神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第11話 襲撃

 リンドウからの討伐宣告されてから3日後、第1部隊にヴァジュラ討伐のミッションが発注された。

 

 

「今回のミッションはヴァジュラ討伐だが、俺は他の任務が入ってるから今回はサクヤが指揮を執ってくれ。メンバーはソーマ、エイジ、コウタで頼む」

 

 前回の時点で、今回の討伐ミッションは事前に分かっていた。にも関わらず今回のメンバーに何故かリンドウは入っていない。

 エイジは何となく違和感を感じるも、このメンバーならば特に気にすることは無いと判断し、そのまま流した。

 

 

「今回はリンドウさんは入らないんですか?」

 

「こっちはアリサと別任務だ。まあ、サクヤとソーマが居るから大丈夫だろ」

 

 リンドウからアッサリとそう言われ、この会話だけ聞いていると問題なんて何も存在しない様な言い方と、相変わらずの飄々とした雰囲気。今回は大型種1体のみのオーダーなので、このメンバーでも大丈夫と判断したのだろう。

 仮に違ったとしても、このメンバーならば特段何の問題も無いはずだった。

 

 

「あれか……デカイよな」

 

 現地に付くと事前情報と変わらず、遠くにバジュラが1体見える。他にはオウガテイルが2体程いるようだが、これは数の内には入れていない。

 大型種の討伐が初めてとは言え、今回のミッションにはベテランのサクヤ、ソーマもいる。そう考えると、油断はしないものの落ち着く事ができた。

 隣にいたコウタも最初こそは緊張気味だったが、ここにいるメンバーと自身の経験からか、今ではかなり落ち着きを取り戻している。

 

「さ、これから始めるわよ。リンドウじゃないけど、死なない様にがんばりましょ」

 

「好きにするさ。お前らも精々死なない様にやれよ」

 

 二人からもこれは特別な任務ではなく、ごく当たり前の内容。いつもの様にそう言われ、気合は十分。まずは邪魔なオウガテイルから討伐する事になった。

 

 オウガテイルそのものは問題にはならないが、ヴァジュラと戦っている間に来られると、何かと厄介な存在になりかねない。

 そうならない様に、事前に討伐しておけば不意な対応にもゆとりが出来る。出来る事から済ますのが一番手っ取り早い。

 そう考えるとエイジとコウタ、サクヤとソーマの二手に分かれ索敵を始めた。

 

「エイジ、お前今回のヴァジュラ討伐は怖くないのか?」

 

 索敵を開始して、暫くしてから思いついた様にコウタが話しかけていた。

 

 

「怖くないと言えばそれまでだけど、ここで怖気づいても何も始まらないし、みんなを守りたいと思う気持ちの方が強いんじゃないかな。そんなコウタはどうなの?」

 

「俺さ、元々家族を守りたくてゴッドイーターになったんだけど、今までの事を考えると流石に大型種は怖いよ。もちろん小型は問題ないわけじゃないけど。でもさ、家族を守るためになんて最初は考えてたけど、気が付けば家族を守るのと他の人も守るのは同じような気がしてさ。当たり前だけど、他の人たちだってそれぞれ生活があって、その中で生きている事を考えたら他の人たちも自分の家族も同じだと思ったんだよ」

 

 二人はそう言い合いながらも目は周囲を索敵をし、オウガテイルを発見する。まだこちらには気が付いていない。となれば、やる事は一つ、先手必勝あるのみ。

 

 単純ではあるが、一番合理的だとそう考え、エイジは背後から忍び寄ると同時に、そのまま捕喰に成功した。後ろ脚の一部が捕喰された事に気が付いたオウガテイルは振り返った瞬間にコウタの援護射撃によりそのまま絶命した。

 

 

 その戦闘音が元になったのか、遠くでヴァジュラの咆哮が聞こえる。

 再度二人は声を潜め周りを索敵すると、遠くで何かを捕喰しているヴァジュラを発見していた。

 今の2人では討伐は出来ない。やるべき事はここで信号弾を上げ、まずは二人の合流を待ってから討伐を開始した。

 

 

