全てを否定せし少年の軌跡(半凍結)   作:龍賀

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少し短いかもですが投稿しときます。
明日ようやく病院に行けますので。

今回はラウラのターンです。
主人公である静は少しだけです。

それではどうぞ!


第23話 少女の決意

 

少女は孤独であった。

少女自身、孤独である事自体は別にどうでもよかった。

力を持つ者は孤独でなければならないと思っていたからだ。

 

少女は普通の生まれ方をしていない。

試験管ベビーというやつだ。

鉄の子宮から生まれ、戦う事だけを学び、いくつもの戦場にて戦い方を身に刻んだ。

少女自身その生き方に疑問は抱かなかった。

何故ならそれしか知らないからだ。

 

そんな少女は何度も戦い続けた。

何度も何度も何度も何度も。

周りからの評価もよかった。少女自身も不満はなく、これからもこのまま生きていくのだろうと考えた。

 

 

しかしそんなある日。

自身の生き方に変化をもたらす存在が現れた。

 

ISである。

 

最初は自身も適正が高く、戦闘経験のある存在という事で問題はなかった。

しかしある出来事が少女の生きる道を狂わせた。

 

越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)

 

ISの適合性向上を目的としたものであり、擬似ハイパーセンサーともいえるモノ。

脳への視覚信号伝達の爆発的速度向上と、超高速戦闘状況下における動体反射の強化を目的としたモノ。

 

本来この瞳に問題はなく、移植してもデメリットがないものだった。

 

しかし何故か少女に対しては完全に適合できず、問題が発生した。

目の色が変わってしまい、見えすぎる瞳は戦場では足を引っ張るだけであった。

コントロールできなければ尚の事である。

 

ゆえに少女への評価は一気に“失敗作”にまで落ちた。

それからは絶望しかなかった。

当然である。

今まで出来た事が出来ず、どんなに足掻こうと無駄なのだから。

 

しかし少女はまだ見捨てられていなかった。

ある日ドイツに1人の女性が来たのだ。

名を織斑 千冬。

モンド・グロッソの優勝者だ。

 

彼女は少女へ言った。

 

「お前は“失敗作”と呼ばれているらしいな……だが安心しろ。私がお前を鍛えてやる。お前をこの隊で一番強い存在にしてやろう」

 

彼女の言葉は少女にとって救いだった。

千冬の言う通りに訓練をした少女は瞬く間に隊で一番の強者となった。

彼女は少女の“光”だ。

自身の暗くなった部分を照らしてくれる存在だった。

そんな彼女へ少女は聞いた。

 

―――何故そこまで強くあれるのですか?―――

 

少女の疑問に彼女はこう答えた。

 

「強さとは何かお前は理解しているか?」

 

少女は質問に質問で返されるとは思っていなかったため少し呆けたが、

 

―――絶対的な暴力

 

そう答えた。

 

「なるほど……そう思っているのならそれでも構わん。だがアイツには勝てんぞ」

 

アイツと言った瞬間の彼女の表情を少女は見逃さなかった。

見逃してはならなかった。

何故なら……今まで見た事の無いほどに穏やかな笑みだったのだから。

 

「もしアイツに出会った時は気をつけるといい。アイツは自身の弱さと強さを知っているからな」

 

“弱さ”と“強さ”

 

真逆の言葉である。

少女自身の嫌いな言葉でもある弱さ。

しかしその弱さこそが同時に強さ足りえるモノだという事をこの時少女は理解できなかった。

強さとはどんな言葉で言い繕おうとただの暴力だ。

それ以上でも以下でもないと。

 

 

だが同時に少女はアイツという存在に興味を持った。

そのモノの強さと弱さ。

それを知れば彼女にまた近づけるのではないかと考えたからだ。

興味と同時に湧いた感情を少女は理解できてはいなかったが。

 

 

この時の感情をきちんと理解していれば少なくとも今以上にややこしくなる事もなかったかもしれない。

その感情が“嫉妬”だということを。

 

 

 

 

 

 

 

真っ黒な空間。

見渡す限り真っ黒で何も見えはしない空間。

ただ見えるのは自分自身のみ。

そんな空間に私、ラウラ・ボーデヴィッヒは存在した。

 

