破壊神のフラグ破壊   作:sognathus

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ビルスは何やら取調室の様な所に案内され、そこで科学者風のある女性と面会しました。
彼女は最初こそ(自分なりに)柔らかい態度でビルスに接していましたが、それもまりもが助けられた経緯の話になると何故か次第に不機嫌そうな顔になっていきました。

そしていついに我慢できずに……。


第2話 違う強さを持つ者

「はぁ? 小石でBETAを吹っ飛ばした?」

 

「そうだが?」(ベータ? ああ、吹き飛ばしたアレのことか)

 

「……はぁ」

 

「?」

 

日本帝国軍横浜基地副司令官の香月夕呼はビルスにわざと見せつけるように大袈裟に溜息を吐いた。

ビルスは何故彼女がそんな態度を取ったのか理解できず不思議そうに見ているだけだった。

 

「あのね、雲を吹き飛ばして空に穴を空ける様な衝撃がどれほどの速度で起こるか解る? 」

 

「面白い質問だね。どのくらいの速度を出したら、なんてそんな細かい事考えた事もないよ」

 

「……そう。丁寧に説明をするにはちょっと相性が悪い人みたいだから端的言うけど、そんな速度でまりもの至近距離を小石が通過すれば、それが直撃したBETAは勿論、彼女も無事では済まないのよ?」

 

「へぇ、そうなのか。それは知らなかった」

 

夕呼なりに馬鹿でも解るくらいに噛み砕いて加えて幼稚な説明をしたつもりだったのだが、どうやらビルスには全く効果が無いようだった。

その様子を見て夕呼は内心腰が砕けそうな疲労感に怒りが爆発しそうなのを何とか我慢して忍耐強く話を続けた。

 

「……それにね。小石だって空に上がって雲を蹴散らすまでその形を残している筈がないの。BETAはね、最弱の闘士級でもその外殻は人間と比べれば十分に強固なの。ガラス玉が木の板にぶつかって砕け散るのと同じ。仮にあなたの言った通り小石でBETAを破壊したとしてもそこで小石の運動は終わりなのよ?」

 

「なるほど」

 

「でもあなたは言ったわよね? 小石を飛ばしてBETAを吹き飛ばして、そしてのまま勢いが衰えずに上空に飛んでいったんだって」

 

「ああ」

 

「その現象自体が物理的に、少なくとも地球の重力下ではあり得ないの。だからお願い。少しでも引っかかる程度の答えでいいからもう少し可能性として考察の余地のある説明をしてくれない?」

 

「説明しろと言われてもね。僕は単に“そうなる”ようにしただけでその原理については考えたこともないから説明のしようがないよ」

 

「そうなるようにって……。はぁ、ちょっと待って頭痛がしてきた」

 

「それはお大事に」

 

「……」キッ

 

「?」キョトン

 

夕呼は完全にウンザリしていた。

この忙しいときに武が連れてきたこの奇妙な異星人に。

初めは科学者故の好奇心が昂ぶって仕方のなかったが、それも本人に実際にこうして対面して話している内に、いつのまにか苛立ちへと変化していた。

初めて話した時から感じていた事だが、この異星人はコミュニケーションの取り方が人間と完璧に同調できている。

受け応えや表情、姿形こそ違えど、その一挙手一投足が人間という生物が理解でき、受け入れる事ができるレベルなのだ。

故に会話の内容も今している様にその証言自体が納得できないものであっても、発している音自体は言語として理解できている。

つまり意思疎通を図るという会話本来の本質においては全く問題はなかったのだ。

しかし、だからこそ新鮮な驚き、発見が未だにない結果にもなっている。

こんな耐え難く非生産的な未知との遭遇があるだろうか?

 

 

「……もういいわ。この際その事については触れません。だから一つだけお願いがあるの」

 

「何かな?」

 

「そのあなたも原理を知らないという不可解な力、具体的にどういう事ができるのか教えてくれない?」

 

「それは簡単な願いだ。それなら僕でも応えられる」

 

「そう、良かった。それで? 一体何ができるのかしら?」

 

「破壊だ」

 

「は? 破壊?」

 

ビルスの単純明快過ぎる答えに夕呼は虚を突かれた顔をした。

 

「そう、破壊」

 

「それは物理的に物質を破壊できる膂力があるという事かしら?」

 

「いや、そんな一個人が起こす破壊じゃない。僕の破壊とは僕自身が持つ力そのもの。万物、万象を自分の意思で破壊できる力さ」

 

「……」

 

「どうした?」

 

「いえ、あなたの回答があまりにも抽象的というか妄想的なものだから言葉を失っていたの」

 

「それは酷いな。少なくとも僕は真面目に答えたつもりなのに」

 

「……嘘は言ってないみたいね」

 

「神は嘘をつかないさ。少なくとも僕はね」

 

「神? ……じゃぁなに?あなたは自分の意思で好きな時にこの建物や、目には見えない法則も破壊できてしまうわけ?」

 

「そうだ」

 

「……」(落ち着け夕呼。少なくともこいつは嘘を言っていないんだ。だったら自分は科学者としてそれを実際に確認すればいいだけ)

 

ついに心労が隠せなくなくなり、夕呼は頭痛に悩むような顔で苦い顔をした。

そんな彼女の様子が気になったのかビルスは彼女に声を掛ける。

 

「また調子が悪そうな顔をしてるね。大丈夫かい?」

 

