地球艦隊はどう闘ったらいいのか...
「!!」
そのとき敵要塞を駆逐艦ズールーが追いかけていく。
「大西司令!」
「反物質カートリッジ弾はもうないのだろう。」
「はい。」
「こうなったら敵をやぶる手段はひとつしかない。」
「なにをするつもりですか。」春香は大西に向かって叫んだ。
ズールーはやや炎上しながらもようやくゴルバに追いつく。
「あの愚か者め、何をするつもりだ。」
轟音がして第8浮遊要塞がゆれる。
アルファ砲口にズールーが突き刺さったのだ。
「乗組員は脱出させた。天海君、この艦ごとを撃て。」
「敵艦が第3主砲口に突き刺さりました。」
「うぬぬ。」
「幸いなことにアルファ砲のエネルギーは注入されていませんでした。」
「上部ミサイル砲は使えないということか。」
「はい。誘爆する恐れがあります。」
「うぬぬ。敵兵は逃げているんだろう。そいつらを撃ち殺せ。」
「了解。」
上部ミサイル砲が、脱出する乗組員を狙って雨のように撃たれる。
「丸腰の兵士を狙うなんて...。」
「全艦、上部ミサイル砲口を狙ってください。」
春香が命じると地球艦隊からゴルバ上部のミサイル砲口群へ向かって数十条のショックカノンの光条が放たれる。数十条の光条は上部ミサイル砲口を破壊するものの、ゴルバ本体はこ揺るぎも誘爆もしない。しかしおかげで無事に乗組員を救出でき、救命艇は帰還した。
「ふはははは...むだなことよ。」
ゴルバの主砲口は複数ある。回転して無傷の主砲口が地球艦隊へ向けられる。
そのときだった。
「天海司令。」
ラングレーの艦長がスクリーンに映る。
「はい。」
司令と呼ばれ春香は照れるがラングレー艦長はすさまじい提案をした。
「あの主砲の発射タイミングで波動砲を撃つ。」
「!!。主砲口にバリアがあります。波動砲でバリアを撃ち抜ける2兆テスラは、エネルギー充填率99.99%で発射5秒前です。もし失敗したらもろに命中しますよ。」
「それでもいい。死中に活を見出すのは今しかない。失敗したらヤマトは、ズールーを撃ってくれ。」
「わかりました。」
「大西君。逆噴射の用意をしておいてくれ。」
「わかった。」
「アルファ砲、はつ...!」
「敵弾きます。!?」
「うわ....。」
拡散波動砲が発射寸前のアルファ砲口につきささる。ゴルバの内部に誘爆があっというまにひろがった。叫ぶ間もなくグロータスをはじめとする暗黒星団帝国の兵士、士官たちは気化した。
次の瞬間大爆発をおこす。絶妙なタイミングで逆噴射したズールーは誘爆をまぬがれた。
大西は苦笑した。
「生き残ってしまったな。皮肉なものだ。脱出させたはずの部下に犠牲がでたとは。」
「ありがとうございます。大西司令が無事でよかったです。」春香が大西に話しかける。
それから地球艦隊に勝利の報告を知らせた。
「苦しい戦いでしたがなんとか勝てました。皆さんのおかげです。」
地球艦隊の艦艇内部では勝利を祝う歓声でみたされた。
「ムーゼル司令。浮遊要塞部隊の方向から激しい爆発の反応をとらえました。これはふつうの艦艇の爆発とは異なる大規模なものです。」
「何だと!至急グロータス司令に通信をつなげ。」
「先ほどから通信しておりますが、応答ありません。」
「皮肉なものだな。わたしを陥れるはずが自分がヤマトの餌食になったか。」
「司令…。」
「あのゴルバを倒す方法は非常に限られている。撃たれたアルファ砲を正確に砲口へ向かって反射するか、アルファ砲が発射される瞬間に砲口に撃ち込むか、反物質兵器を実弾にこめて撃ち込むか、底部のエンジン噴射口をねらうかしかない。エンジン噴射口については敵弾を感知してバリアが張られるよう改造されているから前の三つの手段しかない。」
「司令…。」
「波動砲だけならばいくらでも防ぎようがある。波動エネルギーを実弾に封入されても砲口に命中さえしなければまったく問題はない。ただ…。」
「ただ?」
「敵は意外な兵器を開発してわれわれをおどろかせてきた。まさかとは思うが反物質を実弾に封入されたら防ぐのは非常に困難だ。無敵要塞が無敵であるが故に反物質を封入された実弾を四次元フィールドコーティング自体が破壊するから鉄壁の防御の裏返しの弱点になる。」
「後方に敵艦隊発見。6500宇宙キロ。」
「律子さん、追撃したほうがいいと思う??」
「いえ。追いかけても相手はかなりの戦巧者。濃密なガス体のなかに逃げ込むだけだわ。」
「うむ。春香、律子。『しゅんらん』と主力戦艦のラングレーが後ろ向きに進もう。いざ敵がのこのこ出てきたら拡散波動砲で一掃しよう。もう発射準備はできている。」
