「みんな、配置について。ブラックホールをつかって全艦スイングバイしたらワープだよ。」
「了解。」
地球艦隊は一列になりシュワルツシルト半径の外側をたくみに航行してスピードを上げていく。
ムーゼルは戦闘宙域ははなれたものの、地球艦隊の状況を把握できる位置にまで後退すると停止する。
「そうだ。ヤマト。地球艦隊よ。そっちの方角へ行くのだ。そう、そう、そのとおりだ。ふふふ。」
「敵艦隊動きません。」
「この状況で追撃してこないのは幸いね。なにかあるのかもしれないけど。」
「あのまま戦っても敵は損害を増やすだけ。すぐに追いかけてこないのが気になるけど。」
「ワープに入ります。各自ベルト着用。」
地球艦隊の艦影は暗黒星雲バルジの超巨大ブラックホールからスイングバイして次々に消えていった。
「ワープ終了。」
そのころ展望台にはあずさとアナライザーが外を眺めていた。
暗黒ガスが濃密にたちこめている空間にヤマトはワープアウトした。
星の光は全く見えない。地球艦隊の艦橋などからもれるかすかな光がぼんやりとてらしている。
「あたりは真っ暗ですね。」
「星モ何モ全ク見エマセン。セッカク星デモ見ガラオ酒ヲ楽シモウト思ッタノニ。」
「アナライザーさん。星が見えなければ月、月が見えなければ星、両方見えなければ雲。
真っ暗で何も見えないにしても地球からは見られない暗黒物質でもながめましょう。そうすればお酒を楽しめるんじゃないですか。」
「サスガハあずさ先生デス。」
「それにしてもなにか外は荒れ模様ですね。なにもなければいいのですが。」
あすさの顔はくもる。
「しかし、すごい密度のガスねえ。すすのなかを進んでいる感じだわ。」
伊織がぼやく。
「星雲の中心からはなれたからすこしはましになるかとおもったのに...」
「位置的にはあと数光年で暗黒星雲を抜け出せる計算よ。局地的にガスが濃い空間ということでしょう。」
「レーダーが断続的なブラックアウト。ほとんど役に立ちません。」
「ガス状物質が濃密になり、液体に近くなった影響ね。これからは有視界航法をとるほかないわね。」
「右舷及び左舷パネルを作動させてください。」
グオオオーーーン
そのとき船体が激しく揺れる。
「敵襲?」
「左舷マスト損傷。右舷第193装甲板剥離。艦の機能には影響なし。」
「レーダーは?あ~使用不可能だったね。」
「敵の方向、距離特定できません。」
「くつ...」
「火器管制システムにも影響がでているわ。レーダーが利かないから火器の使用はほぼ区可能ね。」
「今のままじゃなぶりごろしだね。千早ちゃん逃げ切れる?」
「なんとかやってみるわ。」
「波動エンジン出力上昇。第一戦速へ移行。」
「何のため各員総員戦闘配置。」
「加速開始。」
そのころ暗黒星雲内を暗黒ガス用の特殊ソナーで自重自在に動ける暗黒星団帝国艦隊ではムーゼルが艦隊運動を指示していた。
「全艦に告ぐ。ヤマトと地球艦隊を追え。駆逐艦隊は両翼へ展開。予定航路を常に確認せよ。決して外れるな。」
暗黒星団帝国艦隊は見事な艦隊運動で地球艦隊を包囲するように展開する。
「速度を上げて左右に展開をはじめたわ。このまま包囲する気ね。」
「ヤマトめ。なりふり構わず逃げているな。レーダーが利かないだろうし、戦術的に見て基本的には正しい判断だが...。」
「あと500宇宙キロで予定宙域に到達します。」
「うむ。そのあたりでいいだろう。全艦戦闘態勢。両翼の艦隊は砲撃開始。
われわれが追い立てるその先に何が待ち受けているか知ったときのやつらの顔が目に浮かぶようだ。ふはははは。」
ムーゼルは部下に命じる。
「グロータス中将につなげ。獲物の群れをわなに追い込んだ、とな。」
