すさまじいサーモバリックモードの威力に、暗黒星団帝国艦隊の注意はヤマトに向けられ、艦隊の隊列が方向を変えようとする。その隙を赤羽根少将は見逃さなかった。
「全艦、拡散波動砲発射用意!」
「波動砲へのエネルギーパイパス接続。」
「エネルギー充填120%」
「対ショック対閃光防御」
秒読みがはじまり、いっせいに発射されたエネルギーの奔流は、宇宙をてらし、一点で拡散する。
暗黒星団帝国の空母、円盤型の戦艦、巡洋艦、駆逐艦はつぎつぎとエネルギーの槍につらぬかれ、閃光と爆煙を噴出してつぎつぎと四散する。
「敵艦隊、エネルギー反応消失。全滅のもようです。」第七艦隊のオペレーターは安堵したように赤羽根へ告げる。ヤマト艦内でもレーダー手が
「敵艦隊全滅のもようです。」と伝える。
「なんとか勝ったわね。」千早がつぶやく。
「うん。」春香が返事をする。
「見たところ、炎上もおさまっているようだし、あの拡散波動砲の斉射がきまったから助かったようね。」
「千早ちゃん、『しゅんらん』に接舷して。」
「了解。」
「雪歩、有線通信回路をつないで。」
「了解。」
回線をつなぐとさっそく通信があったらしく、雪歩の表情があかるくなる。
「春香ちゃん、さっそく通信がはいっています。」
「ヤマトの諸君。よくわれわれを見つけ出してくれた。ありがとう。」
「赤羽根司令!」
「みんなか、ひさしぶりだな。」
赤羽根は教え子たちをみて笑顔になる。
「連続ワープのテストを行ったが、通信機器が不調になって地球と連絡がとれなくなっていたんだ。そのうち、微弱な通信波をかぎつけたらしく、敵艦隊がやってきた。艦形を照合したところ、春香たちがイスカンダルで遭遇した敵とおなじ暗黒星団帝国の艦隊だということがわかった。」
「なんとか戦ってきたが損害もバカにならず、この小惑星帯に追い詰められたというか、逃げ込んだんだ。そこへ君たちがきてくれたというわけさ。」
「しかし、どうして君たちはここに来ているんだ?ヤマトには、シリウス方面への航海予定はなかったはずだが。」
「あ、そういえば司令は何もご存じないんですね。実は...。」
春香は、暗黒星団帝国の円盤型三脚戦車、降下猟兵、黒色艦隊の侵略があったこと、舞の地球艦隊がそれを全滅させたことを赤羽根に説明した。
「そうか。地球は舞さんたちが守ってくれるからとりあえずは安心だな。ところで春香、敵本星の位置はわかっているのか?」
「重核子爆弾の侵入ルートから逆算しおおよその方角はわかっているんですが正確にはわからないんです。イスカンダルをみつけたときのように手探りで進まなければならない状況です。」
「実は、われわれが暗黒星団帝国の艦隊に遭遇したとき、ちょうど彼らの真正面からワープアウトを確認できたんだ。」
「え!」律子の表情がぱあっと明るくなる。
「それって、敵の空間歪曲エコーを把握できたってことですか。」
「そうだ。そうか!そちらへもそのデータを送ろう。」
「律子さん、空間歪曲のエコーって?」
「大きい質量の物体、たとえば戦艦などがワープアウトする際、その進行ベクトルの真正面に波紋上の空間歪曲が行われたエコーを放出するのよ。微弱な空間歪曲波だから真正面からしか観測できないんだけど、相手がどのくらいの距離をどの方向からワープしてきたかによって、そのエコーの形状が変化するのよ。」
「そうか!つまり敵の来た距離と方向がわかるってことですね。」
「敵がわたしたちのように連続ワープしていなければ、なんだけどね。」
しばらくして計算結果が律子のディスプレイに表示される。
「結果が出たわ。銀河系外周から約20万光年。」
「に、20万光年って?そこになにがあるんですか?」
「今のところ何もないわ。だけど、そのさらに20万光年先に巨大な暗黒星雲がある。」
