「どうしたの??」
「艦首右舷で爆発。ロケットアンカー損傷!」
「原因はわかる?」
「いえ。わかりません。障害物反応はなかったんです。」
レーダー手がとまどいをかくせずに返事をする。
「千早ちゃん。艦を止めて。」
「了解。緊急停止。」
「メインバイパス閉鎖。機関停止。」真もエンジンを停止させる。
「まこちん、なんかあったの?」
「すごい音がしてすごいゆれたよね、」
「なんか艦首右舷で爆発があったんだ。亜美、真美心あたりないか?」
「こっちは何も異常はないよ。」
「いたづらなんかちてないよ。」
「ふう...なんかあらっぽいわね。!!律子!」
伊織がなにかに気がついたように軽く叫び、思わず律子の名前を呼ぶ。
「どうしたのよ。」
伊織の指差す方向に敵艦と思われる光点が見えていた。
レーダー手がぼやくようにつぶやく。
「星雲が濃くなってレーダーの反応がにぶりがちでしたが、まさか目視のほうが敵艦の発見がはやいとは...。」
ヤマト艦首右舷の爆発の情報は暗黒星団帝国艦隊にリアルタイムでとどいていた。
「ムーゼル司令、ヤマトと思しき反応をとらえました。」
「そうか。どこでだ?」
「暗黒星雲の表層近く、バルジから約1万光年、座標X=9393、Y=0765、Z=0720です。本国の部隊が散布した機雷源にひっかかったもようです。」
「ムーゼル司令。グロータス中将からの入電です。」
「よし。つなげ。」
グロータスの顔がスクリーンに映し出される。
「ムーゼルよ。いまだにヤマト討伐の任ならずとはお前らしくないぞ。」
「ヤマトと地球艦隊は予想外の強敵。グロータス司令もわたしの強敵に対する執念をご存知のはず。いましばらくお待ちを。」
「ふっふっふ。お前のことはよくわかっているつもりだ。わたしとしても絶対に敵に回したくない男のひとりだからな。だが、中間基地が破壊され、グレートエンペラー閣下はご心配召されている。そのため、わたし自らが出撃することになったのだ。」
「貴殿の艦隊はわが指揮下に入ってもらう。ともにヤマトと地球艦隊の沈む姿をながめようではないか。幸いにもヤマトと地球艦隊は、わが機雷網に接触するというミスを犯して位置を把握させてくれた。いまわたしの揮下の殲滅艦隊が機雷源に向かっているところだ。」
「お言葉ですが、閣下。機雷ごときで封じられる敵とは思えませんが...。」
「うむ。では殲滅艦隊の援護へ向かえ。機雷源を突破するところをたたくのだ。もし、ヤマトと地球艦隊が無事に機雷源を抜けてくる場合の手も考えてはあるが、その場合は、貴殿の知恵に負うところが大になるだろう。」
「かしこまりました。」
「ムーゼル司令、どうなされますか。」
「ヤマトは必ず機雷源を突破してくるに違いない。殲滅艦隊の援護に向かうのだ。」
「さっきの爆発の原因が判明したわ。これを見て。」
「なにこれ??おもちゃみたい。」
「この周辺の空間を調べたらこんな機雷が無数にある。9.393cm、7.2cm、3.8cmの三つの規格があるみたいね。」
「なんか中途半端な大きさね。」伊織がつぶやく。
「くっ...。」
「千早ちゃん、どうしたの。」
「なんでもないわ。」
「えっと、説明を続けるわね。この超小型機雷は小さいだけでなくこの星雲の暗黒物質を巧妙に使用している。そのため、レーダーには暗黒星雲の粒子として扱われ、全く反応しないということになった。もちろん真っ黒だから視認も不可能。このような機雷が無数に仕掛けられているとすれば、むやみに動けないわね。」
「敵と思われるエネルギー反応感知。11時の方向、上下角プラス7度、距離1000宇宙キロ。」
「やはり来たわね。」
「遠巻きにしながら、じわじわと攻撃でこっちを追い詰めるつもりだね。」
「前方小惑星帯。」
そのときまたズゴーーーーンという音が艦内にひびき、船体がゆれる。
「律子さん。艦の損傷は?」
「小型の機雷だから、今のところ損害はそれほどではないけど...ただ、こんなふうに機雷が一面に無数ある可能性もあるわね。波動防壁をつかって進むタイミングを見極めないと損害はばかにならなくなる。アナライザー、とりあえず遭遇した機雷群は記録してって。」
律子がアナライザーに指示する。
「了解。シカシコレハ大変ナ仕事デス。トホホ。」
「アナライザーさん。アナライザーさんだからこそできる仕事じゃないですか。」
「そうよ。機械のあんただから単純だけどたいへんで面倒な仕事してもらうんじゃないの。見えない機雷を見つけるたびにいちいち記録するなんて人間だったら気がめいっちゃうわよ。」
「アナライザーさん。たよりにしてますぅ。」
「美人ニ頼ラレタライヤトハイエマセン。ボクモ男デス。死ヌ気デガンバリマス。」
「あんたは死ぬことなんてないんだから、心配しなくてもいいわよ。」
伊織がまぜっかえす。