 ネコ科の動物を連想させるが如き素早さで素早く動き始める。

 ヴァジュラはまるで威嚇するかの様に全身に雷を身に纏い素早い動きと共に襲い掛かる。

 エイジとコウタの二人であれば確実に苦戦したであろうこの種も、サクヤの絶妙な狙撃とソーマの苛烈とも言える攻撃で、当初はその行動範囲と雷を纏った攻撃に翻弄されていたが、ソーマとサクヤの攻撃により動きは徐々に鈍くなる。

 

 コウタもアサルトの特性を生かした射撃で反撃の隙を与える事無く援護する。

 そんな中でエイジは戦いの最中に不思議な感覚が襲っていた。

 

 動きそのものに変化が無いが、何となくヴァジュラの次の行動予測が見えるのと同時に、いくつかの光の筋が見える。その光の筋に合わせて攻撃すると、面白い様に攻撃が当たり、ヴァジュラに想像以上のダメージを与えていた。

 同じ近接型のソーマの攻撃とは違い、明らかに精密な攻撃が常時弱点を突いた。

 

 一体何が起きているのかエイジ自身が驚きながら攻撃をしていると、気が付けばヴァジュラはそのまま倒れ、コアを抜かれた体はやがて霧散し、その場から消えていた。

 

 

「ふっ。予想以上に上出来だな」

 

 一線級の戦闘力を持つソーマから褒められた様に言われ、エイジは悪い気はしない。何となく認められた気分になり、いつも以上に嬉しさがこみ上げる。

 

 

「喜ぶのはまだよ。周りもしっかりと確認してちょうだい」

 

 サクヤからの指示で浮かれる事も無く気を引き締め直し、改めて周囲の索敵を開始する。当初に聞いていたアラガミ以外の存在を何となく感じているも、それが何なのかは今の所は分からない。

 

 新手の可能性も考慮し警戒レベルを引き上げるも、そこでエイジが見たものは何故か他の任務に出ていたはずのリンドウとアリサだった。

 

 本来であれば、混乱を避ける為に同じ区域に二つのチームが混在する事はありえない。ましてや、ここにいるのが防衛を主とする第2部隊では無く、討伐任務を主とする第1部隊のメンバーが全員揃っている。

 普段は冷静なはずのサクヤでさえも有り得ない事実を前に驚きを隠す事は出来なかった。

 

 

「リンドウなんでこんな所に?」

 

「それはこっちの台詞だ。俺たちはこの区域の偵察任務で出て来たんだが」

 

 こんなイレギュラーな事は未だかつてない。二人の会話から明らかに動揺しているのがよく分かる。

 

 

「このまま固まっていても仕方ないしな。とりあえずは索敵を優先だ」

 

 このまま同じところに留まっていても仕方ないと判断し、リンドウからの提案で二手に分かれ改めて索敵する事になった。

 

 

「なあエイジ、こんな事は珍しいのかな?」

 

「詳しくは分からないけど、あの話からするとかなりイレギュラーみたいだけど、詳しい事は分からないかな。戻ったら確認するのが一番だろうね」

 

「こっちは討伐対象がもう居ないから、大丈夫だと思……何だ今の音?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何事も無かった様にコウタが言い終わる頃、背後で何かが崩れた様な大きな音と同時に、複数のアラガミの咆哮が聞こえている。今までのミッションでさえ、ここまでの音を聞く事は一度も無かった。

 

 この時点で何となく嫌な予感が止まらない。二人は異常を察知し現場に駆け付けた。

 二人が付く頃にはサクヤとソーマも先ほどの音を聞きつけて戻ってきたらしく、そこに何かアクシデントがあったのか、半狂乱と化したアリサがうずくまっていた。

 

 

「何があったんだよこれ!」

 

 この時点で何かのアクシデントかと思いその先を見ると、入口であったはずの場所が大きな瓦礫で塞がっていた。

 数分前までは何も無かった場所は一転していた事もあり、突然の出来事に理解が追いつかなかった。

 

 悪い事は重なるのか、想定外の出来事が連続して続く。入口に気を取られていたのは僅か時間のはずだったが、気が付けば辺り一面には今までに見た事も無いアラガミが周囲を囲み、退却する経路は既に塞がれていた。

