破壊神のフラグ破壊   作:sognathus

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ある日何処かの国の子供が母親に月が二つあると言った。
BETAの危険がなくなりすっかり平和になった世を謳歌していたその子の母親は、子供が自分を笑わせる為に冗談を言っていると思った。
そして我が子が指差す方向を苦笑しながら見ると、彼女の笑顔が凍った。
そこには確かに月が二つあった。


第6話 ビルス流ゴミ掃除

「なんだ……あれは……」

 

ラダビノッド司令はやっとの思いで喉から声を絞り出した。

 

空に月が二つあった。

否、正確には月とは別の何かがその横に並んでいた。

地上から肉眼でそれが確認できる時点で、その謎の物体がどれほど自分たちの常識を超えた大きさであるかは明白だった。

 

「多分ベータを創ったやつらだよ」

 

恐らく地球上でたった二人だけ動揺していない生物の内の一人であろうビルスが冷めた口調で司令の後ろからそう言った。

 

「BETAを……?」

 

司令はさながら錆びたロボットの様ように、動揺で鈍くなった身体から何とか首だけをビ動かしてルスの方を見た。

 

「きっとビルス様がベータをあっという間に地球から消してしまったので、その異常を確認しに来たんでしょうね」

 

ビルスと同じくウイスが落ち着いた態度で彼の横から補足する。

 

「ちょっとあの大きさ……。確認にしてもあんなので様子を見に来たって、マズイんじゃないの?」

 

夕呼は司令程動揺はしていない様だったが、咥えている煙草が僅かに震えていた。

彼女だって人間だ、いくらBETAとの戦いで日々驚嘆するような事態報告に慣れていると言っても、アレは少々度を越していた。

アレこそ映画や漫画と言った空想の中くらいでしかお目に掛かれない光景だろう。

 

「ま、調べて厄介だと思ったら直ぐに攻撃してくるんじゃない? 」

 

「攻撃……? 交渉の余地はないのですか? 自分たちにとって見過ごせない存在とあらば、それを頭ごなしにそれを排除しようというやり方は、利口ではない私は思うのですが」

 

「私も同意です。警戒すべき相手だからこそそれを刺激ない様に先ず配慮するのが、人類より高等な知能や技術を持つ生物の常識的な判断とは言えないかしら?」

 

「それはあくまで君たちの価値観に基づいたものだろう? あいつらが厄介だと思っても、その時点で対処できる程度だと判断できれば話は別じゃないかい?」

 

「それは……」

 

ビルスの言葉に夕呼は考えるように俯く。

確かに彼の言う通り警戒はしても、彼らがやはり私たちの事を生物として認識しない価値観を変えなければ、多少手順は違っても彼らにとって地球への攻撃はちょっと強めの清掃くらいの感覚かもしれない。

彼女がそう推測している時にビルスがその確信を突くような事を更に言ってきた。

 

「確かあいつらは人類の事を生物とは認識していないんだっけ? ま、それがベータ独自の判断だったとしても、その判断の結果があの創造主の価値観に基づくものじゃないと言い切れるかい?」

 

「つまり……あの創造主はあくまで私たちの事を邪魔な存在だと?」

 

ラダビノッド司令が暗い表情で呟くように言った。

だがその目は常に冷静沈着な彼らしくなく、怒りに燃えていた。

 

「邪魔と言うより不要なと言った方が正しいんじゃないかな。ベータの君たちに対する攻撃の仕方を見てるとまるで掃除をしているのと変わらない感じだしさ」

 

「やっぱり……彼らにとっては人類はゴミのようなもの……と?」

 

「結論としてはそう思ってるんじゃないか? いや、僕は思ってないからな? あくまで創造主とやらの価値観を推測しただけだぞ」

 

「皆さんすいません、悪気はないんです。……しかし」

 

ウイスが辛辣としか思えない事を言うビルスのフォローをする様にやんわりと会話に入って来た。

彼は相変わらず穏やかに笑いながらそう一言言うと、ふと真顔に戻ってそのまま謎の物体が見える空を見上げる。

 

「このままでは確かに直ぐに終わりそうですね」

 

「そんなに猶予はないの?」

 

ウイスの雰囲気から切迫したものを感じた夕呼が厳しい表情をする。

彼の答え次第では話を聞きながら内心考えていたこの事態の対処も無意味になるかもしれない。

そんな夕呼の考えを察したのか、ウイスは持っていた杖の上部の球体を何かを確認する様に眺め、数分後明らかに確信が篭っている声で言った。

 

「相手の意思を窺う限りそうみたいですね。警戒態勢から攻撃態勢に移るみたいです」

 

「警告もなし? ああ……あるわけないのね」

 

「大方、ビルス様の仰った通り、という事ですね」

 

