これから任務を更新します》

 

通信の相手はフランだった。緊急時であると同時に近隣ではブラッドが一番近い場所に居る点と、ヘリの移動時間を計算した結果だった。その報告は既に全員が聞いていたからなのか、既に表情は通常の戦闘時と大差ない程になっていた。

 

 

「あんな地域に何の為に居たんでしょうか?あの辺りには何も無かった様な記憶しかありませんが」

 

「この辺りで何かの調査でもしてたんじゃないのか?にしても調査なら護衛も居るはずだが、状況がおかしいのは間違いなさそうだな」

 

シエルとギルが疑問に思うのは無理も無かった。フランからの通信で明らかになった地域には学術的にも物質的にも気になる様な物は何もなく、そこはただの平原の様な場所。

そんな所に調査に行くのであれば、通常であれば業務として派遣する際には最低でも2人は護衛が付く事になっている。にも関わらず、連絡ではそんな気配すら無かった。既にヘリは目視出来る距離まで近づいてきている。今は一刻も早い行動を余儀なくされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは……拙いな」

 

高度からのヘリは現地を見ると、既に車は何度か襲撃されていたのか、車の後ろの部分の一部が大破していた。北斗が呟いた様に、既に車の速度が目に見えて遅くなっている。この距離では運転手は分からないが、一人だけの為に、銃での威嚇射撃もままならない状況に陥っていた。このままでは捕喰されるのは時間の問題。

これ以上の時間の猶予は最早無かった。

 

 

「もう少しだけ高度を落としてください。このまま出ます。シエル、援護射撃してくれ」

 

「了解しました」

 

その一言で全てを理解したのか、シエルは銃身を襲い掛かるアラガミへと向けている。それと同時にヘリの高度が徐々に低くなり始めた瞬間だった。北斗は一気に自身の身体をヘリの搭乗口へと移動させると同時に、一気にアラガミへと襲いかかっていた。

 

 

「ナナ、俺達も北斗に続くぞ」

 

「了解!」

 

北斗の後を追う様にギルとナナもアラガミに向かって一気に降下していく。シエルも数発の援護をしたと同時に、神機を剣形態へと変更し、同じ様に一気に飛び降りていた。

 

 

「間に合え!」

 

北斗の高高度からの降下によって襲いかかろうとしていたオウガテイルの背中に向けて白刃の刃を一気に突き立てていた。重力の恩恵と自身の神機の能力は衝撃を伴う突撃となったのか、大きな口を開けて襲いかかろうとしたオウガテイルは背中から真っ二つになり、そのまま絶命していた。

 

 

「とりゃああああああ!」

 

北斗に続いたからなのか上空からナナの声を伴いながら、同じくシユウの頭にハンマーが直撃し、同じくシユウの頭蓋は砕けそのまま倒れた瞬間、ギルが止めとばかりに空中からのチャージグライドでそのままシユウの命を散らしている。

上空からの強襲に気が付いたのか、同じ様にその場にいたシユウ堕天も周囲を警戒するも、その直後にシエルからの急襲を受けた事で同じ末路をたどっていた。

 

 

「危なかったね。あれ、民間人が乗っていた車ってどこなんだろう?」

 

一瞬とも言える戦いによって戦端が開かれる前に決着は付いていた。詳しい事は分からないまでも、ミッションとして受けるのであれば今のブラッドが受注する程の内容では無い。今回は緊急時での内容が故の判断となっていた。

そんな中で襲撃された車は近くに無かったのか、すぐに見える様な範囲では何も分からない。ナナが周囲をキョロキョロとした時だった。

 

 

「どうやらあそこに停まっている様です。何かあると危険ですから急ぎましょう」

 

恐らくはアラガミの襲撃がこなくなった事で緊張の糸が切れたのか、車はシエルが見つけたのか指を指した方向で停止したままの状態だった。大丈夫だとは思うも、万が一燃料が引火する様な事があれば瞬時にその場は大参事になる可能性が高かった。

車を見れば時間の問題である事を感じたからなのか、このままでは巻き込まれる可能性が高いと判断し、今は少しでも早く民間人を保護する為に走っていた。

 

 

「大丈夫…です…か…えっ、レア…博士?」

 

北斗が言い淀んだのは無理も無かった。襲撃にあった車の運転席にはフライアに居るはずのレア博士が意識を失ったまま運転席に座っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

民間人の保護までの連絡でアナグラには少しだけ安堵の空気が流れていた。しかし、保護した人物の名を告げられると今度は違う意味で言葉が出ない。それほどまでに保護したのは渦中の人物である事が認識されていた。

当初は負傷した可能性が高いとの判断からすぐに医務室へと搬送されていたものの、結果的には目立った外傷は見当たらなく、その結果精神的な疲労の蓄積である事が説明されていた。

 

 

「しかし、当事者がここに保護となると少し厄介な事になりそうだね」

 

「ただ、今回の件に関してですが、あの場に護衛も無く居た事も疑問が湧きます。今は憔悴しきっているので話す事は厳しいでしょうが、ここは一度弥生に確認して貰う方が手っ取り早いのではないかと」