「私は確か……」

 

周防 静と戦い、そして……シャルル・デュノアにトドメを刺されて……

 

「そうか、私は負けたのか」

 

言葉にすればスッと入ってくる。

しかし同時に悔しさがこみ上げてくる。

負けたくは無かった。

負けたいと思うはずがなかった。

敗者とは常に奪われる者だからだ。

ゆえに、

 

「私は力に溺れた……か」

 

VTS。

モンゾ・グロッゾ優勝者の動きを模倣する技術。

禁止されているはずの技術。

それを私は求めてしまった。

 

「そうだよ。そして君は暴走した」

 

私が1人で思考していると目の前に周防 静が出現した。

 

「まさかこんな事がおきるなんてね……予想外だけどある意味都合がいいのかな?」

「都合がいい……だと?」

 

まさか織斑 一夏やセシリア・オルコット、凰 鈴音に攻撃した復讐か?

 

「一応一夏に対しては未遂だったと思うけど……まぁ復讐なんて馬鹿げた事なんて考えてないから安心しなよ」

「何故だ?」

「ん~何故だろうね?僕は何故か今はそれほど君を嫌悪してないんだ」

 

嫌悪していない?

ではどうだと言うのだろうか。

 

「君がそれほどに不安定だった理由は理解したからね。だからこそ護ってあげたいと思えたんじゃないかな?」

 

……おかしくないか?それは。

何故身内に攻撃を仕掛けた存在を護りたいなどと言える!

 

「理由はいたって簡単。君の事が放っておけないからだよ」

「!?」

 

何?

 

「君は昔の僕に少しだけ似てたから……まぁそれ以外にも色々あるんだけどそこは割合で」

 

お前は……甘いのだな。

 

「うん?甘い……うん、そうだね。僕は相当甘い」

「その甘さが周りを傷付けるぞ」

「だろうね。だからこそ」

 

―――僕は護るという行動に手段を選ばない―――

 

おかしな話だ。

護りたいというのであればその甘さを捨てる事そのものが一番効率のいいはずだ。

なのにコイツは……その甘さを背負ったまま護り抜こうとしている。

 

弱さは同時に強さとなる……か。

確かにそうだ。

今なら分かる。

弱さとは自身の大事な存在。

強さとはその大事な存在(よわさ)を護りきる意思。

大事な存在がいるからこそ人は強さを得る事が出来るのか。

だからこそ、お前はそれ程に強いのだな?

 

「僕はまだまだ弱いよ」

 

お前が弱ければ私はどうなんだ……。

 

「さぁ?でもまぁ……僕が強く見えるんなら周りがそうしてくれてるんだろうね」

 

お前には大切な人がいるのか。

 

「うん。それはもう沢山……勿論今は君も入ってるけどね」

 

ッ!?

な、なんだその笑顔は!

 

「え?僕おかしな顔だった?」

 

い、いや……問題は無い!

 

「そう?ならいいけど」

 

……私もお前のような強き存在になれるだろうか。

 

「……僕は無責任になれるとは言わない」

 

……。

 

「けど同時になれないとも言わないよ」

 

ん?

 

「君1人では限界があると思う……寧ろ今がその限界なんだろうね」

 

なら1人でなければさらに強くなれると?

 

「うん。君にその気持ちがあって、護りたいと思える存在が居て、支えあえればね」

 

……私にはそんな存在はいない。

 

「あれ?僕はそうじゃないの?」

 

は?

 

「僕は君の事を護りたいと思うし支えあえたらと思ってるよ?過去に何があったってね」

 

わ、私はお前の敵だったんだぞ!?

何故そんな事が言える!

