この小説は一話が短いのでそこまで気にはなりませんが、いつもの倍くらいあります
京編終了です
あの嵐の日から数日が経ったが、いまだに俺と大和たちの関係は修復していない。手伝ってくれたことには感謝するが、それとこれとは別問題とのことらしい。なんともムカつく話だ
そんなある日、俺は京と図書室で会話していた。ここは図書室の中でもかなり奥まったところで、俺たち以外にほとんど人が来ないので話していても問題ない。
「で、最近はどうなんだ?あのバカ共は」
「バカって…、別に、今まで通りだよ。特に変化は…あ」
「ん?なんかあったのか?」
「その、直江君と話せたんだ…」
「お、大和の奴がか。あいつも反省したのかな」
「一緒に本の話をしたんだ。…河原で」
「そうかそうか、あいつも時々本読んでるからなぁ。他になんか言ってたか?」
「…えっと、その…学校では話しかけるなって…」
「…反省したと思った俺がバカだったよ。ふざけんなあの野郎…!」
「い、いいの!私が、言ったことだから…」
「…もうやめだこの話。暗くなるばっかだ。他に最近なんかなかったか?」
「あ、私ね、クラスで育ててる魚の面倒を見ることになったんだ」
そういった近況報告からお気に入りの本の話まで様々な話をした。
そういえば京が飼っていた猫が消えてしまったらしく、その気晴らしとして飼育委員に立候補したそうだ。俺は今度あの双子猫のところに一緒に行く約束をして今日は家に帰った。
京が猫好きとは…同士が増えて俺はうれしいぞ
しかし、上がっていた俺のテンションが一瞬で下がる事件が起きた。
次の日、俺が学校に行くと、妙に隣のクラスが騒がしかった。京たちのクラスだが、朝から何かあったのか?
様子を見に隣のクラスまで行ってみると、丁度大和が飛び出してくるところだった。事情を知りたいと思い、このクラスの奴に話しかけようとすると、
「たかだか魚が死んだだけでキモイわー」
「へへ、見たかあいつの顔!呆然としちゃってさ!」
「ヒーター壊したかいがあったよな!」
クラスの大多数がその声に合わせて笑っていた。魚が死んだ、それはつまり京が世話していた魚をこいつらが殺したのだということだ。おそらくそれを責められたのだろう京は今はここにはいない。
……ふざけんな
「おい」
「ん?なんだよおまっ!?」
「今すぐ詳しいことを話せ。少しでも嘘をついて見ろ。俺は本気でてめーら全員ぶちのめすぞ」
近くにいた奴の首を片手で掴み、つるし上げる。俺はポケットに手を突っ込み
SIDE 直江大和
「ごめんね…ごめん…」
椎名が校舎裏で穴を掘り、魚の墓を作っていた。
今まで何をされても泣かなかった椎名が、今は泣きそうな顔で穴を掘っていた。その様子に俺は胸が締め付けられるような痛みを感じた。
「お、直江じゃん。お前もやるか?今から椎名を泣かせるんだ。泣かせた奴が勝ち」
そういって後ろからうちのクラスの男子が10人ほどやってきた。
「つか、悪いけどもう俺達で賭けが成立してんだ。だから直江君はジャッジでよろしく!」
答えを詰まらせた俺を無視して話は決まってしまった。笑みを浮かべたままそいつらはしゃがんだままの椎名に近づいて行った。
「あーあ、椎名のせいで魚が死んだ」
「違う!誰かがヒーターを!!」
明らかに自分のせいじゃないと分かっている椎名は必死に言い返す。
「世話してたのは椎名じゃん。お前が悪いんだ!」
「魚が可哀想ならお前も死ねよ!」
「椎名菌が殺したんだ!」
『死~ね!死~ね!死~ね!』
椎名の周りで全員が死ねコールをする。
それを見ていると、さらに胸が苦しくなり、何かがせりあがってくる。
「うぅぅ…ああ…あ、あぁああ…っ!」
そして椎名が泣いた。今まで泣かなかった彼女がついに泣き出した。
…そうか、これは『怒り』か
イジメている奴らへでもない。椎名へでもない。俺への、今まで見て見ぬふりをしてきた俺自身への怒りだっ!!