「アナライザー、これまで採集した機雷をもとに艦内自動工作機で作れるものを考えてみるわ。しばらくの辛抱よ。」
「オ願イシマス...。」
「ふうむ。命知らずなのか、あるいは気が狂ってるのか機雷にひるまずつっこんでくるとは。仕方ない、加速してヤマトとの距離をとれ。」
ズゴーンと艦内に爆音ひびき、船体が揺れる。
「機雷に接触しました。敵が加速しています。」
「こっちをひきはなすつもりなのね。」
「追いつけないスピードじゃないんだけど...。」
千早が悔しそうにつぶやく。
「もう逆の意味でど変態!。追えば反対側に逃げるし。その繰り返し。もういらいらする。」
そのとき律子が第一艦橋にもどってくる。
「できたわ。」
「律子さん。何かできましたか?」
「海にある機雷で音に反応するものは船で避けようがなくても、ヘリなんかで空中から除去できる。なかなか船の発する音は消えないから。けれど、あの小型機雷は、触れるものがあれば当然反応するし、宇宙空間にうかんでいてエネルギー反応や熱、空間にあたえるわずかなゆがみで艦載機にも反応する。それからガミラス戦では、人力で動かしたけど、これまで採取しようとして非磁性のもので触れた場合も爆発したから人間でも危ない。だから無人のスペースROV、つまり無人の小型掃海艇を作ったわ。機雷のデータを入力してあるから勝手に探してデコイを放出して船体が存在するかのような反応を機雷に感知させる。まあ、空間照明弾があれば感度が上がるから伊織、それから山本さん、空間照明弾を射出して。」
「わかったわ。」
「了解!」
「「照明弾射出!」」
暗い空間が明るく照らされ、ぎっしりと機雷が浮かんでいる様子が映し出される。
「ROVから通信。8時から4時の方向まで濃度の差はあるけどぎっしりね。あきれたわ。すごい量ね。3000万個はあるかしら。」
その数をきいて第一艦橋は一瞬げんなりした空気になる。
ROVがデコイを射出して機雷に艦載機か船があるかのような熱やエネルギー反応を読み込ませる。機雷は次々爆発する。
「とりあえず進路になる11時から1時の方向は除去したわ。」
「ムーゼル司令。ヤマト、小型艇を射出。照明弾を打ち上げました。」
「何する気だ?」
「機雷を次々に爆発。」
「あれは、ROVです。一種の小型掃海艇です。」
「機雷から生命反応は読み取れるか?」
「生命反応はないようです。」
「ええい、遠隔操作の無人艇か。ジャミングしろ。」
「了解。」
数分間経った。しかしジャミングが効いている様子はない。
「ジャミングが効いている様子はないな?遠隔操作の信号はあったのか?」
「いえ、そのような信号はないようです。」
「あらかじめプログラミングされているということか。」
「そのようです。」
「今後は地球艦隊を破壊もしくは虜獲したときにシステム部分を徹底的に探っておくべきだな。まあ、それならそれで方法はある。機雷にはホーミング機能があったな。」
「はい。」
「やつらの驚く顔が見られるわ。ヤマトのデータを機雷に送って攻撃させるのだ。」
「了解。」
「どうしたの?雪歩?」
「なにか機雷が動いているような気がしますぅ。」
「まさかデスラー機雷のように動く機雷なの!!。」
伊織が驚いたように叫んでしまう。
「機雷が...機雷が....動き出しました。10,20いえ500、600...ヤマトに向かってきます。」
今度はレーダー手が叫んでしまう。
「全艦波動防壁展開。伊織、主砲発射!」
地球艦隊は次々に波動防壁を展開する。
ヤマトでは「波動防壁展開。」真が復唱する。
「主砲発射~!」
波動防壁の衝撃波面で動いてくる機雷は次々に爆発し。主砲で残りの機雷も破壊されていく。
「ROV二号機射出!」
「ヤマト、また無人の小型掃海艇射出。」
「何とか砲撃できないか?」
「いえ。的が小さすぎて、周りの機雷を巻き込みますからかえって敵の機雷突破を助けることになります。」
「こちらの艦載機はどうか?」
「艦載機隊に反応してしまう可能性が...。」
「機雷へこちらの艦載機のスペックについて通信波を送った場合は敵に筒抜けになる可能性があるな。」
「量子コンピューターがあれば解析可能です。」
「これまでの地球艦隊との戦闘を分析してその可能性はあるか?」
「十分考えられます。彼らの対応は思いのほか迅速です。」
「そうか...。」
「敵は通信波で機雷を動かしたわね。波動防壁がきれても進めるように技術班、ジャミングよ。」律子が技術班に指示する。
「了解。」
「それから敵艦は、ROVを撃破するために艦載機を発進させる可能性があるね。レーダー、索敵担当は敵艦の様子をしっかり観察して。」
春香が命じる。
「その前に艦載機に反応しないよう通信波を送る可能性があるわね。」
律子がにやりとつぶやく。
「送ったら敵艦載機のスペックはバレバレです。どんなに巧みな暗号化したってこっちにだって量子コンピューターはありますから。」