 

 気が付けばアラガミ達の視線はエイジたちを捉えており、少しでも気を抜けば、まさに一気に襲い掛かる寸前でもあったのか、緊迫した空気がその場を支配していた。

 

 

「まずい。完全に囲まれてる」

 

「退却ルートは無いぞ。どうするエイジ?」

 

 エイジとコウタは驚きを隠せない。完全に事前情報と違いすぎる今の状況を解決出来る程の実力は今の2人には無い。ソーマを見れば、こちらも完全に不意をつかれたのか、アラガミを睨みつける事しか出来なかった。

 

 胴体はヴァジュラ種と変わらないが、顔は女性をかたどる様な彫刻然とした顔。

 それと同時に体には雷では無く、冷気を全身に纏っているのか、足元から冷気が漂い周囲の小さな草花が凍結する程の低温が発生している。

 このままでは間違いなく全滅のイメージが浮かぶも、肝心のリンドウは瓦礫の向こう側。

 明らかにそこは死地の真っ只中だった。瓦礫の向こうでは既に退路を断たれながらも激しい戦闘音が途絶える事無く聞こえてくる。分断された状況下で出来る事は何も無かった。

 

 

「お前ら、アリサを連れてアナグラに戻れ!」

 

 戦闘音の合間にリンドウの張り上げる声が聞こえてくる。姿は見えないが、声だけ聞けば、そこは既に最悪の状態が続いている様にも思えた。

 

 

「嫌よ。私もここで戦うわ」

 

「ダメだ!このままだと全滅する!」

 

「それでも!」

 

「サクヤ!全員を統率しろ!ソーマは退路を開け。これは命令だ!」

 

 

 戦闘音の隙間からも次々とリンドウの指示が飛ぶ。本来であればそんな暇は無いはずだった。

 僅かな可能性に賭け、サクヤはリンドウを救出すべく瓦礫に向かってバレットを撃ち込むも、銃弾は無常にも弾かれ瓦礫はびくともしない。

 

 

「サクヤさん、このままだと全滅する。早く離脱しないと!」

 

 エイジの叫びにもサクヤは何かを諦めたかの様にその場を動こうとはしない。

 今はソーマが牽制しながら何とか時間を稼ぐも多勢に無勢。このままでは早々に押し切られて全滅する未来しか見えなかった。

 

 

「お前ら早く離脱しろ!死にたいのか!」

 

 瓦礫の向こうからのリンドウの声。戦闘音は止む事無く、何も変わらず鳴り響く。

 声の間隔は徐々に長くなり、恐らくはリンドウも既に余裕は全く無い。長く聞こえる戦闘音だけがかろうじてリンドウが生存している事を示している。

 今の状況がまだ最悪ではなく、その後の状況がそこから更に悪くなる可能性が徐々に色濃くなりはじめていた。

 

 

「サクヤさんごめん」

 

 その一言と共にサクヤを気絶させ、エイジはサクヤを背負う。それと同時にコウタはアリサを背負いソーマに合図する。2人からの合図により、タイミングを見図った瞬間スタングレネードが炸裂し、辺り一面に白い闇が広がる事でアラガミの視界を完全に奪う事に成功していた。

 光を直撃したアラガミはその場で動きを止め、回復するまでは行動する事が出来ない事を確認し、その隙にこの死地から離脱を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、極東支部には衝撃とも言える一報が走る

 

 

 

 

 

 

 

「現在交戦中の第1部隊ですが、想定外のアラガミの襲撃により現在救助信号が出ています。アラガミの種別は不明」

 

 ヒバリの第一声にアナグラ内部には動揺が走る。

 第1部隊はアナグラ内きっての精鋭とも言えるリンドウ率いる討伐部隊。その第1部隊に救助信号が出るのは極めて異常な状況でもあり、襲撃中のアラガミが不明である事が拍車をかける。

 その結果、アナグラには異様な緊張感が高まっていた。

 

 

「救助に行ける部隊は現在…」

 

 ヒバリが言うよりも早く一人の人間が動いていた。その動きは誰も気が付かない。既にその存在すらそこには無かった。

 

 

 

 

 

 

 


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