神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第151話 馬鹿騒ぎ 後編

「シエルちゃん。外見た?」

 

「ナナさん。下手に見ると余計に緊張しますから、あまり見ない方が良いかと思いますよ」

 

 前半のライブは熱狂止まないままに無事終了していた。しかし、弥生の計画に抜かりは無く、まるで舞台の設営が休憩だと、時間が経つに連れて人の数が徐々に増えだしている。

 本来であれば会場の設営の為に時間が空く為、始まる頃には人は少ないだろうと安易にシエル達は考えていたが、そんな淡い期待は物の見事に打ち砕かれていた。

 だが、そんな淡い期待は物の見事に打ち砕かれていた。ナナがこっそりと外を見れば、ライブの後の方が人の数が明らかに増えている。これまでに自身の命を賭けたアラガミとの戦い以上に、ナナの心臓は緊張が高まっているからなのか、大きく鼓動していた。

 今回の様なコレクション形式の発表は今までに一度も無かったが、実際にはカタログの名目で何度かこんな状況になった事は何度か存在していた。

 そんな経験があったからのか、アリサをはじめとして極東の面々は平常運転だが、何も知らない二人は予想以上の人出に驚き半分、緊張半分の様相だった。

 

 

「シエル、ナナ。貴女方の雄姿はしっかりと見ておきますよ」

 

 こっそりと会場を見ていたのは良かったが、あまりの人数に呑まれそうな雰囲気がここで一旦止まっていた。背後からここ最近聞く事が少なくなったラケルの声。

 まさかと思いながら振り返れば、そこにはラケルとレアが揃って来ていた。

 

 

「ラケル先生。あの、フライアの方は大丈夫なんですか?」

 

「それならジュリウスとフランに任せてあるから心配は要らないわ。遅くなりましたが、ナナ。血の力に目覚め良く安定してくれましたね。私は嬉しく思いますよ」

 

 血の力が完全に安定する頃にはフライアに行く事が少なく、ラケルもまた、現状に関しては榊からの連絡により状況は把握していた。もちろんナナとて不義理をしていた訳では無かったが、日常の激務と神機兵の事で連絡を怠っていたのも事実だった。

 

 

「ありがとうございます。でも、皆に迷惑ばかりかけてたので……」

 

「ナナ。家族なんですから迷惑だなんて思うのは止しなさい。過去はともあれ今はの力を発揮する事がその恩返しになると私は思うわ。胸を張ってしっかりとやりなさい」

 

 顔を見に来たのか、それとも緊張をほぐしに来たのかは分からない。だが、こんなささやかなやり取りで気が付けばナナの緊張感は軽減していた。先程まで煩いとさえ思っていた鼓動が徐々に小さくなっていく。そんな事を考えていると、少し先でシエルもレアと何かを話している様だった。

 

 

 

 

 

「シエルもついにそんな服を着る日がくるなんてね。私としては嬉しい限りよ」

 

「これは…私が決めた訳ではなく……」

 

「あら?確か弥生さんが決めたのよね?彼女のセンスなら問題無いと思うわよ」

 

「それは一体?」

 

 レアの口から弥生の名前が出た事に驚いたのか、珍しくシエルは感情をそのまま出していたのか、驚いた表情のままレアを見ていた。そんなシエルの表情を読んだからなのか、レアはネタばらしとばかりに改めて話を続けていた。

 

 

「彼女は元々本部の秘書を取りまとめる立場だったから、私も面識はあるし、今でも交流はあるのよ。聞いてなかった?」

 

「何も聞いてませんし、今初めて知りました」

 

「これが終わったら聞くと良いわ。今回の事は貴女にとっても多分良い事だと思うから、これも女の子らしい経験だと思って楽しみなさい。私はラケルと一緒に別室で見てますから」

 

「は、はい」

 

 何気に爆弾を落としながらもシエルは改めて今までの事を考えていた。

 ブラッドに配属した当初の事を考えると、まさかこんな所でこんな格好をして歩くなんて当時の自分では想像出来なかった。我ながら人付き合いがまともに出来ない事は自覚している。そう考えれば、この現状は全くの想定外。だが、それを認めるしかなかった。気が付けば、何時もと違った衣装を身に纏い、こうして楽屋に居る。それが何よりの証だった。

