神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第99話 暴走

 スタングレネードの威力は予想以上の物だった。事前に目を瞑っていたので4人は何も問題ないが、至近距離で使われたフェンリルは視覚を潰された事で、突如苦しみながら動きを止めていた。

 明らかにここ以外での場面は有り得ない。あの攻撃をかいくぐっての銃撃は事実上不可能と判断し、コウタは用意されたバレットをすぐさまモウスィブロウに装填し、間髪入れずにフェンリルの眉間に向けて放った。

 

 

「なぜだ。理論は完璧なはずだ。何故ここで崩壊する!」

 

 ガーランドの叫びはある意味予想通りとも取れた。先ほどまで猛威をふるっていたフェンリルは先ほど着弾した場所を中心に、徐々に細胞が崩壊したかの様な様相を見せ始めていた。

 

 時間と共に緩やかに身体の細胞が分裂を始めたのか、フェンリルの強靭な身体が腐り落ちる様に徐々に溶け始める。突如として起こった現象に理解が追い付かないガーランドの思考はそのまま止まっていた。

 

 

「コウタ、残りも一気に撃つんだ」

 

「おうよ!」

 

 残ったバレットまでも、止めとばかりに角度を変えて撃つ事で、肩口と後ろ脚の部分にそれぞれ着弾する。今までゆっくりと溶けた居た物が徐々に速度を上げてその場に溶けた物が溜まるのではないのかと思う程に溶け始めていた。

 このまま時間と共に放置すればやがて自己崩壊を起こし、そのまま消滅を待つだけと思われていた所で想定外の攻撃が行われた。

 

 

「おい、エイジ。あれはなんだ?」

 

「…いや、分からない。でも嫌な予感がする。全員なるべく距離を離すんだ」

 

 エイジの指揮で今までの場所を離れ、溶け始めたフェンリルの身体をジッと見ている。既にガーランドは自分の想定外の事に呆然と立っている以外に出来る事は無い。

 一体何が起こるのか、全員がその場から視線を外す事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間と共に溶け始めたと思われたフェンリルの身体の一部を内部から突如、大きな触手の様な物が食い破る。頭蓋はすでに溶け終えたのかむき出しの状態を保っているが、肩口の部分からは今までに見た事も無いような触手が体内を食い破り、そのまま外部へと伸び出している。

 突き出た触手は1本だけではなく肩口から2本、尻尾の部分からも2本が突き出し、そのまま自分の身体をむさぼる様に捕喰し始めていた。

 

 

「貴様、あれはどうなってるんだ」

 

「……体内の細胞が暴走してるのだろう。お前たちが撃ったバレットが異常な状態を作り出した結果だ」

 

 ガーランドの自暴自棄とも取れる言葉に聞いたはずのソーマは舌打ちをし、改めてフェンリルを見る。自身の体内から突き出た触手が勢いよく捕喰をする事で、その全貌が徐々に出始めていた。

 

 

「あれの弱点は何だ!」

 

「……………」

 

 ガーランドの胸ぐらをつかみ厳しく確認するも、既にガーランドの目には失望の色意外に何も映し出していない。完璧だと思われた研究が、最悪の結論を題した事で自分自身を全否定されたのか、口を開く事は無かった。

 理論だけでここまで来た人間の憐れとも言える末路に、ソーマもこれ以上は時間の無駄だとばかりに改めてエイジの元へと駆け寄っていた。

 

 

「エイジ、あれをどうするつもりだ?」

 

「さっきのバレットは全部使ったから、ここからはやるしかないよ」

 

 少し離れた所から、フェンリルだった物を見ている。自己捕喰を繰り返し、既に喰らう物は無くなったのかエサを求めて触手が周囲を動き回る。身体のあちこちが捕喰され所々が骨と思われる部分をむき出しにゆっくりと動く。

 先ほどまでの様な俊敏な動きをする事は不可能ではあるが故に、先ほどまでの脅威は少ないと考えていた所だった。

 

 

「おい!あいつエイジスの壁を捕喰しているぞ!」

 

「そんな。エイジスの壁は全部アラガミ防壁のはず!」

 

 コウタとアリサは驚きを隠す事は出来なかった。本来であれば様々な偏食因子を取り込んでいるはずのアラガミ防壁の中でも、エイジスの物は他の物と明らかにレベルが違っていた。

