神を喰らいし者と影   作:無為の極

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132話と時系列は同じ頃になります


第133話 新たな発見

「昨日もすごかったけど、まさか朝食までこんなだとは……やっぱり極東支部は人類の楽園なのでは」

 

 昨日のケーキの余韻もそのままに、朝食を食べようとナナ達は少し遅い時間にラウンジに来ると、何時もとは違う様なメニューが並んでいた。

 本来ならばムツミがラウンジに来る時間帯での朝食は割と簡単な物が多かったはず。少なくともブラッドがここに来てから見た朝食は、メニューそのものは色々とあったが、朝だからなのか、どこが簡素化されていた様にも思えていた。しかし、今日に限ってはその限りではない。

 先日のケーキのついでとばかりに仕込んであったフレンチトーストが提供された事もあったのか、何時もとは少し違ったメニューに気が付けば、ラウンジはそれなりの人数にまで膨れ上がっていた。そんな状況にナナも当初は疑問に思っていたが、周囲のフレンチトーストを見たからなのか、疑問を遠くに放り投げると同時に頼むつもりでいた。

 

 

「ナナ、そんなに慌てて食べなくても逃げて行かないぞ」

 

「いや、これはすぐに食べないと多分逃げていく気がする。ロミオ先輩が要らないなら私が貰っちゃうよ」

 

「何言ってんだよ。これは俺のだから取るなよ」

 

 ナナの言う言葉はある意味真実だった。ナナのフォークがロミオのフレンチトーストに狙いをつけながらも、自分の分はしっかりと口の中へと入って行く。そんな2人のやり取りにムツミも少し複雑な心境になっていた。ムツミとしても色々とやりたい気持ちはあるものの、今回のこれはエイジが完全に好き好んで作っていた事実があった。

 もちろんムツミも隣で一緒に作業していたが、仕事と言うよりも、どこか趣味の延長の様にも見えていた。

 エイジがカウンターの中に居るならば追加も可能だが、生憎とこのフレンチトーストは仕込みが少し面倒なので数量は限定となっていた。

 

 

「ナナさん。エイジさんからレシピは聞きましたので、これからは同じ様な物が作れますよ」

 

「おお!それは良い話を聞いた。う~ん。これからが楽しみだな」

 

 ムツミの言葉に納得したのか、ナナは先程とは違ってゆっくりと味わって食べている。狙われる心配が無くなったのか、ロミオも大人しく食べている。そんな風景を見ながら北斗とシエルもカウンターの席へと腰を下ろした。

 

 

「やっぱりシエルもあんなフレンチトーストみたいな物が好きなの?」

 

「北斗。やっぱりとはどんな意味を持つのでしょうか?場合によっては訂正を求めますが?」

 

「そんなつもりじゃなかったんだけど、やっぱり女性はああいった物が好きなのかと思ってね」

 

 心外だと言わんばかりの視線にバツが悪そうに感じたのか、頬を掻きながらに話題を逸らす。一度口から出た言葉が戻る事はなく、このままでは味がしなくなる朝食を食べるハメになりそうだと感じ出していた。

 

 

「お前ら朝から騒々しいな。朝食位、静かに食べられないのか?」

 

「おはようギル。そう言えば、昨日は誰かと話してた様に見えたけど、知り合いだったのか?」

 

「まぁ、そんな所だ。グラスゴーに居た時の先輩だ。まさかここに来てたなんて思ってなかったからな。少し話しただけだ」

 

 皆と同じく朝食の為に来たのか、遅めの時間にギルもラウンジへと入ってくる。何気ない北斗の発言にギルは少しだけ考える部分はあったが、特に何かあった訳では無いからと簡単に話すだけにとどまっていた。

 

 

「おっ!いたいた。北斗、食事が終わったら少し話があるんだけど良いか?」

 

「俺は大丈夫ですが、何かあったんですか?」

 

 騒がしい食事が終わる頃、珍しくコウタが話しかけてきた。一番最初に会ってから何度かミッションに同行した事はあったが、実際には北斗の元来の性格が災いしたのか、実際にはゆっくりと話をした記憶があまり無かった。

 しかしながらお互いに隊長と副隊長と言った役職があった事から、何となく話位はする様な間柄だった。そんな関係にも拘わらず、コウタはまるで友人の様に話しかける。そんなコウタが少しだけ羨ましいと北斗は感じていた。

 

 

「実はさ、今日のミッションなんだけど、エリナとエミールに同行してくれないか?実は今日は珍しくアリサもエイジも居なくってさ、ちょっと手が回らないんだ」

 