「大丈夫よ。……じゃぁビルスさん、その力、今ここで私たちに被害が及ばない程度に威力を制限して証明できるかしら?」

 

「いいよ」

 

ビルスはそう軽く返事をすると、その口ぶりと同じ軽い動作で指で机をトン、と叩いた。

その瞬間――

 

サラァ……。

 

「!!」

 

テーブルはただの砂と化し、あっという間に夕呼とビルスの間に積もって山となった。

夕呼だけでなくマジックミラー越しに覗いていた面々がその現象に驚いて声を失っていた。

まりもに至っては動揺して手に持っていた指示書を留めたバインダーを落としてしまっていた。

 

「……凄い顔だな。まぁ予想はできていたけど」

 

「……え?」

 

言葉を失って呆然としていた夕呼にビルスがまた声を掛ける。

 

「僕は君の様な種類の人間を知っている。ユーコ、君は恐らくこの星でも有数のとびきり賢い頭脳をもつ人間なんだろう?」

 

「……」

 

夕呼はビルスが優秀という言葉より敢えて賢いという言葉を使って自分に問い掛けてきた気がした。

その意図が何となく気になりその場では敢えて沈黙を通し彼の言葉の続きを待つことにした。

 

「沈黙は肯定かな? まぁいいや。僕の経験上なんだけどね、君の様な種類の人間はその賢さ故に、自分の種族の力と可能性を信じて疑わない。そういう性格をした奴が本当に多いんだ」

 

「どういう事かしら?」

 

どうやら単純に自分を褒めているわけじゃなさそうだ。

どちらかというと人物評か、ならその意図を探るまでだ。

そう考えた夕呼は特に表情を変えずに先を促した。

 

「見たところ君はここでそれなりの地位にいそうだ。立場的に指揮官かある程度の権限を持つ研究者か何かなんだろう? となれば、君があのベータとかいう奴らとの戦いにどれだけ苦労してきたか容易に想像がつく」

 

「ごめんなさい。あなたが何を言いたいのか解らないのだけど」

 

「君は他の人より賢い故にベータとの戦いがこれからどうなっていくか、その未来、これから起こり得る事を誰よりも予測して覚悟もしているんじゃないかって事さ。良い事も悪い事も、ね」

 

「だから苦労していると?」

 

自分の今一番突かれたくない弱点を見透かされているような居心地の悪さを感じながら、夕呼は尚も気丈に平然を装って見せた。

 

「そう。回りくどくなってしまったけど結局のところ僕が言いたいのは、君の様な人間と僕は根本的に相性が悪いって事なんだ」

 

「それは単純に性格の不一致という事かしら?」

 

「いや、自分たちの力だけを信じて今まで苦労を重ねてきた君が、僕の様に自分たちの理屈が通じない存在を受け入れるのは無理なんじゃないかなって事さ」

 

「……」

 

「今まで必死で頑張って来たのに、積み重ねてきたその苦労の結晶を僕みたいな奴が訳も分からない力であっという間に無意味にしてしまったら君は僕をどう思う? 自分自身は立ち直れるかい?」

 

「自殺するかもしれないわね。絶対にしないけどね。私は人類にとって間違いなく必要な存在だから」

 

夕呼は不愉快そうな態度を隠しもせずにそこはきっぱりと言い切った。

否定すべきところでは自分のプライドを捨てることも辞さない覚悟窺わせる夕呼の眼光に、ビルスはここで初めて感心するような顔をした。

 

「……面白いね君。その意志の力強さ、単純な生物の生命力とはまた違った強さだ。簡単に破壊できるくせに破壊し難いものを持つ生き物か……人間って言うのは本当に面白いね」

 

「ごたくはいいわ。あなたが言うように確かに私がそんな力を見れば、私はいろいろと自信を失って自暴自棄になってしまうかもしれない。でもそれはあくまで可能性。なら私は、今この場でその可能性を自分の意志で否定するわ。なりふり構ってられないのよ。奇跡の様な馬鹿みたいな力でこの状況が少しでも好転するのならそれを利用しないという選択は私は絶対に取らない」

 

「ほう、それは僕の力を借りたいということかな?」

 

「そうね。さっき見た現象が破壊の力だというのなら、私はそれが単純に物を砂に分解するだけの力だと結論するわ。でも、そうでないというのなら……あなたの力、もうちょっと見せてくれないかしら? 今度は戦地で、もっと規模の大きいものを。何ができる?」

 

「……いいだろう。もう言葉でちまちま説明するのは飽きてきたところだ。それを知りたいなら適当に僕をベータが特に沢山いるところに放り込んでくれればいいよ。そうしてくれたら誰でも僕の力を理解できると思うから」

 

「……本気?」

 

「ああ、だがその前に条件がある」

 

「何かしら?」

 

「お腹が空いた。先ずは何か御馳走してくれ」

 

「は?」

 

危険な行いを試みる条件にしてはあまりにも釣り合わないその希望に、夕呼は目を点にして唖然とした声を出した。

 

「できればプリンをお願いします」

 

今までずっと黙ってビルスの傍で控えていたウイスがここで更にそう付け加えた。

当然だが二人とも緊張感もなにもなく、無自覚にその緊迫した雰囲気を早速破壊していた。




流石に一か月に一回は、年が明ける前には投稿するつもりでしたが、ギリギリ間に合って良かったぁ。

今回は会話ばかりですいません、夕呼回だったので。
次回はビルス様無双という言葉では生ぬるい悪夢のような善行的破壊を見せる予定です。

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