俺は料理人志望なんだけど…   作:イタクァ

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本日二話目

次こそ、次こそは救済回に…!


台風と写真

 あの一件以来俺は大和たちと口をきいていない。廊下ですれ違っても何も言わずに通り過ぎるし、もし話しかけてきたとしても最初の言葉が京への謝罪じゃなかったらぶん殴ってしまうかもしれない。

 

 向こうもどうやら俺のことを避けているらしく、モロやワン子が仲直りを勧めてくるが、どうして俺から行かなきゃならない。俺は自分の行動に全く罪悪感を感じていないのに

 

 

 

「お?京、この間はなんで逃げちゃったんだよ。寂しいじゃん」

 

「あ…、ごめんね龍二。その…仲間に、入れて欲しかったんだけど…、私なんかがって思うと、なんか、怖くなっちゃって…」

 

「阿呆、自分でなんかとか言ってんじゃねえ。難しいかもしれねえけどもう少し自分に自信持て。たとえば、そうだな。京ってなんか武術やってんだろ?」

 

「え?一応弓をやってるけど…話したっけ?」

 

「いんや、でもお前の動きが武術をやってるやつの動きだったから」

 

「…すごいんだね、龍二は」

 

「そんなんじゃねえよ。ただ周りにそういった人が(俺の意思関係なしに)多かっただけさ」

 

「…?そう…」

 

「で、弓でもいい。自分が人に誇れるものを、自分だけが持っている物を自分の心の中心に置いて見ろ。暗かった世界が明るくなると思うぜ?」

 

「…うん…やってみる」

 

 

 

 京ももう少し堂々としてればいいんだ。そうすれば少しは周りの見方も変わってくるだろうし。

 

 

 

『あっ!インバイの娘だ!』

 

『おい、こっち見たぞ!』

 

『椎名菌が移されるぞ!逃げろ!』

 

「…ノッキングライフル(ボソ)」

 

 

 

 あれー、どーしたんだろー急にみんな固まっちゃったなー(棒)

 

 

 

「…龍二、何か、した?」

 

「なーんにも。んじゃ図書室にでもいこーぜ。面白い本紹介してくれよ」

 

 

 

 こんな形でしか俺は力になれないけど、これで少しは京が楽になってくれればいいんだが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、台風が予報通り川神市に直撃した。かなり大きい台風で、あちこちでいろんな警報が出ているようだ。そんな中俺は久しぶりに家で料理の本を読んでいた。新しいレシピのヒントを探しているのだ

 

 

   ジリリリリリリリ!!

 

 

 

 突然うちの黒電話がなった。受話器を取ってみると、どうやらキャップからのようだ

 

 

 

『龍二!この嵐の中じゃあの花が飛ばされちまうから今から補強に行くぞ!急いで原っぱまで来てくれ!』

 

「この風雨の中でか?無茶すんなぁ。別に他にも竜舌蘭は咲いてるぜ?それを見に行けばいいんじゃないか?」

 

『あの花は、あの花だけなんだ!変わりなんてねえ。空き地に咲いてるあの花を、みんなで見たいんだ!』

 

「…りょーかい。急いで向かうから他の奴への連絡は任した。道具なんかは俺が用意するよ」

 

『わかったぜ!そんじゃ後でな!』

 

 

 

 そう言って電話を切った俺は、さっきのキャップの言葉を思い出していた。

 

 キャップが慕われている理由が改めてわかったよ。

 

 俺は家中のロープやらテープやらをかき集め、雨合羽を羽織って雨の中を走り出した。むき出しの顔に雨粒が当たるがそんなことは気にならない。ただ急いであの原っぱ目指して俺は駆けていった。

 

 一番に辿り着いた俺は、すぐさま作業に取り掛かろうと道具の準備を始めようとしたが、近くに見知った気配があるのに気付いた。

 

 空き地の端にある土管の影、そこで京が縮こまっていた。

 

 

 

「京!?なんでこんなところに!?」

 

「み、みんな、この花、さ、咲くの楽しみだって…でも、嵐来たから、その…」

 

「あの時の話を聞いてたのか。今から帰れっていうわけにもいかねーし…、しゃーねえ、補強すんの手伝ってくれ」

 

「う、うん」

 

 

 

 そう言って俺はロープを自分の腰に結び、京の身体にもしっかりと巻き付けた。そうして二人で作業を進めていると、ほかのファミリーのみんながやってきた。

 

 

 

「な!?なんで椎名がいるんだ!?」

 

「お前関係ねーだろ、危ねーからけーれ!」

 

「俺たちが言えることじゃないだろう。京は俺よりも早く来ていて、そのまま帰らすのも危険だから手伝ってもらってる。人手は多いほうがいいからな」

 

 

 

 俺の言葉に渋々納得したのか、岳人は引き下がったが大和はまだ言いたいことがあるようだった。

 

 

 

「キャップ!いくらなんでもこの台風の中は危険すぎる!」

 

「そんなのはわかってんだよ!それでも俺はあの花が見たいんだ!」

 

「そんなの別のところで見れば…」

 

「あきらめろ大和。こうなったキャップは止めらんねー。お前もよく知ってんだろ。大体何のために俺とモモがいると思ってやがる」

 

「ああ、私たちがみんなを守る。必ずな」

 

「なんと心強い」

 

「姉は心強いものだ、任せろ」

 

 

 

 モモの言葉に押されたのか、そのまま大和は黙ってしまった。俺とモモの身体にロープで他の人の身体を繋ぎ、風で飛ばされないようにした。

 

 雨で視界が悪く、すさまじい突風の中様々なものが飛来するが、すべて俺とモモが撃ち落としていった。その間にほかのメンバーが花弁をビニールで覆ったり、ロープで固定したりなどの作業を進めていった。

 

 作業が終了して、家に帰ることになり、全員一纏めになって行動することにした。この台風の中何が起こるかわからないからだ。

 

 真っ先に女の子である京とワン子を家に送り、その後順々に男子の家を周り最後に川神院へモモを送った。俺もこっそり家に帰ったが、外に出ていたことがばれており、かなり怒られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、竜舌蘭は黄色の花を見事に咲かせていた。

 

 頑張った割にはそこまできれいな花ではなかったが、みんな何か感慨深いものを感じていたようだ。

 

 

 

「ほら、写真撮るから並んで並んで」

 

 

 

 カメラマンを頼んだ麗子さんが声をかけてくる。

 

 その時遠くに京を発見したキャップは大和に命令して京を呼びに行かせた。最初はかなり反発していたものの、最終的には渋々ながらも京を呼んできた。

 

 俺、モモ、キャップ、大和、岳人、ワン子、モロ、そして京。俺たちは竜舌蘭の前に並び、各々好きなポーズをとって写真に写った。

 

 そしてまた、次に花が咲くであろう50年後にまた同じように写真を撮ろうと約束したのだった。




最近別の作品のアイデアが浮かんでくる。

まあやるにしてもこれが完結してからだけど

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