「そこまで判るのですか」

 

既に夕呼がウイスの言葉を疑う態度を見せない事で司令は彼が言っている事がいよいよ事実であろう事を半ば予感していた。

だが彼はまだ講和に一縷の望みを持っているらしく、懐疑的な表情でウイスに訊いた。

そんな彼にウイスはニッコリと微笑みながら言葉を返す。

 

「ええまぁ、これも私の力みたいなものですよ」

 

「……それじゃぁ主要国を召集して会議を開くなんて余裕はなさそうね……。いえ、そもそもそんな猶予がないのか……」

 

「だろうね」

 

「……」

 

「……」

 

夕呼と司令、そしてその後ろでこの話を聞いていた武たちただ沈鬱な表情で黙っている事しかできなかった。

人類はまだ月に着陸するだけで精一杯というのに、あんなモノに対処できるわけがないのは明白だった。

武の隣にいた冥夜は無意識に不安を紛らわす様に彼の手を握っていた。

それに気づいた武も黙って彼女の手を握り返す。

千鶴、慧、壬姫、美琴互いに手を繋ぎ、あるいは空いてる手で武の背中に触れた。

武達は何かの求める視線を司令と夕呼に向ける。

そしてその視線を感じた司令は苦渋に満ちた顔でビルス達を見る。

夕呼も司令同様視線を感じていたが、だがそれでも悔しそうに舌を向き、一人だけビルスの方を向こうとはしなかった。

 

「僕の力に頼るのがそんなに悔しいかい?」

 

司令や武たちが自分に期待をするような視線を向ける中で、ただひとり険しい表情で地面を睨んでいた夕呼にビルスは面白そうな声で訊いた。

それに対して夕呼はにべもなく返す。

 

「そうね。悔しいわ」

 

「でも自分たちでは何もできないだろう?」

 

「っ……そうね」

 

「ビルス様」

 

「分かってるよ、ちょっと自慢したかっただけだ」

 

「ゆーこ、気にする事はないよ」

 

「それは神様なりの慰めかしら?」

 

「いや、純粋な僕の評価さ」

 

「……? どういう事?」

 

夕呼はビルスの意図を測りかね、その真意を窺う。

ビルスはそんな彼女に今までの中で一番真面目に見える顔をしてこう言った。

 

「君は自分たちがあいつらに太刀打ちできない事を人間の限界だと思っているみたいだけど、僕はそれはちょっと違うと思っている」

 

「あんなものを引っ張ってきた時点で人類側の敗北は決定していると思うんだけど、そうじゃないというの?」

 

「んや、確かに武力の衝突ではもう勝てないだろう。だけどね、君は人類の指導者側の一人でありながら常に自分ができる事に自ら全力を挙げてきた。でもあいつらはやっと今になってきたんだ。そこには明確な力の差があると僕は思うね」

 

「やっぱりただの慰めじゃない」

 

夕呼はビルスの言葉に失望する様に冷たい一瞥をくれたが、ビルスは尚もそれを気にする事もなく続けた。

 

「まぁ聞きなよ。僕からしたら本当に強い奴はその力を直接自分で示してくれた方が分り易くて好きなんだ。経緯はどうあれ君たちみたいに戦える武器を作って自らそれを使うようにね」

 

「一個の生命体としての肉体的な強さの事を言っているの? だとしたらその考えは間違っているわ。明晰な頭脳も生物が持つ強さの一つだもの」

 

「そこが僕と君との価値観の違いってやつさ。僕からしたらね、ゆーこ。本当に強い奴は“本当に強い”んだ」

 

「は……?」

 

夕呼はとうとうビルスの言っている事が理解できず、不機嫌そうな声を漏らす。

隣にいた司令も彼の話を理解しかね顔をしかめていた。

ビルスはそんな二人をまた面白そうに眺めながら話を続けた。

 

「前にフリーザっていう宇宙人がいたんだけどさ。そいつ、自分の周りに優れた技術や戦闘力を持つ部下がいても、結構自分から行動していたんだよね」

 

「フリー……ザ……?」

 

ビルスが言っている言葉はどうやら宇宙人の種族を指すものではなくどうやら個人の事を言っているらしい。

だがそれでも、フリーザという聞いたことがない言葉にまだ夕呼はしかめっ面をするしかなかった。

 

「そう、フリーザ。行動っていうのは具体的にあいつ一人で星を征服したり、破壊したりとかそういう事」

 

「は……? 一人で? 征服って植民地みたいな事よね? 破壊ってその星を生物が住めない環境にするとかかしら?」

 

「しょくみんち? なんか美味しそうだけど征服は征服だよ。その星を自分の支配下にして利益を貪るって事。破壊はちょっと違うな。星ごと破壊して宇宙から消滅させる事だよ」