 今回の件でも依頼された事で何かしら自分にとって良い影響が出ていると考え、レアが言う様に今回の件は楽しんで行こうと改めて舞台袖から眺めていた。

 

 

「さぁ!みんな楽しんで行きましょう!」

 

 今回の発案者でもあり参加者でもある弥生からの言葉で、コレクションは開始されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回初の試みでもあるコレクションは大成功と言うに相応しい程に盛り上がっていた。普段の任務では見慣れた服装の人間が全員いつもと違う格好で舞台を所狭しと歩いている。

 今回のコンセプトに関しては、日常の服装をテーマに盛り込んでいる為に、一人で何点か着替える事になっていた。

 今までとは違ったイメージの女性陣に驚きを見せつつも改めて新たな一面を見せ魅力を発揮させる。普段からすぐに手に入る身近な衣装の効果もあってなのか、一般の目は何時もとは違っている様にも思えていた。

 

 

「シエルさん、ナナさん。これで最後だから!」

 

 今回の最大の目玉は事前に榊達が画策していた着物だった。普段着とは違い、着物は着付けが面倒な部分はあるが、それでもその姿は女性らしさを際立たせるには効果的でもあった。

 何時もは活発に動く人間も、淑やかでもあり優雅に歩くその姿は会場に居た全ての人間を魅了するかの様な雰囲気が沸き起こる。普段とは違った艶姿はこれまでのイメージを大きく覆す事になっていた。着付けを姿を見た誰もがその艶やかさに息を飲む。その空気を感じ取った弥生もまた一人満足気な表情を浮かべながら舞台袖から様子を伺っていた。

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ北斗。私どう?」

 

 ショーが終わればアリサ達は次のやるべき事の為に既に着替えが終わっていたが、ナナとシエルは物珍しさから少しだけ着たいとの要望で今もまだ着たままだった。専門の人間に着付けをされた為に多少動く程度では着崩れは起きない。これまでに無い感覚だからか、ナナは振袖を揺らしながら北斗に感想を強請っていた。

 

 

「綺麗だよ。いつもとは違った印象だね」

 

「え~それってどう言う意味かな?」

 

 半ばジト目とも取れる目で見るも、北斗自身は珍しいと感じなかったからなのか、印象はともかく何時もの元気なナナの様にも見えていた。

 

 

「他意は無いよ。ちゃんと似合ってるから」

 

「そう…かな?」

 

「そうだとも」

 

 そんなやり取りをしていると、それを見たのかシエルもまた北斗の元へと歩いていた。

 

 

「北斗は確か警備でしたね。私達の所からは良く知りませんが、会場はかなり混雑したんじゃありませんか?」

 

 その一言が現場を思い出していたのか北斗はうんざりとした表情をだしながらも当時の事を思い出していた。

 会場からは完全に死角になっていたが、今回の中で一番危惧していたのはユノが登場する場面でもあった。事前にこれにも出ると告知された事もあってか、会場の雰囲気はある意味狂気を孕んでいる様に待ち構えている人間の雰囲気は、ある意味異様だった。

 実際にはユノだけではなく、極東の女性陣もアリサを筆頭に今までに何度も広報誌に出ていた事もあってか偏執的なファンも何人か居た事もあり、警備をする側からすればより一層の警戒が必要となってくる。もちろん危険だと判断した場合には北斗の手腕で速やかに退場してもらっていた。

 

 

「あれを混雑の一言で片づけるのは多分無理だろう。とにかく大変だった」

 

「これはどうやら販売に直結するとは聞いてましたが、恐らく予想の範囲なんでしょう」

 

「その辺は分からないな。でも、何か忘れてないか?」

 

 北斗の何気ない一言に何か重大な事を忘れている様な気がしていた。この場には3人、フライアにジュリウスがいるとなれば、残っているのはギルとロミオだった。

 

 

「大変!私達も手伝いに行かないと!ロミオ先輩とギルだけじゃ大変な事になるよ」

 

 何かを思い出したのかナナは慌てて着替える為に早足で戻る。着物のまま走るのは無理がある為に今は早足での移動しか出来なかった。

 

 

「北斗、私に何か言わないとダメな事を忘れてませんか?」

 

