「これじゃあ、あの排気口部分に侵入できないね。」
ヴェスパコルト、ヴェスパブランコの攻撃は激しくどうしてもコスモファルコン隊は要塞に接近できない。
「はる、艦長、赤羽根少将から通信ですぅ。」
「つないで。」
赤羽根の顔がスクリーンに映し出される。
「春香。基地内部に侵入できないなら、そとにいる艦隊を片付けないと内部にいる艦隊がでてきてしまうぞ。」
「敵の航宙隊をなんとかしないといけないので対処を考えます。」
「わかった。まかせる。」
赤羽根の顔が消えると春香はすぐさま指示をする。
「山本さん、作戦変更です。もどってヤマトの上空をまもってください。」
「了解。」
「主砲サーモバリックモードで発射準備。」
「了解。」
「第一砲塔10時の方向の敵編隊、第二砲塔2時の方向の敵編隊。」
「誤差修正第一砲塔+２度、第二砲塔-３度。」
「にひひっ、発射～！」
今度は暗黒星団帝国のイモムシ状のヴェスパコルトと白色円盤状のヴェスパブランコが噴射口からエンジンに引火して次々に引き裂かれて爆発していき、戦闘宙域にいる機体のほとんどが喪われる。
「ぬぬ。こうなったらα砲で後ろの戦艦たたきつぶすのだ。α砲、第一砲門から第八砲門まで連続発射。」
「敵要塞に高エネルギー反応。」
「春香、敵の右側面なら敵艦隊のエネルギー反応がない。そっちへ小ワープしましょう。」
｢わかりました律子さん。全艦隊小ワープ準備。」
「第一砲門α砲発射！次第二砲門発射、次第三砲門発射！」
中間基地の士官が命じるとα砲が連続的に発射され、地球艦隊におそいかかる。
地球艦隊は小ワープし要塞右側面に躍り出る。
「グドン司令、敵左側面にワープアウト。基地外壁から10km! 至近です。」
「なにか侵入できる穴のようなものは...。」
「発見。座標X-7293、Y-3893、Z-9300です。」
「コスモファルコン隊に連絡。座標X-7293、Y-3893、Z-9300に敵基地への侵入口発見。」
「了解。向かいます。」
「中間基地左側の敵艦隊動き始めました。到着まで700宇宙秒。」
「コスモファルコン隊、侵入口侵入開始まで850宇宙秒。」
「外にいる敵艦隊を迎え撃つしかないわね。」
「敵艦隊まで650宇宙秒。」
「敵は航宙隊で基地内部への侵入を狙っているように思われる。その前に敵艦隊をたたきつぶすのだ。主砲発射。」
中間基地の外側にいる護衛艦隊司令アグリオンが命じると下半分が円盤状で前方が橙色の50隻の艦艇からいっせいに薄緑色の光条が数十条放たれ地球艦隊へ向かっていく。
「敵艦隊が砲撃を開始しました。」
「波動防壁展開。波動砲発射準備。」
「了解。波動防壁展開。波動砲発射準備。」
「波動防壁が切れた瞬間に波動砲発射なんてこんなむちゃできるのもスーパーチャージャーのおかげね。」
「律子さん。魔改造ありがとうございます。」
春香が笑顔で言うと律子は苦笑した。
「アグリオン司令！敵艦隊、バリアを展開したまま攻撃してきません。」
「打つ手がなくなったのか...それとも奥の手があるのか...敵の側面に小ワープできるよう準備しておくのだ。同航戦で敵を横撃する。」
「敵艦隊距離を置いたまま砲撃しています。」
「敵はこちらの手の内が読めないから距離を置いているのね。小ワープで背後か同航戦を挑んでくるかもしれない。今のうちに敵に対して探査衛星とばすわね。ワープしたらその瞬間をワープトレースする。」
「コスモファルコン隊、侵入口侵入開始まであと100宇宙秒。」
「あともうちょっとだ...。」
「ふふふ。アグリオン、やつらが搬入口から侵入するつもりなのはわかっている。対策はあるからまかせておけ。」
アグリオン旗艦のスクリーンにうつしだされたグドンが語る。
「そうか。わかった。まかせる。」
アグリオンは薄笑いをかみ殺して答える。
「コスモファルコン隊、基地左側面の搬入口まであと50宇宙秒。」
「敵はそろそろあせる頃です。各艦は敵基地の侵入口付近に標準をあわせ、コスモファルコン隊を攻撃する敵をたたきます。」
「了解。」
地球艦隊と暗黒星団帝国艦隊の砲撃とにらみ合いは続く。
地球艦隊はヤマトをはじめ波動防壁で防御している。暗黒星団帝国の光学兵器も実弾も衝撃波面で無効化されている。
「コスモファルコン隊、進入開始まであと10宇宙秒！。」
「もうすぐ秒読みといっていいね。」
「そうね。」
「！！」
そのときコスモファルコン隊が見えない壁にぶつかって数機爆発して四散する。