 

「だからさ、その宇宙人達は個人の力に絶対的な自信を持っていたから、あいつらみたいにわざわざベータを使ってこんなまどろっこしい方法はとらなかったんだ。殆ど自分から動いて、自分の力で悪い事をしてたんだよ」

 

「……」

 

まるで夢物語の様なビルスが知るその世界にもう夕呼は黙る事しかできなかった。

もしそんな生き物が存在するなら彼の持つ価値観もある程度理解できるだろう。

実際に今自分の目の前にその可能性がある神を自称する生き物がいるのだ。

今まで散々悪夢のような光景を見てきたし、まぁそれも真実なのだろう。

それを改めて自分の中で事実として受け入れようとした時、自然と彼女口からどうしようもなく脱力した乾いた笑いが微かに漏れた。

 

「……は」

 

「ま、結局何が言いたいのかと言うと、自分は安全な所にいてベータに殆ど侵略を任せてたあいつらより、自分の命を危機に晒しながら戦ってきた君たちの方が好感が持てるって事さ」

 

「それはどうも。それで、今から何をしてくれるのかしら?」

 

もうすっかり開き直った夕呼の顔には何か吹っ切れたように自嘲めいた笑みが浮かんでいた。

そしてそんな顔をした彼女の質問に、ビルスは空を見ながら一言言った。

 

「まぁ見ていろ」

 

 

 

準備は整った。

創造主は調査艦の中で艦の攻撃準備が完了した事を確認した。

後は開始の意思を伝えるだけだ。

 

創造主が今地球に対して使おうとしている兵器は地球でいう所の原子爆弾のような大熱兵器で、地球のものと異なる点は、一発で彼らの目的が達成できる程の破壊力を持ち、かつ放射能のような有害物質を一切撒き散らさないところだった。

創造主はこれを合計四発撃ちこむ計画をしていた。

調査したところによると明らかに地球人とは認識できない“異物”が2つ確認できたが、それが結局何処の何なのかは判らなかった。

だが少なくともそれが自分たちが送り込んだ道具を月にいたものまでまとめて消してしまった原因であろう事は間違いないなかった。

それ以外に未確認の不特定要素は確認できなかったからだ。

故に創造主は決定した。

あの2つの何かがどういう存在であろうとこの様な事態を招いた原因である以上、道具を送り込んで不要物が一掃されるまで待つような軽い手を打つのは適切ではないと。

正直この兵器を4回も使用すると地球のような小さな星は跡形もなくなる可能性があったが、そのようなリスクを冒してでもあの不安定要素は排除する必要がある、そう彼らは判断したのである。

 

故に創造主が攻撃の意思を今まさに伝えようとした時だった。

突如艦内に警報を伝えるサインが流れた。

創造主は何事かと事態を確認する為に、データを投影していた立体スクリーンを局所確認用のスクリーンに変更して更にそれを大展望モードに拡大した。

その画面を見た時、創造主の身体が固まった。

攻撃目標としていた地球から何かが飛んでいる……。

いや、明らかに“こちらに向かって”飛来している!

 

馬鹿な、あの星に地上から大気圏外を抜けてあろうことか月まで離れた距離の目標に精撃できるような技術も兵器はないはず。

とすれば……。

 

『あの不特定要素か……!』

 

創造主の頭の中で憤りに近い感情が湧く。

やはりアレには早々に手を打つべきだった。

だが……。

 

スクリーンを睨んでいた創造主は苛立ってはいたものの落ち着いている様子だった。

いくらアレが地球からの攻撃でもこの艦には通じない。

ここまで達したとしてもそれが地球での産物である以上、性能的にこの艦全体を覆う不可視装甲は破れないし、万が一破れたとしてもこの艦の物理的装甲は地球の技術では及ばない強度なのだ。

結局はあの不特定要素も自分たちの力が通じるのは創造主が送った道具にのみという事を知るだろう。

創造主はスクリーンを眺めながら取り敢えずあの目障りな無駄な抵抗が済んだら攻撃を開始する事にした。

 

 

 

一方その頃の地球では……。

 

「ちょ、ちょっとあ、あなた何を!?」

 

夕呼は真横で起こっている怪現象のスケールの大きさに身の危険を感じてビルスに怒鳴る。

一方その怒鳴られているビルスは涼しい顔で空に向かって手を振りながらこう言った。

 

「何って、君が言った通り今地球にある不要な物を全部投げているだけじゃないか」

 