 慌てるナナを尻目にシエルは改めて北斗を見ていた。ナナには言ったものの、シエルにはまだ何も言っていない。未だ着物を来たままのシエルは何となく拗ねた様な雰囲気で北斗を見ていた。普段であれば絶対に出ないであろう言葉。だからなのか、北斗もまた僅かに言葉に詰まった様だった。

 

 

「シエル。よく似合ってる」

 

「ありがとうございます。私も着替えに戻り次第合流します」

 

 柔らかな笑みと共にシエルも着替える為に別室へと戻る。会場の警備は終わっても、今度は飲食店の方に顔を出す必要があるからと、北斗もその場を離れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前ら遅いよ!早く手伝ってくれ!」

 

 ブラッドの与えられたスペースにはやはりお客の行列が長蛇をなしていた。実際に列が出来てるのはここだけでない。ロミオはユノのライブ以外にこの場を離れる事が余り無かったからなのか、それとも今の状況に追い込まれているからなおのおか、何時もよりも言葉尻は荒かった。

 ここでの状況は知らないが、北斗達はここに来るまでにも他のスペースを見ながら移動していた。そのどれもが長蛇の列をなしている。間違い無くショーが終わった事による弊害だった。時間を確認すれば、そこそこ良い時間になっている。長蛇が出来たのは必然だった。

 

 

「ここも凄いけど、エイジさんの所が一番だったよ。あれで良く暴動が起きないのか驚きだよ」

 

 ここに来る際に、一番目に留まっていたのはエイジのスペースだった。既に列は数えるのも嫌になる位に何列にも折れ曲がり、それをしっかりと制御しながらも次々とこなす。今回はテイクアウトをメインにした事もあってか、回転率はダントツだった。

 

 

「折角なので賄いで頂きました。私達が前に出てる間に頂いてはどうでしょうか?」

 

「いや~助かるよ。流石に焼きそば作りっぱなしで、これを食べるとなると胸焼けしそうだからさ」

 

 用意されたランチBOXの様な箱にはカラフルな色どりの様々な物が詰められてた。箱を分解すると断層になっていたのか、中にはサラダにオムレツ、BLTサンドが入っている。

 こちらは焼きそばなのに、この差は一体なんだろうかと一瞬考えたが、これはどう考えても作るには尋常じゃない程の手間がかかる。何も知らない時点でこのメニューならばクレームの一つも出るのかもしれないが、こちらとて伊達に朝から今まで作っていない。仮にこれと同レベルの物を作ろうものなら、確実にパンクする悲惨な未来しか見えなかった。用意された物を一口齧る。何時ものラウンジで食べるそれと同じ品質はある意味驚愕だった。手間暇をかけるだけの時間は最初から無いはず。にも拘わらず、このクオリティは脱帽するしか無かった。

 

 

「でも、…この調子…だったらナナの…おでんパンも出せば良かったんじゃないのか?」

 

 賄いを頬張りながらにも普段の様子を思い浮かべれば、ナナのおでんパンこそこんな場面で最大限の効果を発揮するのはある意味予想出来ていた。しかし、今回の中ではおでんパンの出店は無く、何故なのかと言った疑問が出るのは無理も無かった。

 

 

「ふっふっふ。ロミオ先輩、まだまだ甘いなぁ。既におでんパンは他で出店してるのだ!」

 

「でも、ここでは見てないぞ?」

 

「今回の出店に当たっては榊博士から直々に話があってね。で、私はその監修をしたんだ」

 

 全ての飲食を賄おうとすれば問題が生じると考えたからなのか、榊は事前にナナに打診していた。今回は出店ではなく、デリバリーの様な形で販売をしているのか、店舗ではなく移動販売の体をなしていた。そうなれば目に留まる機会は格段に減る。ましてや目の前のお客様を捌く事に必死だったロミオ達の視線に留まる事は無かった。

 

 

「マジか。って誰が販売してるんだ?」

 

「確か…ハルオミさんだったような気がするんだけど、詳しい事は知らないよ」

 

「ハルさんが売り子か?そりゃ一度は見ておかないとダメだろ」

 

 何か予想したのかギルも悪ノリとも取れる内容に内心笑いが止まらない様な雰囲気があった。しかし、この状況下での売り子はある意味大変な事に変わりない。

 只でさえ全員が強制的に駆り出された会場であれば動く事すら適わない可能性もある。半分は心配しながらも残りは好奇の考えが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さんご苦労様でした!」

