神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第110話 神機兵

 アリサを救ったバレットを発射したのは、今までに見た事も無いような大柄なロボットの様な物だった。見た目は機械ではなく、むしろ人間が着こむようなアーマードスーツに、その手にはゴッドイーターでは扱う事が困難であろう巨大な神機らしき物を携えていた。

 

 先程放たれたバレットは恐らくはこのロボットの持っている神機から放たれた物である事は明白ではあったが、これが本当に味方かと言われれば判断に困っていた。これまでの人生の中で一度も見た事が無いそれは、どこか異質な物にしか目に映らなかった。

 未だ正体不明のこのロボットは突如として瀕死のシユウへと襲い掛かる。

 ゴッドイーターでは恐らくは出す事が出来ない威力を持った神機はシユウの翼手をいとも簡単に斬り裂き、まるで何の抵抗も無く当たり前の様に次々と攻撃を繰り出す。

今までの攻撃は一体何だったのだろうか?そんな事を思うほどに威力の大きい攻撃は頭部や脚部を次々と結合崩壊させ、瞬く間に追い込んでいた。

 突如として起こったこの光景はロボットがシユウを討伐するまで続くと同時に、程なくしてシユウは息絶える事となった。

 

 

「ソーマ、あれは一体何ですか?背中にはフェンリルのマークがありますけど」

 

「俺に聞かれても知るか。どこの所属は知らんが、普通の神機使いとは比べ物にならないほどの火力を持っているのは間違いない様だ」

 

 戦いが終了し、ここで一息つこうかと状況を確認すべく周囲を見渡すと、先程まで撤退していたはずの少女が突如として所属不明のロボットへと駆け寄り出した。

 

 

「ギース!私!マルグリット。ねぇ!私の事忘れたの?」

 

 少女が発する名前は恐らくはあのロボットを操縦している人間の名前なのかもしれない。戦闘時の厳しい表情は既に無く、今はただ一人の少女として追い縋る様にも見えていた。

 

 

「お前!そこから離れろ!」

 

 ソーマの叫びと同時にロボットが先ほどシユウを攻撃した神機を振りかぶり、今正に攻撃すべく神機を振り下ろす。何を考えての行動なのかは分からないが、このままでは直撃どころか神機使いの殺傷事件に発展する。そんな最悪な事態を避けるべく、ソーマが素早くシジェクターを展開する。腕にかかる衝撃を殺しながら、少女への凶刃を防ぐ事に成功していた。

 

 

「そのままだと危険です。直ぐに離れてください!」

 

 アリサもまた行動すべく、神機を銃形態へと変更し既に銃口は所属不明のロボットへと向いている。このままだと負傷者が出るのは時間の問題。であれば、いかにフェンリルのどの部隊の所属かは知らないが、今の状況下な中で出来る事の最善策を取るべく引金を引こうとした時だった。緊張感が伴わない事務的な声が周囲一帯に響いていた。

 

 

「零号機、そのままそこで停止するんだ。それ以上の行動は許可出来ない」

 

 突如として現れたのはロボットを制御する為なのか、それともモニターする為なのか、1台の貨物型自動車が止まっていた。停止命令を受け入れたのか、先ほどまでの殺気立った様な雰囲気は既に無く、今はただ動作確認の為に佇んでいる様にも見えていた。

 止まっていた貨物型自動車からは、そのスタッフと思われる人間が次々と降りると同時に点検をすべく色々とモニターを見ながら話をしている。あまりの急展開にソーマとアリサは呆然とし、状況確認をする事が出来なかった。

 

 

「これが件の神機兵ですか。実に素晴らしい」

 

 運び込まれる人間に用があったのか、マルグリットと名乗った少女はコンテナに運ばれるロボットの元へと急いでいる。未だ状況が把握しきれない所で、総統と呼ばれていた人物がゆっくりと歩いて来た。

 その目にはどこか何かを期待している様にも見える。総統は先程までの行動など何も無かったかの様な振る舞いと同時にロボットの下へと歩んで行く。つい先程まで自身の命を削るかの様に戦っていた少女の事に一切触れる事は無かった。

 もしそのまま停止しなれば大参事になりかねない。それが何を意味するのかを考えれば答えは直ぐに出るにも関わらず、最初から何も無かったかの様に歩むその姿にアリサ達は嫌悪感を覚えていた。

 