ビルスは少し前に夕呼に『まずあいつらを驚かせたいから地球を傷つけない程度で何か地球上に不要なものとかはあるか?』と訊いた。

単に不要な物という漠然としたビルスの質問に彼女は戸惑いながらも、この地球にあっても処理しない限り邪魔でしかない物理的な物を自分の知識にある範囲で全て教えた。

その回答は一般家庭から出たゴミ、産業廃棄物、過去の戦争の軍艦や戦車などの兵器の残骸など多岐に渡った。

しかし彼女はまさかビルスがその全てを地球上から浮遊させ、更にそれをよく判らない塊に圧縮して直接地球から創造主を攻撃する物に変えるなどとは想像もしなかった。

 

ゴゴゴゴゴゴ……

 

今夕呼たちの頭上ではウイスの透視の能力を借りてビルスがその“不要な物”を地球全体から掻き集め、それらが規則正しくうねり黒い塊になっていく異様としか言えない光景が広がっていた。

そして塊となったそれらは、形を成すと同時に今度はまるでロケットが撃ちあがるが如く爆音を響かせる火の玉となって地球から射出されていった。

司令は勿論武達もその光景ををポカンとした顔でただただ見ていた。

 

「ビルス様、これで最後みたいです」

 

暫くしてウイスが一世紀以上は明らかにかかるはずだった地球のエコ化の終了をビルスに伝えた。

ビルスはそれを聞いて「そっか」とつまらなそうに一言。

 

「もう他にはないのか?」

 

「その様です。地球は今とっても綺麗になりましたよ」

 

「ふーん……」

 

ビルスはそう言って後ろを振り返ると夕呼を見て言った。

 

「じゃ、行って来るよ」

 

「え、行くってどこに?」

 

「あいつらのとこ」

 

シュンッ

 

そう言ってビルスは一瞬で彼女達の前から姿を消した。

 

 

 

一方その頃月の隣の創造主の艦では……。

 

ポッ、ポッ、ポ……

 

音がしない宇宙空間で花火のような白い閃光が何度も光っていた。

 

果たしてビルスが地球から放った“ゴミの塊”は大気圏を抜けて宇宙空間に出て間もなくすると一瞬で光速にまで加速し、そのまま人工的な流星群となって創造主の艦を襲い続けていた。

その勢いは凄まじく、確かに創造主が予想した通り不可視の壁のようなエネルギー状の何かに阻まれ、ぶつかっては一瞬で消滅していったが、その衝撃までは緩和できず攻撃を受ける度に艦は後退していった。

 

シュンッ

 

「ん?」

 

そしてビルスがその姿を彼らの前に現した頃にはその攻撃は終わり、既に創造主の調査艦は地球からはその艦体が確認できない程の距離にまで既に押されていた。

ビルスはそれを見てつまらなそうにに目を細めた。

 

「なんだ、反撃して何個かは撃ち落としていると思ったらただ押されていただけか」

 

ビルスはそう言ったが、それは創造主にとっては無理な話だった。

まさか飛来してきた物体が光速で向かってくるとは予想できるはずもなく、艦にダメージは無いとはいえ衝撃を受ける度に行動が不能になっていたのだから。

攻撃が止んでやっと艦内がやっと落ち着きを取り戻した頃、創造主はビルスの存在に気付き、その姿を確認して愕然とした。

 

『宇宙空間で平然としている……?』

 

ビルスは傷一つないながらも反撃をする事もなく後退した創造主の調査艦を見ながら言った。

 

「さて、多分今まで相手をしてきた奴の中で一番弱い奴だろうけど、お前はなんか面倒で僕の嫌いなタイプみたいだ。だから悪いけど……」

 

『星ごと消えて貰うよ』

 

ビルスはそう言うと目を軽く見開いて遥か彼方にある創造主の星を捉えた。

そして人差し指を一本伸ばすと、そこから躊躇なく終わりを告げる光線を出した。

 

ビッ

 

それは創造主の調査艦をまるで風船に針を通す様に貫き、彼がそのまま指を目標と定めた星にまで動かしたので、光線が当たった地点からさくりと切り裂かれてしまった。

やがて調査艦は燃料や内包していたエネルギーの暴走という化学反応によってあっという間に炎に包まれ、やがて爆散した。

艦内にいた創造主は艦が爆発するのその瞬間まで自分の身に何が起こったか理解できず消えていった。

 

一方ビルスはそんな艦の事など気にするそぶりもなく、自分が放った光線が創造主の星に届く際に幾つか関係のない星(多分生物はいない*【本人談】)を巻き込んでやがて目標に達し、爆発して消えるのを確認すると、そこでようやく満足したように笑うのだった。

 

「これで美味い飯が食えるようになるな」




ほんっっと長い事投稿せずに申し訳ございませんでした!
そしてこの話でマヴラブ編が終わらず重ねてすいません!
次の話で総括的な話になり終わる予定です。

そして次は今週中にやるつもりです。

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