全てを否定せし少年の軌跡(半凍結)   作:龍賀

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遅くなった上に内容も何故かオリジナルといいますか重い話と言いますか。

でもこれは必要な話でもありますのでさらっと読んでいただけると幸いです。

次はある程度進展していきますのでご勘弁を。

ではどうぞ!


第20話 壊れている心

「ここは……」

 

意識がまだハッキリとしていないけれど……ここが保健室なのはぎりぎり理解できる。

でも何故……いや、現実逃避は駄目だね。

 

「起きたか」

「織斑先生……」

「その顔だと何をしたか……何が起きたか理解はしているようだな」

「ええ」

 

僕自身が持っている『森羅万象』とISの単一能力である『森羅万象』が暴走して……狂ったんだよね。

はぁ……まさかああなるとはね。

僕自身暴走は一番危惧してたはずなのにね。

だからこそ無表情でいようと心掛けたんだし。

 

「一夏が無事でよかった……一夏を傷付けちゃったら…それこそ」

「お前は……」

 

どうして千冬姉さんが辛そうな顔をするの?

僕自身が悪いのだから悲しむ必要なんてないのに。

 

「いや、お前はもう今日は休むといい……事情は明日聞こう」

「僕は大丈夫ですけど」

「今日はいい……この後疲れるだろうからな」

 

?どういう事だろう。

……もしかして、

 

「鈴やセシリアさん、一夏や箒ちゃんですか?」

「そこにデュノアもいるな」

 

わー凄く怒られそう。

 

「覚悟しておけよ?怒りたいのはそいつらだけではないのだからな」

「……はい」

 

千冬姉さんも説教したいっていう顔してるよ。

でもまぁ……仕方ないのかな?

無関心でいられないのが世の中みたいだし。

 

「ではゆっくり休んでおけ……近々ある試合には間に合う程度の怪我らしいからな」

「はい……すいませんでした」

「分かっているのならいい……ではな」

 

少し疲れてるせいか、すぐに眠気がきた。

 

 

 

 

 

 

「……馬鹿者め」

 

静自身気が付いていて放置しているのだろう。

だからこそ余計に性質が悪い。

 

他人の事を大事に思えるのは美徳だろう。

事実そのおかげでこの学園でも人気があるのだから。

しかし同時に静の場合は欠点にもなりえる。

長所とは同時に短所となりえるのだから仕方あるまい。

 

長所は『他人を優先出来る事』

 

短所は『自身を蔑ろにしてしまう事』

 

静は一夏や凰、デュノアやオルコットのためなら自身の命すら安いと考えている。

それがどれほど周りを傷付けるか理解していながら。

ボロボロの状態で起きたのなら普通は自身の身体の異常を聞くはずだ。

しかし静は『一夏が無事かどうか』を聞いた。

つまりは他者を優先している事になる。

普通は言いすぎだ、それほどでもないだろう……というのかもしれない。

静を知らない者の意見としてはそれが正しい。

しかし知っている者からの意見としては、

 

『自分の命程度で周りを護れるならばそれでいい』

 

という考えが静には染み付いていると理解できている。

ゆえに静をどうにかしないといけないと考えるだろう。

どうすればよいか等わかっていればとうの昔に修正している。

分からないのだから今の状態が続いている。

 

「私はアイツの姉として……姉代わりとして何が出来ていたのだろうな」

 

忙しいからと……言い訳を作りアイツと碌に話さなかった。

この学園で出会う前、最後に話したのはいつだったか。

私は逃げていたのかもしれない。

アイツの中にあるモノに恐怖して。

だが今は違う。

 

「間に合うかは分からんが……少なくとも学園(ここ)にいる間くらいは護ってみせるさ」

 

それが償いに……はおかしい話だが、姉らしい事をしてやれなかった代わりというやつだな。

 

 

 

 

 

 

「……試合かぁ」

 

寝ておきてだけの駄目人間みたいな行動してもう大分時間が経った。

次の試合の事を考える余裕は出来たんだけども……次の試合って確かタッグ試合だよね?

とりあえずシャルル君か一夏だなぁ……他の子だとどうしてもね。

いや、鈴は鈴で相性とかいいし仲も良いからいいんだけど……なるべくなら同性の方が気が楽だよね。

 

「よし……とりあえずは部屋に戻ろう」

 

説教が待ってるだろうけど……仕方ないよね。

僕という存在がそれだけ想われてるという事だろうし。

そうじゃなくても受け入れてくれる存在というモノは嬉しいものだしね。

 

「あ、そういえば……シャルルが部屋にいるような」

「そうだね、でももう遅いかな?」

 

保健室には僕しかいなかったと思ったんだけど……あれ?

