神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第145話 自己犠牲

 

「ジュリウス!ナナはどうだったんだ?」

 

 原因不明の襲撃から時間が経った事だけけなく、ブラッドの生存もまた確認されたからなのか、アナグラも漸く落ち着きを取り戻していた。これまでに極東い於いては奇襲に近い襲撃を受けた事も少なくない。だが、その殆どは何らかの兆候が出ていた。

 しかし、今回のこれに関してはその限りではない。何もなかったはずのミッションが突如として危険性の高いミッションになったと同時に、ナナの能力が何らかの原因を作ったとも考えられていた。

 だが、肝心のナナに聞いた所で有効な情報は何一つ無かった。原因そのものが完全に特定出来た訳では無い。仮に何らかの問題があったとすれば、ナナへの配慮も必要だった。

 

 

「先ほど榊支部長からも聞いたんだが、今は能力の安定化を優先させるとの事だ。それに伴い、暫くの間はナナは血の力の影響を及ぼさない場所で隔離される事になった」

 

 突如として出てきた回答に誰も言葉を発する事は出来ない。血の力が原因だと分かった以上、後は確認する以外に手段は無かった。実際にこのP66偏食因子に関しては、未だ解明された部分の方が圧倒的に少ない。ましてや力の暴走となれば、隔離の意見は必須だった。ここはフライアではなく極東支部。榊の立場を考えれば自然な流れだった。

 先程までのあの状況が思い出されたからなのか、誰も意見する者は居なかった。

 

 

「それでは何時までと言った期間は決まっていないと考えて間違い無いでしょうか?」

 

「その件に関しては回答は得られなかった。ただ今はナナ自身が自分と向き合える事が出来るかを経過観察する方針らしい」

 

 期間を設定していないのであれば、事実上の無期限と同意だった。今回のナナの力の暴走に関しては制御出来ないとなれば厄介な事になるのは間違い無い。またジュリウスが去った後でどんな話になるのかと言った可能性は誰でも想像出来ていた。

 その場の空気が重くなる。実際に血の力に覚醒した北斗やシエル、ギルもまたそんな状況にならなかったからこそ、今回の内容に関してはその言い分を完全に呑むしかなかった。

 その対策を早急にたてない事には、ブラッドだけでなく、他の部隊にも大きな影響が出るかもしれない。だとすれば、慎重にならざるを得ないのはある意味致し方ないとも考える事が出来ていた。

 

 

「俺達の力じゃ何も出来ないって事なのか?」

 

「ロミオ、それについては先ほどの回答と同じになるだろう。まずはナナが自分と向き合えない以上、我々に出来る事は何も無い。これ以上は時間が解決すると考えれば、今はそれぞれがやれる範囲の事をやりながら様子を見る他ないだろう」

 

 これ以上の議論をしていても、何も手出しが出来なければ前に進む事は出来ない。今はただジュリウスの言う様に各自のやれる事をやるだけしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかナナの力が暴走するとああなるとは思ってなかったよ。そう言えば、北斗が血の力に目覚めた時ってどんなだった?」

 

 解散と言われても行先が同じであれば、話の内容は自然とその話になってくる。この場で未だ血の力に目覚めていないのはロミオだけ。当初はジュリウスの力だけだった事からも、どんな状況になるのかを想像する事は出来ず、改めて自分の能力の影響として考えていたフシがあった。

 以前にラケルからかけられた言葉が不意に甦る。だからこそナナの様に暴走するなんて考える可能性は微塵も無かった。

 

 

「実はそれについてなんですけど、俺の場合は正直良く分からないんですよ。キッカケはマルドゥークとの戦いでいたけど、感応種との戦いが何かを刺激したとは思えないんで」

 

「そっか。シエルやギルは北斗の影響だったから何かヒントでもあればと思ったんだけどな。やっぱり今は時間が解決するしかないのかな」

 

 そんな事を言いながら歩きはするが、やはり北斗自身も理解していない事がある以上、ロミオの質問に答える事が出来なかった。

 そんな中で一つだけ北斗には気がかりな事があった。自分だけの話だからなのか、意識はしてなかったが目覚める直前には捕喰した際に何かに意識が引きずられる感覚があった。

 あの時のナナの言葉はいつもの自分ではなかったと言われていた事が思い出される。

 しかし、それを今回の件に当てはめるとなれば少し違うのかもしれないと考えていた。だとすればあの時ナナに一番近かったのはロミオ。何か兆候があればあと考えた末の結論に北斗は改めて確認する事にしていた。

 

 

「そう言えば、ナナが倒れたときって何か何時もとは様子が違っていたなんて事は無かったんですか?」

 

