神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第122話 来訪者

 任務にも慣れ、徐々に戦闘能力が発揮させそうな事を実感しながらフライアへと戻ると、そこには今まで見たことも無いような人物が佇んでいた。

 服装からすればどこぞの貴族の様にも思えたが、当人の右腕には無骨な腕輪がしっかりと填められている。見た目はあれだが、この人物がゴッドイーターである事だけが理解出来ていた。

 

 

「ブラッドと言うのは君たちか?」

 

「はあ。そうですが」

 

「緊張するのも無理はない。栄えある極東支部『第一部隊』所属のゴッドイーター!僕の名はエミール。エミール・フォン=シュトラスブルグだ!」

 

 自己紹介の為に名乗られるのは問題ないが、なぜこんなにも自己紹介一つするのに暑苦しいのだろうか?一体なんでこんな所に極東支部の人間がいるのだろうか?突如として起きた出来事に理解が追い付かない。かと言ってこの暑苦しいテンションの中に入るにも骨が折れる。取りあえず話終わるのを見守る事しか出来ず、北斗達は暫くの間様子を見ていた。

 

 

「このフライアは実に趣味が良いね。恐らく設計に携わった人間はかなりの美意識の持ち主だろう。しかし、この優雅なフライアの前に立ちはだかる様に悪鬼羅刹の如きアラガミが跋扈しているかと思うと、僕は居ても立っても居られなくなってね…」

 

 この時点で一体何が言いたいのか誰も理解する事が出来なかった。北斗はしばし呆然とし、ナナはキョトンとした表情をしている。一方でロミオは不審者を見る様な表情をしていたが、ギルだけは他と違っていた。

 恐らく人生経験がそうさせているのか、それとも性格がそうさせているのか分からないが、ベテランらしく状況を見守っている様にも見えていた。

 

 

「安心するが良い!僕が来たからには大船に乗ったつもりでいてくれたまえ!」

 

 言いたい事を言い終えたからなのか、目の前のエミールは清々しい表情をしているが、突然言われた側はどう反応すれば良いのかリアクションに困る。

 既にナナは正気に戻ったからなのか、北斗の背中に隠れ完全に不審者扱いしたままエミールと名乗った青年を見ていた。

 

 

「共に戦おうではないか!輝かしい未来の為に!我々の勝利は約束されているんだ!」

 

 全てを言い切ったエミールはそのままエントランスの階段へと歩き出す。今まで一体何が起こったのだろうか?ミッションから帰ってきたばかりにも関わらず、この状況から回復するのに暫し時間を要する事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきのエミールさんだっけ?何だか凄く濃い人だよね。極東支部って言ってたけど、極東の人が皆ああだと思われるとちょっと困るよね」

 

「あれ?ナナは極東の出身なのか?」

 

 一旦、気を落ち着かせる為に自動販売機でジュースを購入し、ベンチで話す。やはり先程の印象が強すぎたのか、他のメンバーも未だにあのインパクトが強すぎたのか、それぞれが飲み物を飲みながら気を落ち着かせる様に休憩していた。

 

 

「そうだよ。って言っても施設の外には出た事があまりなかったから、一概にそうだとも言いにくいんだけどね。でも、名前からすれば北斗もそうなんだよね?」

 

「え?ああ。一応は極東出身だけど、あれと同じカテゴリーなのは正直勘弁してほしい。ロミオ先輩も勘違いしないでください。あれは極端な例だと信じたいですから」

 

「いやいや。流石ににあれが極東の人間とは考えにくいよ。多分、どこかの支部からの転属だろ?」

 

 先ほどの転属の言葉に少し反応したのか、ギルを見たが特に何の反応も見せる事はなく、ロミオは内心安心していた。転属の単語が出るたびにビクビクするつもりは無いが、それでも最初のイメージが未だに残っているのか、少しだけ伺うような素振りが見えていた。

 

 

