「来たか。ヤマトめ...。」
「ムーゼル司令。グロータス中将より通信です。」
「つなげ。」
「準備はととのっているか?ムーゼルよ。」
「はつ。とどこおりなく。」
「それにしても中将閣下。全くもって感心いたします。このような作戦を考えつかれるとは。」
「何。簡単なことだ。機雷源を突破したヤマトは、その航路から星雲中心を通過しようとしていることがわかる。そしてこの星雲のバルジ付近を通ろうとするときに巨大ブラックホールの影響を受けてワープアウトするのも必然ということになる。
あとは貴殿の艦隊が空間歪曲緩衝装置でヤマトを事象の地平面の内側へ誘い込めばよい。」
「はつ。承知いたしております。」
「では、グレートエンペラー閣下ともども勝利の報告を待っているぞ。」
「ははつ。」
「ふん...。まったく感服せざるを得ないとはこのことだ。ヤマトや地球艦隊を誘い込めればいいが一歩間違えれば我が艦隊が事象の地平線の内側に入ってしまうかもしれない。その危険性を黙っているとはな...。ここが正念場か...。」
「レーダーに反応。1時の方向。5000宇宙キロ。敵影です。」
「やはりこれはわなね。わたしたちをブラックホールに追い込むつもりね。」
「春香。敵の艦種データの照合が終わったわ。前回空間歪曲干渉装置を使ってきた艦隊と同じと思われる。」
「あたらしいわなで先日の戦いの負けを帳消しにしたいってことなんだね。総員戦闘配置についてください。」
「操舵には気をつけないといけないわね。事象の地平線を越えたら一巻の終わりね。」
しばらくして航路の異常に気がつく。
「千早ちゃん。変だよ。航路がブラックホールの方向へ向かっていない??」
「どうしてかしら。ブラックホールの方向へ引きずられているわね。ブラックホールを避けてまっすぐ進んでいるはずなのに?」
「レーダーに空間歪曲装置と思われるものが確認されました。敵が航路に干渉している可能性があります。」
「ふははは。ヤマト及び地球艦隊よ。よく戦った。しかし、ここが貴様たちの墓場だ。このまま進んでも蜂の巣になってブラックホールに落ちるだけだ。素直にあきらめて降伏するか、地球へ引き返すかどちらかだ。まあ、退却するなら追撃して全滅させるだけだが。」
ムーゼルはスクリーンの向こう側に対して嘲笑をなげかける。一方で部下に対して命じる。
「敵はこの艦隊配置を分析し、波動砲での攻撃を試みるだろう。ブラックホールの近くだとわれわれも自分の艦隊を守るために空間歪曲干渉装置の出力を絞らなければならないからやつらの影響は少なくなるはずだ。ヴェスパコルト、ヴェスパブランコを発進させ、そのような時間を与えるな。」
「了解。」
暗黒星団帝国艦隊の前面の艦載機発進口からイモムシ型戦闘機と白色円盤状戦闘機が発進される。
「敵は9時半から2時半の範囲に6部隊で展開してスイングバイで突入しようとすると空間歪曲干渉装置でブラックホールにはまるように配置しているわね。しかも突入進路に横から砲撃できるよう艦隊を配置している。」
「9時半の方向へ進んでも2時半の方向へ進んでもハチの巣にされたあげくブラックホールへ叩き落されるってことだね。」
「なんとかして空間歪曲干渉装置を破壊するしかないね。」
「そのためにはとにかく敵の包囲陣を突き崩すしかない。敵はこちらの進路を包囲して危険なブラックホールへは近づかないから8時の方向か3時の方向へさそいだすか、長距離攻撃で干渉装置を破壊するか、波動防壁で9時半か2時半の方向の敵の側面をたたくかしかない。長距離攻撃で勝つ破壊力があるのは波動砲だけどブラックホールがあるからその引力でかなりゆがめられる。」
「春香、艦載機で叩くって手もあるけど相手も直援機で対応してくるから効率的にはいかないわ。犠牲がどうしてもばかにならない。」伊織が歯をかみしめながら話す。