「…そうだな…特に気になる事はなかったんだけど、ただ、時々頭が痛くなっている事が多かったかな」

 

「頭痛ですか……それが何かの原因なんですかね?」

 

「詳しい事はラケル先生に聞くしかないんだよな。俺もそんなに詳しい訳じゃないんだ」

 

 何が正解で何が間違いなのかが分からないまま時間だけは経過していく。これ以上の事は何も出来ないのは間違いない。

 今はただナナの復帰を願うだけにとどまったのか、それ以上の会話が続かないままお互いは自室の前で別れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 経過観察が決定してから3日が過ぎようとしていた。時々記憶がフラッシュバックの様に蘇る事はあったが、ミッションの出撃前の診断の際に言われたラケルの言葉がナナの考えの大半を占めていた。

 ラケルと邂逅した際には記憶の欠損が認められていた事もあってか、マグノリア=コンパスでは当時の記憶が無い事が分からないほどに活発に動いていた。時折治療の様な物を受けていたが、気になる様な事は何も無く、そのままブラッドへと、ゴッドイーターとして赴任する事が決定した際には驚きを隠せなかった。

 当初はゴッドイーターに対しての忌避感は若干あったものの、北斗と出会ってからはそんな忌避感は徐々に薄れて行くようになっていた。そんな中で次々と合流するシエルやギルの覚醒と共にナナ自身も意図しない部分に異変が起きていた。

 

 当時の無かったはずの記憶が断片的に蘇る。これが何を指しているのか理解は出来ないが、当時のラケルの言葉では自分自身の血の力の目覚めが影響しているからだと結論付けられていた。

 感情の起伏が大きくなるにつれ、それに呼応するかの様に次々と記憶が断片的ながらも戻る。だが、同時にそれを拒む様に頭痛が生じていた。

 そしてその結果として能力の暴走と最悪の状況下で血の力に目覚めていた。

 

 

「はぁ~。いつまでここに居ればいいのかな。そう言えば、この部屋って所々に落書きがあるけど、元々は何をしてた部屋なんだろう?何だか小さい子が描いてる様に見みえるんだけど……」

 

 榊に連れてこられた部屋には子供が落書きしたと思われる様な絵が色々と書かれていた。それは絵だけではなく、置かれた机の一部が齧られたり、何かで斬られた様な形跡もあった。

 当初はいぶかしげに思う部分もあったが、ここに3日も居ればそれはすでに背景の一部と化していた。この部屋に入った当初は色々と何か出来る事がないのかと精神修養になる物を試したが、そのどれもが直ぐに飽きる。これで本の1冊でもあれば違ったのかもしれない。だが、榊の持っている本をナナが理解するには難しすぎていた。

 自分がこんな事になる前は時間がそれだけあっても足りなとさえ思えた。まだ3日しか経っていないが、やる事が無いのはある意味拷問にも近いのかもしれなった。

 

 何も考えなければある意味快適な住環境なのかもしれないが、今まで当たり前にやってきた事が出来なくなるのは案外と苦痛に感じてくる。今は経過観察なので、この部屋から出る事も出来ず、ナナにとってはやる事もないままこの部屋に居るのは既に飽きていた。

 しかし、そんな考えは突如として終わりを告げる。この部屋にまで響く様な振動と音が部屋の外での異常性を示していた。

 

 

「外部居住区にアラガミが侵入!討伐班及びブラッド隊が帰還するまで防衛班は第3防衛ラインまで退避して下さい!」

 

 警報と共に今までに聞いた事が無い程の緊張感のある放送が部屋の中で鳴り響く。それと同時に榊の声が聞こえてきていた。

 

 

「ナナ君。聞こえるかい?」

 

「榊博士。これってもしかして……私のせいなんですか?」

 

 錯乱しながらも記憶があったのか、恐る恐る榊に問いかける。万が一これが自分のせいだと考えれば、恐らくはここに自分の居場所はなくなってしまう。聞きたくないが、ここで聞かないと前に進む事が出来ないからと、ナナは思い切って榊に問いかけていた。

 

 

「いや。それは明確に否定しておこう。今回の件は老朽化していた第6防壁からの侵入だ。君の力は一切関係無い」

 

 何時もとは違ったトーンではあったが、これは今の緊急事態の対処の為なのか、榊は端的にナナの質問に答えている。この一言で自分のせいじゃないとは思うも、だからと言って楽観視して良いとは思えなかった。

 

 

「でもナナ君。君はそこで待機していてほしい。今はまだ対処方法が見つからないのと同時に、その状況で戦場に出向くのは我々としては容認できない」

 

