神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第10話 修復

 手を引かれたままやってきたのはラボラトリがある階層の一室だった。

 そこには既無明に話を聞いて来たのか、第1部隊の面々とリッカとナオヤ、カノンが既に居た。

 先ほどの件も影響しているのかアリサの心情としては入りづらい気持ちがあったが、エイジの全く空気を読まないスキルを発動させ、半ば強引とも取れる様にそのまま部屋へと入っていた。

 

 

「お待たせしま…」

 

 入ったまでは良かったが、ミッション終了後の夕食の時間と相まった事もあり、、既にそれなりに食事は進んでいた。

 テーブルの上には以前に並んだ物だけではなく、今回初めて作った新作料理も色々と並び、二人が入ってきた事にも気が付かないほどに、食事に意識が向いていた。

 

「あら、手をつないで随分と仲良くなったのね」

 

 話し掛けられた声の方向に振り向くとそこには皿を持ったサクヤとグラスを持ったリンドウが居た。

 リンドウは既にアルコールに手を出しているせいか、なんとなく顔は赤く、機嫌だけは良さそうに見えていた。

 

「おっ、しっかりと実践してるな。いつまでも手を繋いでいるのは結構な事だが、見てないで食べたらどうだ?この調子だとすぐに無くなるぞ。こいつらは遠慮なんてしないからな」

 

 その言葉に気が付き慌てて二人は手を離し、エイジは照れくさいのを誤魔化すかの勢いで食事を始める。アリサ自身は気まずさも手伝ってか動きは鈍いが、せっかくだからと食事を始る事にした。

 

「美味しい」

 

 この時代では食事と言えば味よりも腹持ちを優先する傾向が強く、旧事時代の様に味を優先するのは精々がフェンリルの上層部か、貴族の人間位しかいなかった。

 ゴッドイーターも任務の関係上、配給に恵まれる事はあっても、肝心の調理が出来なければそのまま食べるしかない。

 アリサが居たロシア支部でもその傾向は強かったが、まさか極東でこれ程の食事が口に入るとは思ってもなかった。

 

 既に食べている人間の事をよそに、予想外の料理の美味しさにアリサは驚きを隠す事は出来なかった。

 

 空腹も手伝ってか、食事がある程度進んで行くと徐々に終わりを見せ初め、ある程度食べたから落ち着いて来たのか、回りを見渡すとそこにはリッカと話しているナオヤの姿があった。

 

 

「技術班はどう?もう慣れたんじゃない?」

 

 背後からかけられた声に気がついたのか、ナオヤが振り返ると話し掛けた声の主はエイジだった。

 

 

「おう、久しぶりだな。あれからはそれなりに活躍してるみたいだな。神機見てれば何となく分かるぞ」

 

「いつのまにそこまでスキル上げたんだ?来たのは最近だろ?」

 

「ああ、俺じゃないよ。リッカがそう言ってたんだよ」

 

 二人の会話の中に自分の名前が出たのか、リッカも気が付き会話に入ってきた。

 

 私を呼んだと言わんばかりに食事を中断してやって来たが、せっかくの食事を終わらせるつもりは無く、手にはしっかりと飲み物が握られていた。

 

「キミの神機は他の人とは違って、ある意味特徴的な傷が多いから分かりやすいんだよ。特に刀の部分の傷は多いけど、盾に関しては不思議な付き方してるから、簡単だよ」

 

 気が付いている人間がどの位なのかは分からないが、他の神機使いとは違いエイジは盾は使ってはいるが扱い方が全く違う。

 

 本来の盾の役割は攻撃を防ぎ、動きをせき止めるような使い方に対して、エイジは攻撃をいなし、盾も攻撃を流す為にだけ使っている様な使い方をしている。

 本来であればこんな運用をする人間はアナグラにはおらず、仮にそんな使い方をしようものなら、本来であれば多大なストレスが加わる。

 

 その結果として、他のゴッドイーターよりも盾の受けるストレスはかなり小さかった。

 攻撃を受け流されると、いくらアラガミとは言え体勢を崩され、致命的なスキが出るのを見計らった隙を突く攻撃は多大なダメージを与える事になる。

 

 結果としてカウンター気味に攻撃が当たるので、本来の武器の威力に相乗効果が追加される攻撃方法を信条としていた。

 

 

「戦い方に文句は言わないけど、傷が無さすぎるのも不思議なんだよ。なんか変わった事でもしてる?」

 

「特にしていないけど、自分である程度のメンテナンスが出来るからその影響じゃないかな?」

 

 事実、ナオヤはともかくエイジは使う側なので、自分でメンテナンスするなんて発想が他の神機使いには無い。せいぜい、汚れを落とす程度なので、自分で簡易とは言えメンテナンスしているなんて話は聞いたことが無かった。

 

 

「リッカ、こいつ意外と手先が器用だから、簡単なメンテナンスなら自分でやるよ」

 

「そうなんだ。でもどこでそんな技術を手に入れたの?」

 

 ここから先はまさか屋敷でなんて言える事もなく、返事に困り、内心では嫌な汗が出ているのが分かる。

 エイジに対して言った言葉はナオヤ自身にも言われているのと同義なので、ナオヤは助け船を出した。

 

「こっちに来てから色々とね。元々は同じ出身だから話すついでにだよ」

 

 心の中で手を合わせつつ、エイジはナオヤを見た。屋敷では神機の試作品の研究開発している関係で知っているとは言えず、その場を去ろうと思ったときだった。

 

「エイジ、時間あるなら少し手伝え。思ったより、みんな食べるのが早いから無くなりそうだ。途中で無くなるのは気の毒だろ」

 

「はい。分かりました」

 

 そう言われる事で助かったとばかりにエイジは無明の後に付いて行き、この場からの脱出に成功する事となった。

 