「よっしゃ!泣いた!イェーイ!」
「ジャッジだ直江!誰が泣かした!?」
「…俺だよ」
「ちょっ、何言ってんだ、おいしいとこ獲るな!」
「俺だよ…気づいてたのに…。見て見ぬふりして…ニヒル気取って…我が身可愛さに…っ!こんな状況になるまで…俺はっ!!」
俺は椎名と男子たちの前へ出た。
「もういいだろ、やりすぎだ。このままじゃ本当に椎名自殺しちゃうぞ」
「いいじゃん別に。武勇伝できるし」
「なんだよ直江、お前椎名菌の味方かよ?」
「インバイの娘を庇うのか?」
「親は関係ない。やりすぎだって言ってるんだ」
みんながやれば怖くない。みんながやればそれが正解。そんな心境なのだろうこいつらは。
「…こいつも椎名菌にやられたんだ!」
「帰ってみんなに言い触らすぞ!直江も椎名菌に感染したって!」
「きっとこいつがつるんでるやつらも椎名菌に…」
ドカッ!
俺はそいつを殴りつけた
「お前……今なんて言った?」
腕を捻りあげる。いつも姉さんにやられてるから仕掛けるのにも慣れたものだ。
「仲間に手を出そうとしたのかよ、オイッ!」
悲鳴を無視して俺はさらに力を込める。誰かが後ろからたたいてくるが、反撃に頭突きを食らわせた。すると今度は全員で俺のことを囲みだした。このままでは数の暴力でボコられるな。
そのうちに一人が俺に殴り掛かってきた。俺は何とか逃げようとルートを探すが、どうしようもない。このままやられるのかと腹をくくった時
「よく言ったぜ大和。見直した」
最近話せていなかった頼りになる男の声が聞こえた。
SIDE 石川龍二
クラスで話を聞いてひと暴れしてから京を探しに来たが、見つけた時には京は泣いていた。普段は泣かないように我慢している京が泣いたんだ。俺はすぐさま行こうとしたが、そこで大和が男子たちの前に立つのが見えた。話を聞いてみると、どうやら大和は吹っ切れたようだ。そのまま殴り合いのけんかになったので俺はそこで介入することにした。
「よく言ったぜ大和。見直した」
「りゅ、龍二!?なんで…」
「友達の危機なんだ。すぐさま駆けつけるさ」
俺はそのまま周りのことは無視して京のもとへ行き、ハンカチを渡した。
「ほれ、これ使え」
「…龍二…私…っ!」
「お前は悪くねえよ。話は全部聞いた。後は任せろ」
「…(コクン)」
そうして俺はあいつらのほうを向いた。突然現れた俺に動揺しているようだ。
「お、おい。こいつ突然出てきたぞ…」
「誰だよこいつ」
「確か隣のクラスの…」
「思い出した!5年の川神にいつもくっついてるやつだ!」
各々好きかって言ってくれるが、そんなものは気にならない。
「よう、お前らどうも俺の友達にいろいろやってくれたみたいだな」
「なんだよ、こいつも椎名菌の味方すんのかよ!」
「こいつも感染したんだ!」
俺も怒りがそろそろ限界なんだ。だから動かせてもらうぞ…
「キャップ!岳人!見てるだけにしろ!こいつらは俺がやる!」
そういうと校舎の影からキャップと岳人が出てきて不満そうな顔を向けてきた。
「なんだよ、俺にもやらせろよ!」
「お前ひとりじゃ無理だろ!モモ先輩じゃあるまいし」
丁度いいからその誤解を払拭しておくか
「はっ、お前ひとりでこの人数にゲブッ!」
なんかしゃべってるやつがいたのでそのまま全力で手加減しなから蹴り飛ばした。
「お前ら全員勘違いしているようだから教えてやる。確かに俺はモモと一緒にいることが多い。あいつが起こす騒動に巻き込まれて被害をこうむることもざらだ。でもな、それは別に俺がモモにくっついてるからじゃあないんだぜ?」