律子がなにやら保留して答える。
「もしかしたら敵は40万光年先のかなたにあるその暗黒星雲から来たのかもしれないわね。」
いままで無言で話を聞いていた千早がつぶやく。
「さっき今のところ何もないと言ったけど天体が確認されていないだけで、敵の中間基地があっても不思議じゃない。」
「とりあえず敵が来た方向と距離がわかったわけだからそこへ行ってみるしかないですね。」
「まって。春香ちゃん、律子さん、そこに敵の中間基地があるかもしれないんだよね。そこへヤマト一隻で行くの?イスカンダルのときプレアデスとゴルバは一基づつだったからなんとかなったけど、基地にはあの手のこわい戦艦や要塞がいっぱいいるかもしれないんだよ。波動砲は連射できないし、効かないんだよ。」
雪歩が不安そうに話す。そのとおりだ。プレアデス級が複数いたら波動砲で一隻沈めてもエネルギーを回復している状態になっている間にふくろだだきにされてしまう。ゴルバも、舞がエンジン噴射口をねらったが複数いた場合は波動カートリッジ弾を散開させて発射できる範囲に相手がいなければあの強力なアルファ砲にやられてしまう。空間磁力メッキの持続時間が見破られないうちに倒さなければならない。
「そのことだけど、俺から提案がある。」
「地球防衛艦隊の波動エンジンは、あくまでも地球防衛のためで、拡散波動砲などの兵装は充実している代わりに太陽系、外へ出ても銀河系内への航海を前提としていて遠洋宇宙航海用にはできていないのは知っているだろう。一番近い恒星であるアルファ・ケンタウリまでワープを繰り返して一週間かかる。探査用宇宙船の航続距離は現在のところ1万5千光年が限界だ。地球を守るんでなければ緊急性はうすいからね。」
「はい。」
「だが、ヤマト以外に唯一最新鋭のわが第七艦隊のみが遠洋宇宙航海可能な波動エンジンを積んでいる。地球についてはいまの防衛艦隊でも十分守れるとは思うが、今必要なのは遠洋宇宙航海が可能で敵本星をたたける戦力だ。われわれ第七艦隊は、動ける艦だけでも君たちに合流し、敵本星まで同行しようと思うのだが。」
「本当ですか?」
「幸い無人艦のいくつかは主要機関の修理のみで動けるし、この『じゅんらん』もそれほど損傷は重くない。損傷が著しい有人艦が何隻かここに残り、修理を行うが、出発後はシリウス第5惑星基地から補給を行うことが可能だろう。」
「では、ヤマトを含め、艦隊の指揮は赤羽根司令に...。」
「俺は、イスカンダルで暗黒星団帝国と戦って撃破した経験がある春香たちが指揮を執るほうがいいと思う。」
「階級が上の赤羽根司令が指揮をするべきです。」
「そのことだが、通信機器の修理が終わって地球に連絡をとって、日高司令長官から春香、君への辞令を預かっている。再生するから聞いてくれ。」
『春香、元気?第七艦隊を救援したって言うじゃない。事情は赤羽根少将から聞いたわ。あなたを少将に昇進させて、暗黒星団帝国討伐艦隊司令を命じます。赤羽根さんとすくなくとも階級は同じにしたほうがいいでしょ。その代わり帰ってきても昇進はないから、前渡しって形になるけど。(プツン)』
「ということだ。」
「う~ん、あの人らしいなぁ。」
「赤羽根提督。」
「律子、なんだ?」
「技術班第一係をそちらの修理に向かわせます。工作機器はたくさんありますのでご安心ください。」
「春香、少し見ない間に立派になったな。」
「そんな、ちょっと恥ずかしいです。」
春香はほのかに顔を赤らめる。
「修理は万全だ。『しゅんらん』の 準備完了の知らせがとどいている。」
「ヤマトはこれより銀河系を脱出して敵本星のあると思われる方向へ長距離連続ワープを行います。ワープ準備。」
「了解。ワープ準備。」
そのころ、ムーゼル艦隊では...
