神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第14話 疑問

 元々は身体に怪我があった訳ではないので、翌日になりエイジはようやく自分の部屋に戻れる様になった。

 

 医務室に居る時から、今回のミッションに関しておかしな所が無かったのかを振り返っていた。今回の件については結果はともかく、些か不明瞭な点が余りにも多すぎた。

 しかしながら一兵卒がそんな事に首を突っ込むのは果たしてどうなんだろうか?

 自分の関与できる範囲であればまだしも、それ以上の何かが影響するとなれば今の段階であれこれ考えるには判断すべき材料が無さ過ぎる。

 そう自問自答しながらも、答えの見つからない先を見ていた。

 

 長考しながら歩いた結果なのか、気が付けば目の前には扉があった。ここに来るまでに色々と考えすぎたのか、ここまでの記憶が無い。

 アリサはまだ医務室の中だと思いだし、せっかくなら見舞いにでもと足を向けた際に背後から年配の男性から声をかけられた。

 

 

「アリサならまだ面会謝絶だよ」

 

 声の主は以前、支部長室で見たオオグルマ・ダイゴ。

 相変わらず医者とは思えない風体で、どこか信用に置けない怪しげな雰囲気を纏っていた。

 

 

「今はまだ鎮静剤で眠っている。治療を施す所は今の段階でも見られたくないだろうから、改めてくれ」

 

 医者としての立場から言われれば、それ以上の反論や手だしは何も出来ない。

 通常の負傷ではなく、あくまでもメンタルの部分であれば、あとは回復した時に行くしか出来ない。

 今は他に手が無いと判断し、その場から離れれるも、このまま何もしないのも時間が勿体ないと思い、今度は久しぶりに技術班の友人の所へ行く事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リンドウの失踪から翌日、憔悴したままではと思える位には回復していたのか、サクヤは重い体を無理やり起こし、冷蔵庫から飲み物を取り出そうとすると、そこには何故かディスクが置いてあることに気が付いた。

 自身で置いた記憶が無ければこんな事をするのは一人しかいない。

 何かのメッセージが残されているのかとそう考え、サクヤはターミナルから中身を確認する事にした。

 

 中身を確認した事でサクヤは軽く混乱していた。

 幾つかのフォルダを見てみるも、どれもこれも当たりさわりの無いメッセージしか見当たらない。

 こんな内容がなぜこんな所にと思いながら、他のファイルを開こうとすると肝心の部分で腕輪認証プロテクトに阻まれる。たかがメッセージであれば、ここまで厳重にする必要は本来であればありえない。

 これ以上は危険だと頭の片隅で思いつつも今の状態を忘れ、サクヤは中身を確認する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エイジか。珍しいな、どうしたんだこんな所に?」

 

 技術班についたエイジを友人でもあるナオヤは出迎えた。

 ゴッドイーターになってから、神機の受け取りで訪れる事はあっても、整備中の現場まで訪れる事はまずない。

 エイジ自身が来た事によって、何かが変わる様な事は無い。見た限りだと何をやっているのかも理解できず、下手をすれば迷惑になる事が多いのが原因となる。

 

 

「先日の撤退戦の際に破損したバックラーの調子はどう?」

 

 先日の襲撃した彫刻の様な顔を持つアラガミの名はプリティヴィ・マータ。本来は極東ではなくロシアなどユーラシア大陸の北部に生息している。

 今までアナグラでも交戦履歴は殆ど無く、今回の件で多数の種が極東付近にも生息が確認される様になっていた事から、討伐の件数が格段に増えていた。

 

 

「ああ、あれは見た目は問題なかったけど、根本のジョイントに大きなクラックが入っていたからそのまま廃棄だな。今以上に強化する素材だな」

 

 戦いの最中に気が付いた事だが、今回のアラガミと神機のレベリングは今までに無いほどアンバランスな状態だった。

 本来であれば上等兵レベルの神機であれば、プリティヴィ・マータは討伐の対象から自動的に外れる。

 

 いくら自分が使う物だとしても、性能に振り回された結果扱う事が出来ないのであれば無意味となり、その結果として戦場では致命的な隙を生む事になる。

 今回対峙したアラガミは恐らくは曹長以上の階級の神機レベルでようやく戦えるはずだが、今回はイレギュラーな部分が圧倒的に多く、その結果としては不釣り合いなマッチングとなった。

 

 

「守りもだけど、今後はもう少し刀身の事も考えろよ。身体能力に頼りすぎた戦い方だけだと無理があるぞ。このままだと任務遂行は厳しくなる。銃身はリッカ……任せた」

 

 ナオヤは銃身には関心が全くないと言わんばかりにリッカに丸投げする。

 リッカを見ればやれやれと言った表情。恐らくは短い期間ではあるものの、ナオヤの特性が身に染みているかのように感じられていた。

 

 

「あのさ。ナオヤも少しは銃身について学んだらどう?これからは新型が増えるだろうから両方の整備は必須だよ」

 

