俺は料理人志望なんだけど…   作:イタクァ

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難産でした。今回のシーンはかなり重要なシーンなのでどのようにまとめるか結構考えました。
まあいろいろ思うところがあるかもしれませんが、できる限り優しい目で見て欲しいです…

では、どうぞー


喧嘩と正義

side直江大和

 

 

「すごいなここは、なんでも置いてあるんだな」

 

 

今日は金曜集会の前に新メンバーであるクリスとまゆっち(黛のこと)に秘密基地の案内をしていた。みんなで持ち寄った漫画やゲームがたくさんある部屋にクリスもまゆっちも驚いているようだった。

 

 

「この棚にはみんなが持ってきたオススメの漫画が入ってるんだ。面白いのばっかりだから是非読んでみてよ」

「クリも持ち込んで良いからね。ジョーとか読んだことある?激アツよ」

「スポ根系は大抵ワン子のだな」

「電気系統はクッキーのコンセントに繋ぎな」

「わっ、ちょ、いきなりはマナー違反だ!」

 

 

ガクトがクッキーのコンセントにいきなりは突き刺して怒られている。改めて考えるとクッキーみたいなロボットを作れるなんて九鬼は凄いなあ。

 

 

「うーん…」

「どうした?何かわからないことでも?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で?」

「え」

「この場所にどういう意味があるんだ?」

 

 

クリスの一言に空気が凍った

 

 

「遊びたければ家でも良いだろう。わざわざこんなところに集まる意味がわからないぞ。少なくとも、建設的な行為ではない」

「おいクリス、やめろって…」

「率直な意見だ直江大和」

 

 

やめろ、それ以上言うな…っ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このような廃ビルはさっさと取り壊すべきだな」

 

 

クリスのこの一言がトリガーとなり、部屋の一角から凄まじい怒気が膨れ上がった

 

 

「お前死ねよ」

 

 

読んでいた本を床に落とし立ち上がった京の言葉は冷え切っており、発している怒気と相まって部屋の温度が一気に数度は下がった気がした。

 

 

「っ⁉︎」

「よくも…よくも好き放題言ってくれたなぁぁ!!!」

 

 

怒りで顔を歪めた京が今にもクリスに飛びかかろうとすると

 

 

「ほれ、落ち着け京」

「え⁉︎兄さん⁉︎」

 

 

いつの間にか来ていた兄さんに抑えられていた。それでも怒りが収まらないのか血走った目でクリスを睨みつけている。

 

 

 

 

 

 

 

 

side石川龍二

 

秘密基地に入ったら部屋の中がなんか修羅場になってた。

まあこんな軽く言ってるけど実際のとこは京がクリスに飛びかかりそうになるほどだったので、俺はすぐさま京を抑えて取っ組み合いになることは防いだ。

 

 

「…誰か簡潔に事情を説明」

「あ、あの、えーと…」

「クリが、えーっと」

「大和」

「秘密基地の案内してたらクリスがこのビルのこととっとと取り壊すべきって言った」

「よくわかった」

 

 

とりあえず現状の説明を周りに求めると黛とワン子が何だかアワアワ言っていた。努力は認めるけど今は京が暴れそうだから手短に頼みたいので大和に頼んだ。流石は軍師、簡潔な説明で一旦理解した。

 

 

「わからないだろ、お前には!この場所が!この空間が!どれだけ…どれだけ大切なのか!!」

「え…え?」

 

 

普段はクールな京が激怒している様子にクリスは戸惑っているみたいだ。

 

 

「だからこんな新参者入れるのは嫌だったんだ!壊すべき?よくもそんなことこの場所で言えたなぁ!とっとと帰れ!お前なんか…お前なんか仲間じゃ…」

「ほら、落ち着けって京」

 

 

取り返しがつかない一言を京が口にする前に俺は正面から京を抱きしめた。

 

 

「龍二…。だってこいつ、この場所を侮辱した!否定したんだ!ゆ、許せないよ…」

「そうみたいだなぁ。なぁ京、お前がこの空間をどれだけ大切にしているのかはみんな知ってる。お前が怒るのもよくわかる。それでも今は落ち着け。俺の胸ならいくらでも貸してやるからさ」

 

 

次第に涙ぐんできた京を強く抱きしめた。京の嗚咽だけが静まりかえった部屋に響いている。

 

 

「な、何だ?何が気に障った?」

「…ねえクリス?本当にさっき言ったことが正しいと今でも思ってる?」

「ああ。自分は正しいことを言ったと思っている」

 

 

混乱しているクリスにモロがいつも通りの頼りない口調で質問を投げかける。でも今この場ではいつも通りがとても怖く感じる。

 

 

「じゃあ本当にこれでさよならだね!」

「え?」

 

 

モロは明るい笑顔でそう言い切った。

 