「でも伊織、敵が艦載機を発進させてきたら少なくとも艦隊の上空を守る必要はあるよ。一番いいのは、総統さんたちのつかっている瞬間物質移送機があれば...と思うけど...。」
春香は思わず律子の顔をみてしまう。
「あれは原理的には可能と思われるけど地球の今の技術では難しいわね。ワープ可能なエンジンを小型艇に載せるほうが簡単かもしれないけどどうしてもエンジンの大きさが駆逐艦クラスより小さくできない。しかもアルファケンタウリまで一週間かかる通常仕様のエンジン。開発には時間を要するわ。空間磁力メッキも着想から開発まで1年かかった。ごめんね。今できることを考えて。」
「春香、前回よりも空間歪曲干渉の影響は気持ち小さい感じがする。小ワープや波動砲発射も可能だよ。」真が発言する。
「ブラックホールの近くだからエネルギーをしぼっているのね。いたずらに空間歪曲をおこなうと自分たちが飲み込まれてしまうから。」
「敵が艦載機を発進させてきました。その数650」
「全艦艦載機発進。こちらもコスモファルコン発進させてください。」
「わかったわ。コスモファルコン隊発進。山本は敵艦隊を牽制、それから坂本は艦隊上空を防衛して。」
「「了解。」」
「律子さん、ブラックホールと干渉装置の重力場を計算して波動砲の弾道がもっとも効果があって干渉装置を破壊できる発射位置を計算して。」
「わかったわ。ただ空間歪曲干渉装置による航路への影響も計算しなければいけないからちょっと時間かかるわよ。」
「うん。わかった。」
「敵艦隊、停止したまま動いてきません。」
「包囲網を縮小しろ。」
「了解。」
「地球艦隊の艦載機180接近。」
「こちらの艦載機を発進させろ。ハエどもを叩き落すのだ。」
「了解。」
「敵艦隊接近してきます。1000宇宙キロ。」
「絶妙な艦隊運動だね。」
「ブラックホールがあるから敵も必死なのよ。ただやつらは波動エンジンじゃないから空間歪曲干渉装置の影響を受けない。ヤマトをはじめとする地球艦隊は基本的にイスカンダリウムやガミラシウムの採掘を前提としない超光速航行を行うイスカンダル由来の波動エンジン技術で動いている。その弱点が出た感じ。暗黒星団帝国は、一切の光学兵器を無効にする強力な偏光バリアや四次元フィールドコーティングと圧倒的な武力で、宇宙を席巻し、侵略した星から資源を食いつぶして拡大してきたから波動エンジンのような宇宙空間からエネルギーを確保するタイプのエンジンを開発する必要がなかった。」
「とんでもない国家だね。」
「そのとおりよ。400年前、いや200年前って言ってもいいかもしれないその当時の欧米列強を思わせるような横暴さ。たださすがにすべての艦艇を「鉄壁の防御力」にするわけにはいかなかったみたいだからプレアデスタイプの旗艦と浮遊要塞さえなんとかできれば戦いようはあるんだけどね。」
「真、小ワープの後、波動砲発射準備。」
「了解。機関室たのんだぞ。」
暗黒星団帝国艦隊とその艦載機の攻撃は激化していく。
他の地球艦隊の艦艇に乗っている艦載機もあわせて330機を坂本隊が率いているが敵はその倍の数なのだ。
坂本隊はヤマト主砲のサーモバリックモードとパルスレーザーの射線にたくみに敵を誘い込み数の不利を補って善戦している。
坂本隊と暗黒星団帝国の艦載機はそれぞれ火球に変わる。
その一方で伊織が「にひひつ。」と笑って絶妙なタイミングで発射する主砲は、数百機を吞み込むと熱風と燃料引火にまきこんで粉みじんに打ち砕く。
しかし、ヤマトもただではすまない。敵の砲撃と艦載機の攻撃に被弾する。
間断なく続く攻撃に波動防壁を使うタイミングが測れないのだ。
「右舷艦尾方向、第939装甲板、第722装甲板被弾!」
「左舷艦首方向、第3装甲板、第8装甲板被弾!