「バリアか...。」
「ふははは。地球の戦艦よ。この中間基地がそんなに簡単に陥落するとでも思っているのか。」
頭髪のない蒼いグドンの顔がメインパネルに大写しになる。
「敵バリア分析して。」
「了解。」
「5兆テスラです。波動砲や拡散波動砲でも撃ちぬくのは困難です。」
「あつ。補給を終えた敵艦がドーム内でつぎつぎに浮上してきますぅ。」
「春香、あの敵が一気に出てきたら...。」
「春香ちゃん、敵がいよいよ出てくるよ。」
「ふはははは。地球艦隊よ。ドーム内の艦隊は補給を終えたぞ。挟み撃ちでいよいよお前たちは最後だ。」
「！！」
「真、伊織、波動砲の準備はできてるよね。」
「そうだけど...。」
「真、最大戦速。敵基地正面に。」
「春香！？」
「説明はあと。思いついたの。」
ヤマトが敵中間基地正面に艦首を向けたときいよいよ今にも敵艦の大群が浮上してドームを出ようとしていた。
「右舷艦尾方向、第993装甲板、第933装甲板被弾！」
「左舷艦首方向、第7装甲板、第2装甲板被弾！
「右舷艦尾方向、第972装甲板、第729装甲板被弾！」
「左舷艦首方向、第9装甲板、第3装甲板被弾！
「第三番砲塔損傷。左側揚弾機作動しません。」
「くっ...。」
「みんな、もう少しだよ。」
ヤマトは追撃してくるアグリオン艦隊の砲撃から逃げながら中間基地の正面に出る。
アグリオン艦隊は、ヤマトを追撃しつつ砲撃していたが、その動きは、きぬがさとハルバートⅠによって逐一把握されていた。
「あと0.5宇宙キロ、35秒でヤマトが射程から外れます。」
「よし、波動砲発射準備。対ショック対閃光防御だ。」
両艦の乗組員はゴーグルをつける。
20秒後...
「アグリオン司令。2時30分の方向の地球艦隊から高エネルギー反応です。」
「何いいいい。」
きぬがさとハルバートⅠは、アグリオン艦隊へ向かって光と熱の奔流を撃ち出していた。
口径はちいさいもののくさっても波動砲である。アグリオン艦隊を向かって流れる二つの高エネルギーの奔流は、輝きながら宇宙空間を照らして、40隻の艦艇をつつんであっという間に引き裂いた。
「ぎゃああああああああ。」「回避～回避～。」
アグリオンと部下たちは悲鳴を上げたが一瞬のことだった。
かろうじて生き延びることができたアグリオン艦隊の残存艦は逃げるのが精一杯であった。
その次の瞬間今度はヤマトの波動砲口から中間基地のドーム正面とその前にいて砲撃を繰り返す敵巡洋艦や駆逐艦へ向かって光と熱の激流が吐き出された。
その激流は、光り輝きながら、砲撃してくる数十隻の巡洋艦や駆逐艦をつつんで、やすやすと貫くと、その後方にあって全開している半球形のドームから飛び立とうとする数十隻の艦艇をも貫き、引き裂き、誘爆させ、さらに中間基地本体をも貫いた。
「グドン司令！ドーム内に停泊および浮上する巡洋艦50隻、駆逐艦35隻すべて大破し、誘爆がひろがっています。基地も敵の高エネルギー波に内部から貫かれて爆発も時間の問題です。脱出してください。」
「うぬううう。艦隊が飛び立つ瞬間を狙ってくるとは...。」
誘爆は中間基地内部から広がっていく。いくら堅牢な装甲をもっていても内部の爆発には耐えられない。
中間基地は新たに星が出現したかのように輝きを増して次の瞬間には巨大な火球と化して煙や衝撃波とともにおびただしい金属片を撒き散らした。
その衝撃波はヤマトをはじめ地球艦隊艦内の空気をふるわせ轟音となって響く。
「やーりい！」
真が思わずこぶしを振り上げる。
ヤマト第一艦橋は安堵と歓喜に包まれる。
「あのね。敵基地は強力なバリアを張っていても艦隊が出る瞬間というか、その艦が出る部分についてはバリアを解除しなければならない。もしかしたら敵艦がバリアを自分たちが出る瞬間だけ解除できるシステムを備えている可能性があると思ったの。そうしないとバリアの強力な電磁波で味方を破壊することになるから。出てくる瞬間がチャンスかなって。」
春香が笑顔で皆に説明する。
千早、真、律子がかすかな笑みを浮かべながらうなづく。
「危機一髪だったね。」真がはきだすようにつぶやく。
「もう、ドーム内から今にも敵艦がごっそり出てくると思ったらどきどきしました。」
「敵基地の堅牢さがかえってこっちの作戦を立てやすくするとは皮肉なものね。」
「でも、一歩間違えれば全滅かもしれなかったね。」
「そうね...。」
「でも終わったんだ...。わたしたちはこうして生きている。」