 アラガミ防壁はある意味、対アラガミの最終防衛ラインのはず。にも関わらずフェンリルだったそれは、他の物と区別する事無く捕喰を繰り返していた。

 

 

「あれを捕喰するとなると、恐らく攻撃は最悪だろうね。下手に盾で防げば逆にこちらが拙い事になる」

 

「このまま見てる訳もいかないなら、何か手段を考える必要が出てくるだろうが」

 

 今はまだ捕喰欲求がこちらに向いていない為に少しばかりの余裕があるが、先ほどの戦いの状況を考えれば、3人は既にボロボロとも言える状態だった。

 アリサやソーマは身体のあちこちに切り傷や擦り傷が幾つも付き、所々に血が滲みだしている。コウタに関してもボロボロではないが、既にアンプルを切らし、このままだと残りの戦いには途中までしか参加する事が出来ない。残された時間は思った以上に少ない物だった。

 

 

「でも、あの体でどうやって生体を維持してるんでしょうか?」

 

 アリサの疑問は最もだった。頭蓋や前足、後ろ足の一部は肉が削げ落ち、骨がむき出しの状態となっている。先ほどまでの動きは出来なくても、今度はあの触手が難解とも取れる以上、今の状況を考えれば撤退の二文字は頭から既に無かった。仮にここで撤退した所で解決する事が出来ない以上、同じ未来しかありえない。今求められているのは、これからいかに討伐するのかを考える事だった。

 

 

「ガーランドはいくつものアラガミのコアを強制進化させてあれを作ったと言っていた。恐らくだけど、そこかのそれを制御する為のコアとなるべき部分が存在するはず。だとすれば、それを叩き壊せばそのまま崩壊が進むと思うけど?」

 

「理論上はそうだけど、問題はそれがどこにあってどうやって処理するかだろ?探るにしても、あれを相手にとなると厳しいんじゃないか?少なくとも触手に捉えられたら終わりだぞ」

 

「あれをどうやるかだな」

 

 コウタの一言がそこから先の展開が困難である事を浮き彫りにしていた。最悪の状況は神機を振りかざした際に逆に神機が捕喰される可能性が高い事だった。神機が無ければ討伐出来ないのと同時に、今後の事を考えれば決して臨むべき手段ではない。

 だからこそ必要以上に慎重にならざるを得なかった。このままの状況がいつまで維持出来るか分からない以上、悩んだところで解決方法は出てこない。だからこそエイジが自身の中で結論を出した。

 

 

「コウタ、ここに自分の予備のアンプルがあるから、これを使ってくれ。それと援護を頼む。アリサもコウタと同じ様に援護してほしい」

 

「エイジ、お前何考えてるんだ?」

 

「まさかとは思いますが、特攻なんてしませんよね?」

 

 アリサは最悪の事態を考えたのか、顔色が徐々に悪くなる。こんな状況になった時のエイジは無理な物は無理と判断するが、無茶をしない訳では無い。その結果が傍から見て無理とも見える事が今までに何度もあった。

 だからと言って止める言葉が誰の口にも出てこない。明らかにこの状況が危機的な物なのかが肌で感じているからでもあった。

 

 

「特攻なんてしない。ただ、あの触手は前に2本と後ろに2本だから今のままだと全方位の攻撃を補足出来る。見た感じだと攻撃が届きそうだから様子を見るだけだよ。なんで皆そんな顔してるの?」

 

 やっぱりかとの思いが伝わったのか、3人が半分以上疑った目で見ている。この表情をしたエイジは間違いなく碌な事はしないのは既に経験で理解していた。しかし、これを覆すだけの対案が無いのもまた事実。今出来る事は様子を見ると言うエイジの言葉を信用するしかない。

 

 

「お前だけだと信用出来ない。俺もお前と一緒に行動する」

 

「私も援護じゃなくて、同行します」

 

「……ソーマは良いけど、アリサはダメだ。何度も言うけど様子を見ない事にはここから先の展開を広げる事が出来ない。だからこその提案なんだ」

 

「ソーマは良くて、私がダメな理由を教えてください」

 

 緊迫した中でのエイジの意外とも取れる台詞。まさかソーマの同行を認めるとは思わなかったのか、驚きはするがアリサはダメだとなればその理由が必要だった。

 