俺が話しているのも関係無しに全員が一斉に殴り掛かってきた。が
「俺がモモにじゃない。モモが俺にくっついてるんだよ。そして俺はモモより遥かに強い」
殴りかかって来た全員を一瞬で殴り飛ばした。数メートルほど吹き飛んだ奴らは何人かを除いてほとんど気絶したようだ。
「ク、クソッ!先輩方!お願いします!」
気絶していない奴らの一人がこんなことを言いだした。
すると俺たちが来た反対側の校舎の陰から出てきたのは十数人の上級生だった。ん?なんか見たことあるような…
「おうおう、どいつだ?調子に乗ってるって…の…は」
「…よう、久しぶりだなクソ野郎。」
そう、こいつは前の原っぱ争奪戦の時に俺がぼこぼこにした奴だった。やっぱり仕置きが甘かったようだな。
「へへっ、こいつらです!さあ、やっちゃってください!」
「あ、ああぁぁあっぁぁぁぁぁ!?」
どうやらあの時のことを思い出してるようだな。
「にしてもまだ平気だったとはね、お前の精神力にはびっくりだよ。だから、今回は手加減なしでやってやろう」
「ヒイッ!?」
そこから先のことは言うまでもない。俺は向かってくる奴らをなぎ倒し続けた。殴って投げて蹴っ飛ばして、倒したのは合計で30人と少しかな?
気づいたら俺の周りには気絶しているか、痛みに呻いている奴しかいなかった。いや、もう一人、京をいじめていた奴らのリーダー格の奴がこっちを見て震えていた。
「な、なんなんだよ!お前には関係ないことだろ!こっちのクラスのことに首突っ込んでくんじゃねえよ!」
「はっ!上級生の力を借りたお前が言うことじゃねえな。大体関係ないだぁ?ふざけんな!京は俺の友達だ!友達助けて何が悪い!」
「ヒ、ヒイイ…!」
「こいつらに、風間ファミリーに、そして俺の友達の京に何かあったら俺はお前らを本気でぶっ飛ばす!覚えとけ!俺の仲間に、手を出すな!!」
そういって俺はそいつの顔面を蹴り飛ばした。吹っ飛ばされてどうやら気絶したみたいだ。
周りを見渡すと呆然としている大和たちと校舎の方から先生たちがこっちに来るのが見えた。あー、やりすぎたな。
「大和、お前の啖呵、かっこよかったぜ」
「あ、ありがとう…」
「後、お前のクラスで暴れすぎた。いくつか机とか粉砕しちまったから謝っとくわ」
「やりすぎだろっ!?」
俺はそのまま職員室へ連行された。本来なら俺はかなりきつい対処をされるのだろうが、正直俺だけが罰を受けるのは癪だったので、隠し持ってたボイスレコーダーを提出した。
実はこれ、冬馬から貸してもらったやつなんだ。京のことを相談したら役に立つからと言われて渡されたが、冬馬の予想通りにこいつのおかげで助かった。
録音された音声には俺が聞き出した京へのいじめの実態、校庭での音声などがしっかりと録音されていた。その中には京のクラスの担任がいじめを黙認していた事も言われており、その部分を聞いている時、顔が真っ青になっていた。ざまあみろ
結局俺は一週間の停学で済んだ。俺にぶっ飛ばされた奴らの親はこれに文句を言ってきたが、録音された音声を聞かせれば一発で黙ったそうだ。京たちのクラスの担任は解雇された。教師が生徒のことを見て見ぬ振りしたんだ、当然の処置だな。
俺はせっかくできた一週間の休暇中に新しいレシピの開発や、新たな技の開発などにいそしんだ。そして一週間がたち、学校に行った俺を待っていたのは
「兄さんと呼ばせてください!」
「結婚してください!」
……どうしてこうなった?
京、ちゃんと助かりました。
主人公、やらかしました