「了解。伝えます。」
「敵艦隊の砲撃がやんだわ。」
「乱流がおさまってきました。暗黒ガスの濃度が97%から68%へ。レーダー機能一部回復。」
「!!」
「あれは...。」
そこに現れたのはイスカンダルで見たことのある黒光りする巨大なこけし状の物体であった。
「ゴルバ...ゴルバ型の浮遊要塞...。」
「う、右舷に...三体...いますぅ。」雪歩が泣き出しそうな声で叫ぶ。
「左舷にもいるわね。」伊織が押し殺したような声でつぶやく。
「あの敵の動きはこういうことだったのね。」
律子がつぶやく。
メインパネルに敵将の顔が映し出される。地球人だと50代くらいだろうか。しかし白髪である。
「ふはははは。おどろいたかヤマト、地球の艦隊よ。わたしは暗黒星団帝国暗黒星雲ウラリア式浮遊要塞部隊を率いるグロータスだ。お前たちを倒す敵将の名だ。貴様らが死ぬまでの短い時間だが覚えておいてもらおうか。お前たちの兵器は一切効かない。貴様たちの石ころのようなショックカノンもただ光り輝くだけの波動砲も実弾も一切効かない。しかもわれわれは互いに撃ち合っても全く問題はない。ここがお前たちの墓場だ。われわれの本星へいくことはできない。」
「全要塞アルファ砲発射用意。」
八個体あるゴルバの首の部分に並ぶ巨砲が地球艦隊に向けられる。
「こんなこともあろうかと備えはしてあります。赤羽根提督、全艦、銀色の携帯スイッチを用意してください。」
「律子。」
「大丈夫です。こうなることは想定の範囲内です。できれば役に立ってほしくなかったのですが。」
律子は苦笑し、パネルに映る赤羽根も苦笑する。
「全艦より返信。準備完了とのことです。」
「敵のエネルギー充填が99%になった瞬間に押してください。」
「了解。」
「アルファ砲発射準備完了。5,4...」
そのとき地球艦隊艦内では銀色の携帯スイッチが押され、地球艦隊はじょじょに銀色のかがやきに包まれていく。
「アルファ砲、発射。」
全要塞から波動砲なみの光と熱の奔流がいっせいに吐き出される。
しかも地球艦隊の波動砲発射シークエンスの1/20の短時間だ。
しかし、その光と熱の奔流は銀色に輝く地球艦隊の船体にぶつかるとそのままはじき返されて要塞に命中する。
地球艦隊にとって幸運なことに跳ね返されたアルファ砲が二個体の要塞の砲口にそのままもどっていく。
「何いいい。」
自ら放った兵器が跳ね返されそのまま砲口へ命中し、二個体のゴルバは誘爆を繰り返して大爆発を起こして火球となり四散する。
「第3要塞と第7要塞撃破されました。」
「….。」
「司令。あれはすべての光学兵器を反射する空間磁力メッキ防護幕ともいうべきものです。」
「まったくの野蛮人というわけではないというわけか。数百光年を征服してきた我が帝国でもあのような防御兵器は始めてみるな。しかし、やつらもそのままあの状態でいるわけにいくまい。奈落へ落とされる時間が先に伸びただけのことだ。」
グロータスはあくまでも冷静であった。
「要塞の配置を変えよ。それぞれ敵から1°の角度で移動せよ。もし連続して使ってきたとしても砲口にさえ戻ってこなければ何の問題もない。」
残ったゴルバはたくみに配置を微妙に変える。
「敵浮遊要塞、配置を変えます。」
「予想される敵主砲の照射範囲表示します。」
「死角はないってことか。」
「空間磁力メッキはスイッチ一個につき1回で7分しかもたないわ。連続して使用するのは不可能。だからその間になんとかしないとやられる。」
「でも律子さん、対案は考えているんでしょう。」
「そうね。二種類の新兵器は用意しているわ。」
「律子。例のあれを使うんでいいのか?」