 

「アリサの言いたい事は分かるけど、援護をコウタ一人にするとオラクルが直ぐに枯渇する。そうなればコウタが餌食になる可能性が高い。仮に移動速度は無くても万が一の事を考えればそれは得策ではない。

 2人で攪乱させるのと、交互に撃つ事でオラクルの減少を最小限に食い留めるんだ。僕はこの戦いで誰も死なせるつもりはない」

 

 敢えて感情を表に出さず、戦術としての意味合いを強調されれば、アリサと言えども反論する事は出来なかった。新型であれば自身が攻撃する事で多少なりともオラクルを吸収できるが、コウタはそれが出来ない。

 自身の中で多少は回復出来ても、新型並の回復を期待する事は出来なかった。既にアンプルの数も確認すれば、これ以上の無駄弾を撃つ訳にも行かず、全員が生きて帰る為にはこの場での打開策が必要であり、その結果がこれからの行動理由となっていた。

 

 

「まだ、こちらに意識が向ていないのであれば、これから一気に行動を開始する。後は状況を各自で判断してくれれば良いから」

 

「分かりました。エイジも気をつけてください」

 

「まだ死ぬ訳にはいかないからね」

 

 このまま一気に散開し、作戦が開始された。一番最初のに戦端を開くべく、イーブルワンに闇の様なオーラを纏わせながらソーマは勢いをつけるべく神機を肩へ乗せる。狙いはただ一つだった。

 未だ気がつかないのか、まだ捕喰をしていたアラガミが気が付いたのはソーマのチャージクラッシュが直撃した瞬間だった。大きな刃が肩口の肉を一気に引き裂く事で、触手がソーマに狙いを定める。攻撃後に直ぐその場から離れる準備をしてた為に、ソーマの居た場所に触手が突き刺さる頃には離脱していた。

 

 

「ここだ!」

 

 地面に刺さった触手はまるでロープを地面に刺したかの様にピンと張られ、その状態を生かすべく触手を斬り裂いた。テンションが切れたかの様に黄緑色の液体を撒き散らしながら、斬られた触手の根元が暴れるかの様に動きまわる。

 触手そのものは強度が無く、恐らく何の問題も無く斬る事が出来る。しかし、問題なのはその巻き散らした液体だった。

 周囲に飛び散ったかと思いきや、その場にあった物が異臭を放ち腐食し始める。この一回の攻撃が今後の戦局を占うかの様に全てを物語っていた。

 

 

「あの液体は厄介ですね」

 

「グボロ・グボロのよりも厄介だろうな」

 

「でも、あれを何とかしないとそのまま捕喰は止まらないぞ」

 

 この事実を前に今後の方針が決めあぐねていた。厄介なのはそれだけではない。今は奇襲とも取れる攻撃の為に上手く行ったが、斬った瞬間の手ごたえは異様な感触があった。柔らかく弾力がありながらも、どこか芯がある様な感触。

 恐らくは地面に突き刺さった事で、触手の有利な部分が一旦無くなった事による結果だった。今後はこの攻撃を仕掛ける事は不可能でもあった。

 既にアラガミは完全にこちらに意識が向いている事で、ここから逃れる事は出来ない。次の一手があまりにも遠すぎるが故に、今できる選択肢は驚く程に少なかった。

 

 

「このまま固まるのは拙い。一旦散開して隙を見つけるんだ」

 

 エイジの号令と共に各自が散開する。固まっていた目標が突如として散らばった事で狙いが分散し、攻撃の手は緩むかと思われていた。

 

 

「全員退避だ。何かするぞ」

 

 ソーマの言葉で意識を向ける。本来であれば捕喰するはずの口から銃撃の様に液体が飛び出す。ゴッドイーター達が放つバレットの様に、黄緑色の液体が周囲に対して撒き散らすかの様に全方向に向けて放つ。異臭と共に先ほど斬ったはずの触手が再び長さを取り戻すかの様に再生されていた。

 斬り落としたはずの触手が再び動き出すと共に、一から始める事を余儀なくされていた。

 

 このままではこちらの体力が尽きる可能性が高く、このままズルズルと行くのは分が悪い。だとすれば他の攻撃方法か弱点を捜す事になる意外に手段は無くなる。だからこその次の一手を考えるしか今は手が無かった。

