神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第135話 それぞれの思惑

 ツバキとハルオミが話をしている同時刻。コウタも同じ様に行動を開始していた。ツバキからの話に関しては、そもそも第1部隊としてはデメリットとなるべき部分が何も見当たらず、今回のエイジス掃討戦に関しては流石にエリナとエミールを連れていくのは難しいとも考えられていた。

 そんな中でのツバキからの依頼に対し、流石にエリナとエミールも口を挟む事すらしなかった。

 

 

「いたいた。北斗。悪いんだけど、これから行くミッションなんだけど手伝って欲しいんだ」

 

「自分たちで出来る内容であれば喜んでさせていただきますけど、一体どんな内容なんですか?」

 

「実はこれから行く所はエイジス島なんだけど、あそこはアラガミが集まりやすい場所だから定期的に掃討戦をするんだ。本当ならエイジ達にお願いしたい所なんだけど、結構忙しいみたいでさ。誰かもう一人ブラッドから選出してくれないかな?」

 

 内容はともかく、エイジス島の名前は北斗の記憶には無かった。

 一時期はエイジス計画の名の元に大掛かりに発表された物だったが、結果的には個人の思惑が元となっただけでなく、フェンリルの上層部までもを巻き込んだ一大スキャンダルとも取れる内容の為に、事実上極東での部外秘となっていた。そんな内容なだけに北斗だけでなく、ブラッドとしても名称は分かっても、その謂れまでは知る由も無かった。

 

 

「その辺は大丈夫だと思いますよ。集合は30分後で構いませんか?」

 

「助かるよ。今回の内容はちょっとだけハードになりそうだって聞いてるから、期待してるよ」

 

 そう言いながらにコウタも自分の準備に取り掛かる。これからどんな内容が待っているかは分からないが、少なくとも今までフライアで討伐したアラガミよりも数段手ごわい事は今まで戦った結果からすぐに理解していた。

 コウタは第1部隊長である事から今までに数多くのアラガミを討伐している。そんなコウタの口から出た言葉はある意味、何を予見しているのか理解する事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回のミッションなんだけど、中々厳しい物があったけど、ギルはどうだった?」

 

 今回のミッションに北斗が連れてきたのはギルだった。他のメンバーはフライアにいたジュリウスが戻ってきた為に、そちらはそちらで指揮が執られていた。

 事前にジュリウスにも確認した所、今回の内容を踏まえた上で北斗とギルが参戦する運びとなっていた。

 

「いや。まさかああまで厳しい内容の任務は初めてだった。流石は極東と言った所だったな」

 

 コウタが言った様に、エイジスでの戦いは乱戦に次ぐ乱戦のオンパレードだった。討伐したかと思えば次から次へとアラガミは際限なく湧き出てくるかの様に続いていた。

 当初は余裕を持った北斗達ではあったが、討伐から次のアラガミが出るまでの間隔が徐々に短くなり、まるで討伐したアラガミが他のアラガミを呼ぶ為の餌となっているのではないのだろうかと思える程に個体が徐々に強力になっていた。フライアでは味わう事が無い終わりなき連続ミッション。

 その結果として最終的には総力戦とも取れる内容でもあった。改めてここが激戦区である事を理解させられる。改めて極東がどんな場所なのかを感じさせられていた。

 

 

「しかし、ギルも当時に比べれば腕は上がったな」

 

「ハルさん。俺だっていつまでも昔のままじゃないんですよ」

 

「そうか。俺も歳を取る訳だ」

 

「そう言えば、2人は元々同じ支部だったんですよね?」

 

 今回のミッションリーダーを務めたコウタが不意にギルとハルオミのやり取りを見て思い出していた。当初ハルオミが着任した際にはそんな話は出なかったが、コウタ達第1部隊のメンバーとミッションに行く際に色々と話をする機会があったからなのか、今ではコウタもハルオミの事はそれなりに理解していた。

 

 

「ああ、こいつがまだルーキーだった頃は何かと手が付けられなくてな。随分と苦労したもんだ」

 

「それを言うならハルさんも似た様な物だったじゃないですか」

 

 2人のやり取りを見てたのはコウタだけでは無かった。北斗もギルがブラッドに来た際の情報は多少なりとも知っていたが、それでも詳細については特記事項の為に北斗の権限では確認が出来ないままだった。結果はどうあれギルはギル。その結果として特に何も聞かないまま今日まで来ていた。

 以前の早朝の巡回の際には何か考え込んでいる様にも思えたが、それは各自が何かしら思う事があるだろうと判断した結果だった為に、今の段階では何も聞かないまま終わっていた。

 

 

「そう言えば、北斗のブラッドアーツ?だっけ。あれって凄いよな。流石、特殊部隊を名乗るだけの事はあるよ」

 