「時空歪曲場発生装置、すべて設置完了いたしました。」
ヒトデのような機動戦艦ナデシコのチューリップのような機器がムーゼル艦隊の背後に設置される。
「エネルギーパネル動作正常!時空歪曲場発生装置へのエネルギー注入開始!」
ムーゼルは満足そうに報告をきいてうなずくと
「よく聞け。ヤマトは間違いなくわれわれの本星をめざしてくる。銀河系オリオン腕からワープするルートなら間違いなくこの宙域を通過するはずだ。」
と作戦の狙いを語る。
「空間歪曲装置αからλまで、エネルギー注入70%突破。」
(さあ、ワープして来い。ヤマト。貴様らは目的地にたどり着くことはできん。歪曲場にまきこまれ、このムーゼルの餌食となるのだ。)
「空間歪曲装置αからλまで、エネルギー注入100%に到達!」
「空間歪曲装置起動!干渉波照射開始!」
そのころヤマトは予定の連続ワープを順調に終えた...はずだった。
「このワープでちょうど20万光年到達になります。通常空間確認。ワープアウトします。」
「機関正常。エネルギー出力100%を維持。」
「!!」
「ちょっとまって。」
「どうしたの?千早ちゃん。」
「おかしいわね。わたしたちは、都合8回の連続ワープで20万光年を一気に跳躍する予定だったはず。航路記録を見る限りまだ18万光年しかきていないことになってるわ。」
「どういうことだろう。」
春香は小首をかしげる。
「さっきまで正常だったのに...。何か最後のワープでなんらかの異常が発生したとしか考えられない。」
「でも、異常があることを示す報告なり、警報はなかったわね。」
律子が不審そうにつぶやきながら計器を確認する。
「そうだけど...。」
「!!この宙域付近に空間歪曲反応がひろがっています。それと敵影発見。」
レーダー手が報告する。
「なんだって!」
真が叫んでしまう。
「パネルに投影して。」
春香が命じるとレーダー手は機器を操作して画像を天井のパネルに投影する。
「すごい数...よりによってこんなときに...。」
伊織が軽く叫んでしまう。
「敵からすれば、わたしたちが敵の本星に向かっているのは知っているはずだから、待ち伏せをして、わなを仕掛けるのは、考えてみれば当然のことだわ。」
千早が意見を述べる。
「もしかしてヤマトのワープ停止も敵のしわざ?」
伊織が皆に確認するように話しかける。
「律子さん、どう思う?。」
春香は律子に意見を求める。
「空間を広範囲に歪曲する機器があれば、干渉効果でワープ位置を狂わすことができるかもしれないわね。敵の背後にエネルギー放射点がいくつかあわね。拡大できる?」
「はい。」
レーダー手がそのうちひとつを拡大してみせる。
「花というかヒトデというか変な形の装置だね。」春香がつぶやく。
「たぶんそれが敵の空間歪曲装置ね。この付近の空間をゆがめているに違いないわ。」
「敵がレーダー妨害を開始したようです。長距離レーダー、ホワイトアウト。近距離レーダーに切り替えます。」
「困ったことになったね。」
「春香ちゃん、もし敵がワープに干渉してきたらワープで逃げることは不可能だよ。それに敵はわたしたちを完全に包み込むよう布陣している。こ、このままだと集中攻撃をあびちゃうよ。」
雪歩が心配そうに話す。
「それにもうひとつ気がかりなことがあるんだ。波動エンジンもショックカノンも波動砲も空間歪曲の原理を一部使用しているんだ。今のところ計器類に表立った異常はみられないけど、どこかに悪影響が出る可能性もある。」
真も機関長として危惧していることを吐き出すように話す。
「戦力をまとめ一点突破を図るか、分散して敵の布陣を潜り抜けるか…だけど…。どっちにしたって干渉装置を壊さないことにはどうにもならないね。」
春香はため息混じりになるが決断する。
「総員戦闘配置。」
「コスモファルコン隊発進。」
「『しゅんらん』の赤羽根提督に連絡。全艦紡錘陣形で突入開始。」
地球艦隊は紡錘陣形で暗黒星団帝国艦隊へ向かって突入していった。
とにかく包囲網を一点突破して空間歪曲干渉装置を破壊しなければ何も始まらない。春香は決心して地球艦隊は紡錘陣形で敵陣に突入する。