 

 大盛況の内にFSDは閉会する事になっていた。毎年の事とは言え、それぞれの神機使いがほぼ全員駆り出されたイベントはこれ以外には何も見当たらない。今回初めて参加したブラッド以外にも新人達は皆それぞれが疲弊したのか座り込んでいる者が多かった。

 

 

「みんなご苦労さん。お蔭でかなり盛り上がっていたのはこっちまで届いてたよ。これからは慰労会を開催するから、参加に関しては各自の判断に任せるよ」

 

 コウタの合図の後で榊が今回の労いとも取れる慰労会の案内をしていた。ここに所属するゴッドイーターはそれなりの人数になるが、今回は外部居住区にまで範囲が及んだ事もあってか、全員がフル回転する事になっていた。

 目玉だったショーに関しての売り上げ等は何も語る事は無かったが、榊の言葉からすれば予想以上の出来だった事だけは判断出来る。しかし、今回の件がどれ程の収益になるのを知っている人間は極一部にとどまっていた事もあってか、各々が今は疲労を抜く事だけを考えていた。

 

 

「しっかしこんな事を毎年やってるなんて、最初聞いたときは信じられなかったよ」

 

「俺も話には聞いた事はあったが、まさかこんな規模だとは思わなかったからな」

 

 ブラッドの中で一番働いていたのは恐らくはギル。ロミオはユノのライブに顔を出した事もあってか多少は持ち場を離れはしたが、やはりライブが終われば戦線に復帰していた。

 目玉のショーが終わった瞬間、人の流れは一気に溢れる。その光景はアラガミと対峙するのと同じ位だった。

 あの後の状況に関しては正直な所思い出したくないと思う程のカオスぶりを発揮していた。その一番の要因はシエルとナナ。ショーに出ていた人間が身近に売り子として出ていれば、一度は見てみたいと言う衝動があったからなのか、特に男性客がやたらと多かった。

 一時は身の危険を感じる場面もあったが、警備担当でいた北斗の顔を知っていた人間が何人か居た為に、これ以上問題があれば排除されると考えたのか直ぐに落ち着く。気が付けば、血走った雰囲気は霧散していた。

 

 

「よぉ、ギル。初めて出た感想はどうだった?」

 

「こんなに大変だとは思わなかったっすよ。ハルさんも毎年こうなんですか?」

 

「……毎年こうだな。因みに去年の俺はたこ焼き作ってたんだが、今回は移動販売だったから少しは楽させてもらったよ」

 

 騒がしい中でギルを見つけたからなのか、ハルオミはグラス片手にギルと飲んでいた。実際に休憩出来たのは賄いを食べる時間だけに留まり、その後はひたすら作る事だけに専念していた。本来であればミッションに出る可能性もあったが、幸か不幸か出没したアラガミの殆どが小型種ばかりだった。そうなればブラッドにまでミッションは回ってこない。その結果としてギルとロミオは鉄板の前で延々と格闘する羽目になっていた。

 

 

「いや~今回は他の支部からのお偉いさんも来てるからどうなるかと思ったんだけどな。問題一つ無く終わったのには一安心ってとこだな」

 

「ハルさん。それは良いとして移動販売なんてらしくないですね。絶対にそんな事はしないと思ってたんですけど」

 

「いや。今回はアタリの仕事だったよ。お蔭でこんなにアドレスも貰ったからな」

 

 何気に見せた紙にはいくつかのメールアドレスが記されていた。恐らくハルオミは移動販売のフットワークの軽さを利用したのか、疲労よりも嬉しさの方が勝っている様にも見えていた。

 

 

「ハルさんらしいと言うか、何と言うか……」

 

「おいおい、勘違いするなよ。このFSDには毎年の事なんだが、時期を開けて色々と個別に何か届く事が多いんだぜ。いつとは分からないが、これもまた毎年の恒例みたいな物だからな。そのうちギル宛にも何か届くと思うぞ」

 

「別に俺はそんな事は考えた事も無いですから」

 

 今のギルは帽子をかぶっていなかったが、今までの癖なのか手が頭へと伸びるも何も無かった事を思い出したのか、それ以上の事は何もしなかった。ハルオミの言葉の真意は不明だが、その状況だけは何となく予想出来る。来るだけならまだしも、それを捌くとなれば違った意味での苦労が出るのは後になって気が付く話だった。

