残念!暴走回でした!
2015/8/2 改稿
SIDE 川神鉄心
モモから始めたじゃれあいじゃが、周りに被害が出ているにも関わらず、どちらも意地になっておりやめる気配がない。唯の子供同士のじゃれ合いならともかく流石にこれは見逃せんの
「ええ加減にせんか!」
「げぇっ!?ヤバい!」
「顕現の参・毘沙門天!」
儂の奥義の一つ、毘沙門天の一撃によってモモも龍二君も一緒に潰された。普通は使わない技じゃが、あの二人を止めるにはこれくらい必要じゃろう
毘沙門天が消えた後には地面に残ったクレーターが、さらにその中心には二人が泥だらけになって倒れていた。流石に手加減したからの、怪我はないはずじゃ。
「ぐ、ジジイ何すんだ…」
「今は鍛錬の最中じゃ。周りに迷惑をかけるでないわ!」
ゆっくりと起き上がってきたモモに説教をしながら全く起きる様子のない龍二君を見る。彼の実力なら今ので気絶することなんてないと思うのじゃが…
「モモや、龍二君を起こしてあげなさい。またすぐに鍛錬を始めるぞい」
「ん?なんだ気絶してたのか?おい起きろー」
モモが龍二君をゆすって起こそうとしているのを見た後、周りの修行僧たちを整列させて次の鍛錬を始めさせようと後ろを向いた瞬間、
ゴゥッ!!!
『…っ!?』
背後から巨大な、あまりに巨大な気の奔流が放たれた。一瞬の出来事故、まるで爆弾が爆発したかのような衝撃波が川神院を揺らした。
修行僧の中でも実力のないものたちは、今の衝撃で吹き飛ばされ気絶している者もおるようじゃ。
すぐさま後ろを振り返ると先ほどのクレーターが二回りほど大きくなっており、その中心は砂煙で見ることができん。先ほどまであそこにいた二人は一体どうなったんじゃ!?
「……」
「…龍二君かの?」
砂煙が晴れると、中心に龍二クンが立っておった
顔を伏せておるので表情はわからぬが、明らかに放たれる気と雰囲気が変わっておる。…まずいかもしれんの
周りのものに警戒を促そうとした瞬間
ズゴォォォォォォン!!!!!
龍二君からもう一度莫大な気が放出された。なんという気じゃ!儂やモモをはるかに凌いでおる!
「皆の者は全力で結界を張れい!師範代は儂と共に龍二君を止めるぞ!!」
『はっ!』
「こりゃまた、骨が折れそうだ」
「気が抜けないネ」
やれやれ、老体にムチ打つとするかの。
儂の毘沙門天がきっかけで龍二君が暴走を始めてしまったようじゃし、なんとしてでも止めねば
「ハッハァー!!」
「ホアチョォォォォ!!」
「…」
クレーターの中心から一歩も動かない龍二君に向かって、釈迦堂とルーの二人が同時に躍りかかり近接格闘を仕掛けるが、彼は一歩も動かず無表情のまますべての攻撃を捌いておる。壁を越えた者二人の同時攻撃を捌き続けるとはっ!
「しゃらくせえな、おい!」
「釈迦堂!いったん離れるんダ!大きいの行くヨ」
このままではらちが明かぬと判断したルーはいったん龍二君から距離をとり、気を高めた。
「ストリウムファイアー!!!」
「…」
師範代の全力の攻撃が龍二君を飲み込み巨大な爆発を引き起こした。少々手荒いがこれくらいやらんと今の彼は止まらんじゃろ
「やったか?」
「多分ネ。アレをくらって無事なわけないヨ」
爆発で姿が見えぬ龍二君を仕留めた、と師範代二人は考えているようじゃが
「効いてはいるじゃろうがまだまだ油断できん。気を抜くでない、…っ!ルー!避けるのじゃ!」
「…エ?」
一瞬じゃった。一瞬、空中に稲妻が走り、それがルーに向かっているのを儂は見た。そして稲妻がルーの横を通り抜けた瞬間、無数の切り傷がルーの全身に刻まれ、何が起こったのかわからないといった表情でルーは崩れ落ちた。
「…」
「んなっ!?」
「いつの間に!?」
ルーから少し離れていた儂にも、すぐ近くにいた釈迦堂にも気づかれずに、いつの間にか龍二君がルーの後ろに立っておった。まさか雷の速さで移動したというのか!?