 

「シャルル君?」

「うん?」

「何でここに?」

「織斑先生に静が目を覚ましたって報告があって……心配だったから様子を見に来たんだよ」

 

え?という事はここでお説教ですか?

一夏達もここに来るのは時間の問題ですか?

 

「うん、まぁ……そこは諦めるしかないんじゃないかな?」

「ん~まぁ仕方ないのかな?無茶しちゃったし暴走しちゃったし」

 

にしても『万象滅殺』ねぇ?

面白い名前だと言えばいいのかセンスないなぁと苦笑すればいいのか。

 

「そういえばシャルル君も僕の暴走時いたんだよね?」

「うん、あの暴走は凄かったね」

「……で、僕の暴走時の単一能力の力は予想できた?」

「ん~一応かな?予測でいいなら」

「ん、お願い」

 

他者の視点で気付く事ってあるからね。

 

「万象滅殺だっけ?アレは『コアネットワークを経由して他のISの単一能力を使用する』という森羅万象の能力に『破壊対象を効率よく壊す事の出来る能力を瞬時に選び、その能力を本来の使用者よりも使いこなす能力』かな?」

「正解だね……あれだけでよく分かったね?」

「ヒントは一杯あったし静の使い方を見てたら予測くらいできるよ」

「その頭脳が少しでも一夏にあれば……」

「失礼だな!?」

「あ、一夏」

 

いやだな~冗談だよ?2割。

 

「8割本気じゃねぇか!?……はぁ、いつも通りの静見てたら怒る気なくなったなぁ」

「それが目的」

「なん……だと?」

「冗談だけどね」

「アハハ、でも一夏も怒らなきゃ駄目だよ?今回はさすがに」

「そうなんだよなぁ……でもまぁ静が無事ならいいんだ」

 

反省はその次かな?と続けて言う一夏。

……そうやって簡単に言えない事を言うから鈍感だって言われるんだけどなぁ……いや、そこが一夏のいい所なんだろうけどさ。

ほら、シャルル君が吃驚してるよ?

というよりも箒ちゃんもセシリアさんも鈴も何で全員集まってるんだろうね?

後ろでゴゴゴって擬音が聞こえてきそうな程の迫力を纏って待機してるんだけど…怖いね。

 

「静!」

「ん?」

「どうしてあのような無茶をした!する必要などなかっただろう!」

「無茶した理由?単純だよ?凄く単純」

 

理由なんて無理やり求めるのも間違ってるけれど、

 

「大切な人達を侮辱され、傷付けられた……僕にとって無茶する理由にはそれで十分すぎるよ」

「ッ!…だが!それで静が傷付いてしまっては……無意味だろう!」

「無意味なんかじゃないよ?それを無意味だなんて言われたら僕はどうすればいいのさ」

 

そう。僕が無茶をしても行為そのものを無意味にされちゃあ意味がない。

 

「はぁ……まぁ今回はあたしは強く言えないけどさぁ、もう少し自分を大事にしなさいよ」

「ん、肝に銘じとくよ」

 

まぁこの性格は簡単に治らないのだけどさ。

 

「とりあえず一夏さんも静さんも無事なのですから幸いでした」

「そうね、一夏はともかく静が無事でよかったわ」

「俺はともかく!?」

「そうだな」

「箒まで……」

 

一夏が落ち込むまでが一連の流れです。

 

「えっと」

「シャルル君はとりあえず先に部屋に戻ってて、何なら今日は先にお風呂入ってていいよ?」

「……じゃあそうするね」

 

落ち込んでる一夏をどうにか元気付けようとしたんだろうけど……今はいいからね。

 

「で、シャルル君には悪いけど離れてもらったよ」

「そうね、まぁ……アンタの今の状態を説明しても理解できないだろうから丁度いいわね」

「今の静の状態?」

 

えっと……何で鈴が知ってるのかな?

てっきり怒るのは幼馴染だけで!とかいいかねないと思ったから先に戻ってもらったんだけど。

あ、でもそれだとセシリアさんも離れちゃうか。

 

「静は身体が弱いから普段から少し顔色が悪いだとか言われてるのは知ってる?」

 

え?そんな風に言われてたの?