「赤羽根提督。おっしゃるとおりです。」
「敵は空間磁力メッキが切れる瞬間を狙ってくるはずです。砲口を開いてエネルギー充填をしているときがチャンスです。」
「律子。」
「何?伊織?」
「敵の砲口がバリアに守られている可能性は?」
「ありうるわね。」
「砲口が開いたら断続的に魚雷を撃ちこんでバリアを分析してみる?」
「そうね。おねがいするわ。」
「敵の空間磁力メッキ防護幕の維持時間あと推定1分30秒。」
「アルファ砲、発射準備。」
「敵が砲口を開いたわ。」
「魚雷発射、一番、二番」
「司令、敵が魚雷を発射しました。あっ!、砲口へ向かってきます。」
「何、バリアがある。」
砲口の前で魚雷が四散する。
「やはりね。」
「5兆テスラです。エネルギー充填率10%,バリア敵砲口の表面から300m」
「波動砲でも撃ちぬけないってことね。」
「敵の空間磁力メッキ防護幕、あと推定50秒。」
「また魚雷が発射されました。」
また砲口の前で魚雷が四散する。
「....。」
「4兆5千億テスラ。エネルギー充填率25%,バリア敵砲口の表面から600m」
「なるほど、空間磁力メッキの有効時間をかなり正確に測っているようね。」
「しかも今回は敵のエネルギー充填がゆっくりめです。」
「それからバリアが砲口から離れて弱くなっているわね。」
グロータスはふと気が付いて部下に命じる。
「やつらは発射タイミングを測っている。急速充填しろ。第1要塞は10秒後、第2要塞は20秒後、第4要塞は30秒後、第5、第6、第8要塞は、40秒後。ふふふ。やつらはこれでおしまいだ。」
「敵主砲のエネルギー充填率変化します。右舷方向から80%,60%,40%,左側の三つは30%です。」
「かかったわ。波動カートリッジ弾、右舷方向の要塞へ向けて発射準備。」
「第4要塞、第5要塞、第6要塞、第8要塞主砲発射停止。」
「グロータス司令!」
「敵をみくびりすぎていたようだ。やつらは何か待っている。」
「第1要塞、アルファ砲発射10秒前。」
「ヤマト、波動カートリッジ弾発射。」
「!!」
波動カートリッジ弾は第1要塞と第2要塞のアルファ砲口に命中すると大爆発を起こして四散した。
「これで四つか...。」律子はつぶやく。
「地球艦隊よ。よく戦った。しかしもう手も足も出ないぞ。上部ミサイル砲発射。」
こけし状のゴルバの「頭」の部分が回転して上部ミサイル砲が雨あられとそそぐ。
「波動カートリッジ弾であの砲口を狙える?」
「まかせて。波動カートリッジ弾発射~!」
伊織が命じて地球艦隊はいっせいに波動カートリッジ弾を発射するが雨のように降り注ぐ上部ミサイル砲に破壊されて四散する。
スクリーンに赤羽根少将の顔が映る。
「春香、律子、波動カートリッジ弾の残弾がもうないぞ。」
「ふははは...どうした。もう終わりか。こっちの攻撃は続くぞ。」
「駆逐艦ズールー被弾!」
「ハルバートⅠ被弾!」
「きぬがさ被弾!」
「律子、春香...。大丈夫か...。」
やや焦燥した様子の赤羽根少将の姿がスクリーンに映る。
「大丈夫です。最後の手段が残っています。」律子が返事をする。
「全艦、波動防壁を展開してください。」春香が命じて波動防壁を展開する。
しかし、20分しかもたないし、波動砲並の破壊力を誇るアルファ砲に効果があるかは非常に疑問である。
「最後の手段って...。」春香と雪歩が律子を見る。
「反物質カートリッジ弾を使うわ。敵は正物質のあらゆる兵器を無効にする手段をもっている。しかし正物質である以上反物質には耐性がないはず。」
「でも敵に当たる前に対消滅でなくなったり、発射した瞬間に自分たちが飛び散るようなら意味がないですぅ。」