「今回の戦闘データは取れましたので、これからまた先へと開発が進むかと思います」

 

「では実戦配備はそろそろと考えても?」

 

「残念ですが、もう少し時間がかかると判断しています。がしかし、そう遠くない将来には一番に実戦配備出来るはずですので、引き続き搭乗者の募集はお願いします」

 

「これが配備されれば神機使いはもう必要無くなるのかもしれんませんな」

 

「我々はその為に開発していますので」

 

 今後は神機使いは過去の遺物と成り下がると言わんばかりの対応に憤りを覚えたが、一方でこれ以上の犠牲者が出ない事を考えている自分もそこには居た。

 突如として起こった謎のロボットと、神機を使用不能の追い込んだ謎のアラガミ。これから先に何が待っているのかを今のアリサ達は想像する事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神機が使えなくなった!?…で……なるほど……だとすれば、完全にそのアラガミが居ない事が確認出来ない事にはこちらからはヘリを出す事は出来ないね。実は先日も君達を迎えに出したヘリが正体不明のアラガミに撃墜されてね。今はまだ整備中のヘリもあるんだが、最新の対アラガミ装甲が役に立たないのであれば、簡単に出す訳には行かないんだよ。

 せめてコアのデータがあれば対策を立てる事も可能なんだが…こちらも少し時間がかかるが準備ができ次第向かわせる事にするから、出来る限りデータの採取だけはしておいてくれないかな」

 

 連絡を受けた榊は驚きを隠すことが出来なかった。当初も最新の対アラガミ装甲を配備したはずのヘリが撃墜され、今回も第二陣が出発したが、やはり同様に撃墜されていた。

 このままヘリだけが失われる事になれば今後の活動だけでなく、ミッションにおける運搬にも影響が出始める。そうなれば近くに居ながら指をくわえてみている事だけしか出来ないなどと、最悪の事態だけは避けたい。

 だからこそ、新しく整備中のヘリを上手く活かさない事にはどうしようも出来なかった。

 

 

「まさか、配備早々にこれを使う事になるとはね…一体何の因果なんだろうね」

 

「支部長。今は何を心配しても解決の方法がある訳じゃありませんし、今後の対応に関してはこちらでも逐一確認した方が良いかもしれませんね」

 

「弥生君もそう思うかね?」

 

「聞いた限りでは本部でも極秘裏に神機使いの代わりとなる物を開発している情報は耳にした事はあります。今は離れた身ですので詳細については分かりませんが、ソーマさんが見たロボットにエンブレムがあったのであれば、恐らくはそうなのかもしれませんわ」

 

 報告を受け、今後の対応を考える頃にタイミング良く湯呑が出された先には弥生がお盆を持っていた。その話が本当であれば、またもや本部が何かをやっている事は間違いない。

 既に本部からの横槍が何度も入っている以上、ここから先の対応に関してはまたもや面倒事にならなければ良いのだがと言った考えしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれから私達の事に干渉する事が無くなったんですけど、一体どうしたんでしょうか?」

 

 アリサのつぶやきは尤もだった。今まではコアの回収をマルグリットだけに一任させ、住民には伏せたままにしていたが、今回の事件で状況が一転していた。

 正体不明のロボットの名称は『神機兵』所属は不明瞭だが、制御している人間は明らかに支部の人間ではなく、むしろ本部の人間の様にも思えていた。確かにあの話が本当だとすれば、神機使いは無用の長物と成り下がる事だけは予見出来ていた。

 

 正体不明のアラガミを物ともせずに討伐し、原因不明の神機の制御不能になる事態も恐らくはクリア出来るのかもしれない。神機使いだけが戦場に立つ時代は終わったと言っていたが、あの制御を見る限りでは、まだ先の話なのかもしれなかった。

 

 

「あのおもちゃが来たから、俺たちは不要だと判断したんだろう。今回の状況については不明だが、オッサンの話だと俺の偏食因子はお前たちのとは違うからギリギリ可動制御出来たが、仮説が正しければ、ほぼ全部のゴッドイーターの神機が制御出来ない可能性はあるだろうな」

 

「もし、それが本当だったら…私たちは何も出来ないって事ですか?」

 

「まだ仮説だ。実証するにはデータが必要だが、先の戦いを見る限りでは間違いないだろうな。ひょっとしたら、ヘリを撃墜させたのがあれなら、まだ他に数が居るはずだ」

 