いや、あながち間違いじゃないからいいんだけれども。

 

「でも顔色が悪いのは身体が弱いからじゃないの……一夏や箒は知ってる?『気羅』って」

「あ、あぁ…一回千冬姉から聞いた」

「私も千冬さんからだが」

「そう……なら気羅がどういうモノか聞いた?」

「いや……気羅って名前だけだな」

 

うわぁ……全部言っちゃうつもりなのかな?

 

「気羅は使っている人がもはやいないとまで言われたモノらしいわ……理由は分かる?一夏」

「え!?えっと……なんでだ?静が使ってるのみた限りじゃあかなりあぶないからか?」

「そうね、それも理由の一つ……危険なものはそれだけ非難されるものだもの」

「それ以外に理由があるのか?」

 

箒ちゃんの不思議そうな表情を見ると罪悪感が……いやまぁそれ覚悟で使ってるのだけれどね?

セシリアさんもポカーンとしてるなぁ、怪我してるのに余裕あるんだね。

 

「気羅は使用者の命そのものを媒体にして使っているそうよ」

「「え?」」

「……それならある意味納得できますわね、あの威力を生身の人間が出すなんて普通は不可能ですもの」

「そうね、命そのものから生まれるエネルギーは莫大でその分威力も申し分ないみたいよ」

「ちょ、ちょっと待てって!それじゃあ静は毎回死に掛けながらアレを撃ってるって事か!?」

「そうよ、だから千冬さんは無駄撃ちさせないようにしてるじゃない」

 

そういえばそうだね。

でもやっぱり撃っちゃうあたり僕は駄目なのかなぁ。

 

「静!本当なのか!?」

「えっと……うん」

「何故そんな事を!」

「必要だと感じたから」

「必要ないだろう!少なくとも静の命を犠牲にしてまででは……ないだろう」

「必要だよ」

 

護りたいモノを護ろうとしたらそれ相応の力がいるんだよ。

 

「人は何かを犠牲にしないと学ばない存在だし護れない存在だよ、だから僕は自分自身の命を払った」

「何故……そこまでして!」

 

何でって聞かれてもなぁ…。

 

「最初は死ぬつもりで習得したんだよ?コレ……早く死にたいから命を消費し続けて死のうとしたんだ」

「ッ!」

 

それ以外の方法はまるで誰かに邪魔されてるかのように無理だったからね。

藁にも縋る思いだったよ。

 

「でも習得して、消費し続けて……何もかもに絶望してたあの時に、千冬姉さんや一夏に出会った」

 

まぁ今は語るべき事でも記すべき事でもないけどね。

 

「だからこそ僕にはこの能力(チカラ)が必要なんだ」

「それが自身の命を犠牲にしているとしても?」

「当然」

 

それぐらいしないと駄目だって事だよ。

 

「しかし!気羅を使わなければ少なくとも削る必要性はないのではないのか?」

「ううん、気羅はそんな便利なものじゃないよ?」

「そうね、なんせ使わなくても消費し続けるなんていうんだもの」

「何!?」

 

そう、まぁ気羅とはそういうもので。

『命』というエネルギーを入れている器を壊して使用するのが気羅な訳で。

一度壊れたコップから水が決して零れずにすまないのと同じように。

壊れた器ではとめどなく溢れる命は止められない。

止まらないんだよね。

 

「だからこそ残りに命を君達に使いたい……たとえ壊れていると言われようとね」

「そんな事言うはずがないだろう!そんな事……言うはずがッ!」

「そうだぜ静!俺達がお前の事をそんな風に言うかよ!」

「そうね、まぁ一夏の言う通りよ……アンタの事をそんな風に言うやつがいたらあたしがとっちめてやるわ」

「そうですわね、その時は私も手伝いますわ」

 

……そうだったね。

そうだった……この子達はこういう存在だった。

僕という異物(ばけもの)を人間として認めてくれる。

否定する事しか出来ない僕を肯定してくれている。

だからこそ護りたいと願ったんだ、だからこそ……僕のこの命に代えても護り抜きたい。

 

「本当はもっと説教をする予定だったんだがな……仕方ない、また明日でいいだろう」

「そうだな、静も今日は負担が大きいだろうしな」

「静はおとなしく部屋に戻って寝てなさい」

 

皆の優しさが理解(わか)らない。

返す事が出来ないモノをこちらに向けるのか理解できない。

でもきっとそれは仕方ない事なんだろう……たとえ皆が否定しようとも僕が壊れている事に違いはないのだから。

 

「うん、じゃあちょっと寝てくる……おやすみ」

「「「「おやすみ」」」」

 