 今がどんな状況で、仮に自分が外に出た際にはどんな影響が起こるのかは、考えるまでもなかった。

 振動はしなくなったものの、異常を示す警報は未だ鳴ったまま。ここから外の様子は感じなくても、ナナとてゴッドイーターである以上、それは想像するには容易かった。

 

 

「でも……」

 

「この件に関しては厳命する事になる。君の件に関しては現在解明中なんだ。もう少しだけ辛抱して欲しい」

 

 一旦は待機を命じられるとこれ以上の事は何も出来ない。今はただだまってベッドに腰掛ける事しか出来なかった。

 本当にこのままでいいのかと自問自答した際に、不意に右手の黒い腕輪が目に留まっている。何時もであれば気にする事がないそれは今回に限って言えば、珍しくその存在感がハッキリと伝わっている。

 

 

 ───自分は一体なんだろう

 

 

 不意にそんな考えが過っていた。自分の事ではないとは言われたが、その真偽は分からないまま。

 だからなのか、ナナは一つの決意を胸に立ち上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「北斗!ナナが車に乗って外に出てる。すぐに追っかけて!」

 

 帰投してすぐに北斗はリッカに呼び止められていた。当初は直ぐに戦場へと出向くつもりだったが、その場に居たリッカからナナの行動が伝えられていた。

 今のナナの様子はブラッド以外には誰も知らない。そんな中でナナが取った行動は自身の能力を制御する事無く今のアナグラのアラガミを囮となって呼び寄せる手段だった。

 リッカは単に単独で行動するのは危険だからと言ったつもりだったが、北斗には何故そんな行動を示したのか容易に想像出来ていた。

 

 

「分かった。で、今はどこに?」

 

「今は移動中だけど、このルートなら鎮魂の廃寺エリアだよ!」

 

 行先が確定したのであれば、やるべき事は自ずと決まってくる。既にナナが出ている以上ここから先の予想出来る事を一旦棚上げすると同時に、北斗はブラッド全員へと連絡を急いだ。

 

 

「ジュリウスか。ナナが単独で飛び出したらしい。恐らくはここに居るアラガミの囮になるつもりだ。行先は鎮魂の廃寺。俺は直ぐに現場に向かう」

 

「了解した。こちらも行先を変更して現場に向かう。今のナナでは危険すぎるからな」

 

 北斗の通信の内容でリッカも今のナナの状況がおぼろげに見えてきていた。

 恐らくは血の力によってアラガミの囮となるべく飛び出したのであれば、最低限の装備で出ているはず。いくら整備班と言えど、死を前提にした出動をそのまま見ているつもりは全く無かった。非戦闘員だからこそ、出来る事は限られる。リッカもまた自分の出来る範囲の中で行動を起こしていた。

 

 

「北斗。行くならあのヘリを使って。あれには緊急時の装備品が全部そろってる」

 

「すまないリッカ」

 

 ただ一言だけを残し、北斗はヘリポートへと走り出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり来るよね」

 

 強奪とも取れる程に強引に神機を抱えたまま乗り込んだまでは良かったが、やはりナナの予想通り見えない何かに導かれるかの様にアラガミが車へと襲い掛かる。舗装された道路でさえも場合によっては追い付かれる可能性がある所に加えて、悪路を走るとなればその速度は徐々に落ちてくる。

 前を殆ど見る事なく、バックミラーを注視する。ナナは背後から襲い掛かるオウガテイルを右へ左へと躱しながらに目的の場所へと誘い出していた。

 

 

「おお~っと」

 

 ハンドルを切り過ぎたのか、目的地に付くと同時に車体は独楽の様に周りながら派手に音を立て停止する。このまま車内に残るつもりは最初からなく、最初から打って出るつもりだった。

 無意識の内にコラップサーの柄を握る力が強くなる。今はこちらへ向かってくるアラガミを一体づつ討伐すべく、恐らくそこから侵入するであろう獣道を睨んでいた。聞きなれたアラガミ特有の足音。既にナナの腹は決まっていた。

 

 

「とりゃぁあああ!」

 

 全力で振り回したコラップサーは先ほど獣道からのぞき込む様に顔を出したオウガテイルの頭蓋を砕きながら元の道へと吹き飛ばす。悲鳴らしい物と手ごたえだけを考えれば一撃で倒した事は理解出来たが、これから来るであろうアラガミがまさか一体だけとは一切考えずに、再度襲撃してくるタイミングを見定めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュリウス!あとどれ位かかるんだよ」

 

「少し落ち着けロミオ。今ここで焦っても何も出来ない。今は無事を祈る位しか出来ない。戦場で冷静さを欠けば自分の方が危うくなるぞ」

 

