神を喰らいし者と影   作:無為の極

166 / 278
第156話 共同作戦

ブラッドとクレイドルの共同作戦の概要はアナグラにすぐさま通達されていた。今回の相手は因縁とも言えるアラガミ。通常種ではなく感応種である事が今回の任務を困難な物へと押し上げていた。

 

 

「何だよ。今回は俺だけ仲間外れなのか?久しぶりにエイジとミッションに行きたかったんだけど」

 

「コウタはクレイドルでもあるけどその前に第一部隊の隊長なんだし、それは無理だよ。コウタが参戦したらエリナとエミールが気の毒だと思うけど」

 

通達が出た瞬間、クレイドルの参戦リストにコウタの名前は無かった。ロミオが負傷したまま、ジュリウスの脱退によりブラッドはこの時点で4人。それに対してクレイドルはエイジとアリサ、リンドウとソーマの4人が選出されていた。

 

 

「そりゃそうなんだけどさ……まぁ今回はロミオの件もあるし、サテライトの件もあるからな。今回は譲るって事で次回のミッションは一緒に行こうぜ」

 

「そうだね。久しぶりに元第一のメンバーでのミッションも悪くないかも」

 

これから厳しい戦いになるのは予想されたものの、そこは歴戦の猛者とも言える実績があるからなのか、何時もと変わらない日常の様な雰囲気がそこにあった。そもそも資材の中に食材と調味料を持ち込んでいる時点で本人達は死ぬつもりは毛頭ない。

その戦闘能力の高さがあるが故にコウタも軽口とも取れる話をしていた。

 

 

「ちょっとコウタ。自分の仕事はちゃんとしてるんですか?」

 

「当たり前だろ?アリサが言わなくてもちゃんとやってるよ。それよりも今回のミッションは短期決戦とは言えあれ使うんだろ?少しは周りに気を使えよ」

 

コウタの言いたい事が伝わっていないのか、アリサはキョトンとした表情をしていた。周りに気を使うのは当たり前の話であって、そんな事を態々言う必要性はどこにも無い。何を言いたいのかは分からないが、碌な話では無い事だけは想像出来ていた。

 

 

「コウタの言ってる意味が分からないんですけど?」

 

「今だってエイジと一緒にミッション出てもイチャついてるんだろ?今回はブラッドも出てるんだ。少しは自重しろよ」

 

「誰がそんな事を言ってるんですかね。まさかコウタが適当な事言ってるんじゃないんですか?ドン引きです」

 

そう言った瞬間、アリサの鉄拳がコウタの腹を狙う。いつもならば不安定な場面での行使の為に直撃するが、今はお互いが万全な状態となっている。その為にコウタはギリギリ避ける事が出来ていた。

 

 

「何時もの俺だと思うなよ」

 

「お前達騒いでるが準備は出来たのか?アリサ、エイジが呼んでたぞ」

 

「え?分かりました。コウタ、覚えておきなさいよ」

 

そんな言葉にアリサもキレる寸前だったが、不意にソーマの声で我を取り戻したのかアリサはコウタを一瞥すると、すぐさまエイジの元へと急いでいた。

 

 

「コウタ。これからミッションに行く前に余計な事をするな。まだエイジが居るから良い物を、居ないと大変なのは知ってるだろうが」

 

「分かってるけどさ…今回は俺が外れたんだから少し位良いだろ?ソーマだって本当の事言えば楽しみにしてるんじゃないのか」

 

コウタの言葉通り、不謹慎ながら今回のミッションを密かに楽しみにしていたのはアリサだけではない。ここ最近のサテライトの襲撃以降、かなりクレイドルとしての活動が慌ただしくなった事もあってか、ソーマもここに居ながら各チームとの連携とばかりに色々とミッションを引き受けていた。

 

実際にはリンドウとソーマは偏食因子の関係上、万が一ブラッドが間に合わない状況下でも感応種には対応できるからと、一緒になる事は無かった。

 

 

「ぬかせ。今回のミッションに関しては以前にやりあったディアウス・ピターと同じく高度な知能を有する可能性があるアラガミだ。今回は殲滅すると同時にコアは無傷で獲り出すのが任務だ。ある意味厳しい戦いになる可能性が高い。お前の件にしても万が一その被害がアナグラまで及べば、お前が指揮する必要も出てくる。そんな場面で全員を投入できる訳無いだろうが」

