「敵、包囲網に急速接近。3宇宙キロ!」
「覚悟をきめて一点突破をはかろうというわけか。全艦ねらいをしぼれ!やつらを蜂の巣にしてやるのだ。」
「全機左へ旋回。」
「メインノズルに損傷。航行速度30宇宙ノットに低下。」
「メインレーダー損傷。」
「右舷パルスレーザー砲塔、3番、5番、9番、11番損傷、左舷パルスレーザー砲塔、2番、7番、3番、8番損傷!このままでは火力が維持できません。」
「右舷10箇所、左舷12箇所装甲板剥離。」
「波動防壁展開!」
「主砲、副砲発射!」
「なによ。どうして弾道が曲がっちゃうのよ。」
伊織が叫ぶ。
「敵の攻撃は曲がらずにくるな。」
真がつぶやく。
「そういえば、暗黒星団帝国はエネルギー触媒としてイスカンダリウムを採掘しに来ていたわね。波動エンジンと全く異なる動力で動いているってことね。」
「この状況で不利になるのはこっちだけってこと?律子、春香なんとかならないの?」
「波動砲は撃てないのかな。」
「だめだね。春香。敵の干渉装置は波動エンジンに影響を与えている。ヤマトをうごかすだけでせいいっぱいだよ。波動砲のチャージをはじめたらエンジンが止まってしまうかもしれない。」
真が一見冷静だが不安とくやしさをにじませながら答える。波動エンジンが止まってしまったら元も子もないのだ。
「しかも、この干渉波のなかで一度停止したエンジンを再起動できるかどうかも問題ね。ただ...。」
「ただ、何ですか律子さん。」
「『しゅんらん』は、新型の波動エンジンを二基搭載しているわ。もしかしたら...。」
「『しゅんらん』の周囲から高エネルギー反応感知。拡散波動砲のチャージをしている模様です。」
「春香ちゃん。『しゅんらん』から通信ですぅ。」
「春香、ヤマトのみんな、『しゅんらん』が拡散波動砲で敵艦隊に穴をうがつ。そこから一気に突破して敵の背後に回り干渉装置を破壊するんだ。」
「赤羽根提督、波動砲のチャージは大丈夫なんですか。」
「敵の干渉波でだいぶ出力は低下しているがこちらは新型のエンジンを二基つんでいる。
なんとかなるはずだ。」
「了解しました。」
「全艦隊に通達。拡散波動砲チャージの間『しゅんらん』は無防備になります。『しゅんらん』を敵の攻撃から死守してください。拡散波動砲発射後一気に敵艦隊を突破します。」
敵の高速艦からズールー、フレッチャー、きぬがさ、ゆきかぜ改、ハルバートとヤマトは直援機を発進させ、敵駆逐艦と艦載機を次々に撃墜していく。
宇宙空間をきりさくように光条が幾重にもとびかい、閃光と爆煙が幾重にも発生する。とくにヤマト主砲のサーモバリックモードの威力はすさまじく、巧みにコスモファルコンに引っ張りまわされて主砲の射線上に集まった百機近い敵機が木の葉をちらすように一気に引き裂かれて撃墜されていく。
「対艦ミサイルポッドハッチ開放。」
「敵をロック。追跡開始。」
主砲が当たらない敵機をコスモファルコン隊が次々に撃墜していき、敵機は次々に煙をはいては火球に変わる。その間にようやく『しゅんらん』艦内で
「拡散波動砲チャージ完了。」と報告され、発射シークエンスが進められる。
「対ショック対閃光防御。」
「10,9,....3,2,1,発射!」
『しゅんらん』の三つの波動砲口から放出されたエネルギーの奔流は宇宙の闇を照らして、花火か樹木のように枝分かれをして広範囲に広がり、敵艦隊の包囲網の半分を包むようにひろがっていく。拡散波動砲の網目のように広がった光と熱の支流はムーゼル艦隊の千数百隻の艦艇を貫く。
「!!なんだこの高エネルギー反応は!!」
「かいひいいい~~~~」
「この閃光は…。」
「間に合わない」
「うわああああ。」
「ぎゃああああああ。」
そして次の瞬間には、その艦艇の内部は悲鳴に包まれ、閃光と爆煙に変わって、四散するのだった。
「なんだ…あの兵器は…。」
「うろたえるな。敵の兵器は確かに驚愕に値するがこちらにも戦力は残っておるわ。」
「あの艦…ヤマトともにあの艦もたたきつぶせ。」
「千早ちゃん、右に旋回して。」
「右に旋回します。ようそろー。」
「波動防壁消失。」
「こちらヤマト、こちらヤマト。緊急事態、援護を願います。」
「右舷パルスレーザー砲塔、1番、4番も損傷、左舷パルスレーザー砲塔、5番、6番、9番も損傷!第一副砲損傷。各兵装に深刻なダメージです。右側揚弾機が機能しません。」