「自分では意識してやった訳じゃないんですけどね。でも、あれが全てでは無いとは思ってますけど」

 

 コウタはコウタで改めて北斗と話をしていた。今までに何度か共闘する事はあったが実際に直接見た訳では無く、今回はエイジスの狭い中での戦いだったからこそ、初めて目の前でブラッドアーツを見る事になった。

 激戦区とも取れるここでの戦いに、新たな力が存在すれば今後の戦いが容易になる。

 そんな戦い方の中で、コウタは少しだけ北斗の戦い方を見て既視感があった。極東と本部ではどう考えても接点が見当たらない。そんな事も考えて何気なく北斗に確認する事にした。

 

 

「でもさ、北斗の戦い方ってエイジとよく似てるんだよな」

 

「そう言えば、アリサさんも同じ様な事言ってましたね」

 

「なぁ、北斗って無明さんの所で何かしてたなんて事は無いよな?」

 

「…いえ。一緒に何かをした事は無いですね」

 

 コウタの口からまさか無明の名が出るとは北斗は思っても居なかった。この名前で漸く当時のアリサの言葉と今のコウタの言葉の意味が理解出来ていた。極東の訓練カリキュラムの内容や槍術の映像。

 今まで何も考えていなかった訳では無いが、ここで漸く線と線が繋がった様な気がしていた。恐らくはここに居るのかもしれない。

 コウタの言葉に北斗は今回の中で一番の結果だと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「饗庭さんが?別に隠す様な事は無いとは思うんだけど……でも気になるなら聞いてみるけど。コウタはこれで良かったよね?」

 

 エイジスの任務は当初のハードな内容だと言うにふさわしい任務だった事もあってか、朝一番に出たはずだったが、帰投する頃には日が沈みそうな時間帯だった。こんな所で何をしていたんだと言いたくもなるが、討伐したアラガミは霧散する関係上、帰る頃には来た時と何ら変わらない様な雰囲気だけが残っていた。

 エイジスの掃討戦は常時連戦になる事は極東の人間であれば誰もが知っている。だからこそ誰もやりたがらないのと同時に、それなりの技量が要求されるミッションとなっていた。

 そんな疲れた体を癒すべくラウンジへと足を運ぶと、コウタの予想通りエイジとムツミがカウンターの中で作業をしてるのが目に留まっていた。

 

 

「おうサンキュー。今日改めて戦い方を見てたんだけど、少し前のエイジに動き方がそっくりだったんだ。無明さんって普段はここに来ないだろ?急ぐ話では無いんだけど、何となく気になってさ」

 

 そう言いながら、夕食だと出されたスペアリブをコウタはそのまま手づかみで食べていた。かなりハードなミッションだったからなのか、それとも食事をする暇すら無かったのか、コウタの手が止まる事は無かった。

 そんなコウタを見ながらも先程の会話をエイジは思い出していた。自分の戦闘スタイルと酷似しているのであれば、当然同じ人間か、若しくはそれに近い人間に師事しているとしか思えない。エイジもアリサから聞いて知っていたが、ここまでだとは思ってなかった。

 今のコウタを見ていると、当時の自分もこうだったのだろうかと少しだけ考える部分があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エイジさん。これ本当に何もしてないんですよね?」

 

「これは完全に塩麹だけだよ。後はその成分が肉の旨味を引き出してるんだと思うけどね。漬け込んだのをオーブンで焼くだけだから簡単でしょ?」

 

「そうですね。これなら手軽に出来るかも…後は仕込みの数がどれ程になるのかですかね」

 

 

 カウンターでは先程コウタに出したのと同じスペアリブを少しだけ食べたムツミが色々とエイジに話をしていた。今はエイジが居る事から何かと2人で新作を作っているのを何度も見かけている。

 本来であれば料理人が2人いれば必ず方向性が違うので問題となる事が多かったが、エイジはアナグラに居る時だけの限定である事と、何かと新作のレシピを考える機会があまり無い事から案外と意気投合する部分があった。

 

 

「あ~コウタさん。何か良い物食べてる。ムツミちゃん俺にも同じ物一つ!」

 

 どうやらジュリウス達も帰投したからなのか、いち早くロミオがラウンジへと入って来ていた。時間的にはこれからなので問題無いが、それでも他の人に話すのもなんだと判断したのか、コウタもそれ以上の話をする事はしなかった。

 

 

「とりあえず、さっきの件は近日中に聞いておくよ」

 

「何だか気を使わせたみたいだな。ロミオ!これ新作だって」

 

「え~マジですか?うわっ。これ何だかヤバいですよ」

 

 コウタに誘われたのかロミオもスペアリブをかぶりついている。感想は既にロミオの言葉が全てを物語っているのか、それ以上の事はエイジもムツミも聞かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか。名前は何と言ってた?」