唯立っているだけの龍二君は全身から雷を迸らせ、感情を感じさせない瞳でこちらを見てくる。ヒュームの雷を受け継いでおるとはの。しかしヒュームはそこまで教えてないと言っておった。おそらくは今まで体で体感したことを本能で再現しておるのじゃろう。つまり意識はなく完全に本能だけで動いておる。そこに勝機を見いだせればよいが…
「儂の瞬間回復も使えんし、速さも反応できるかどうか。さてどうするかの…」
「おいおい、そんなのんきに構えてていいのかよ?これかなりヤバいぜ?」
「わかっておる。しかし策もなく戦うのは無謀に過ぎる。一体どうすれば…」
「…そう言えばなんで今は動かないんだ?」
「ほ?」
「今こうやって話してる間にもあのスピードなら俺たちを一瞬で倒すこともできる。でもなんでか動かねぇ、一体…」
「…本能、今の龍二君は本能だけで、…本能、本能。そうかっ、生存本能じゃ!」
「はぁ?」
「今の龍二君は本能だけで動いておる。しかもそれは生物の根源ともいえる生存本能でじゃ。」
「…それってアンタの毘沙門天があいつの生存本能呼び起こすレベルのものだってことなんじゃ…」
「…つまり今の彼は本能的に危険と感じる者には反撃、迎撃を行うがそれ以外には無反応ってことじゃなかろうか」
「流しやがったな。ってことは俺たちのラッシュは危険に感じてなかったってことかよ…。結構へこむぜ」
「へこむのは後にせい。とりあえず彼の体力が尽きるまでこのままでいるのが良いかの」
こちらから刺激を与えなければ彼は攻撃してくることはなさそうだからの。全身から電撃を放出してる今の状態ならそんなに長い間は保たないじゃろ。
やっと見通しがついたことに安心してしまい、ほんの少し力を抜いてしまった。おかげで儂の横を高速で駆け抜けた存在に気づくことができんかった。
「私を置いて楽しそうじゃないかっ!川神流・無双正拳突き!」
「「モモッ!?(百代っ!?)」」
最初の爆発で吹き飛ばされていたであろうモモが龍二君に高速で近づき攻撃を加えた。龍二君は雷速で後ろにさがり躱したが、その瞳にモモを映していることは明らかじゃった。
「モモッ!オヌシなんてことを!」
「私を置いてみんなでドンパチしてるなんて、許せないなぁ…」
「そんなこと言うとる場合でない!」
まさかここでモモの戦闘狂な部分が悪く働くとは…。最悪のタイミングじゃ
龍二君を見てみると、放出される電撃がより激しくなりそれが右手に集中してきている。これは、何かを形作っておるのか…?
アレを完成させてはマズイ!、と、この場で戦っている三人の脳裏に浮かんだ。これが最後のチャンスじゃ!
「儂が大技を叩き込む。二人で隙を作ってくれい!」
「わかった!」
「了解っと!」
今更手加減とかなまっちょろいこと言ってられんの。儂は奥義を放つために自らの気を極限まで高めてゆく。
モモと釈迦堂は全身から強力な電撃を放出している彼に近づけんから遠距離攻撃を仕掛けておる。幸い今の彼は電撃の武器を形作るためか雷速で動けんようじゃ。二人の攻撃を唯の体捌きで避け続けておる。
…十分すごくね?
「くっ!電撃が邪魔で近づけねえじゃねえか!」
「こいつはかなりマズ、うわっ!?」
「…」
ただ放出しているだけとはいえその電撃は膨大。儂よりも前にいる二人に容赦なく降り注いでくる。それにどうやら儂らの作戦に気づいたらしいの。今度は儂に狙いをつけたようじゃがもう遅いわ!
「九の顕現 天津甕星!」
宇宙から巨大な隕石を高速飛来させるこの技、被害がでかいからあまり使わぬが今回はしょうがないじゃろ。
儂の持つ技の中でも屈指の威力を持つ奥義、喰らえぃ!!!
「…!?」
天空から迫ってくる儂の奥義を見た龍二君はすぐさま手の中の電撃を消し去った。マズイ、雷速で避ける気か!?
「おいおい、私を忘れるなよさみしいじゃないか。無双正拳突き!」ドゴッ!
突然モモが龍二君の背後に現れ、移動前の一瞬の隙に強烈な一撃を食らわせおった。
今まで気配を隠しておったのか!ギリギリでガードはしたようじゃが、勢いまでは殺せなかったようで隕石に向かって吹き飛んでいきおる。よくやったぞいモモ!
吹き飛ばされた龍二君は隕石に一直線に向かっていき、
ガギィッ!!
「…っ!」
落下してくる隕石に直撃、隕石を両手で押し返そうとしながらも全くの無力。そのまま地表に向かって落下してくる。
カッ!!!
一瞬世界から光と音が消えたかと思うほどの大爆発。修行僧たちの結界のおかげでそこまで大きな被害ではないが、結界の中は見る影もないほどにボロボロじゃ。結界自体も今の爆発で壊れてしまったようじゃしの。
さすがにこれなら、と思いさらに巨大になったクレーターの中を覗いてみた。その中心は今も煙を吹いておるから良く見えぬが、微かに龍二君の気を感じる。どうやら生きておるようじゃの。
とりあえず助け起こそうとクレータの中に降りた瞬間、
バチッ!
「な!?」
雷光がはしり、龍二君の気が目の前から消えた。まさかまだ雷速移動ができたとは…
煙が晴れた時、クレーターの中心にはボロボロになった子供用道着の上半身部分しかなかった…
感想欄でのヒュームへのディスりっぷりに笑った。
皆さん、ヒュームは不器用なだけなんです!!(笑)