 

「仲間にはなれなかったね、残念。でも学校では普通にクラスメイトとして接するから安心して。気をつけて帰ってね〜」

 

 

モロまでキレてるなこれは。普段は怒らない奴の怒りっていうのは怖いもんだからクリスは気圧されてる。

 

 

「説明してくれっ!納得できない!」

「あー、なんつーかなぁ…」

「私から言おう。クリ、お前ウザいぞ」

「え…?」

 

 

それでも自分の持論は曲げられないのか、周りに説明を気丈にも求めるクリス。気が強いなあ

空気が凍っている今、ワン子が何か言いかけているのを視線で黙らせる。絶対場を混乱させるから。俺のアイコンタクトを察したワン子はそれに敬礼して応えた。

 

 

「意味がないってのも建設的じゃないってのも全部お前の物差しだろうが。私たちは理屈じゃなく、好きでここに集まってるんだ。やめる気はない」

「自分は…ただ…」

「もうよせクリス、ここではお前が悪い」

「悪い…自分が、悪だとっ!?」

 

 

 今まで困惑していたクリスが大和の言葉に反応してきた。

 

 

「悪などでは断じてない!確かに自分の物差しではあるが自分以外も普通はこの意見のはずだ!なぜそれが悪になるか分からないな!」

「お前はさぁ、なんというか頑固すぎる。いい機会だから少し反省しろよ」

「お前に説教されたくないな、直江大和。この機会だ、自分も言わせてもらおう…」

 

 

 大和の言葉は今度はクリスの琴線に触れたみたいで今度は大和とクリスの喧嘩になりそうだ。しょうがない

 

 

「ほらそこまで。それ以上はここでは関係ないだろ」

「止めるな兄さん。この頑固者にはここでしっかりと言っておかなくちゃ…」

「初めて意見があったな直江大和。私も貴様のような卑怯者には言いたいことが…」

「……はぁ。お前ら…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黙れ」

「「「「っ!?」」」」

 

 

 俺は一瞬、渦中の二人に向けてほんの少し威圧した。できる限り絞ったものだから向けられた本人たち以外の周りにはわからないはずだ。まぁ流石にモモにはわかったみたいだけど。にしても黛もわかるか、コレ。実力があるのはわかってたけど、もしかしたら揚羽様並みの実力を持ってるかもしれないな。

 まぁとりあえずはバカ二人は止まったな

 

 

「ったく、お前ら揃いも揃って頭に血が上り過ぎだ。少しは落ち着け」

「でも兄さんっ!」

「はいはい、わかってるって」

 

 

 大和の仲間の為に熱くなれるところは昔も今も変わってないようで安心したけど、もう少し落ち着いた対応ができるようになればなぁ

 それにクリス。確かドイツ軍中将の一人娘なんだよな。今までお嬢様として育てられたからか周りのことを見ない傾向があるみたいだし

 

 

「まぁあれだ、正直俺はクリスの言いたいこともわかる」

「そんなっ!?」

「だろう!?ほら見ろやっぱり普通は皆そう思うんだ!」

 

 

 地獄に仏、と言うほどではないか。まあ周りが敵だらけと思っていたところに味方と思われる人物が現れればなぁ。クリスはとてもいい笑顔だ。逆に大和は絶望の表情をしている。

 

 

「このビルは古いからな。確かバブル期に建てられたものだろ?まあそんな古いビルだ、周りから見ればいつ崩れるか分からないだろうし取り壊すべきっていう意見が出るのもわかる」

「うんうん!」

「でもそれは一般的な周りの意見だな」

「…え?」

 

 

 俺の言葉に同調してクリスは大きくうなずいているが、俺は別にクリスの味方というわけじゃない。

 

 

「俺たちは自分たちで決めて、自分たちの意思でここにいるんだ」

「しかしそれはっ!」

「正しくない」

「っ…そうだ!それは正しくない!」

「そう思うか?」

「ああ!」

 

 

 クリスは力強く肯定した。クリスの頑固さは自分の意思を貫くことに関しては美徳ともいえる。ただ今のクリスは育ちのせい、とも言えるが視野が極端に狭く自分がすべて正しいと思っている部分がある。なんというか、かたい殻に閉じこもって周りを見ていない、とでも言おうか 

 こういうのは周りがこじ開けるんじゃなくて自分が成長して出てくるのが一番後腐れなくていいんだけどな。さて、どうしようか

 

 

「あのっ…自分如きが口を挟んで恐縮ですが!そ、その、あまり怒らないで、落ち着いて、その…」

「おいまゆまゆ。お前もそろそろ怒るぞ」

「えっ!?」

 

 

 新メンバーは対人関係に難ありだな。…いや、そういやもともとウチにもいたなぁ対人関係壊滅的なやつ。俺はゆっくりと首を下に下げた

 