 移動中に襲われた際に、飛来したアラガミは全部で3体だった。全部を確認した訳では無いが、あの変異種の飛来を見れば単独で動く様な事は無い可能性が高く、今回は1体が討伐出来ただけに過ぎなかった。それが撃墜時のアラガミと仮定すれば、まだ2体が残っている事になる。今の状況では確認する術は無い。だからこそ、慎重にならざるを得ない状況があった。

 

 

「ただ、攻撃が当たった際に稼働したなら、意識を飛ばすのが一番かもしれん。次回の襲撃があった場合はスタングレネードは必須だろうな」

 

 八雲の家を見る限り、一般家庭に配備されている可能性は少なく、スタングレネードはゴッドイーターからすれば戦闘時の流れを変える物ではあるが、一般人からすれば逃走時の手段と考える事になる。

 

 サツキの様に外部に出る事が無ければ、スタングレネードは恐らくは無いのかもしれない。アイディア的には良いが、肝心の物が無ければ机上の空論にしか過ぎなかった。

 

 

「無い物ねだりは仕方ありませんね。他の手段を考えるしかないです。しかし、さっきから広場で何をしてるんでしょうね?先ほどから結構な人数が集まってる様ですけど?」

 

 アリサが疑問に思うのは無理も無かった。本部の人間が去った後で、急きょここの住人に対する説明と称した集会が行われていた。内容に関してはともかく、先ほどの事態に付いては何らかのアナウンスが必要だと判断した結果なのか、広場には殆どの住人が集まっていた。

 

 

「恐らくはさっきの神機兵の話だろう。連中の考える事なんざ、どんな所でも同じだ。ましてやここは神機使いに対しての忌避が他よりも高すぎる。

 いくら追いやられたと言っても、今の状況が変われば本来ならば、その感情は揺らぐはずだ。恐らくは口当たりの良い話をする為に集合させてるのかもな」

 

 この時点でソーマの仮説は正しい物だったが、現場に居ないアリサ達にはその回答を確かめる事は出来ない。ここには偶然連れてこられたが、今後の計画の事を考えれば、ここは一つのモデルケースと為りうる可能性を秘めている。

 

 今後の対応については居住区だけではなく、原因不明のアラガミの対処もしない事にはいくら戦場に立っても神機が動かなければ一般人と何ら大差が無い事は実証されている。

 今やるべき事は山積しているが、これを解決できる手段は今の所、何も無かった。

 

 

「ソーマ、広場の様子が変です!きっと何かあったのかもしれません」

 

 悲鳴とも怒声とも取れる何かが広場から聞こえてくる。何が起きているのか確認する事は出来ないが、今までとは明らかに違う。そんな雰囲気がアリサを刺激するが、今はノコノコと出る訳には行かず、この場で待機する以外に何も出来なかった。

 

「だからと言って、俺たちがここから離れれば何かと問題が起きる。今はここで大人しくするしかないぞ」

 

「それは…分かってますけど…」

 

 2人が八雲の自宅に待機していると、誰かが来たのだろうか?玄関から何か音が聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「私に触るな!」

 

 高熱を発していたのか、額を触ろうとアリサが手を伸ばし確認しようした瞬間だった。触れる事すら許さないと言わんばかりの感情をむき出しにし、アリサを睨み付けていた。

 

 

「手袋してますから大丈夫ですよ」

 

「それでもダメだ」

 

 事前に聞いていた話では、この原因不明の病気は接触感染である事が判明していた。もちろん、その話に関してはアリサもソーマも知っていたが、ここでは何も知らない以上、当事者でもあるマルグリットが制止するのは当然だった。

 このまま実際にはこうだと諭しても良かったが、相手は病人である以上このままストレスを与えるのもなんだと、アリサは手をひっこめていた。

 

 

「マルグリットさん。一つ確認したい事があります。貴女、確か以前に極東支部に来てましたよね?」

 

 先程までの何かを警戒していたかの様な雰囲気から、突如として方向性の違う話を言われ、何の目的があるのかすら今のマルグリットには判断する事は出来なかった。突如として言われた内容に今度はアリサの顔を訝しげに見る事で、その真意を探ろうとしていた。

 

 

「警戒させる様でごめんなさい。私の記憶だと、あなたは以前に整備士として来てたと記憶してるんです。でも、今のあなたは神機使いになっている。適合する神機があればなるのは理解できますけど、先ほどの神機兵との関連性を教えて貰う訳にはいきませんか?場合によっては力になれるかもしれませんから」