 

「そんな事は知ってるって。心配はしてないけど、気を付けてやってくれよ」

 

態と騒ぐ事で多少なりともリラックス効果を狙った事が読まれたのか、それ以上コウタが言う事は何も無かった。

 

「誰に物を言ってるんだ。まぁ遠征って程でも無いんだ。これなら一両日だろ」

 

不敵な笑みを浮かべながらも、ソーマも今出来る事だけを考え準備をしていく。これからが電撃作戦とも取れる内容に戦いのプランを練っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいか。ブリーフィングでも言った通りだが、今回の対象アラガミでもあるマルドゥークは恐らく高度な知能を有している可能性が高い。我々としても今後の対応だけではなく、コアの研究如何によっては更なる対抗手段を取得できる可能性を秘めている。その為にクレイドルは陽動を兼ねた周囲のアラガミの掃討、ブラッドは時間差で続き、マルドゥークを討伐する物とする。今更ではあるが全員生きて帰れ。これは命令だ」

 

ツバキの厳しい声と共に改めて作戦の概要のおさらいとなった。マルドゥークは自身を中心に放射状にアラガミを配置している。このまま考え無しの突入は悪手となる所か、ここで逃げられると今後の警戒が一段どころか更に数段上がる事になる。

 

ただえさえ警戒しながらの建設には時間がかかる。そうなれば作業効率が落ちるだけではなく物資の問題もやがては出てくる可能性がありる以上、この場で全部終わらせる為の殲滅でもあった。

既に緩んだ空気は存在していない。ここから先はそれぞれの大義の下で戦う事になる事だけは間違い無かった。

 

 

「北斗、マルドゥークの事は頼んだ。僕達は配下のアラガミの掃討と戦闘中に呼びこまれるアラガミを近づけない事が主任務になる。僕達の事は気にせず目一杯やってほしい」

 

「分かりました。クレイドルの意義を有難く受け取ります」

 

お互いのやるべき事は既に決まっている。ここから先は敵討ちとも半ば私怨とも取れる戦いへと突入する。この言葉を皮切りに戦いの戦端は切って落とされ様としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらクレイドル。近隣のアラガミ反応は消失している。そちらでの反応はどうだ?」

 

リンドウからの無線は指揮車だけではなくアナグラにも同時に飛んでいた。指揮車の車載レーダーでは広域まで探る事は厳しく、その結果アナグラのレーダーも併用して索敵を行っていた。

 

 

「リンドウさん。アナグラからのアラガミ反応はありません」

 

「リンドウ。こちらも反応は無い。周囲の索敵を敢行しつつ、その都度状況確認をするんだ」

 

クレイドルの行動は神速の如き早さで一番外周をうろつくアラガミを一気に討伐していた。元々外周にうろつくアラガミは当初の予想通り、そこまで強固な個体ではなく、一般的な個体ばかりだった。

 

そもそも今回の作戦の中で一番の問題はマルドゥークがどう動くかにあった。ただえさえ要塞の様な地域に生息しながら、まるで兵士の如く他のアラガミを呼び寄せている。

この時点である程度予測しているのではないかとの懸念がそこにあった。ここで通常の様な音を出しての討伐であれば他でも気が付く可能性がある。

まだブラッドが本陣とも言える地点に到達していないのであれば、陽動の意味では成功するかもしれないが、討伐となれば戦局は一気に悪化する可能性がそこにはあった。

 

 

「周囲のアラガミ反応は無い。このまま先へと進むぞ」

 

「了解」

 

リンドウの指揮の元、エイジ達は次のフェイズへと進んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「北斗。今通信が入りました。クレイドルが第一陣を突破したとの事です。我々も少しだけ早く移動した方が良いかもしれません」

 

「ああ。しかしクレイドルのチームは早すぎないか。こっちの方が慌てそうだぞ」

 

「向こうは現在考える事が出来る中での最強のチームです。幾ら感応種の討伐とは言え、通常のアラガミであれば我々との戦力差は仕方ありません」

 