「ありがとうございます。」
「敵艦隊はそのまま進んでいきます。二艦のみ後ろ向きです。」
「なるほど。こちらがでてきたら例の兵器を使うというわけか。」
「司令。どうしますか。」
「しかたあるまい。本星の近くでガスの濃密な部分がある。そこで待ち構えるのだ。」
「本星には、救援にいかないのですか。」
「いまさら帰っても敗北の責任を取らされて処刑されるだけだ。」
「...。」
「ちなみにお前たちも帰還したら処刑される。」
「この先、5000宇宙キロで再び暗黒ガスが濃密になります。」
「なにか光のようなものが見えるわね。」
暗黒ガスは濃密になるが、その明るい一点はよりくっくりと見え、わずかずつであるが大きくなっているように思える。」
「出口?」
「赤羽根提督、出口のように思えますが。」
「春香。慎重に分析しろ。これからの行く手は暗黒ガスが液体並みに濃密になって渦をまいている。その渦の中に巻き込まれたら一巻の終わりになる。」
「はい。」
「春香が総指揮官なんだ。冷静さを失わないで的確に状況を把握できていれば、たまにあわてて転ぶことはあっても、生き残れる。」
「なんでそこで転ぶ話が出てくるんですか。」
春香がぷくっとほおを膨らませる。
「すまん。春香があせって転ぶ姿がつい脳裏をよぎったんだ。冷静になってくれといういうことなんだ。気を悪くしたらすまん。」
第一艦橋の面々は必死に笑いをこらえている。
「律子さん、真、雪歩、伊織...!千早ちゃんまで」
「こ、航行停止!ぷっ」
千早は、笑い出したいのをこらえて、航行停止をアナウンスした。
「り、了解。」
「春香、慎重に航路の検討をしたほうがいいわ。技術班に航路の状態を分析させる。それから中央作戦室に集合するよう指示して。」
「わかりました。第一艦橋の乗組員は中央作戦室に集まってください。」
一同が中央作戦室に集まると律子は通路の様子を床スクリーンに映す。
「これから先は液体のように濃密な暗黒ガスが渦をまいている。光が見えている部分は確かにガスが異常に薄い状態であるのは間違いない。あたかも台風の目と同じ理屈で安全な空間になっていて、しかも外界からの星の光を通している。」
「しかし、よく見てもらうとわかるように時間の経過とともに渦の中心で大きさが変わっているわ。これに周期性があれば脱出のタイミングがはかれる。」
「今すぐ出口が閉じないうちに進むわけにいかないんですか。一度閉じてしまったら...。」
「あわてるなって赤羽根提督が行っていたでしょう。この通路がすべて閉じてしまうことはない。ただ一部が完全に閉じてしまうことはあるから通過できなくなる。その場合は停止して開くまでまつしかない。」
「...。」
「たしかに時間は貴重だわ。だからこそあわてて渦に巻き込まれたら元も子もない。通路の拡大収縮に周期性があるのかどうか、周期性がなければどのように通過するか、もうしばらく分析のための時間がほしいわ。」
「律子さん、じゃあ、みんなに食事や睡眠をとってもらうのはどうですか。」
「そうね。そうしてもらうのがいいわ。」
「乗組員の皆さん、これから暗黒星雲の出口をいつ通過できるのか分析する必要があり、時間がかかります。不定期になりますが休暇とします。いまのうちに食事や睡眠をとってください。いつ配置につくかは決定しだい追って指示します。」
「太助っち、休暇だよ。」
「はい。」
太助は生返事を返す。
「どうちようかなぁ。」
亜美と真美はぼそっとつぶやいた。
「春香、出口付近の通路の分析がひととおり終わったから、中央作戦室に第一艦橋のクルーを集めて。方針を話し合うから。」
「わかりました。」
第一艦橋のメンバーにインタフォンでその旨伝えられる。
「通路の気流の流れは一定していないし、通路の幅も一定していないわ。」
「律子さん。航行はどのくらい可能ですか?」
「24時間。ちょうど1日というところね。現時点では敵は確認されていないけど、これから敵についてはどう状況が変化するかは未知数だわ。暗黒ガスの空間や気流には慣れているでしょうし。」
「律子。敵が通り抜けてくるんだからそんなに激しくないんじゃないかなあ。」
「地球を救うために元から絶つんでしょう。ここを通り抜けるしかないと思うけど。」
「確かに敵の待ち伏せは怖いね。第一種戦闘配備で突入しましょう。いつでも対処できるように。」
春香の一言で方針が決定する。
「太助っち、出発だって。」
「はい。」
太助はまたもや生返事で返す。