僕はきっと……手遅れ(・・・・)だろうから。

だから僕のようにならないように皆を見ておこう。

死ぬのはそれからでも遅くないはずだから。

 

 

 

 

 

 

「……行ったか」

「ええ」

 

静が部屋に向かった後、まだ一夏達は保健室にいた。

理由は簡単。

 

「静のやつ……間違いなく死ぬ気だよな」

 

静が未だ死ぬ気でいるからである。

 

「静は昔の出来事が原因で壊れてしまった……周りの本当の評価がそうなんだけど」

「昔の出来事?それはなんだ」

 

昔の出来事。

この場合中学2年生とかで出来る黒い歴史だったりはする訳がないのだが。

静の場合は家族そのものを失った出来事である。

それを知る者はそれほどいない。

何故ならそれはなかった(・・・・)出来事なのだから。

 

「一応本当の事だって前もって言っとくわよ?」

「無論だ、ここで嘘を言っても意味はないだろう?」

「それもそうね……じゃあ言うわよ」

 

そこから先は以前千冬が鈴音に喋った内容と差はない。

静が自身の能力によって家族を誤って消してしまった事。

ソレが原因で静は死に急ごうとしてしまう事。

千冬という存在に出会うまで絶望しかなかった事。

 

「これが一応千冬さんに教わった静の過去よ……本当は静本人から話されるまで待つべきなんでしょうけどね」

「そうも言ってられませんわ……静さんは簡単に言う人ではありませんもの」

「そうだな……きっと最後まで黙ってるつもりだろうしな」

 

妄信と信頼、信用は違う。

時にはたとえ大切な存在であろうと疑うべきであるのだ。

それがどんなに苦しくても、醜くても。

本当に大切ならば妄信などしないはずであると。

 

「さっきの言葉も静にはそれほど響かないと思うし……今のままじゃあ確実にアイツは死ぬわ」

「何とかする方法はないのか!?」

「それがあったらとっくの前にしてるわよ!たとえどんな手を使ってでも!」

「ッ!……そうだな、すまない」

「……ううん、そっちの言いたい事も分かるし焦るのも分かるわ、寧ろ怒鳴ってゴメン」

 

鈴音も箒も焦っている。

いや、この場にいない千冬もそうだ。

静を少しでも想っている存在ならば誰だってそうだ。

ゆえに2人を責める人もこの場にはいない。

 

「静がどう思ってるかなんて分からねぇ……俺は静じゃないからな」

 

でも、と一夏は続ける。

 

「静自ら死のうとしてるのをそのまま見てるほど薄情じゃないつもりだ……それは皆だってそうだろ?」

 

当然。と全員が頷く。

 

「なら少しでも静を助けられる可能性を考えようぜ!俺達に出来る事は今はコレだけしかないんだからな」

「……本当に一夏か?」

「ひでぇ!?」

 

全員が頷くのも無理はないかもしれない。

しかし織斑 一夏という存在は大切な存在の危機にはありえないほどのチカラを発揮する存在だ。

ゆえに今回も黙ってはいられなかった。

 

「とりあえず俺は千冬姉に色々聞いてみる……この刀を渡してきたのは千冬姉なんだ、きっと何か知ってるはずだ」

 

封刀と呼ばれた日本刀を渡してきたのは千冬である。

ゆえに何かを知ってるのではないかと一夏は思考する。

 

「そうね……あたしも色々調べてみるわ」

「私も調べてみますわ」

「……そうだな」

 

箒は唇をかみ締めた。

何故なら箒という存在は代表候補生でもなければ元代表の弟でもないのだ。

つまり調べる術がない。

 

自分は静の力になると決心したばかりなのにコレだ……と内心思ってしまう。

自分はISの製作者の妹でしかないのだと。

 

(力があれば……私にもISがあれば静を護れるのだろうか)

 

そして彼女は願う。

 

ISを……大切な者を護る力を。

それが自身や周りを歪めてしまう切欠になるとも知らずに。




佐天様、感想感謝です。

今回はどうだったでしょうか?
一応主人公がどこか壊れているなぁ・・・と理解していただければ幸いです。

実は壊れている描写は自分をそのまま書けばいいので案外楽だったりします。
といっても種類が違いますので少し苦戦しますが。

静が壊れた切欠は確実に家族が本当の意味でいなくなった日です。
ですが歪んでいく切欠は実は他にもあります。
それをいつか過去編、もしくは回想で表現できたらな・・・と思ってます。

次の更新はなるべく早めにしたいと思ってますので頑張ります。

では!また次回!

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