「右舷艦尾方向、第972装甲板、第993装甲板被弾!」
「左舷艦首方向、第63装甲板、第83装甲板被弾!
「第一番副砲塔損傷。右側揚弾機作動しません。」
「機関室に被弾の影響で火災。艦内スプリンクラー、非常用消火装置作動!」
「位置が出たわ。座標X-3872,Y-2783,Z-9393。」
「ワープ準備。」
千早の目の前のディスプレイには五本の空間曲線と振り子のように上下に光点が動いている。
「10,9,8,....3,2,1,ワープ!」
光点が交点に重なった瞬間にヤマトと地球艦隊は姿を消す。
「地球艦隊ワープした模様。」
「地球艦隊出現。当艦から7時の方向。空間歪曲装置の影響が少ない場所になります。」
「!!」
「そうか...やつらは我が艦隊を波動砲で一気になぎ払うつもりだ。ワープは間に合わん。全艦指示通りに散開しろ。地球艦隊をわなに誘い込むのだ。」
「了解。」
暗黒星団帝国ムーゼル艦隊は散開しはじめる。
「全機、波動砲が発射される。指示された場所に待避しろ。」
山本は自分の指揮下の艦載機隊に命じる。
「了解。」
暗黒星団帝国も地球艦隊の艦載機も波動砲の射線をたくみに避けようと散開する。
「あいかわらず見事な艦隊運動だね。」
「あの艦隊運動はわたしたちの波動砲の弾道計算をあらかじめ予想していないとできない艦隊運動ね。さすがだわ。」
「とにかく空間歪曲装置が破壊できれば...。」
「しゅんらん、当艦をはじめ波動砲発射準備完了です。」
「対ショック対閃光防御。10,9,8,...3,2,1,波動砲発射。」
激しい光、熱、エネルギーの奔流がいくつもの流れとなってムーゼルの艦隊にたたきつけられる。ムーゼル艦隊の半数と空間歪曲装置が光と熱の奔流につつまれると一瞬にして破壊されて気化する。波動砲でムーゼル艦隊をなぎはらうとブラックホールの周囲は安全な空間になる。
ムーゼル艦隊は、一発目の波動砲の斉射を見事な艦隊運動で逃れたものの、退却のための態勢になっており、追撃への砲撃は可能なものの、もはや攻勢をかけるような状態ではない。ヤマト以外の艦艇がムーゼル艦隊の艦艇へ向かって再び波動砲を斉射するとムーゼル艦隊は、残りの1/3を喪い、今度こそ戦闘宙域を離れざるを得なかった。
そのときだった。波動砲の射線をたくみに避けた山本をはじめとするコスモファルコン隊数機に異変が起こる。
「くそつ。事象の地平線に近づきすぎたようだ...。」
「!!山本さん、引き返して。」
「操縦が...。右翼先端が境界面に...だめだ...引きずり込まれる...。」
「山本さん!山本さん!」
「だ、だめですぅ。返答がないよ。春香ちゃ、艦長。」
「境界を越えてしまったのね...。」
山本機とその周囲にいた数機が同じように吞み込まれる。
「なんとか助け出すことはできないの?」伊織は叫んでしまう。
「光さえ脱出できない空間なのよ...。」一方の千早の声は沈んでいる。
「どうすればいいのよ。シュワルツシルト半径5光年なんてど変態ブラックホール。なんとかならないの?律子。」
「「あの、わたし、考え付いたんだけど...。」」
春香と雪歩が珍しく同時に発言する。おもわず雪歩が口をつぐむが春香が発言を続ける。
「タキオン粒子って光より早いんだよね。だからブラックホールの中にも届くし、通信できるんじゃないかなぁ。」
「でも何度やっても現に返答がないじゃない。」
「....。」伊織に言われて春香は口をつぐんでしまう。