 

レアの保護の件は榊と無明にとっても災いの種にしか考える事が出来なかった。事実、この場にレアが居るのであれば立場としてはフライアに保護の要請をする必要が出てくる。にも関わらず、車両の内部に有った物を確認すると、どう考えても亡命する様な持ち物しか搭載されていなかった。

となれば可能性は今のフライアに何か隠している事がある事になる。万が一の事も考えれば早急な情報収集は必須となっていた。

 

 

「気にならないと言えば嘘になるんだが、君の方では何か掴んでないのかい?今回の件はともかく、ここ最近は神機兵を派遣する方向に加速しているみたいで、我々の所にも打診が来てるんだが、どこまでの情報を掴んでいるのかが皆目見当もつかないのは少々困る事になるからね」

 

「あれは他の支部とは違い完全に独立した運営ですから、恐らく本部経由でも詳細な情報を入手する事は無理でしょう。一番はレア博士ですが、あの状態では何を話しても言葉に真実味を感じる事は無理だと判断するのが妥当でしょう。こちらで掴んでいるのはここ最近の神機兵の稼動に関しては従来以上の動きと実績が出ている事位で、これは推測ですが本部が感知していないか、無視しているのかによっては一番最悪のパターンになる可能性も否定出来ません」

 

極東そのものに害が無いとは言い切れないのも事実だが、またそれを断定できる程の材料が無いのもまた事実だった。このまま膠着した状態が続く様であれば、危惧していた事が現実味を帯びる可能性が高かった。

 

それほどまでに極東以外の支部では神機兵の早急な配備が本部の元に出されていた。ここ暫くの間に神機兵の動きが急激に良くなった事から配下のゴッドイーターをそのまま派遣するよりも安全性と運用コストが高く、現場はともかく各支部の上層部の覚えは良い物へと変化していた。

いくら技術確信の速度があったとしても、今までの物から急激に良くなるのであれば何らかの要因が必要となる。いくらフライアが本部の直轄だったとしても、安心できる材料は何も無かった。

情報漏洩はしないのは当たり前だが、過度な対応をすれば疑う者も出てくる。そんな可能性が否定できない程に今のフライアには外部に対する目は厳しい物だった。

 

 

「弥生君。すまないがここでは秘書としてではなく、友人としてレア君の様子を見てくれないかな。情報は引き出せれば一番良いんだけど、今の彼女の状態を考えるとそれは厳しいだろうからね。暫くの間はこっちの仕事をセーブしても構わないから、そうしてくれないかな?」

 

 

「私個人としてもレアの事は気になりますので、今回の任務は謹んでお受けします。ご当主、詳細が分かり次第逐次報告させて頂きます」

 

「すまないが頼んだ」

 

弥生の目はすでに秘書ではなく一人の配下の様な目をしていた。元来秘書にするには惜しいとまで言われる情報収集と人間を媒介とする人心掌握に関してはこの事務方の中だけではなく、フェンリル全体としても群を抜いている。

幾ら秘書とは言え、仮にも本部の魑魅魍魎を相手にするにはそれなりの手腕が必要不可欠でもある。もちろん、普段はお姉さん的に振舞うが無明の前ではそんな気配は微塵も無く、ただ一つの命令を遂行する為だけに存在している様でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「北斗君、シエルちゃん。ちょっといいかしら?」

 

親しき友人ではあるが、何も語らないままであればここにも迷惑がかかると判断したレアは弥生経由で北斗とシエルにコンタクトを取っていた。憔悴した当初はほとんど口も利かず、ただ涙する場面が多かったが、時間の経過と共に落ち着いたのか、ここで漸く弥生はレアと何気ない話の中から自身の口から語る方が良いだろうと判断する事になった。そんな中で弥生は北斗とシエルに声をかけていた。

 

 

「特に問題はありませんがどうかしましたか?」

 

「実がさっきまでレアと話をしてたんだけど、何か言いたげな事があるみたい。多分だけど、私が聞くよりも貴方達に話した方が良いだろうと判断したみたいなのよね」

 

弥生が言う様に落ち着きだしたレアではあったが、おる程度会話が進むとどこか怯えた様な雰囲気があった。恐らくフライアで何かが起こっているのはこの時点で間違い無かった。

事実、弥生も様々なルートを使って、今のフライア内部の事を確認しようかともしていたが、その結果は芳しい物では無かった。そんな中でのこの状況は何も知らない人間であっても容易に推測できる物が幾つも存在していた。

 

 

「そうでしたか……分かりました。私達に出来る事があればその様にしたいと思います」

 

「ご免なさいね。多分レアとしては私よりもシエルちゃんの方が話しやすいのかもしれないわね」

 

ここで漸く何かしらの打開策があるのではとの考えと同時に、今の状況を確認できるからとシエルは悩む事もなく弥生からの話をそのまま受ける事を決めていた。何がどうなるのかは分からなくても、原因が分かれば今後の事での対応が取れる。

シエルはそう考え、北斗と共にレアの居る医務室へと歩いていた。

 

 

 


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