機関室へ行くと小スクリーンに真の顔が映し出される。
「これよりヤマトは暗黒星雲の通路を進むことになった。機関部のみんな、たのんだよ。」
「亜美、真美、太助君、エンジンをたのんだよ。」
「アイアイサー」
三人をはじめとした機関部員は敬礼をする。
「微速前進0.5」
「フライホイール接続点火!」
「ヤマト発進!」
ヤマトは暗黒星雲の通路を進んでいく。
「ヤマト及び地球艦隊、距離5000宇宙キロ!われわれの白色銀河への出口通路を進んでいます。」
「よし、また敵を出口まで追い立てろ。」
「敵襲です。またどこから攻撃されているかわかりません。」
「弾道を解析して。レーダーが使えないなら弾道を解析して敵の位置を特定するしかない。」
「座標特定しました。送ります」
「にひひつ。座標をセットしたわ。主砲発射!」
数隻の駆逐艦や巡洋艦が地球艦隊のショックカノンに撃ち抜かれて、火球に変わる。
「敵は弾道を解析している。撃ったらすぐ移動するのだ。そうすれば十分に避けられる。」
「波動防壁展開!エンジンフルパワー。」
ヤマトは波動防壁を維持しつつ猛スピードで回廊を突進する。
「司令。追いつけません。」
「それならそれでいい。やつらは出口であせるだろう。」
「出口到達しました。」
「!!」
そこには、巨大な人工惑星が浮かんでいた。
全体は地球ほどのおおきさであったが、中心部がこぶのようにふくらみ、その周囲を網目のように黒光りする金属の管がとりまいているような姿だった。
その周囲をアメーバー状の戦艦とずんぐりした戦艦が守っている。
ずんぐりした戦艦は全長5km、全幅2kmはあるかとおもわれる巨大な戦艦であった。
「中央の巨大戦艦から通信ですぅ。」
「パネルに映して。」
「オマエタチガヤマトカ」
ロボットのような棒読みの不気味な声がしてスクリーンに敵の姿が映し出される。
黒いフードのようなものをかぶり、両目が赤く光っている。
「ヤマトヨ。シネ。」
艦首から無限ベータ砲が問答無用で発射される。
ヤマトは、千早の操舵でたくみに弾道を避けるが、ラングレー、ゆきかせ改、ハルバートが光と熱の奔流に飲み込まれあっというまに四散する。
「!!」
無限ベータ砲は、あっというまにエネルギー充填される。
きぬがさが無限ベータ砲の砲門へ向かって波動砲を発射するが、その波動砲を飲み込み、激流となって無限ベータ砲はきぬがさを飲み込んで引き裂いた。
「律子さん、あの艦にはなにが有効なんですか。」
「春香...分析したけど反物質カートリッジ弾しか効かないわ。」
「すぐつくれる代物じゃないですよね...。」
「ええ...。」律子の顔はさえない。
そのすきをついて左側の無限ベータ砲の砲門につっこむことに成功したのはまたもやズールーだった。
「大西司令!」
「天海司令。この戦艦にも直接効く武器はないんだろう。わたしごと撃て。乗組員を頼む。」
「...。」
「何をしている!早く撃て!」
「わたしには撃てません。どうか脱出してください。もう4隻も撃沈されました。地球には明日のためにも熟練した指揮官が必要なんです。」
「春香。また敵の砲門に魚雷を二発撃ちこんでバリアとあの擬似波動砲様兵器のエネルギー反応をみるわ。」
「そういうことですから、大西司令、後退してください。」
「今は誘爆を恐れて敵は撃ってこないが、後退したらやつらの集中砲火を浴びる。それこそ犬死だ。」
「伊織。主砲を最大射程でサーモバリックモードにして、魚雷発射すると同時に、あのアメーバー状戦艦の砲門に標準をあわせて。」
「了解。」
「春香。」
「航空隊に通用した手が戦艦に通じるか判らないけどやってみるしかない。」
律子は春香に向かって微笑む。
「艦首魚雷1番発射。2番発射まで5秒前。」
「2番発射。3番発射まで5秒前。」
ヤマトから魚雷が5秒ごとに発射され、無限ベータ砲の方向へ向かう。
「ムダダ。」
無限ベータ砲の前で魚雷が四散する。
「エネルギー充填率50%,バリア、砲口から20m。4兆テスラ。」
「エネルギー充填率75%,バリア、砲口から70m。3兆テスラ。」
「エネルギー充填率95%,バリア,砲口から150m。2兆テスラ、発射10秒前。」
発射10秒前なら波動砲でバリアを打ち破れる...
無限ベータ砲が放たれる。さすがに地球艦隊は今度こそその射線を避ける。
『しゅんらん』とヤマトの脇をすさまじいばかりの光と熱とエネルギーの奔流が通過していった。
ゴルバをようやく全て倒し、敵の本星と思われる人工惑星に到達したヤマト。
そこも強敵が守っていた。