「お前たち、次の任務なんだが、先ほどの極東支部の人間との連携訓練を兼ねたミッションが入る。各自準備をしておいてくれ」

 

 連絡事項とばかりにジュリウスが話すも、あのテンションのままミッションに入るのは違う意味で苦戦するのは目に見えていた。

 個人的には同行は御免こうむりたいが、正規のミッションであれは拒否することも出来ず、今はジュリウスの言葉に従う以外に選択肢は無かった。

 

 

「ジュリス隊長。少し良いですか?」

 

「何だ北斗?」

 

 本来であれば、やりたくない気持ちが一番に来るが、先程のジュリウスの言葉が気にかかっていた。まずはその疑問を最優先すべく、今後の予定を確認する事にした。

 

 

「外部との連携訓練を兼ねるとの話ですが、今後もその可能性が高いと判断して良いでしょうか?」

 

「その件であれば、答えはYESだ。今はここだけでの運用をしているが、このフライアの特性上各地を回る可能性が高く、その際には他の支部との連携が常に求められる事になる。今回の件に関しては、先ほどラケル博士から聞いたばかりだが、今後の運用面を考えればこれは今後の試金石の一つになる可能性が高いと思う。色々と思う所はあるかもしれないが、それに関しては各自で消化してくれ」

 

 先程の自己紹介の件はジュリウスもどこかで聞いていたのか、それとも聞こえていたのかもしれないと一先ずそう判断する事にした。消化と言う以上ジュリウスにも何かしら思う部分があったのかもしれない。

 今はただ目の前のアラガミを葬り去る事だけを考え、各自が準備を始める事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《皆さん準備はよろしいでしょうか?》

 

「は~い。大丈夫で~す」

 

 フランからの通信に元気よくナナが答える。今回は初めて外部の人間とのミッションが開始されるとあって、何時もとは違った空気が流れていた。

 

 

「やるべき事はアラガミを倒す事だけだ。シンプルに行くぞ」

 

《では皆さんご武運を》

 

 通信が切れると同時に対象のアラガミへと一直線に走り出す。目の前には大きなワニを模したウコンバサラがまだ気が付いていないのか、何かを捕喰していた。

 

 それぞれが配置に付くと同時に各自の一斉攻撃が始まり、戦端がここに開かれた。大きく跳躍したギルがウコンバサラのタービンへと空中から攻撃すると同時にナナが大きな口を閉じさせるかの如く跳躍しながら地面に縫い付ける様に叩き潰す。

 相手の無警戒から始まった戦闘はこちら側が一方的に有利に働く事となった。

 

 今回の討伐対象はウコンバサラと他数体の小型種。それぞれが一番最初に高火力で出せる一撃を加える事で最初から有利な展開で戦闘が開始されていた。

 ナナとは既に何度かミッションに行っている事もあり、何時もと変わらない戦い方だが、ギルはベテランらしく、大きな一撃を常時狙う様な事は無く、常に攻撃しながら隙を狙う戦い方を続けていた。

 一方的に始まったとはとは言え、攻撃を受けっぱなしになる事は無く、ウコンバサラも反撃し出す。周囲を囲み始めた先に、背中のタービンが唸る様に突如として回り始めていた。

 

 

「ナナ!一旦下がれ!大きいのが来るぞ!」

 

「了解!」

 

 北斗の指示でその場から大きく離れると、予想通りウコンバサラの周囲には何かが弾けた様な雷が発生していた。直接誰かが食らった訳では無いが、音から判断すると恐らくこれを直撃すれば大ダメージを受けるのは間違い無いと思われていた。事前に察知した事で何事もなく回避するその姿にギルはある種の関心を持っていた。

 

 

「中々良い読みしてるな!」

 

「見れば何となくだけどな」

 

 ギルは当初、この部隊は編制を見る限り新兵の集まりだと考えていた。配属当初にロミオが1年先輩だと北斗から聞いていた事もあり、隊長のジュリウス以外は烏合の衆ではないのだろうかと人知れず危惧を抱いていた。