 

「敵だとか味方だとかじゃないんだよ。僕はただ護りたいと思えた存在を護る……ただそれだけ」

 

まっすぐな視線に思わず……見惚れてしまった。

きっと本当に護ろうとするのだろう。

たとえ以前は敵だった存在でも。

周防 静はそういう存在だ。

ならば、

 

「いいだろう。ならば私もお前を護ってやる」

「……うん。それは凄く嬉しいな」

 

私という存在を賭けて周防 静を護ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

意識が覚醒する。

すぐ横には教官がいた。

 

「きょ、教官?」

「起きたか……さきほど起きた出来事は覚えているな?」

「……はい」

 

VTS。

あれを使用、暴走してしまった事ははっきりと……とは言えないが覚えている。

 

「アレが何故起動したか理解しているな?」

「……私が求めたからですね、貴女と同じ力を」

 

教官は私の憧れだった。

ゆえに力を欲すればそこに行き着くのも至極当然と言える。

 

「お前は私にはなれない、それは理解できたか?」

「はい」

 

教官の言葉に即答すれば教官は何故か驚いた顔をしていた。

ある意味驚いた顔を見るのも初めてかもしれない。

少し得した気分だ。

 

「寝ている間に何があった?」

「周防 静。彼と話をしていました」

「……相互意識干渉か」

「はい」

 

そう言うと教官は納得したように、

 

「成程……さては静に惚れたな?」

 

思いっきり爆弾を投げ込んできた。

 

「……は?」

 

思わず思考が停止する。

私が周防 静に惚れた?

 

「な、なななななな何を!」

「ククク、図星か」

 

い、いや、確かに私を護ると宣言した時の顔が格好良かったなどと思ったりはしたが!

だ、だが!

 

「自分の気持ちに素直になれ、ラウラ」

「……」

 

自分の気持ちに素直に……。

 

「お前はお前だ。お前のその気持ちに嘘偽りは一切ないはずだ」

「……はい」

「それを理解しているのなら今の気持ちも理解できるはずだろう?」

 

……確かにあの笑顔を忘れる事が出来ない。

あの笑顔を。

あの護ると宣言してくれた表情を。

 

そうか。

 

コレが……、

 

 

――好きという感情なのか――

 

 

「ありがとうございます、教官」

「私は別に礼を言われるような事を言ってはいないが?」

「それでも……礼を言いたいんです」

「……なら受け取っておこう」

 

私に素直になれと言ったのに教官自身が素直じゃないというのは……いや、それもまた教官らしいといえばいいのだろうか。

 

「……何か不愉快な事を言われた気がするが、気のせいか?」

「気のせいです」

 

鋭い。

教官は読心術でも習得しているのだろうか?

 

「アイツに惚れたのなら忠告しておこう」

「何ですか?」

「アイツを悲しませるのなら……私は容赦なくお前を斬るぞ」

「……大丈夫です。悲しませたりはしません」

 

奴の悲しんでいる姿なぞ見たくない。

悲しんでいる顔より喜んでいる顔を見たい。

そう思えるから。

 

「ならいい……まぁ競争相手は多いが頑張るといい」

 

自分で入れたのだろうか?コーヒーを飲みながら教官は言う。

ここで少し疑問に思った事を聞いておこう。

 

「教官」

「何だ?」

「教官も奴の事が好きなのですか?」

「ブッ!?」

 

飲んでいたコーヒーを思いっきり噴出した教官。

今日は妙に珍しい教官を見れる日だ。

 

「ゴホッ!ゴホッ!な、何故そう思った」

「いえ、あれ程の言葉が出るのであればその可能性があるのではないかと」

「……家族愛という意味であればYESだ。だが異性としてならば……どうだろうな?」

 

少し意地悪な答えだと思う。

しかしたとえ教官が相手でも、

 

「この戦い(恋愛)だけは負けませんよ」

「フン、言うようになったな」

 

そう。

アイツを好きになったのだ。

私は全力でアイツを愛そう。

それが今の私の生きる意味であり、周防 静という光を見つけた私の存在意義だ。




はい、今回はまぁまぁ早めに投稿できました。
このくらいのペースを維持できればいいんですが……。

この作品のラウラは少しだけ精神的に成長してます。
いや、原作でも十分でしたがね?

静という存在を愛する事を決めたラウラ。
彼女はこの先どう生きていくのか。
こうご期待!
少し依存に近いように感じますがね。

……まぁ今までの文で分かる通り、過度な期待はするだけ損ですけどね(苦笑

では……また次回。

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