 

「なぜ、そんな事をあなたに言う必要があるんだ?」

 

 マルグリットの言葉は当然だった。先ほどの神機兵に本当にギースが搭乗しているのかすら確認する事は出来ない。仮に違っていたとしても、実際の部分は余程の事がなければ確認する術は何も無い。

 だからこそ、そのアリサの言葉の意味が理解出来なかった。

 

 

「余計なおせっかいかもしれませんけど、あのアラガミはゴッドイーターにとってはある意味天敵とも言える存在になる可能性があります。先程もコアは本部の人間が持って行ったので、こちらでは解析も出来ません。

 本当の事を言えば、極東支部は本部に対して良い感情を持っていないんです。今までにも何度か本部から介入がありましたが、その結果は末端を切り捨てる事で後は知らんぷり。だからこそ、さっきの神機兵の事を教えてほしいんです」

 

 半ば極東の機密を漏らそうかと思われる事で、流石にソーマも一瞬焦ったが、アリサとて機密の意味を知らない訳では無い。本音を言えば、正体不明のアラガミのコアはこちらが死守すべき物ではあったが、本部の人間が先に回収した事で横槍を現場レベルで入れる訳にも行かなかった。

 あのロボットの管轄部署も分からないままに無理を通せば、今度は極東支部に矛先が向きかねない。自分達のやっている事が正しい事だから現場は勝手に対処しろと言った様な考えにはヘドが出そうだった。

 

 幾ら自分の身内が問題を起こしたとしても、それが本部の意向で動いていたのであれば、本来ならば然るべき人間が責任を取るのが本来の考え方。大半の人間がそう考えるのはある意味自然な事かもしれなかった。

 

 

「嫌ならこれ以上は聞こうとは思いません。ただ、あのアラガミの事と神機兵の事は全部が同じだとは考えていません。せめて経緯が分かれば今後の対処が出来ると思ったから聞いたんです。少なくとも極東支部で見かけた時の貴女はそんな表情はしていなかった。ギースって人が大事なんですよね?」

 

 手元に鏡があれば恐らくは驚く様な表情と荒みきった様相を確認したのかもしれない。マルグリットとて、好き好んでこんな場所で待ち続けるつもりはなく、ただギースと一緒に居たい。その為にはこの地に留まる必要性があるから、仕方なく従っているだけだった。

 まるで何かに見透かされたのか、今のアリサの表情を少し見れば悲痛な面持ちである事は理解出来ていた。

 

 

「…すまないが、あの神機兵に関しては何も知らない。私は確かに元々は神機の整備士だった。ギースは神機使いで私達は一緒に動いていたんだ…」

 

 重い口は開くと同時に一番最初に出て来たのは謝罪だった。アリサが何のためにマルグリットの過去を聞こうとしていたのかは大よそながらに想像出来ていた。

 しかし、神機兵の事に関しては本当に何も知らされておらず、二人で彷徨っていた際にフェンリルの移動要塞に拾われ、偏食因子の受け入れの条件として開発中の神機兵のテストパイロットに志願する形となっていた。

 

 当初は自分も偶然適合する神機があった事から何も考えずゴッドイーターになったが、日にちが経つにつれ、徐々に話の内容に齟齬が出始めていた。当初は一定時間の運用試験のはずが、何時しかテストパイロットになり、知らない間にテストパイロットの座を解任され、ここから立ち去ったとまで言われていた。

 

 今までの経緯を考えればギースが勝手に立ち去る選択肢はありえず、その結果としてマルグリットは放逐されていた。一般人とは違い、ゴッドイーターは一定時間ごとに偏食因子の投与を必要とし、それが無ければアラガミへと変貌する。その結果ここにたどり付いていた。

 

 

「マルグリットさんは、ギーズさんの事が好きなんですね」

 

「…出来る事なら将来も一緒に同じ道を歩きたかったんっだ。でも、それすらフェンリルは許してくれない。私が知っているのは、あれは本部の中でも特殊な部門が全て関与している事だけ。あの移動要塞が私達の目の前に来なければこんな事にならなかったんだ」

 

 想いの丈を話した事で気が緩んだのか突如として咳き込み、それ以上の会話を続ける事は困難となっていた。

 

 

 


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