 コウタの言葉に漸く状況が見えてきた。先日の時点では確か、アリサもエイジも今日は大きな予定が無かった事を記憶している。それならば同じ部隊内で融通するはずだが、なぜか今日は朝から2人の顔を見た記憶は無かった。

 コウタはコウタでどうやらやる事があるらしいが、手が回らないからと言った意味合いで北斗に話が回ってきていた。

 

 

「俺は構いませんが、ブラッドはブラッドで確かミッションがあったと記憶していますが?」

 

「ああ。その件ならもうジュリウスから許可を貰ってるから大丈夫だよ。今日一日の話だからこの通り!」

 

 すまなさそうに手を合わせられるとそれ以上の事は何も言えなかった。ジュリウスの名前が出ている時点で恐らくは根回しは完了している。となれば、北斗も断る理由が無い為に快諾する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は何だか何時もより疲れた気がする……」

 

 コウタが言う様にジュリウスに確認した所、やはり事前に根回しが完了していたからなのか改めてジュリウスからも同じ様な内容の事を通告されていた。当初は1回キリかと思ったミッションだったはずが、気が付けば連戦に次ぐ連戦からなのか、部隊のメンバーを少しづつ変えながらミッションに励んでいた。

 

 単純な討伐任務だけならばこうまで疲弊する事は無いが、問題なのはその内容だった。

 以前にエミールとは一緒に戦った事があった為に何となく耐性は付いていたつもりだったが、エリナと一緒になると所構わず言い争う場面が何度かあった。

 

 北斗も当初は驚きを見せていたが、恐らくはこんなやり取りをしながらもお互いに意見を擦り寄せているんだと思う事にして、そのまま何も言う事は無かった。しかし、そんな場面だけでは無かった。

 やはりここが激戦区とも言われる所以が垣間見えるかの様に、エリナの動きは自分が知っている様な新兵の動きはしていなかった。常に自分の間合いを崩す事無く、半ば一方的に攻撃だけを繰り返す。アラガミの動きを完全に理解しているからなのか、アラガミが反撃を見せる頃には完全にその場から離脱か、盾で防御していた。

 元々からスピアをメインで運用している事もあったのか、淀みらしい物を感じる事が少ない。そんなエリナの動きに北斗だけではなく、同行したシエルも驚きを見せていた。

 

 あの教導用の映像から判断しただけではなく、極東のカリキュラムを確認した所、大よその人間は一旦中級カリキュラムまで進まない事には実戦に駆り出される事は殆ど無かった。

 それだけではない。教導教官でもあったナオヤの許可が無ければ次のステップに進む事すら出来なかった。戦場では常に死とは隣り合わせ。何らかの要因で天秤が一方的に傾けば待ち構えているのは死だけ。

 それでも尚、未だ殉職者が出るのであれば、アラガミそのものが他の地域とは大きく違う事以外に考えられない。これが最前線と呼ばれる所以だと今さらながらに考えさせられていた。

 

 

「そうですね。フライアに居た頃とは大きく違っている様です。個体に付いても強固な物も多かったですし、今後はここで運用するのであれば私達も安穏としている訳には行かないでしょう」

 

「でもそれだけでは無い様な気もするんだけど……そう言えば、あっちはどうなってる?」

 

「多分、ギルも居ますから何とかなるんじゃないですか?」

 

「そうあって欲しいんだけど……でも、ここに来てからギルの様子が少しおかしいんだが、シエルは気が付いてたか?」

 

「…すみません。そう言った類の事は私はちょっと苦手なので…」

 

 何気に地雷を踏んだのか、少しだけシエルが凹んだ様にも見えた。恐らくは何らかの思い出したく無い何かに触れたのかもしれない。そんな居たたまれない気持ちが北斗にはあった。

 

 

「ごめん。そんなつもりじゃなかったんだけど、何となくギルの様子が何時もとは違う様な……やっぱり昨日の夜に話してた人と何かあったのかもしれない」

 

「それはギルのプライベートな部分ですから副隊長がそうまで気にする必要は無いかと思うんですが」

 

 そんな些細な話をしていると、既に回収も終わったのか、今回の同行者でもあったエリナが何かもの言いたげな表情のまま北斗達を見ていた。

 

 

「そう言えば、貴方たちってエリートなんでしょ?」

 

「エリートな訳ないさ。誰がそんな事を?」

 

 唐突に聞かれた言葉の意味が理解出来ない。そもそもブラッドの存在は世間にはあまり広く知られていないが、感応種討伐のエキスパートとして他の支部でも存在だけは伝えられていた。

