俺は料理人志望なんだけど…   作:イタクァ

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メロウコーラ(と名付けた普通のコーラ)を飲みながらランキングを見てみると、

日間1位


…画面がべとべとになりました


2015/7/28 改稿


試験と結果

SIDE 九鬼揚羽

 

 

「ここにある食材は好きに使ってよい。制限時間内に我らの舌を満足させる料理を作ってみよ」

「はいっ!」

「うむ。それでは、開始っ!」

 

 

 

 我の合図と共に石川龍二は厨房中を周りはじめた。食材の確認のためだろうが、えらく目を輝かせているな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実際のところどうなのだ?あいつの腕のほうは?」

「正直なところよくわかりません。あいつが作った料理を食べたことがありませんので」

「おいおい、それでこんな試験を始めたのか?いくらなんでも無謀だろう」

 

 

 

 隣に侍るヒュームにあやつのことを聞いてみるが、いくらなんでも適当すぎるわ。

 6歳児が夢を持っているのはわかるが、下手したらその夢をつぶしかねないことをするなど年長者のすることではないと思う。まあ我もそこまで年上というわけではないのだが…

 

 

 

「確かに大人げないことをしているのは自覚していますが、あいつは普通の6歳ではありませんから」

「…随分とあやつをかっているのだな」

 

 

 

 姉弟子の我よりも高い評価を受けているようで少し妬けるな…

 

 

 

「かっている、というよりも興味があるといったほうが正しいですな。あいつは今までにない発想の技や動き、アイデアを出してくるので見ていてなかなかに興味深い。調理技術のほうも一度それらしきものを見たことがあります。ずいぶんと曲芸じみたものでしたが」

「曲芸?」

「はい。捕まえた川魚を空中に放り投げ、地面に落ちる前に三枚におろしていました」

 

 

 

 なるほど、確かに曲芸だ。

 …頼んだら見せてくれるか?

 

 

 

「すいません、揚羽さ…様。なにか嫌いなものやアレルギーはありますか?」

「ん?いや、特にないな」

「ヒュームは?」

「俺も特にない」

 

 

 

 そういって調理場に戻っていく龍二。我らの好みを聞くあたり、年の割にはなかなか気が利いているな。それにどうやら食材選びも終わったようだな。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 二人にタブーの食材はないか聞きに行ったけど怖えー!揚羽様って呼べっていう無言の圧力がヒュームから飛んできやがった。

 それにしてもさすがは九鬼の厨房だな、見たことない調味料や食材がたくさんで目移りしちまうぜ。

 まあいいや、始めようか。今回は試験だからな、俺の得意料理でいくぜ!

 

 

 

 

 

 まずは二つの鍋を用意して二種類の出汁を作る。今回使うのは深みのある昆布だしと強い旨味のある鶏がらスープだ。

 昆布は軽く汚れを拭き取ってからキッチンばさみで切れ込みを入れ、鍋の中で水に少しの間漬けておく。

 鶏がらは沸騰した湯に入れて、下茹でしてから血合いや内臓を綺麗に掃除する。綺麗になったら鍋に、生姜、ニンニク、ネギなどの香味野菜と一緒にいれて、弱火でじっくり旨みを出していく。強火でやると白濁したスープになってしまうので火加減には気を付けるのがポイントだ。

 出汁ができてきたら今度は鶏肉だ。歯ごたえを楽しんでもらうためにジューシィなモモ肉としっとりとした胸肉の二つを使おうか。どちらの肉も常温に戻してから、全体にフォークで穴をあける。皮目にもしっかりとフォークを刺してから、金串をさして皮目を炭火で焼いていく。こうすると余分な脂が落ち、皮目がパリッとするんだ。

 後は皮がはがれないようにしっかりと一口サイズに切ってから、タマネギもカット。卵を溶いたら準備は完了だ!

 専用の鍋に昆布と鶏がらの合わせ出汁を入れて具材を煮ていく。ここで卵を投入していくのだけどポイントは、玉子は二回に分けて、鍋の縁から入れていくことだ。一回目に鍋の縁に卵を回しいれてから、箸で卵を鍋の中心に動かしていく。卵は鍋の縁から固まっていくから、固まった卵を中心に、そうでない物は縁にやっていき全体の火の通りを均一にする。全体が固まったら残りの卵を投入。卵が固まらないうちにご飯の上に乗せてどんぶりにふたをする。これで完成だ!