 

「饗庭北斗ですが」

 

 その晩、エイジは無明の元へと足を運び、コウタから聞いた話をそのまま伝えていた。以前にもアリサが同じような事を言っていた事も勘案すれば、恐らくは何らかの接点があったのかもしれないとエイジは考えていた。

 

 

「……恐らくは……いや。明日はアナグラに行く予定があるから、一度確認しよう。それとブラッドはどうだったんだ?」

 

「特に問題無いと思います。よほど何かあるならコウタも気が付くと思いますので、その辺りは大丈夫かと」

 

 エイジの話は何か思うところがあったのか、無明は暫くの間天を仰ぐように眺めていた。エイジには話していないが、苗字に覚えがあるのは間違いなかったが、あの当時からは既にそれなりの時間が経過している。そう考えると一度は確認した方が良いだろうと人知れず考えていた。

 

 

「無明。そろそろ寝たらどうだ?」

 

「ツバキさんか。いや、ちょっと思うところがあってな。そう言えばブラッド隊は中々鍛えられているらしいが、戦力的にはどうなんだ?」」

 

「特に問題となる部分は無いだろうと聞いている。ただでさえ本部は苦々しく思っているだろうが、ここではそんなくだらない事に腐心する程余裕も無いならば、戦力の増大はこちらの望む所だ」

 

 まだ見ぬ未来と、これからのクレイドルとしての行動が今後どうなっていくのかは誰にも分からない。だからこそ今出来る中でやるだけだと、改めて考える事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、ここでも活躍しているらしいな。シエルからそう聞いているぞ」

 

 久しぶりにジュリウスと会った様な気がする程に、ここでの日常はある意味刺激的だった。ギリギリの中での戦いが徐々に多くなると同時に、新たな出来事が次々に降りかかる。それ程までにここでの生活は今までの中で一番だとも考えられていた。

 

 

「それってブラッドバレットの事?」

 

「ああ。あれほどまでに喜んだシエルは初めて見た。そうそう、シエルがこれは2人の想いの結晶ですとか言ってたな」

 

 恐らくは先日のミッションの際に何か話した中での事だと北斗は考えていた。あの後も検証を続けた結果、今までに無い新たな発見だからとリッカだけではなく、支部長の榊も喜んでいた事が思い出される。しかし、シエルがそんな風に言っていたとは思ってもなかったのか、少しだけ北斗は焦っていた。

 

 

「別にいかがわしい事をした訳じゃ無いから。でもあのバレットは今後の何かには役立つとは思う。これもやっぱり俺の血の力の影響なんだろうか?」

 

「可能性はそうだろうな。念の為にラケル先生にも確認したが、その可能性は高いだろうって言ってたぞ」

 

 まさかゴッドイーターだけにとどまらず、神機にまで影響をもたらしているとは考えてなかったのか、北斗は暫くの間硬直したままだった。

 

 

「あれ?ジュリウスと北斗が一緒なんて珍しいな。何かあったのか?」

 

「偶然そこで一緒になったから話してただけですよ。そう言えばロミオ先輩はどうしたんです?」

 

 任務に出た記憶は無かったが、どこか疲れた様な表情を見せてラウンジへと足を運んでいた様にも見えたが、一体どこで何をしていたんだろうか?そんな疑問が北斗の口からこぼれていた。

 

 

「ちょっとここの教導カリキュラム?だっけか。興味があったから少し体験したんだけど、あれはちょっと異次元の内容だった…」

 

「そんなに厳しいとは思わなかったんですけど?」

 

 北斗の疑問は尤もだった。一度体験した方が良いだろうと考えた事もあってか、北斗は真っ先にカリキュラムの訓練施設に首を突っ込んでいた。当時の内容を考えれば幾らロミオと言えど、そう簡単に疲労する内容だとは思えなかった。

 

 

「今はクレイドルの人達が来てるから、その人達が教導してるんだよ。今は多分ギルがやってるはずだぞ。あれ?そう言えば、ジュリウスは今来ている人達って見てないよな?」

 

「そうだな。ここに来て暫くはフライアだったから、来ているのは知ってたが、直接会ってないな。まだ訓練施設にいるなら、こちらから出向いた方が早いだろう」

 

「そっか。俺はこれで終了だからな。今なら大丈夫だろ」

 

 ややグロッキー気味なロミオはそのままにジュリウスと北斗は訓練施設へと足を運ぶ事になった。場所は北斗が知っていた事から迷う事は無かったが、訓練施設が近づくに連れ、何か大きな音が聞こえて来る。

 恐らくはこの扉の向こうで何かしらやっているのかと考え、扉をゆっくりと開いた。

 

 

 


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