後は自分からこちらを振り向くのは時間の問題だ。
そう神宮司まりもは考えていた。
第1話 運命を吹っ飛ばした神
兵士級BETAが日本帝国陸軍第1戦術機甲大隊、大隊長である神宮司まりもを襲おうとしていたのはまさにそんな時だった。
完全に周囲に脅威がないと判断していた彼女を捕食するには絶好のタイミングだ。
後は、気づかれる前にその頭を……。
ドンッ! ボシュゥゥゥゥゥゥゥゥ……ドォォォォン!!!
白銀武とまりもがその音を聞いたのはほぼ同時だった。
音に驚いて後ろを振り向くと、そこには吹っ飛ばされて粉微塵になったBETAの返り血を浴びて呆然としているまりもがいた。
そのまりもが更に後ろを振り返ると見た事も無い二人組がいた。
明らかに人間じゃない動物のような顔をした亜人と、見た目は人間だがその肌の色は明らかにそうではない青い色の人物。
「……ん?」
「……おや?」
彼らは互いに顔を合わせて不思議そうな顔をすると、未だに呆然とした顔で自分達を見つめている武とまりもを逆に見つめ返してきた。
「なにあれ……」
まりも達よりずっと後方で起こった事態を見ていた国連太平洋方面第11軍横浜基地第207衛士訓練小隊B分隊の分隊長である榊千鶴は、まりも達より離れていたが故に、彼らが気付いていない更に驚嘆すべき現象に呆然としていた。
「空が……」
同じ分隊所属の珠瀬壬姫もまたその現象に気付いて愕然としていた。
彼女は空を指差していた。
その指の先には小規模ながら雲の群れが連なっており、その群れの一つに何かとてつもない衝撃で空けられたらしい大穴がポカリと空いていた。
まるで巨大な槍で穿たれてできたかのようなその大穴からは、美しい夕焼けによる茜色の空が覗いていた。
「は……?」
「え……?」
「……」
残りの仲間である鎧依尊人、綾峰慧、御剣冥夜もまた同様に突如起こった事態に状況が理解できず呆然としていた。
「おい、あいつらどうしたんだ? 一応僕は良い事したんだよな?」
「はぁまぁその筈ですが……」
動物のような顔をした亜人ことビルスと、青色の肌の人間ことウイスは、周りの人間たちが唖然とした顔でこちらを見ている事が気になるようで、それが自分達の行動が招いた結果である事に能天気にも全く気付いていなかった。
「ほんっっっとうにありがとうございます!! そしてほんっっっとうに、すいませんでした!!」
白銀武はビルス達に言葉で足らないくらいの謝罪と感謝の念を込めて、机に額がゴンと音を立てて当たっているのにも気付かずに深く頭を下げた。
「もういいよ。分かったから」
武を目の前にしたビルスは少し鬱陶しそうな顔で頭を下げ続ける彼にウンザリとした様子で言った。
「そうですよ。そんなに頭を下げて頂かなくても結構ですから、もう気にしないで下さい」
ウイスもビルス程ではないが武の勢いにやや引き気味で彼の気持ちは十分に受け取ったという仕草をした。
ビルスが気まぐれでまりもを救ってから間もなくして、ようやく正気に戻った武たちは、その場でてんやわんやの大騒ぎを始めた。
まりもが殺されそうだった。
それを救った? BETAを殺したアイツはなんだ?
他に敵はいないのか?
索敵は何をしていた?
ヴァルキリー中隊集合せよ! 現場を確保、そしてあのよく解らない奴を拘束しろ!
現場には様々な命令、指示が飛び交い事態が収拾するまで混乱を極めた。
そんな状況の中で仕方のない流れとは言え、ヴァルキリー中隊の中隊長とA小隊の小隊長も務めていた伊隅みちるがビルス達を拘束しようとしたのを、武が必死になって止めてそれを実現できたのは正に彼女たちにとっては幸運以外のなにものでもなかった。
でなければ機嫌を損ねたビルスにBETAが地球を侵略し切る前に星ごと消されていただろう。
まだ現状において軍はビルス達の事を正しく認識できてはいなかったが、武がその場で伝えたビルスの行為と、それに伴って確認できた彼の驚異の力は一応は軍も認めるところとなり、刺激を与えない事を第一にして接触をする事が決まっていた。
「……ねぇアイツなんだと思う?」
「分からないわ。少なくとも敵ではないとは思う。現時点では、だけど」
マジックミラー越しに武とビルスの会話の様子を見ていた国連太平洋方面第11軍横浜基地副司令の香月夕呼は何とも言えないと言った顔で、まりもに訊いた。
対してまりもはただ、個人的見解を述べるに留まる。
自分の命を救ってくれたのだ、その時点で彼女があの謎の生命体を悪い印象を持っていないのは明白だった。
「この忙しいときに次から次へと何なのよ……」
イラついた顔で髪を掻き毟る夕呼を見て、まりもはある指摘をした。
「機嫌が悪そうな割には口の端が笑っているように見えるけど?」
まりもの言葉に夕呼は横目で彼女を見ながら明らかに好奇心で輝く目をしながら言った。
「当然でしょ? BETA以外との知的生命体との初の遭遇なのよ。しかも敵性がない上にコミュニケーションが取れるなんて……こんな機会を天才科学者である私が逃すと思う?」
「……お願いだから下手に刺激して最悪の結果だけは招かないでね」
顔に脂汗を一筋流しながらまりもは不安そうな顔で彼女にそう言った。
ま、一話目くらいはその日の内に、という事で。
しかしやっちまた感がなくもないです。
だって原作が原作ですからね……。
なんとかきれいに終われるように頑張る次第です……(震え声)