 

 

「末端を斬る程度だと、あれは無意味だろうな。やはり制御している部分を破壊するしか無さそうだ」

 

「でも、どこに?」

 

 アリサの疑問は尤もだった。未だ身体が崩れ落ちると同時に、触手が捕喰欲求を高めたのか、更に動きがが活発になる。それに合わせるかの様に周囲に腐敗した臭いが漂い、ガス状になったのか周囲を浸食するかの様に漂い始めていた。

 

 

「……あのガスは危険だ。このままだと充満するまで時間がかからない。一気に勝負をつける」

 

 残された時間に猶予は既に無かった。強烈な酸の様な液体が気化する事でガスが充満し始めていている。成分は不明だが、溶解するのであれば気化したガスは有毒以外の何物でも無い。

 このまま時間をかける事すら出来ない以上、ここから先は時間との戦いでもあった。

 

 

「ちょっと待て。エイジ、あのアラガミの胸の辺りが何か光った様にも見えるが、お前は見えるか?」

 

 時間が無い事はここにる全員が理解しているが、打開策が未だ出てこない。確認一つするにも状況判断を間違えば破滅へと走る事になり兼ねない。だからこそソーマの何気ない一言が、あせる思考を中断する結果となった。

 

 

「…言われてみれば何か見えない事もないかな。肉が削げ落ちてるから徐々に見え始めているのかもね」

 

「恐らくだが、このアラガミは複数のアラガミを進化させた物であるなら、同数のコアを所有している可能性がある。光っているあれはそのうちの一つなのかもしれない」

 

「それは確かな話じゃないですよね?」

 

「いや、今は時間も残されていない以上、じっくりと検証している時間は無い。そこを攻撃すれば何かが分かるんじゃないかな?」

 

 僅かな可能性にかけるのは戦いの中では決して良い判断ではない。アリサが危惧するのは至極当然とも言えた。しかし、時間が無い以上はある程度の予測を立てながらも決断する以外に方法は無かった。だからこその覚悟をここで決める事になる。

 

 

「コウタ、あの胸の光ってる部分に援護射撃してくれ。ここからは打って出る」

 

「エイジ、まさかとは思うけど、特攻はしないよな?」

 

「さっきも言ったけど、死ぬつもりはないから安心しなよ」

 

 今までに散々無茶な事をしている事をここにいるメンバーは知っている。確かに特攻は最悪とも取れるが、場合によってはそんな状況にもなり兼ねない。だからこそコウタが心配したのも無理は無かった。

 

 

「エイジ、絶対に帰ってきてください。約束です」

 

「分かった。とりあえずコウタは援護、アリサは状況に応じて頼む。ソーマはここに攻撃が来るならコウタを頼んだ」

 

 簡潔に方針を伝え、一気にケリをつけるべくアラガミへと走り出す。このまま何も起こる事無く終わるなんて楽観視はしていない以上、今できる範囲の事を全力でこなす事に専念した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エイジにはああ言ったものの、アリサは完全に信用していなかった。普段の約束であれば問題ないが、ここは死地の中に突入する前提の作戦であある事は理解している。だからこそ、何も表情を変えず淡々と話す事で勝算がある様な言い方をした事に違和感があった。

 対案が無い事は誰もが理解している。考えれば考える程に最悪の方向へと思考が止まらなくなる。だからこそ、一旦気持ちをリセットするかの様に頭を振り、目の前の事に対処する事にしていた。

 

 アラガミの元へと一直線に走り出す。途中に酸が撒かれた場所があったが、それも無視して一気に距離を詰めた。足元に飛沫が飛び散る度に、浸食されるのか痛みがじわじわと広がる。もちろん勝算はあるが、それは大よそ勝算とは言わない様な確率であるのはエイジ自身が理解していた。だからこそ、ここで黒揚羽の封印を解くつもりだった。

 

 オラクル解放剤を口に含み、バースト化すると同時に、改めて神機との接続をする。本来であれば一度接続すれば切断するまで再接続する必要は無い。しかし、封印を解くのであれば、この瞬間に自身と直接繋ぐ事で本来の性能を解放する必要があった。

 