 既に打ち上げはそれなりに時間が経過したのか、最初よりも人数は少なくなっている。いくら今回のイベントは任務と同じであっても、翌日の哨戒任務が免除される訳では無い。そんなやるせない事情からなのか、それぞれがグループとなって話をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひゃ~。今回のショーは本当に疲れたよ。最初は緊張のしっぱなしだったから、よく覚えていないよ」

 

「ナナさんは、結構どっしりとしてたんじゃないんですか。少なくとも私にはそう見えましたが。しかし、極東の一大イベントの話は噂程度には聞いてましたが、まさかここまでだとは思ってませんでした」

 

 極東のチームはそれなりに慣れていたからなのか、それとも意識の切り替えが早いからなのか、アリサだけではなくヒバリやリッカも普通にこなしていた。衆人環視の中で歩くのは、ある意味複数の視線を肌で感じる事が多く、また一挙手一投足に注目されていた事も直ぐに理解出来ていた。シエルにとっては初めての経験。まさかアラガミ以外の視線がこれ程までに突き刺さった経験は一度たりとも無かった。困惑したままでは満足な結果を得られない。その為に、後半は既に自分を人形だと思いながらランウェイを歩いていた。

 この中でもユノは慣れていたからなのか、割と普通に過ごせたものの、やはり他の人間はどこか遠慮しながらに歩いていた。

 

 

「今回のコレクションは今年初なんです。去年まではここまでの規模では無かったですよ」

 

 2人に近づいて来たのはアリサとヒバリだった。今回の中でも2人が極東チームの中心的な存在となって皆を引っ張っていた事もあってか、他の人よりも多く出ていた。何かと露出する機会が多い二人にはかなりの視線が向かっている。それ程までに熱狂した空間がそこにあった。

 

 

「そうだったんですか。でも私達までこんな風に参加するのはどうかと思ったんですが、いざやってみるとそんな事は直ぐに忘れました」

 

「今回のショーに関してはここだけの話なんですが、実は極東の物販の大半を占める役割があるんです。なので今回の様な大規模なイベントになったと弥生さんから聞いてますけど」

 

 ブラッドは現在の立ち位置はあくまでもゲスト扱いの為に、まさかこんな支部のイベントに駆り出されるなんて発想は今まで一度も無かった。

 アリサが言ってた様に、今回のコレクションは今年が初めてなのもあってか、打ち合わせが今までに何度もあった。慣れない行為の為に、それが以外に意識が向かない。

 しかしヒバリの物販の話が出た際には改めてこの極東の人間がどんな発想をしているのか、どこか理解出来た様にも思えていた。

 

 

「シエルちゃんとナナちゃんもご苦労様。アリサちゃんとヒバリちゃんもね。お蔭で今回のコレクションは良い形で終わったと思うから多分、多少でもボーナスも出ると思うわよ」

 

 そんな話に追加するかの様に弥生が4人に話かける。今回の発案者でもある弥生もどこかやり切ったかの様な清々しい表情をしたままグラス片手に来ていた。

 

 

「そう言えば、弥生さんはレア博士とは知り合いなんですか?」

 

「レアは、本部時代からのお付き合いよ。私がここで彼女はフライアに行ってからは疎遠にはなってたけど、ここで会えるとは思ってなかったから、実は少し嬉しかったのよ。そう言えば、レアから伝言があったんでだけど、ラケルが今回の件について映像化して各地に配布しようかしらって言ってたけど良いわよね?だって」

 

 まさかの爆弾発言にシエルだけではなくナナも硬直していた。一体何事なのかアリサとヒバリは理解できないが、少なくとも映像化の言葉に引っかかりを感じていた。

 

 

「弥生さん。まさかとは思うんですが、今回の内容は映像化するって事は……」

 

「アリサちゃん、良い勘してるわね。もちろん販売も視野に入ってるのは当然の事よ。じゃあ私はこれからその打ち合わせがあるから」

 

 弥生の投下した爆弾は思いの外強烈だったのか、弥生が去った後も暫くの間、誰もが反応する事は出来なかった。

 

 

 




ショーのイメージは東京ガールズコレクションを参考にしてくれると分かり易いかと思います。




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