感情論は抜きにしてのシエルの言葉はブラッドの誰もが異を唱える事は無かった。ただでさえ最近になってからはエイジやリンドウ相手の教導が一気に増えているとは言え、経験値の差はそう簡単には埋まらない。

もちろん、そんな事は分かり切っているとは言え、誰もがそれを無条件で受け入れている訳では無かった。

 

 

「とりあえず今回の任務が終わったら、また教導プログラムのお願いは決定だな」

 

「そうだな。でも、出来る事ならもう少し何とかならないのかあれは?」

 

ギルの言葉には若干の諦観が含まれていた。元々教導カリキュラムは曹長クラスの早期育成と戦闘能力の向上をメインとした物となっている為に、本来であればブラッドは対象からは外れている。

もちろん教導の際にはスケジュールも決まっている事もあってか、空いた時間は戦術論に関する教導が入り込んでいた。これに関してはシエルは何も問題なかったが、それ以外の3人からすればある種の拷問の様な気がしていた。

 

決して学びたく無い訳では無いが、戦術理論は案外と状況に応じた変化が求められるのと同時に、新たなアラガミが現れる度に内容が更新されていく。その為に技術とは違い、終わりと言う物が存在していなかった。

 

 

「お二人の言い分は分かりますが、アラガミとて進化している以上、それは仕方ない事だと思います。ましてや北斗は隊長ですから、一番最初にやるべき事なんですよ」

 

「シエルちゃんは良いけど、私なんて今じゃ何言ってるか理解出来ないんだよ。せめてそこはもうちょっと……何とかならないかな」

 

シエルはこの3人に対して個別にやった方が良いのではないのだろうかと考えていた。もちろん戦術論は一人ではなく複数の人間とやった方が戦術の幅は確実に拡がる。それ故に理論に関しては部隊の垣根を越えた教導プログラムとなっていた。

 

 

「話はここまでだ……シエル。ツバキ教官に報告。これからミッションを開始する」

 

「了解しました」

 

目の前には哨戒のサイゴートが浮かんではいる物の、こちらに気が付いた気配は無かった。このまま突入すれば発見されるのは確実だった為に、ここは冷静な判断が求められていた。

 

 

「シエルがサイゴートを狙撃した後で一気に突入。相手はサリエルだから気を抜くな」

 

「了解」

 

ハンドサインが出たと同時にシエルはサイゴートの狙撃を成功させていた。着弾後に小さな爆発を伴った攻撃は一発の銃弾ですべてが完了していた。哨戒が消された以上、後はサリエルの討伐だけとなる。

この種は空中に浮いている事から、余程の機動力が無い限り、面倒な戦いになりがちになる。下手に時間をかければ他のアラガミを呼び寄せる可能性が高かった。その可能性を考慮すればブラッドもクレイドル同様に神速の如き攻撃が要求されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、今回の決戦用のチューニングは凄いな」

 

「そうですね。まさかこれ程だとは思いませんでした」

 

懸念していたサリエルの討伐は想定した時間よりも大幅な時間短縮で完了していた。一番の要因は今回の決戦用にチューニングした神機だった。ナナの神機は特性上無理があったが、北斗やシエル、ギルの様に切断する場面が存在する神機にはエイジに施したのと同じ仕様でもある単分子構造のコーティングが施されていた。

 

神機そのものの攻撃能力は上がらないが、単純な切断に関しての能力はまるでバターでも切るかの様な切れ味の影響もあってか格段に上昇していた。

もちろん、今まで同様に運用は厳重に言われていたが、まさかここまでの能力を発揮するとは誰も想像していなかった。

 

 

「ただ、耐久性が著しく低いから、これに慣れると今後が厄介になるから、本来は使わない方が良いのかもしれない。過信は禁物だな」

 

「私はそんなのしてないから分からないよ。良いよね~みんなは。私のだけ何も無いんだよ」

 

「ナナの神機はブーストの出力が上がってるって聞いてるぞ。従来と同じ様に振ると持ってかれるぞ」

 

「え?そうだった…かな。ちょっと覚えてないや」

 

笑ってごまかしはしたものの、ナナも説明は聞いていたはずではあったが、最終的には意味が良く分からないからとそのまま聞き流していた。確かに出力に関しての説明はあった様な記憶はあるが、実際に試した訳では無いので体験しないとその真価は分からなかった。