 一刻も早く急ぎたいが、既に移動してから時間が経過していると同時に、今は北斗以外の全員が移動する以外の手段を取る事が出来なかった。既に無線では北斗も向かっているのは確認しているが、それでも時間的にはジュリウス達と大差が無い程の状況にロミオは焦りを隠そうともせずにただ状況だけを確認していた。

 

 

「ロミオ。気持ちは分かりますが、今はナナを信じましょう。私達が出来る事はそれだけです」

 

「そりゃそうだけど……でもナナは自分の状況を理解した上で行動してるんだぜ。すぐにでも助けに行かないと」

 

「ロミオ。今焦ってもこれ以上早くは付かない。これ以上早くと言っても無理なんだ。少しは落ち着け」

 

 逸る気持ちを落ち着かせるべくシエルとギルも言ってはみたものの、心情としてはロミオと大差はなかった。今まで家族同然で過ごしただけではない。そこには信頼もあるからこそ、この場で命を簡単に散らしても良いとは思えなかった。幾ら焦ろうがヘリの速度が変わる事は無い。

 今はただヘリの中でナナの無事を祈るだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「北斗さん。現地まであと30秒です」

 

 ヘリのパイロットから到着時刻を告げられると、そこにはどこかで見た様な光景が広がっていた。

 幸いな事に大型種の接近は無いが、それでも何体かの中型種も交じっている。

これならばジュリウス達が間に合えば何とか討伐可能だと考え、北斗は到着までの時間に改めて装備品の確認を行った。ここから先は僅かな時間さえもが惜しいと考えながらも、どこか冷静に状況を見ている自分を感じていた。

 

 

 

「月並みですが、必ず全員生きて戻ってください。では、ご武運を」

 

「ありがとうございます」

 

 一言だけ挨拶すると同時に現地へとダイブする。既にナナの周りには何体かのアラガミが横たわっているが、高度から見ればそれはまだ序盤にしか過ぎない。時間を稼ぐと同時に少しでも負担を軽減させるべく北斗は戦いへと集中する事にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「も~!あとどれ位出てくるの!」

 

 肩で息をする程にアラガミは際限なく出てくる。当初は一体づつ出てきた所を一撃必殺とも取れる勢いで倒してきたが、スタミナが徐々になくなるとそれが難しくなり、今はその場から少し後退した場所で何とか休憩していた。

 いくらゴッドイーターと言えど体力は無限にある訳でもなく、またナナ自身も長時間の連続した戦闘経験がそこまである訳では無い。しかし、本能的に取った行動に間違いは無かったと考えていたのか、最悪の事態だけは避ける事に成功していた。

 ここにコンゴウやサリエルが居れば戦局は一気に怪しくなるが、今はまだ小型種がメインの為にそこまで深刻ではない。しかし、このままではいずれ何か大型種が来るであろう事だけは理解しているが故に、今度は今後の行動をどうするかを試案していた。

 

 

「せめて北斗が居てくれたらな」

 

 ナナの脳裏に一番最初に出た任務の事が思い出されていた。

 あの時はオウガテイルに襲われそうになった瞬間、北斗が一刀両断で斬捨てた場面だった。極東に来てからも色んな人間とミッションに出はしたが、あんな攻撃をする人間はエイジとリンドウ以外に見た事が無かった。

 それほどまでにセンセーショナルな光景が今のナナの思考の大半を占めていた。

 時間にして僅かではあったものの、その瞬間頭上から何か音が聞こえる。まさかと顔を上げるとオウガテイルが大きな口を開けながらナナめがけて襲い掛かっていた。

 

 

「助けて北斗!」

 

 北斗の名前が何故でたのか理解出来なかったが、本能的にナナは叫んでいた。

 このまま捕喰されておわりだと思わず目を瞑ったものの、いつまで経っても何も起こらない。恐る恐る目を開ければ、肝心のオウガテイルは縦に真っ二つになってナナの両横に落ちていた。

 

 

「ナナ大丈夫か?」

 

 声の方向を見ればあの時と同じ場面の北斗の姿があった。

 

 

「北斗なの?本物?幻じゃないよね?」

 

「本物だ。幻ならアラガミを斬れないからな」

 

 涙ぐんだ目をこすりながら北斗を見れば、あの時と同じ様な表情だった事が思い出されていた。

 周囲には未だアラガミが湧い出る様に徘徊しているが、北斗が居るだけで何となくこのまま切り抜けられる様な雰囲気があった。

 

 

「ジュリウス達もこっちに向かっている。今は一体でも多く倒すんだ。ここに来る途中で見た限り、大型種は居ない」

 