「こちら山本新たな敵を発見。アステロイド帯に進入。スロットル閉鎖。速度落します。」
コスモファルコン隊は中間基地の近くに散在する小惑星帯を巧みに飛行して敵編隊の攻撃を試みる。
「ムーゼル様、敵が包囲網を突破し、干渉装置に接近してきます。」
「空母艦隊に通達。艦載機発進。迎撃隊として展開させろ。干渉装置を死守するのだ。それから敵の艦列のポイントになる座標を全艦に送る。そこを集中砲火し、敵の艦列をつきくずせ!」
「全艦主砲、発射!」
ヤマト主砲は敵艦載機隊をのみこんで引き裂いていく。
「回避~」
「間に合わない;。」
その光条はさらに干渉装置を貫いて火球に変えた。
「干渉装置β破壊されました。」
「まだだ、まだ干渉装置は残っている。」
「アステロイド帯に進入。艦速をおとすぞ。」
地球艦隊がさらに小惑星帯に侵入し、『しゅんらん』は拡散波動砲をチャージする。
ふたたび『しゅんらん』から放たれたエネルギーの奔流が暗黒星団帝国艦隊に襲いかかる。
ムーゼル艦隊はこの一撃で干渉装置をすべて失い、全艦隊の9割近い損害を出していた。
「干渉装置すべて破壊されました。どういたしますか」
「全艦退却だ。われわれの目的はやつらの母星への接近を阻止することだ。干渉装置が破壊された今、これ以上ここで戦うのは無意味だ。戦力をととのえて地球艦隊の進路に待ち受けるのだ。」
「はつ…。ところで司令。」
「なんだ?」
「この先にはわれらの中間補給基地があります。地球艦隊の包囲網突破を連絡しておくべきでは?」
「中間補給基地の司令官はグドンだったな。」
「はつ。」
「連絡は不要だ。」
「し、しかし...それでは…」
「いいか、よく聞け。ヤマトはわたしの獲物なのだ。」
「空間歪曲干渉波消失しました。レーダー妨害も解除されましたぁ。」
「敵艦隊退却していきますぅ。」
「なんかえらく引き際のいい敵だな。」
「あの干渉装置にすべて頼った作戦だったから。ここで引き上げなけれは敵の損害はもっとおおきいものになったわ。」
「作戦の内容といい、戦況の把握振りといい敵の指揮官はかなりやり手だね。」
「うん…。」
「春香。今回の戦闘ではかなりの損害を受けた。すぐには敵の攻撃もないだろうから修理したいと思う。どうかしら。」
「はい。よろしくお願いします。」
修理時間は数日を要した。赤羽根が今後の打ち合わせのためにヤマトに『しゅんらん』を接舷させて乗り込む。展望台でつかのまの休憩時に春香は赤羽根に話しかける。
「赤羽根提督。」
「春香か。」
「ついに銀河系の外まで来てしまいましたね。」
「そうだな。」
「あの銀河系の星の輝きは18万年前のものなんですよね…。」
「そうだ。だけどあの星の海の中にわれわれの帰りを待っている地球の人々がいるのも確かなんだぞ。」
「そうですね。」
「恐ろしい敵だったがなんとか勝つことができた。修理を終えたらただちにワープだ。」
「はい。」春香は笑顔で答えた。
「ワープ終了。」修理を終えて20万光年のかなたの空間にワープアウトする。
「11時の方向、距離3万宇宙キロに反応あり。」
「あと数分で画像が出ます。」
「やはり敵の中間基地でしょうか。」
「敵のワープによる空間歪曲エコーの方向、暗黒星雲の方向と一致している。その線上の中間地点。蓋然性はきわめて高いと見ていいわ。」
「映像が出ます。」
「これは...大きいな。」
「10kmは超える大きさだね。」
「敵の中間補給基地と見て間違いないわ。」
「春香、この中間補給基地は避けては通れないわね。」
「そうだね...。仮に無視して通過して先に進んだとしても背後から狙われる可能性があるし、敵が地球を攻撃するための拠点を残すことにもなるね。」
「ひとまず、作戦をねったほうがいいわね。」
「うん、律子さん、みんなを中央作戦室にあつめて。」
中央作戦室の床に敵の中間基地の画像が大写しになる。
律子が指示棒で画面上に映った中間基地のドームを指す。
「このドーム状の部分が敵の艦艇を修理したり、補給したりするドッグになっていると考えて間違いない。こちらで感知した敵艦のエネルギー反応から考えて100隻以上停泊していると考えられる。」
「100隻ですか...。」
「外にいる艦隊を含めるとこの中間基地には150隻ちかい敵艦がいる計算になる。さらにこの中間基地も一定の武装はあるだろうし、これだけの基地だから堅牢である可能性もある。正面からまともに戦ったんでは苦戦は免れない。もしかしたら全滅ということも十分に考えられる。」