 

 

「とにかく、今日の流れはこれで一旦終了です。まずは指揮車へ戻りましょう」

 

シエルの言葉をそのままにあるはいよいよ因縁のマルドゥークとの戦いが待っている。今は一先ず帰ってからのブリーフィングに備える事を第一に帰路へと着く事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ。これが例の資材の意味ですか?」

 

北斗達ブラッドを待っていたのは、既に食事の準備をしていたエイジ達だった。当初の予定通り、素早く討伐した事もあってか、先に食事の準備をしていた。

 

 

「お前さん達も戻ったか。これから食事にしてブリーフィングだ。もう大よそ出来てるぞ」

 

いつぞやのサテライトで見た炊き出しの様にも見えたが、そこに置いてあったのは黒い鉄製の鍋の様な物だった。既に出来ているのか、今はただそこに置いてある。これは一体何だろうかと考えていた矢先にリンドウが声をかけていた。

 

 

「どうやら気が付かれる事なく討伐したみたいだね。もう出来上がっているからそろそろ食べようか」

 

エイジがそう言いながらに鍋の蓋を開けると、そこには大量の具材と鮮やかな色味が付いたパエリアが入っていた。既にテーブルのセッティングはアリサとソーマがやっていたのか、あとは食べるだけだった。

 

 

「外で食べると一段と美味しく感じるよ。何だかキャンプしてるみたい」

 

ナナの言葉が全てを表していた。ダッチオーブンの中身はパエリアだったが、それ以外にもスープやサラダがそれぞれに用意され各自がそれぞれに食べている。普段とは違った環境での食事は思いの外進みやすかった。

 

 

「そうですね。これならレーションだけと言われると少し考えますね」

 

「だろ?これが標準装備のレーションだけだと味気ないんだ。行った当初は苦労したぞ。なんせそんな物を持ち込むのは禁止だって散々言われたからな」

 

リンドウの言葉にエイジも苦笑するしかなかった。レーションそのものは各地によって味や中身は違ってくる。極東の品は他の支部と比べれば段違いに旨いが、それでも何時もの食事と比べれば格段に下だった。

当初は中々認められる事はなかったが、クレイドルの戦果とと共に規制は徐々に緩くなっていた。

 

 

「色々と苦労したんですね」

 

「実際には今回の食事もレーションを転用してるから、そこまで食材にこだわりは無いんだよ。これが長期だと確実に搭載するんだけどね」

 

「でも、今回はリンドウさんは何もしてないですよね?」

 

「たまには良いだろ?向こうじゃ俺だって準備はしてるんだ。今回位は楽させてくれ」

 

北斗の疑問はエイジによって解消されていた。アレンジと言われても気が付かない程にいつものラウンジと変わらないレベルの技術には驚かされるが、これがクレイドルの日常なんだと理解していた。

 

クレイドルには決まった上下関係は存在していない。ある意味部隊運営は難しいのではないかと考える部分もあったが、今のリンドウ達からはそんな気配は微塵も感じなかった。

今のブラッドはジュリウスが抜けた事によって自分の双肩にかかっているのではと考える部分が当初あったが、この目でクレイドルを見た限りでは、こんな運用を目指したいと北斗は密かに考えていた。

 

 

「そう言えば、アリサは何作ったんだ?そろそろ花嫁修業しないとエイジの負担が増えるぞ」

 

「なんで今そんな事言うんですか…もうドン引きです。ツバキ教官、リンドウさんに何か言ってやってください」

 

「そうだな。そろそろ考えた方が良いだろうな。後はエイジから教わるといい」

 

アリサの言葉にまさかツバキまでもがそう言うと思わなかったのか、この場に少しだけ笑いがこぼれていた。幾ら厳しい作戦ではあっても緊張感を保ったままでは明日のミッションにも影響する。

そんな気分転換とも取れる内容を見ながらもこの場は解散し、各々がテントへと戻る事となった。

 

 

 

 

 




気が付けば連載開始より1年となりました。

これもひとえに皆さんが読んでい頂けたからだと考えております。
今後も拙い文章ではありますが宜しくお願いします。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。