「ねえナオヤ、君も配属されて時間が短い割に神機の事はよく知っていたみたいだけど、前は何してたの?」

 

 今度はナオヤが困る番となった。ナオヤも同じくエイジと神機の開発の手伝いをしていたが、細かい部分は任されている事もありエイジ以上にメンテナンスは出来る。

 事実、整備の手際も配属された期間を考えれば、新人では無くむしろ中堅に近い程の腕前があった。どこでそんな技術を知ったのか、。リッカはそんな些細な疑問をナオヤへと向けていた。

 

「身内に整備関係の人がいてね。その関係で見て覚えたんだよ。実際には刀身の部分も開発も手伝ってたから、それなりには分かるつもりだよ。

 

 嘘を言った訳ではなく、一部の事実を省いた事で言葉の内容をはぐらかす。

 配属前の情報でナオヤは神機の整備や開発をしている人間の元に居たとはリッカ自身も聞いていた。

 

 しかしながら、同じ様な整備でもリッカは全般的に整備できるが、ナオヤは銃型は苦手としている。

 単純に触ったことが無いのが原因だが、逆に刀身に関しては他の誰よりもセンスが抜きんでていた。

 面と向かってそう言われるとリッカもそれ以上の詮索は出来ない。聞いた所で全部答える事が出来る訳でもなかった。

 

 それなら、このまま互いにしっかりとやっていく方が合理的とも判断し、それ以上追求するする事はしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 エイジが無明に付いて行った先には大きな箱が置いてあった。

箱から漏れる様な匂いから、先ほどの食事の中身だと推測できる。

 

 

「エイジ、すまないがこの料理とメニューを支部長の部屋に持って行ってくれ。既に連絡はしてあるから、そのまま行っても問題無い。今はこっちが手一杯だ。頼むぞ」

 

 そう言われてエイジは先ほど作られた物を持って行く事にした。

 失礼しますとの挨拶と共に支部長室に入ると、そこには支部長と見たことも無い人が何かを話ていた。

 

 

「如月君か。彼は配属されたアリサ君の主治医だ。彼女のメンタルケアを担当している」

 

「オオグルマ・ダイゴだ。アリサのメンタルケアの為にロシア支部から同じく配属された。よろしく頼むよ」

 

「同じ第1部隊に所属してる如月エイジです」

 

 簡単な自己紹介の後で、主治医と紹介されたその男は医者と言うには何となく雰囲気が違う。

 敢えて言うならば、何かを研究している様な雰囲気と、体から医師とは言い難いタバコの匂いがする事から紹介された職業とは大きくかけ離れて居る様に思えた。

 

「彼女は思い込みが強い部分があるせいか、時にはキツク当たる事もあるが根は良い子なんだ。良かったら同じ部隊のよしみで仲良くしてやってくれないか?」

 

 

 そう言われて今までの経緯を思い出しつつも、まさかトラブルが多発しているとは言い難く、ここは素直に返事をするしか出来ない。

 

「兄さ、無明さんからこれを持って行く様にと言われましたので、持ってきました」

 

 

 

 渡された箱の中身をを見て支部長は納得すると同時に、横に居たオオグルマもなるほどと頷く。

 

「最近の極東支部は随分と環境が良いのか、他よりも支部全体が何となく安定してますな。他だと何となく危うい部分が見えますが、やはり人間の本能が満たされるのは大きいのかもしれませんな」

 

 

 

 エイジは知らないが、どうやら他の支部と比べると住環境は他の支部よりもかなり良いらしい。

 

 一番の問題点でもある食糧事情が他の支部とは違い、圧倒的に違う。

 人間、腹が満たされていればある程度の不満は収まる。最近になってアナグラ内部でもレーションや遺伝子組み換えの不思議な食糧よりも、外部居住区でも販売されているような生鮮食料品の方が徐々に増えていた。

 もちろん、圧倒的な数は足りない物の味はレーションや配給品とは雲泥の差。これで不満が出る事はまだ少ないのだろう。

 

「最低限、このレベルは維持出来る様に伝えておいてくれ」

 

 

 

 一言そう言われ、これ以上ここにいても無意味だと判断し、最低限の礼だけを尽くしてエイジは戻る事にした。

 

 

 ラボラトリに戻ると食事会は終わったのか、後片付けに入っていった。

 既に、ソーマ、コウタの二人は帰ったのか部屋には居ないが、ナオヤは相変わらずリッカと話をしていたようだった。

 

「ちょっと良いですか?」

 

 もうやる事も無いかと思った矢先に、後ろから声をかけれられ振り向くと、そこにはアリサが立っていた。

 

「先ほどは色々と気にしていただきありがとうございました。今後はもう少し周りを見ながらやって行きたいと思います」

 

 食事をする事で落ち着いたのか、まさかそんな殊勝な事を言われるなんて想像すらしてなかったのか、悟られる事無くそんな会話をしていると、不意に近くのリンドウから声がかかった。

 

「エイジ、近々大型アラガミのヴァジュラ討伐任務が入るからそのつもりでいてくれ」

 

 今まで大型の討伐任務にコウタやエイジが呼ばれる事は時期がまだ早いからと今まで声がかからなかった。

 しかし、最近の活躍ぶりと実績に漸く認められたのか、大型種のミッションが受注出来る様になり、今までのゆったりした気持ちが一気に引きしまる。

 

 エイジ自身は最初頃のミッションでヴァジュラを見たが、実際には討伐することなくそのまま撤退している。そのリベンジとばかりに気合が入った。

 

「いいか、近々だから今から気合入れすぎると疲れるぞ。食事会も終わりだから各自休んで体調を整えろ。」

 

 

 

 エイジにそう言い去りると、リンドウは無明と何かを相談するかの様に話をしていた。

 

 

 

 


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