 しかし、この討伐任務を見る限り、北斗は何らかの形でアラガミと戦い慣れているのかもしれない。そう考え始めていた。事実、ナナの動きは新兵そのものだが、そのナナの動きを指揮している所だけ見ればそれなりに経験を積んだ指揮官の様にも見える。

 まだ会ってから時間は経っていないが、今後は良いパートナーとなれるのだろうかと考え始めていたからなのか、ギルの口元は僅かに綻んでいた。

 

 

「あっ!逃げたよ!」

 

 怒涛の攻撃にウコンバサラは一時退却とばかりに水辺に入り、一気に距離を取り出した。本来であれば追撃するのがセオリーだが、ここは一度判断を委ねても良いだろうと、ギルは何も口出しする事無く、北斗の様子を伺っていた。

 

 

「深追いはダメだ。今はこの近隣の小型種の掃討を優先しよう」

 

「でも、あのまま攻撃してたら討伐出来るかもよ」

 

「いや、あのまま深追いすると今度は小型種がこっちに来る可能性がある。今は掃討しながら様子を見た方が良いはずだよ」

 

 ここでそれなりに経験を積んだ上等兵辺りならばこの指示に対して何らかの反論が予想されたが、ここに居るのは新兵のナナと様子を見たいギルしかいない。エミールに関しては既に他の地点で討伐しているのか、何となく音が聞こえる程度だった。

 

 

「なるほど…北斗って意外と頭良いんだね」

 

「意外とは余計だ。要は可能性と効率の問題だ。小型種が戦闘音を察知して乱入する可能性は低いだろうから、一旦戦場をクリアにした方がウコンバサラに集中できるだろ?」

 

「人の名前は憶えないくせに」

 

「その件はミッションが終わってからだ」

 

 戦場には似つかわしくない会話ではあるが、それでも目は周囲の索敵をや止める事は無かった。程なく見つけたドレッドパイクは発見後にすぐに叩き潰され、斬捨てられている。路傍の石の様に打ち捨てただけでなく、既に意識は他へと向けられている。常在戦場。以前に居た支部で聞いた言葉がギルの脳裏を過っていた。

 

 この部隊は将来が楽しみなんだろうか?今のギルは戦いよりもそんな事を考えていた。仮にも自分が所属する部隊のメンバーがボンクラ揃いの場合、自分の命までもが脅かされる可能性が出てくる。幾ら特殊部隊だとしても、その前に一個の人間でもある。突如として出てきた異動命令をそのまま受け入れる事が出来るほどギルは大人では無かった。

 だからこそ、今回の戦闘は今後の行方を考える可能性があると判断していた。

 

 小型種が完全に討伐した頃、少しづつ音がこちらへと近づいてくる。恐らくは先ほど逃げたウコンバサラである事は間違いなかったが、問題なのはそれ以外の音だった。

 

 

「闇の眷属ども、ここは僕の騎士道精神のかけてお前を土に還してやる!」

 

 アラガミに対して叫びながらエミールがウコンバサラと対峙していた。既に今までの攻撃に追加で加えたダメージの影響なのか、所々が結合崩壊を起こしている。しかし、未だウコンバサラの動きは鈍る事無くエミールに容赦無い攻撃を加えていた。

 

 

「おいおい、大丈夫かよ?あのままだとヤバいぞ」

 

「ねぇ北斗、援軍に行った方が良いんじゃない?」

 

 ギルとナナが心配するのは無理も無かった。勇ましい言葉とは裏腹にエミールは攻撃のタイミングが悪いのか、その都度反撃を食らいながら戦っている。

 このままでは目の前で捕喰される可能性が高く、それは心情的にも良いとは言い難い物だった。

 

 

「中々やるな!必殺!エミール・ウルト……グハッ!おのれ!闇の眷属め!」

 

「チッ!これ以上は見てらんねぇ。このまま攻撃に加わるぞ」

 