「うん!分かった」

 

 北斗が来た事で戦術と戦局が動き出した。単独であれば囲まれない様に周囲を察知しながら行動するが、2人になればアラガミのプレッシャーは若干和らぐ。

 一人に意識を向いた瞬間、もう一人が無防備な背後から攻撃する事で大きなダメージを与えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュリウス現地が見えてきました。アラガミはやはりナナさんを中心に動いています。今は北斗が間に合った様なのでこのまま我々が到着すれば押し切れるはずです」

 

 シエルの直覚の範囲に入ったのか、全員がその内容を瞬時に把握する。確かに北斗が来た事で先ほどよりもマシとは言えるが、絶対安心だとは考えていない。ここからならばすぐにでも戦場へと突入出来る距離まで近づいていた。

 

 

「ブラッド隊。このまま行くぞ!」

 

 ジュリウスの声で全員が一斉に飛び降りる。空中からも援護射撃を開始したのかシエルのアーペルシーの銃声が何度か鳴り響く。それと同時に掃討戦の幕が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 空中からの銃撃は、アラガミの意識の範疇を超えていたのか降り注ぐ雨の様に次々と着弾していく。轟音と共に破裂するそれは、明らかに死を明確に叩き込んでいた。

 この瞬間、北斗はジュリウス達が到着した事を理解したのか顔を頭上へと向ければ4人が降下している最中だった。

 

 

「ナナ。みんなが来たぞ!」

 

「分かった!一旦合流だね」

 

 目の前のアラガミと弾き飛ばしながら着地点へと走り出す。既に相当な数のアラガミが周囲に横たわると同時に、次々と霧散してく。本来であればコアも抜き取る所だが、今はそんな暇すらないからと無視すると同時に一体でも多くのアラガミを屠る事だけに専念していた結果だった。

 

 

「北斗戦局は?」

 

「ここまでは小型種ばかりが来ていたが、俺が到着する際には何体かの中型種が見えていた。それ以上の事は分からない」

 

「ジュリウス。恐らくですが、こちらに向かう中型種でここ一帯のアラガミは最後だと考えられます。既に距離は1000メートルありません」

 

 シエルの判断にジュリウスと北斗はそれ以上の事を聞くでもなく、全員で周囲を警戒する。シエルの能力で察知したのは全部で3体。これを乗り切れば当面の聞きを脱出する事が出来ると全員が理解していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中型種が霧散する頃、漸くこの地での殲滅戦が終わりを見せていた。無線の内容ではアナグラの方もこちらでアラガミを引き受けた結果なのか、掃討戦は終わっていた。

 今は先ほどまでの緊張感はどこにもなく、今は帰投のヘリをただ待つだけとなっていた。

 

 

「みんな……ありがとう。でも、私…また迷惑かけるかもしれない」

 

 終結した事で落ち着いたのか、それとも冷静になったからなのか、ナナはポツリポツリと話だしていた。

 恐らくは自身の能力についてなのかもしれないが、そこには何か深い物がある様にも思えていた。

 

 

「馬っ鹿だな。何言ってんだよ。誰が迷惑だなんて言ったんだ?」

 

「でもさ…迷惑かけたのは…事実なんだし…」

 

 ロミオの言葉にまるで悪い事をした子供の様な言葉が零れ落ちる。血の力の暴走で確かに厳しい場面には遭遇したが、結果的には負傷者は0で切り抜けている。

 勿論、ナナも頭ではそんな事は分かっているが感情が追い付いてこない。言い淀んだ空気が辺りを重くしていた。

 

 

「ナナ。ブラッドに気にしてるやつは居ない。泣きたい時は思いっきり泣けば良いんだ。俺達は家族なんだから」

 

「でも…でも…」

 

 ロミオの言葉に素直になれず、罪悪感だけがナナの胸の内に残る。このままでは何の解決も出来ないと考えていた時だった。暖かい何かがナナの頭をなでているようだった。

 

 

「ナナ。今は素直になれば良いさ。何かあっても俺たちが守るから」

 

 ナナの頭をなでていたのは北斗の手だった。先ほどまでの厳しい表情がそこには無く、今はただ穏やかな表情だけがそこにあった。

 そんな表情が不意に母親との思い出となって蘇ってくる。自然とナナの目から涙が零れ落ちていた。

 

 

「ありがとうみんな」

 

 堰を切ったかの様に流れる涙をぬぐう事もせず、ナナは感謝の心を全員に見せる。どれほど時間が経過したのか帰投のヘリのローター音が徐々に近づいていた。

 

 

 


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