 表面的には特殊部隊としてカテゴライズされている事も相まった結果、エリートなんて言葉だけが一人歩きしているのが現状だった。

 

 

「皆がそう言ってるから、そうだと思っただけ。でも、今日のミッション見てたら何となく分かった気がする」

 

「何か特別な事した覚えはないんだけど」

 

「私が勝手にそう判断したの!」

 

 何か変な言葉を言ったつもりは無いが、それでも何か考える様な事があったのかエリナは一人納得居ている様な雰囲気があった。

 

 

「一体何だったんだろう?……シエル何かあった?」

 

 そんな疑問を他所に改めてシエルを見ると先程の会話以降、神機が気になるのか何か考えている様にも見えている。こっちはこっちで今度は何だろうか?今の北斗を助けてくれる人間はこの場には誰も居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「北斗。すみませんが少し時間を頂けますか?」

 

「それは大丈夫なんだけど、今度はどうしたの?」

 

 疲れた身体もそのままに、全てのミッションが終わると何か思う部分があったのか何時もよりもややテンションが高いシエルが改めて聞いてくる。一体何があったのかは分からないが、こうまでテンションが高いシエルは今までに見た事が無い。

 今の時点では何かしらの用事も無いので今はシエルの話を聞く事にしていた。

 

 

「私が以前に話した銃形態の挙動の件なんですが、実は帰投直後にリッカさんとも話をした結果なんですが、どうやら今までに見た事も無いバレットが出来上がっていたようなんです」

 

「バレット……ねぇ」

 

 恐らくは帰投直後の様子がおかしかったのはこの事なんだと北斗は理解していた。基本的に何をするにも若干表情が硬い様にも見えるが、実はバレットについては並々ならない程に熱く語る部分があった。

 以前にもバレットエディットの話でかなり盛り上がった記憶があったが、どうやら今回もそんな内容に匹敵する様な事が発覚した様だった。

 

 

「どうやらこのバレットは過去に例を見ない様な性能を誇っているらしく、ここでもこんなバレットは今まで見た事が無いって話だったんだです」

 

「性能が違うってどう言う事?」

 

「実は今回発見されたバレットなんですが、本来であればあり得ない挙動を示すらしいんです。例えば私が使っているレーザーを例に出すと、本来であれば対象アラガミに衝突すればそのまま消滅していたんですが、今回発見されたバレットはそのまま貫通する性質を持っているそうなんです。

 そうなれば乱戦時には一発の銃撃で何体かのアラガミにダメージを与えたり、また場合によってはそのまま討伐の可能性もあるそうなんです」

 

 詳しい事は分からないがシエルの言いたい事は直ぐに理解できていた。ここ極東では1体だけで終わる様なミッションは殆どなく、また時間差で討伐対象外のアラガミが乱入する事が多々あった。

 これに関しては事前に聞いていても、何かしら察知して来るのか気が付けばそれなりの数を討伐する事が多々あった。そんな事もあってか、結果的には任務の大半が混戦となるケースが多かった。

 

 

「って事はそれがエディット出来れば今以上に戦いの幅が出来るって事なんじゃない?」

 

「そう…なんですけど…」

 

 北斗の何気ないエディットの単語がでた途端、今までテンションが嘘の様に一気に落ち込んでいく。どうやらまたもや地雷を踏んだのか、誰が見ても分かり易い程の勢いだった。

 

 

「えっと……何かあったの?」

 

「実は…このバレットは既存の物とは違い、強固すぎる為にバレットの接合出来る端子が無いんです。その結果としてエディットが出来ないんです。これはこれで性能的には問題は無いんですが、やはり追加で何かしらの効果があれば今後の戦術にも大きな幅が出来ると思うんです。……ただ、今はこれをどう活用するのかは時間がかかるって話だったんです」

 

 この時点で技術班が分からない事が北斗に分かるはずもなく、大きな発見はしたものの、ここから先に進む為にはそれなりの技術が必要だと考えていた。しかし、ブラッドのメンバーの中でもシエルが一番バレットについて詳しい以上、北斗に分かる物は何も無い。このまま見ているだけは忍びないとは思うも力になれる様な事は何一つ無かった。

 

 

「でも貫通出来るって事は、それなりに威力があるんだよな?」

 

「そうですね。少なくともそのアラガミのオラクル細胞を破壊するだけの強固な性能が有りますから」

 

「強固な性能………」

 

 そんな話をしていると、不意に北斗の中で同じ様な話を過去に聞いた記憶があった。それはまだブラッドに入隊する以前。つまり、まだ外の世界で生活していた頃の話だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「父さん。これどうやって切れるの?」