「一時期は確かに考えもしたが、結局の所は出来る人間に任せた方が効率的と判断したんだよ」

 

「技術班に配属された以上、私は先輩だよ。少しは人の言葉をもう少し聞いたら」

 

 リッカの正論に、このままでは段々と旗色が悪くなる。ナオヤ自身は学ぶ事はそんなに楽しい物ではないとの考えも持っているせいか、返す言葉の歯切れが悪い。

 だからと言って、立場で物事を言われれば、ここは素直に『はい』と言うしかなく、銃身に関しては今後の課題と言った所だろう。

 

 

「とりあえず、もう昼だからメシにしないか?エイジもまだだろう?」

 

 強引に話を切り替え、これ異常の追及をかわすしか手がなくなったのか、エイジに丸投げするしかないナオヤ。

 とりあえず感情の矛先を変えるのが成功したのかリッカも何とか思いとどまった………なんて事は無かった。

 

 

「ご飯食べたら、この続きだよ」

 

 そう言われ軽くへこんだナオヤだった。エイジはご愁傷様と心の中で手を合わせる。

 極東支部ではゴッドイーターとは違い、技術班の人たちは一般の社員と変わらない。

 配給はあるが基本は各自で持参する事になり、昼休憩で他のスタッフも続々とやってきた。

 

 

「エイジだったか。お前も一緒に食うか?」

 

 整備班の班長から声をかけられるも、このまま食事になるとは思わず手持ちは何もない。確かに取りに戻れば事足りるが、戻るのも面倒だと考えていた。そんな時に意外な人物から、ありがたいお言葉が出た。

 

 

「俺の少しやるよ。ちょっと今日は多く作りすぎたからな」

 

 声をかけたのはナオヤだった。彼は自炊する事が多く、昼は自分で作った物を持ってきていた。

 

 

「何だか悪いな」

 

「後でくれれば良いさ」

 

 エイジに手渡されたのは塩結びと梅干入りのおにぎり。

 流通がよくなったとは言え、未だ米は貴重品で一般に出回るも高額な物が多く、所謂、高級食材の部類に入っていた。

 

 何気に渡したのを見たからなのか、それを見て驚くのはリッカと班長。

 外部居住区に住んでいれば価格も価値もおおよそでも知っている。

 そんな貴重品にも関わらず簡単に渡すのはある意味驚きだった。

 

 

「なんでナオヤそんな簡単に渡せるの?」

 

「家帰ったらしっかりと食べる位は常備してあるけど?」

 

「ナオヤ、お前良いもん食ってるな。少し分けてくれよ」

 

「これ以上分けたら自分の分が無くなるからダメです」

 

 エイジの手にあるのは割と大きめのおにぎり。

 食べる分には何ら問題も無い。他のスタッフ連中を見てもレーションやパンが多く、中々ここまでしっかりとした昼食は持ってきていない。

 ついでに言えば、それとは別に漬物や、ちょっとしたおかずまでも持参していた。

 

「ナオヤ、少しは料理の腕上げたのか?」

 

「お前ほどじゃないけど、なんだかんだと毎日やってりゃ慣れてくるから腕も上がるよ」

 

 そう言いながらに、エイジがおにぎりを食べているのを見たリッカは他のゴッドイーター達も知っている関係上、ここまで料理のスキルがある人はサクヤとカノン以外に誰も知らない。

 

 リッカ自身も自炊はするがそこまで凝った料理を作る事はあまりない。

 出来る事なら作ってくれる人が居た方がありがたい。そう思いつつ、前に試食で食べたケーキの事を思い出し、先ほどの会話の事で疑問があった事を思いだした。

 

 

「ねえ、エイジもひょっとして料理とか作れるわけ?」

 

「兄様程じゃないけどそれなりに作れるよ。こんな仕事だからしょっちゅうって訳には行かないけど」

 

「お前のレベルでそれなりなら、俺なんて話にもならないぞ」

 

「そんなに凄いの?」

 

「俺の知る限りだと、下手なレストランなら裸足で逃げるかもな」

 

 確かこの二人は同じ所からアナグラに来ている。ナオヤからたまに出てくる単語の屋敷では一体何を教えているのだろうか?リッカは少しだけ興味を持った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりこれ以上は腕輪認証が必要だわ。リンドウは一体何を調べてたのかしら?」

 

 リンドウのディスクを発見してからのサクヤは、先ほどまで憔悴していたのは打って変わり、今回のミッションの考察と共に、この中身を見れば何かが分かるかと判断し解析を続けていた。

 

 幾つかの簡単なファイルは閲覧できても、肝心の重要な部分になるほどアクセスできない。

 肝心の部分が確認出来ないままでは何も解決しない現状にサクヤは苛立ちを感じ始めていた。

 

『やっぱりリンドウが見つからないとダメなのかな』そう呟いた言葉は誰の耳にも届く事無く空に消えた。

 

 

 

 


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