「戦闘班は、レーダー要員の交代を残して敵襲がない限り二日間の休暇よ。」
「機関室は、二日後のワープに備えて一日の休暇。」真が話す。
「わたしたちは、二日後のワープに備えて航路設定、作戦会議だね。」
春香が律子に話す。
「考えるのが仕事だからね。」律子が苦笑しながら答えた。
一週間後ヤマトと地球艦隊は，暗黒星雲から４万光年の空間にあった。
ヤマトの第二艦橋には第一艦橋のクルーが集まっている。
「全員そろったわね。では映して。」
律子が第二艦橋のオペレーターに指示する。
床面に暗黒星雲が映し出される。
「これは...。」
「真っ黒だね。」
「これが目的地近くの暗黒星雲。観測の結果直径10万光年あることがわかっているわ。まったく発光しない星雲なので今まで地球からは観測できなかった。」
「直径10万光年ってわたしたちの銀河系と同じ大きさだね。」
「ええ。わたしたちの天の川銀河と匹敵する大きさで、暗黒ガスだけでなく黒色矮星や暗黒物質でできた星や岩塊が含まれていて、バルジを中心に公転していると思われるわ。
そう考えると暗黒星雲というより暗黒銀河といったほうがいいかもしれない。」
「中心部には、暗黒物質が渦を巻いて充満している。この星雲全体が向こう側の光を全く通さないのでその先に何があるのかまったくわからない状態になっている。」
千早があごにてをあてて発言する。
「星雲を突き抜けることは何があるかわからない。連続ワープで迂回する航路を設定したほうがいいかしら。」
「千早、そうしないほうがいいと思う。これまで旅してきたように何にもない空間であれば10万光年はワープであっという間だけどこういう暗黒星雲を迂回するとなると話は違ってくるわ。」
「なにか、危険があるんですか？？」春香がたずねる。
「この星雲の回転速度は理由はわからないけど外縁に行けば行くほど速く激しくなっているの。それは、星雲自体の降着円盤からはずれても推定2万光年近くは広がっていると思われる。なにぶん見えない物質だから正確な広がりは把握しきれないんだけど。ワープ中にその流れに巻き込まれることがあれば一巻の終わりになってしまう恐れがある。」
「するとできるだけ外部に向かわず内側をそのまま突き抜けたほうがいいってこと？」
「暗黒星雲の中心部は比較的流れがゆるやか。ある意味よどんだ状態といっていいわ。
何があるかわからない不安はあるけど外縁部を迂回して遭難するよりはリスクの発見と回避が可能な分比較的安全といえる。ただ、暗黒ガスや暗黒物質が高密度に充満していて長距離ワープは不可能だけど。暗闇を手探りで進むしかないってことね。」
「千早ちゃん、そうすると航路はどう設定することになるのかな。」
「わたしたちの現在位置はここです。暗黒星雲の降着円盤外縁から4万光年。正面には暗黒星雲のハローの一部が濃密になったガス帯と技師長が説明した激しい外縁の流れがあると推定されることから、ある程度星雲から距離をとりつつ降着円盤の表面付近にワープして、それから中心付近、つまりバルジに近づいたときにバルジに入っていく航路が考えられます。」
「それでいいと思う。くれぐれも外縁の流れにつかまらないように慎重に進んでね。」
「はい。」千早の説明に、律子が賛意を示すと、千早は短く返事をした。
「それでは各自持ち場にもどってください。これからがいよいよ山場になります。皆さんよろしくお願いします。」
「「山場って...はるるん（春香）、これまでも強力な敵でたいへんだったじゃん。」」
「えへへ...。」春香は苦笑せざるをえない。
「えっと。ワープ準備。目標暗黒星雲降着円盤表面。」
ヤマトは降着円盤表面へ向かって連続ワープを開始した。
「ワープ終了。」
「波動エンジン異常なし。」
「船体に破損等の異常認めず。」
「ふう...。」
安堵の息が漏れる。
「なんだか周囲が薄暗くなってきたわね。」伊織がつぶやく。
「なんか煙のなかにはいっていくみたいですぅ。」
「暗黒物質が表層までひろがってきてるのね。」
「千早ちゃん、操縦のほうは大丈夫？」
｢多少船体がゆれるけど、この程度ならほとんど問題ないわ。春香。」
「レーダーのほうも今のところ大丈夫です。この先はわかりませんが。」
そのときズゴーーーンという爆音が船内に響き、おおきく船体がぶるぶるとゆれた。
中間基地を突破したヤマトと地球艦隊は、いよいよ敵の本拠暗黒星雲を目前にする。果たしてそこには何が待ち構えているのか...。