 

「これか?これは先端にダイヤモンドが付いてるんだ。ダイヤモンドは固い物質だからこの強度でガラスが切れるんだよ」

 

「へーダイヤモンドって固いんだね。でもこのダイヤモンドって最初からこんな形してるの?」

 

「これはダイヤモンドを砕いた物で同じダイヤを加工するんだ。ダイヤは固いけど脆い物質だからね。それを活かして加工してるんだ」

 

 そう言いながら北斗の父親が窓ガラスにはめ込む為に切っている。直線の筋が入ったかと思った途端、少しだけ衝撃を当てると、いとも簡単にガラスが綺麗に切れていた。

 

 

「固い物同士で加工するなんて父さんは凄いね」

 

「これは昔からあった物だから父さんは何もしてないよ」

 

「でも父さん凄いよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「北斗。一体どうしたんですか?」

 

 心配されたのか、シエルに表情が少しだけ曇っている様にも見えていた。恐らくはそれなりに思考の海に潜っていたのだろう。気が付けばそれなりに時間が経過していた。

 

 

「そうだ!シエル。ガラス切りなんだよ。理屈はそれで大丈夫なはずだ」

 

「えっ?一体何がどうしたんですか?ガラス切りって何ですか?」

 

 意識が戻ったかと思った途端、北斗はシエルの手を握り何かが閃いた様に見えた。しかし、シエルの中でガラス切りが一体何なのか理解が出来ず、手を握られたまま硬直する以外に何も出来なかった。

 

 

「時間あるよな?これからリッカさんの所に行こう!」

 

「は、はい!」

 

 そのまま手を繋いだまま技術班へと急ぐ。これから一体何が起こるのだろうか?未だ北斗の考えている事が理解出来ないままシエルも技術班へと急ぐ事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リッカさん。少しだけ時間良いです?」

 

「どうしたの北斗?何かトラブルでもあった?」

 

「実はシエルから相談されたバレットの件なんですが……でこうなるはずなので、………理論上は可能だと思うんですが……どうでしょうか?」

 

「……それならこう……すれば良いんじゃないかな?」

 

 突如として連れられたシエルは、北斗がリッカと話をしている内容が今一つ理解出来なかった。しかし、話の内容が直ぐに理解できたのかリッカは直ぐに準備を始めると、あっという間に検証する手筈が整えられていた。

 何も分からないままバレットをお互いぶつけるかのように発射する。その結果、幾分か破損はしたものの、モジュール結合が出来る端子を取り出す事に成功していた。

 

 

「まさかこんな単純な事で出来るなんて」

 

「こうまで上手くいくとは思わなかったんだけど結果オーライだな」

 

 恐らくは今まで見た中で一番感情が表れているのかと思うほどのシエルの笑顔がそこにはあった。北斗自身が何かを成し遂げた様な話ではないが、それでも今のシエルを見ればどれ程喜んでいるのかは直ぐに理解出来た。

 これがあれば今後の運用にも大きく活用が出来る。そんな少し先の未来が見えたような気がしていた。

 

 

「北斗のおかげです!」

 

 感極まったのかシエルが北斗に抱き付いていた。突然の出来事に一体何がどうなったのか冷静な判断を下す事が出来ない。突然の出来事に北斗はシエルが倒れない様に支える事しか出来なかった。

 

 

「あのさ…ここはそう言う事には割と寛大な支部だけど、そう言う事は出来れば帰ってからやってくれないかな?私も馬には蹴られたくないんだけど」

 

 どれ程抱き合っていたのか分からないが、この沈黙を破ったのは今回の件で一緒に検証していたリッカだった。その声に意識が戻ったのかお互いが気まずそうに離れている。

 ここが整備室だから大事にはならなかったが、これがラウンジ辺りであれば確実に今回の様なケースは容易に拡散されている。何だかんだで他人の色恋沙汰は最大の娯楽である以上、ここでは誰も否定的な考えを持つ者は居なかった。

 

 

「す、すみません。ついあまりの嬉しさに我を忘れたようですから。北斗もすみません」

 

「いや。シエルに抱き付かれたのは役得だと思ってるからあやまる必必要は無い」

 

 照れながらもお互いが何故か言い合いをしている。そんな光景を無理やり見せられたのかリッカは何となく面白い物が見れたと一人考えていた。

 次の機会で弄る事があればこれは中々面白いネタになる。

 となれば、ヒバリとも話して機会を作ろうか、それとも弥生に話した方が手っ取り早いのだろうか。そんな事を考えながらに2人のやり取りを眺めていた。

 

 

 


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