「無駄よ。例え通信波が届いたとしてもブラックホールの内部は特殊な時空間で時間が止まったような状態になっている。だから受信はできないし、ましてや返信なんかできない。」
「まって。あのね。時間がほぼ止まってるんだよね。ということは中に入った人間は生きている可能性もあるってことにならない?」
「何を言いたいの?雪歩?」伊織が雪歩に問い返す。
「...あったためしがないのでなんともいえないわね。あれだけ規模が大きいブラックホールだから正確なことはわからないけど可能性はあるわね。だけどコスモファルコンにはワープできるエンジンなんてないんだから光の脱出速度を超えるなんてできない。外から引きずり出すことも不可能だわ。」
「そうじゃなくて...山本さんたちの場所に接近して外側からワープさせられれば...。」
「なるほど、デスラーの瞬間物質移送機ね。雪歩、いいこと思いつくじゃない。」
伊織がほめると雪歩は苦笑する。
「春香が戦闘前に言った話...結局作ることになっちゃったわね。やってみるわ。でもブラックホールの近くで使わなければならないし、実験用の試作機にすぎないから山本機を移動させたらもう使うことはできないわよ。」
律子は一回ため息をつくと、苦笑して工作室へ向かった。
山本機をはじめとする吞み込まれたコスモファルコン隊の座標がまもなく確認された。シュワルツシルト境界面ぎりぎりに瞬間物質移送試作装置が放出される。絶妙なタイミングで試作装置が作動されると無事コスモファルコン隊はブラックホールから脱出できたが試作装置がかわりにブラックホールに吞み込まれる。
「なんかもったいないわね。春香も言ってたけど瞬間物質移送機があれば戦闘も楽になるのに...。」
「「でもみんなの命のほうが大事だよ。」」
伊織がつぶやくと春香と雪歩が同時に発言して二人は一瞬顔を見合わせややほおを赤らめ苦笑する。
「そうね。」伊織も笑顔で同意する。そうだ、namugoプロの時代から苦しいときは助け合って乗り切ってきたのだ。ある意味家族同然であるクルーの生命を優先させるのは当然であった。
「皆サン、無事回収オワリマシタ。ミンナ、ミンナ無事デス。」
喜ばしい報告をするアナライザーの声は、機械の発声装置にもかかわらずなぜかはずんでいるように聞こえる。
「みんな、行こう。」
第一艦橋の面々は我先にと駆け出していく。
「あずさ先生!」
「皆さん、無事よ。だけど絶対安静よ。長く話すことはできないわ。」
「山本、ブラックホールから脱出した人類最初の人間になった気分はどう?」
伊織が山本に話しかける。
「一瞬のことでよくわからなかったが、暗闇に包まれたと思ったら担架の上にいた。まあ、気分は悪くない。」
「その様子だと大丈夫みたいね。」
山本は苦笑して伊織に笑顔を向ける。
「さあさあ、そこまでにして。アナライザーさん、手伝って。医務室に運びます。」
「ヘ~イ。」
ベットにのせられた数人のコスモファルコン隊員がカラカラとベッドのキャスターの音をさせながら医務室にはこばれていく。そのあとからピコピコシャカシャカとアナライザーがついていく。
「みんな無事で、無事でほんとによかったですぅ。」
「「雪歩?泣いているの?」」
「真ちゃん、伊織ちゃん、こういうときに泣かないならいつ泣くの?」
「雪歩の場合、けっこう泣いている気がするけど...。」
「真ちゃん!」
「わかった。わかったよ。」
第一艦橋はほがらかな明るい笑いにつつまれた。
強大な敵を破り、コスモファルコン隊を救出して胸をなでおろすヤマト。敵の本星に近づいているとはいえまだまだ苦しい戦いは続く。