「こいつは僕に任せてくれ。僕の騎士道を君達に示す!」

 

 ギルの行動を遮るかの様にエミールは言葉で制すも、ここから好転する様な雰囲気は無かった。討伐の時間そのものはまだ余裕があるものの、それでも時間をかければ良いものではない。

 これ以上目の前でこんな戦いをしている事に痺れが切れそうになっていた。

 

 

「ギル、もう少しだけ様子を見よう。時間だけじゃ無い事位は分かってる。このままが続くようなら加勢して一気に終わらせれば問題ない」

 

 痺れを切らすギルを制したのは北斗だった。その言葉に納得はしていないが、極東のレベルがどんな物なのかをこの目で見たい気持ちが勝ったのか、エミールの戦いを見る事にした。

 

 

「ゴッドイーターの戦いはただの戦いではない!この絶望の世に於いて、神機使いは人々の希望の依代となる!だからこそ正義が勝つから民は明日を信じ、正義が負けぬから皆が前を向いて行ける!故に騎士は!僕は!負ける訳には行かないんだ!!」

 

 襲い掛かるウコンバサラの突撃を大きな跳躍で躱すと同時に、空中でハンマーの軌道が口の部分を既に捉えている。突進したウコンバサラは目標物が無くなった事に気が付いたのか、その場で停止した途端、上空からの強固な一撃がウコンバサラに襲い掛かった。

 無意識とも取れるその一撃は地面に縫いつける程の威力が功を奏したのか、地面にまで亀裂が走る。断末魔の様なうめき声を上げながらそのまま力尽きていた。

 

 

「漸く土に還ったようだな!これ位の事で我が騎士道が潰える事はないのだ!」

 

 ウコンバサラとの戦いはエミールの会心とも言える一撃で生命活動が停止していた。既にコアを抜き取った以上、後は言葉通りに霧散するだけだった。既に資源は回収が終わり、後は帰投するだけとなっていた。

 

 

「あの…エミールさん?騎士道って一体?」

 

 先程からの騎士道とは一体どんな意味があるのだろうか?恐らくナナは単に会話のキッカケとして話したつもりだったが、どうやらこれがエミールの琴線に触れたのか、突如として熱く語りだした。

 

 

「僕は元々極東支部の所属ではなかったのだが、家の都合で異動する事になってね。その際に貴族としての誇りを失う事が無いように、自身に対して訓戒とも言える様に騎士道を貫く気持ちがどうやら言葉となって発言しているようなんだ」

 

「そ、そうですか……」

 

 どうやらあの騎士道の言葉は半ば無意識の内に発せられていた様だった。エミールとの戦いはこれが初めてだが、戦いの最中に常時この言葉を発しているのは、よく言えば自身を律する事が出来るのかもしれないが、悪く言えば、言い続けないとそれが持続出来ないのかもしれないと考えていた。

 

 一番最初に聞いたナナは未だ何かを聞かされているのか、会話と言うよりも一方的な発言が止まる気配はなく、ナナもこれがいつまで続くのだろうかと、笑顔ではあるが口の端は引き攣り出していた。

 

 

「ナナ。少し良いか?」

 

 これ以上は気の毒だと判断したのか北斗は助け舟を出す様にナナを呼んでいた。一方的な会話に疲れ果てたのかナナはミッション以上に疲労感が滲み出ていた。

 

 

「どうしたの?」

 

「いや、用事は無いんだけど何だか大変そうだと思ってね」

 

「助け舟を出してくれたんだ。ありがとね。まさかあそこまで濃い人だとは思わなかったよ」

 

 遠目でエミールを見れば、先ほどナナに言いたい事を話し切ったからなのか、どことなくスッキリした表情を見せていた。

 

 まるで図ったかの様に帰投のヘリが現場へと降り立ち、そのままヘリに乗り込んで全員がフライアへと帰投する事となった。

 

 

 


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