春香が微笑む。
「敵のジャミングです。機雷が暴走始めました。」
「...。撤退だ。」
「司令?」
「この機雷網突破は時間の問題だ。優秀な小型無人掃海艇とホーミング機雷の無効化。艦載機でROVを攻撃するためには機雷へデータを送らなければならない。敵に艦載機のデータを丸裸で送ることになる。ジャミングされても読み取られてもどっちもだめだ。敵ながらあっぱれというほかない。」
「司令。司令ご本人宛にグロータス中将からデータです。封印及び画像入りです。」
「転送しろ。」
「了解。」
「....。」
「司令?どうなさいましたか?」
「目的地を変更する。暗黒星雲バルジ中央部へ進路変更だ。」
「は、ははっ。」
「グロータス中将はわたしを敵に回したくないといっておられたがそれはこっちのセリフだ。あの方を敵に回したくないものだな。まさかこんなわなを考え付かれるとは...。」
ムーゼルはグロータスの作戦が敵を葬るにも巧緻であり、同時にその裏の意図も悟ってうめくように独語した。
「と?いいますと?」
何も知らない部下が上官に質問する。ムーゼルはときどき使えん部下だと心の中でつぶやくことは日常茶飯事だが、一方では、部下が優れた意見を提案する場合もありうると常々考えており、意見具申については聞くようにしている。
「現地に行けばわかる。それよりも聞こえなかったのか?暗黒星雲バルジ中央部へ進路を変えるのだ。」
「は、はっ。」
「進路変更点を突破。まだレーダー索敵可能範囲内です。危険度は高いですが充分ワープが可能な状態と思われます。」
「うん。ワープ準備。これより本艦は、暗黒星雲の中心領域に突入します。」
「機関室。ワープ準備だ。」真が春香の指示を伝える。
「太助っち、あたちたちが手をかけたエンジン、丁寧にあつかってねえ→」
「わかってますよ、もう。(非番なんだからすぐ行けばいいのに...監視するみたいに...。)」
「え→何か言った?」
「いえ。何も。」
「太助っち、手がお留守になっているよ→。」
「はいはい。」
「太助っち。返事は一度でいいからね。じゃあねぇ。」
「はい。」
「波動エンジン内圧力上昇。ワープ可能領域へ移行。」
ヴィーッツ、ヴィーッツ
そのとき警報がけたたましく艦内で鳴る。
「どうした?」
「イレギュラー発生だわ。なんか巨大な障害物のようなものが....右舷方向にあるわ。」
千早の言葉を聞き、律子も異常を認識する。
「そちらへひきつけられてワープ航路が歪曲しているみたいね。」
「強制ワープアウトします。衝撃に備えてください。」
「通常空間を確認。なんとかワープアウト成功です。」
「後続の地球艦隊も無事ワープアウトしたようです。」
「でもおかしいわね。こっちの計器には障害物も何も映っていないわ。」
「レーダーに反応ありません。」
「反応がない?そんな...。え...こっちの反応もなくなっている?どうして???。」
「いったいどういうことかしら。」
「わからないわ。」
「確かにイレギュラーが出たのだけれど...。」
「春香!あれを見て!」
「!!」
「あれは....。」
「真っ黒だ。何もない空間みたい...。」
「もしかしたら暗黒星雲の出口まで来たってこと??」
「それなら外宇宙の星が見えてもいいのに星が全く見えないわ。」
「高密度の暗黒物質が充満しているだけならいいのですが...それならレーダーがブラックアウトするなり、なんらかの形で映るはずだと思いますが...。いったい...」
律子が何かに気がついたように叫ぶ。
「!!あ...あれは....あれは...超巨大ブラックホール!…。20世紀の頃から天の川銀河の中心には太陽の数百万倍、数千万倍ともいう巨大質量のブラックホールがあるといわれていた。考えてみればこの暗黒星雲も銀河系と同じ規模...中心に超巨大ブラックホールがあってもおかしくない。」
「でも、もしブラックホールならその巨大な質量から引き起こされるすさまじい潮汐力がヤマトの重力場感知装置に反応するはずでは...。」
「潮汐力の反応は全く感知されていないですぅ。」
「潮汐力というものは、距離の三乗に反比例するの。だから直径が数光年にも及ぶ超巨大ブラックホールの場合、潮汐力を感じることはおろか計器にすら反応しない微弱なものとなるのよ。」
「じゃあこの暗黒の空間のひろがりは...。」
「何もないわけではなくて光すら脱出不可能なブラックホールの境界、事象の地平線よ。そう考えるとかなりやっかいね。潮汐力を感じなくてもブラックホールがそばにあることには変わりがない。だから事象の地平線の内側に入ってしまったとしたら....。」
「脱出は不可能....。」
超巨大ブラックホールの近傍へワープアウトしてしまったヤマト。無事にやりすごすことはできるのか...