 走りながらに短く決心し、再接続をする。この距離であればアリサ達からは何をしているのか判断する事は出来ない。この方針を決めてからエイジは逡巡する事も無く、ただ自分の身体が神機と一体化したかの様な感覚と共に再接続された事が理解できた。その瞬間、言いようの無い感覚が身体中を走る。

 体力的な問題ではなく、身体の根源とも言える魂が削られる感覚と共に今まで一度も感じた事が無い様な力が全身にみなぎっていた。

 

 バースト化した際にオーラが噴出するが、それは通常の光ではなくドス黒く、闇を全身に纏った様にも見えていた。

 

 

「なぁ、アリサ、バーストモードの時ってあんな色してた?」

 

「…いえ、通常だと白っぽいです」

 

「でも、エイジは真黒だよな」

 

「……まさか!」

 

 まさかとは思いながらも、心のどこかではやっぱりと言う気持ちがそこにあった。以前に聞いた黒揚羽の性能の話が脳裏を横切る。時間が無いのであればある意味仕方ないと考えたいが、それはまだ他人であるならばの前提がある。

 今のアリサにそんな気持ちを持つことは出来ない。だからこそ、エイジの覚悟を受け止める事しか出来ない自分に嫌気がさしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒揚羽の本来の性能を発揮したエイジは集中線が幾つも見えると同時に、何かが反射して響く感覚があった。理由は分からないが、近くに見える光る部分とは少し離れた所に何かがある事が理解出来た。ゆっくりと考える暇は既に無く、目の前の事だけを優先し動きを止める事は無かった。

 反応速度は最早常人のそれを凌駕し、アラガミの動きがスロー再生している様にコマ送りで動く。ゆっくりとくる様に見える攻撃は大きく回避する事無く、ギリギリの部分を見切ったかの様な回避行動。遠目から見れば攻撃が全てすり抜ける様な動きと共に黒い塊がアラガミに向かって突進している様にも見えるほど全身を覆っている。

 最早目で追いかける事は難しく、ただ何かが走り去ったかの様にも見えた。

 

 触手の攻撃を全て躱し、それとは別で襲い掛かる鋭い爪や牙は無意味とも取れる程に鋭い動きを見せる。瞬きする程の刹那に一体幾つの斬撃が繰り出されたのかアラガミの攻撃は全て空を切ったかのように見えたと思った場所から黄緑色の体液を撒き散らし、光っている部分が破壊されていた。

 

 本来であれば、ここで終わるはずの動きは未だに終わらない。胸の部分が破壊された事と同時に、覆う物が無くなった頭蓋までもが粉砕され、そこには何も残されていない。それと同時に腹部からも黄緑色の液体が何か破裂したかの様に噴出していた。

 それが確認できる頃にはアラガミの生命活動は停止し、その近くにはエイジが全身から血が噴出したかの様に血だるまで倒れこんでいた。

 

 

「エイジ!」

 

「おいアリサ!勝手に動くな!コウタ、俺たちも行くぞ」

 

「分かった」

 

 アラガミの生命活動が停止している確認をする事も無く、僅かな時間も惜しいとばかりに一目散にエイジの元へと走る。途中の酸でブーツやスカートの一部が腐食しているが、構う事無く走り出していた。

 遠目から見れば命の危機が迫って居る様にも見える。今は自分の事に気が付く余裕すらないまま急いだ。

 

 

「エイジ!エイジ!大丈夫ですか!しっかりしてください」

 

 全身が血だるまになってる様子だけ見れば、既に命の炎は消え去ろうとしている様にも見える。このままでは戦いが終わっても何一つ解決していない。応急処置とばかりにアリサは回復錠を自分の口に含み、そのままエイジの口へと流し込む。意識があったのか、無意識の内に喉が動いた事で漸く落ち着き出し始めた。

 

 

「取敢えず、この場に留まるのは拙い。エイジは俺が運ぶ。お前たちは警戒しながらも、あそこに居るガーランドを頼む」

 

 ここで漸く戦いが終わった事は理解できたが、この場にいればあと数十分もしないうちにガスが充満し、最悪の事態ななりかねない。本来であればガーランドは放置したい気持ちはあったが、今後の事を踏まえれば。連れ帰るのが得策だと、放心していたガーランドと共に離脱していた。

 

 

 


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