雪歩が心配そうな顔で問い返す。
「大丈夫よ。赤羽根提督へ連絡して。」
「律子。例の切り札を使うんだな。」
「はい。しかし数が限られていてヤマトにしかつんでいません。さっきのように上部ミサイル砲には破壊されたら一巻の終わりです。」
「前艦長がやったようにゴルバの直下エンジン噴射口直下に小ワープするのはどうかしら。」
「千早ちゃん。わたしもそう思った。律子さん、小ワープしましょう。」
「そうね。相手の攻撃を受けずに弱点を狙えるのはいいわね。」
「赤羽根提督、全艦ゴルバの直下に小ワープさせます。」
「わかった。各艦長へ伝達。ハルバート、きぬがさは、10時の方向、ラングレー、ゆきかぜ改は12時の方向、しゅんらんは2時の方向、フレッチャーとズールーは4時の方向にある浮遊要塞の直下にそれぞれ小ワープだ。」
「「「「「了解」」」」
「そんなチンケなバリアをしても無駄だ。アルファ砲発射!」
「「「「「ワープ!」」」」」
アルファ砲の光の奔流は宇宙空間を照らし、そのまま空を切りゴルバの間を擦りにぬけていく。
「!!」
「敵艦隊、ゴルバの直下です。」
「やつらは、エンジン噴射口を狙うつもりだ。第4、第6要塞伏角90度!」
ゴルバのうち10時の方向と2時の方向のものが横倒しになろうとする。
しかし、地球艦隊のワープアウトがわずかにはやかった。
「反物質カートリッジ弾、発射。」
ヤマトの「煙突」VLSから発射された反物質カートリッジ弾は、ひとつは第5要塞のエンジン噴射口に命中、もうひとつは横倒しになろうとする第4要塞の装甲に命中した。すさまじい対消滅エネルギーが一瞬にして三つの浮遊要塞も巻き込んであっというまに大爆発を起こして火球となり、爆煙をまきちらして四散する。衝撃波が地球艦隊をゆさぶり、艦内の空気にズゴーンンンと爆音が伝わる。
「なんだ...あれは...」
グロータスははじめて青ざめた。
「あれは...反物質を封じ込めた砲弾です。偏光バリアは効きませんし、本来なら光学兵器も実弾も衝撃波面で無効化する四次元フィールドコーティングが逆に...」
「実弾である敵のカートリッジを破壊して反物質を撒き散らすのを助けるということか...。うぬ、敵のカートリッジ弾の射程はわかっている。わが第8要塞は当該宙域から離脱し、260宇宙キロからアルファ砲を発射せよ。」
「了解。」
第5要塞の激しい誘爆がとなりの第6要塞をもあっというまに巻き込んで炎上、爆発させた様子が記録映像を再生すると確認できる。
「なぜ直接命中していない要塞まで...。」
「やっぱり敵の偏光バリアと四次元フィールドコーティングは、すべての光学兵器と実弾兵器を無効化してるんだわ...しかし、実弾にこめられた反物質は無効化できない。むしろ実弾のカートリッジを逆に破壊するから...。」
春香はうなずく。
「強力な防御兵器が裏目にでているってことですね。」
「そういうこと。でもよろこんでいられないわ。もう反物質カートリッジ弾はない。おいそれと作れるものじゃないから。」
「敵要塞がひとつ離れていきます。」
「敵要塞現在240宇宙キロ。さらに離れていきます。」
「変態要塞!図体がおおきい割になんであんなに速いのよ。」
伊織がいらついたようにつぶやく。
「カートリッジ弾の射程圏外から主砲を撃つつもりだわ。」
律子は叫ぶ。なんという演算能力だろう。カートリッジ弾の射程をあっという間に計算しているとしか思えない動きに舌を巻かずにおれなかった。
8個体の浮遊要塞群を7個体まで倒したヤマトと地球艦隊だがもう有効なカートリッジ弾を撃ちつくした。果たしてどう闘えばいいのか...