 

「…どうしたの?」

「…いや、落ち着いたならそろそろ離れないか?」

「もうちょっと」

「はいはい」

 

 

 京はだいぶ落ち着いたみたいでよかった

 

 

「まゆまゆ、一人後輩だから丁寧にしゃべるのはわかるがな、いちいち私ごときがとか言うな」

「だな。お前キャップが言ったこと理解してねーだろ。俺様も思った。人の顔色伺いすぎだ。度が過ぎると俺様といえども不快だぜ」

「す、すみません!すみません!」

 

 

 モモとガクトは黛へ厳しめな言葉を投げかける。これは必要なことだと皆理解しているので誰も何も言わない。一人を除いては

 

 

「…さっきから意味不明だ」

「わからないか?ならそんなクリスに一つ質問だ。いつもお前は正義と口にしてるけど正義ってなんだ?」

「なんだ突然。…正義とは人の道にかなって正しいこと、義の道を進むことだ」

「なるほど、まあ真理ではあるわな」

「それがどうしたというんだ」

「一つ小話をしよう。とある国に偉大なスポーツ選手がいました。彼は司令塔としてチームを勝利に導き、その名は世界に知られ、まさに英雄ともいえる選手でした。そんな彼が引退を決意し、最後の試合に臨みました。試合は一進一退、決着がつきません。そんなときに彼はとある敵選手を攻撃してしまい反則を取られて退場になり、その結果チームの雰囲気は悪くなり結局負けてしまいました。彼は称賛と栄誉に満ちた選手生活を不名誉な結果で終わってしまいました。さて、クリスはそんな彼のことをどう思う?」

「その選手のせいで負けてしまったのだろう?何より相手選手に攻撃をするなど卑怯ではないか。正義ではない」

 

 

 これは俺の前世の話だ。俺がこの話を聞いたとき思ったことは…

 

 

「クリスはそう思うか。けどな、俺は彼を尊敬する」

「何?その選手のどこに尊敬する点があるんだ?」

「彼が相手選手に暴力を振るったのは、その相手選手が彼の家族のことを侮辱したからだ。」

「っ!?」

「確かに彼の行為は反則で正しくはないかもしれない。でも自分の名が汚れることも構わずに彼は家族の為に動いた、クリスの言う義の道を行く素晴らしい行為だと俺は思う。そんな彼は正義じゃないか?」

「…」

 

 

 後だしの要素を出すあたり少し汚いやり口だけど、ここは気にせずたたみかける。

 

 

「クリスだって自分の家族が侮辱されたら怒るだろ?」

「っ!当たり前だ!私は父様たちを尊敬している。侮辱など許さないぞ!」

「そう。自分が大切にしているものを侮辱されたら誰だって怒る。京が怒ったのはそれなんだよクリス」

「なんだと?」

「この場所は俺たち風間ファミリーの象徴なんだ。俺たちファミリーってのは物理的なものじゃなく心で繋がっている文字通り家族みたいな存在。そんな家族の象徴を馬鹿にされたんだ、そりゃ京も怒るさ」

 

 

 言いたいことを言いきった俺はクリスのことを真っ直ぐ見詰めた。クリスは黙って何かを噛みしめるようにたたずんでいる。

 

 

「……そうか。それだけ大事な場所だったんだな。自分の家族を侮辱された気持ちと同じであればさぞ先ほどの発言は腹が立ったろう」

 

 

 クリスは京に、皆に頭を下げた

 

 

「椎名京、皆、謝罪する。すまなかった」

「そ、その…私もすみませんでしたっ!まだまだ勉強不足です、それでも!それでも私は皆さんと一緒にいたいです!」

「自分も…先ほどのような発言はしないことを誓う。だからここにいさせてほしい」

 

 

 クリスに続いて黛も深々と頭を下げる。クリスはしっかりとわかってくれたようだし、黛も自分で主張できた。これから先はわからないけどまあ今はこれでいいんじゃねーかな

 部屋は少々しんみりとした雰囲気になっていた。こういうのも青春の一つなのかね

 

 

「おっ--す!!いやいやいや聞け聞けお前達!俺の運たるやまさに豪運と言ってもいい領域だぜ?ガラガラ回しまくって豪華景品GETだぜ!ささ、寿司の残りを摘みつつもみんなで俺の偉大さを祝ってくれ!ネタ玉子だらけだけどな!」

 

 

 雰囲気ぶち壊しだぜキャップ…

 




作中の選手の話はみなさんわかると思います(笑)

ぶっちゃけあんまりいいまとめ方が思いつかなかったのでほぼ原作と同じやり方でまとめました。まあ大和と違って大人に対応をできたかなー、なんで思ってたり…。お馬鹿とか言ってないし…

次回から箱根旅行編。お楽しみにー

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