「『しゅんらん』がいてもですか?」
「イスカンダルでゴルバと戦ってどう思った?」
「装甲が堅牢というか恐ろしい敵だと思いました。」
「あれは4次元コーティングですべての光学兵器を無効化することがわかっている。空間磁力メッキとならぶ対波動砲の防御兵器ね。あの中間基地もそのようなコーティングを発生させる防御装置を持っていると考えて間違いない。」
「じゃあ、どうするんですか?」
「ドーム内に100隻いるってことは、基地の外には50隻程度しかいないということ。
補給中の艦もいるだろうから実数はもっと少なくなるはず。ドーム内の敵艦を出撃させないようにできれば150隻とまともに戦うのに比較して戦況は全く変わってくる。」
「それで、俺たちの出番ってことですね。」
山本が発言する。
「うん。ドーム内に侵入できそうな穴というか通路になりそうな場所がいくつかある。敵は簡単に通してくれないかもしれないけどドーム内にいる動けない敵を叩き潰す必要がある。できる?」
律子が作戦の内容を説明し、山本のほうへ向いて可否をたずねる。
山本は苦笑して発言する。
「技師長、『できるか』、じゃなくて、『やれ』、でしょう。やってみせますよ。任せてください。」
「山本さん、ありがとう。頼むわ。」
律子は山本の手を握る。
作戦会議が終わると春香は赤羽根に作戦概要を説明する。
「艦載機で内部の敵をたたいてから、外部の敵と艦隊決戦か。中間基地自体の兵装も気になるが順番としてはそういうことになるだろうな。」
「暗黒船団帝国は装甲の堅牢さや四次元コーティングなど外面の防御力を誇る敵ですが、舞さんが狙い撃ちしたゴルバのエンジン噴射口のようになんらかの動力で動かす以上どこかしらに弱点があります。だから最初の艦載機による奇襲が作戦のポイントになります。」
「わかった。こちらも艦載機を発進させる。山本君に指揮下に組み込んでくれ。」
「はい。」
「山本さん、できるだけ多くの敵を沈めてね。あと基地の内部もできる限り破壊してほしい。」
「奇襲だけで決定的なダメージを与えるつもりでやりますよ。なにしろ敵の怖さは身にしみてますからね。まともに立ち上がる前に叩きのめして立ち上がれなくしてやります。」
「無理しないでね。無事に帰ることも考えてね。」
「まあ、見ていてください。コスモファルコン隊発進!」
「!! グドン司令!何か編隊が接近してきます。距離10宇宙キロ!」
「どこの機体かわかるか?」
「おそらく地球の機体ではないかと思われます。」
「地球だと?ムーゼルのやつが2万光年先で迎撃したはずではないのか?」
「そのはずですが…。何の報告も受けていません。」
「ふん。どうせ孺子は敗北して、艦隊をうしなって戦死でもしたんだろう。気に食わないやつだった。せいせいしたわい。あの程度の戦闘機隊でこの中間基地を落せると思っているのか。迎撃機隊発進!当基地のα砲の範囲におびき寄せるのだ。」
ヴェスパブランコ、ヴェスパコルトがコスモファルコン隊を迎え撃つ。
「敵機、接近してきます。」
「う、早いな、発見されたか。」
コスモファルコン隊は応戦してドッグファイトの状態になる。
「グドン司令。敵航宙隊の1/3がなんとか主砲の射程内にはいりました。」
「ふふ。全部とはいかなかったがまあいい。α砲発射準備。エネルギー充填。」
中間基地の下部に複数個ある半球形のカプセルのうちひとつがコスモファルコン隊に狙いをさだめて開いていく。
「!!」
「どうしたの?」
春香がレーダー手に問うと
「敵要塞下部、高エネルギー反応です。」
と答えが帰ってくる。
「山本さん、敵の主砲が発射されようとしています。退避して!」
「みんな左方向に一点集中攻撃!敵の編隊を突き破って脱出する。」
「α砲発射!」
要塞下部から宇宙の闇を照らすエネルギーの奔流が撃ちだされる。
「やつらの逃げる右方向の砲門にエネルギーを充填するのだ。」
「はつ。」
「うわああああ。」
エネルギーの奔流がコスモファルコン隊をつつみ、溶解する。コスモファルコンは次々と引き裂かれて1/5が永遠に失われた。
ムーゼルになんとか勝利し、中間基地まで到着した地球艦隊。しかし最初の梅雨払いのはずだったコスモファルコン隊は敵の巨砲に苦戦することになる。