 

 

 

 

 

 

SIDE ヒューム・ヘルシング

 

 相も変わらず曲芸じみた動きだ。だが作業は早く丁寧だな。一人で4~5人分くらいの動きはしているだろう。

 

 

 

「ほう、あれがヒュームの言っていた曲芸か」

「はい。前見た時よりも動きのキレが上がっていますが」

「フハハハハハ!それほど気合が入っているのだろう。これは楽しみだ」

 

 

 

 玉ねぎが空中で切れていく様を見た揚羽様はとても楽しそうだ。

 確かに調理は派手だがやっていることは丁寧だ。その前の気遣いも悪くない。しかし一番はやはり味だろう。そこが悪ければ意味がない。

 

 

 

「それでは召し上がれ」

「うむ。いただこうか」

「…」

 

 

 俺の目の前にあるのはふたがしてある丼。ふたを開けてみると食欲をそそる鶏肉の芳醇な香りが漂ってくる。

 親子丼か。うまく作ろうとすればなかなか難しいものだがこれはしっかりと形になっているな。卵の半熟具合も悪くない。

 

 

 

「ではいただこうか」

「…っ!」

 

 

 

 随分と力を入れて願っているが俺は甘い採点はしないからな。

 そうして一口食べてみると、

 

 

 

「…これは」

「…なるほど」

 

 

 

 そのまま俺たちは無言で親子丼を食べた。どうやら揚羽様も俺と同じような感想を持ったようだ。不安な顔をしながら小僧がこっちを見ているがはっきりと言わせてもらおう。

 

 

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 無言で親子丼を食べきった二人だがそれ以降何もしゃべらない。え?何?俺なんかやらかした!?

 

 

 

「…ヒューム、我の代わりに言ってくれ。うまく言葉にできん」

「かしこまりました」

 

 

 

 なんかすさまじく不安なんだけど…。

 

 

 

「小僧、お前の調理技術は悪くない。その年の子供の中では間違いなくトップクラスだろう」

「お、おう」

「だが、料理自体は別だ。確かに完成度は高いがそれは家庭料理、大衆食堂の料理としてだ。これでは高級レストランなどでは出せる品ではない」

 

 

 

 

 確かに前世でも唯の学生だったし、今世でも定食屋の手伝いしかしてなかったからな。そこが弱点として出たか…

 

 

 

「正直唯の料理人が試験でこれを出して来たら俺は叩き出すだろう」

「っ!」

 

 

 

 …ダメか

 

 

 

「…が、お前はまだ6歳だ。その年でここまで作れるのならば見込みはあるのだろう」

「…え?」

「正直に言ったらどうだ、ヒューム。うまかったと」

 

 

 

 俺は二人の食べた後のどんぶりを見た。二人とも完食している。

 

 

 

「我に提案があるのだが」

「なんでしょうか?」

「うむ、こやつの才能はかなりのものだ。このままにしてしまうのは惜しい。だから九鬼専属の店で修行をさせてはどうかと思うのだが」

「…はい?」

「なんだ?嫌なのか?」

「い、いえ!そんなことはないんですが、その、いいんですか?」

「何がだ?」

「部外者の俺をそんな風に優遇して…」

「九鬼は優秀なものならば誰でも迎え入れる!年齢や過去などどうでもよいわ!」

 

 

 

 

 やっべぇ、超かっこいい…

 

 

「ただし、将来は九鬼に就職してもらうのが条件だがな」

「は、はいっ!」

「揚羽様、その案自体はよろしいと思いますが、さすがに今は幼すぎます。中学生になってからでどうでしょうか?」

「うむ、そのくらいが妥当だろう。ということだ、これからも精進するように!」

「…ありがとうございます!!!」

 

 

 

 超嬉しい!やべえ、こんなにうれしいのは前世も含めて生まれて初めてだ!!

 

 

 

「今日のところは帰れ。来週からまた厳しくやるぞ」

「はい!」

 

 

 

 ヒュームがなんか言ってるけど全然気にならねえ!

 

 

 

「ありがとうございました!」

「うむ!また会おうぞ!」

 

 

 

 イヤッホーイ!揚羽様に足向けて寝らんないぜ!ヒュームは別にいいけど

 

 

 

 

*************************************

 

 

「ハハハ!面白いやつだな」

「…まあましなヤツだとは思いますな」

「フム、ヒュームよ。龍二を例の奴ら(・・・・)とあわせろ」

「…よろしいのですか?」

「あやつなら問題ないだろう」

「わかりました。少ししたらあいつを連れていきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…よく考えたら修行内容変更なしじゃねえかああああああ!!!!!」

 

 

 




皆さんの応援が作者の力になります。

これからもよろしくお願いします。

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