なかなか大変だぁ
2015/8/23 改稿
「…というわけなんだが」
『なるほど、虐待ですか…』
小雪たちと遊んだ日の夜、小雪のことを相談するために冬馬に電話をしていた。事情を説明すると冬馬はちゃんと話を理解してその対応策を考えてくれているようだった。やっぱこいつって天才なんだな
「現状では可能性の話、つっても俺の中ではほぼ確信してるけどな。小雪は家庭内暴力を受けているって」
『龍二君がそこまで言うのなら間違いないのでしょうが、証拠がないから動けませんね』
「証拠ねぇ。こういう場合の証拠って現場をおさえるか、小雪の怪我を確認するかの二択だけど、さすがに服脱いで裸を見せろって言ったら唯の変態だよな。俺のほうがヤバい奴認定されちまう」
『フフフ、龍二君が望むなら私は喜んで脱ぐんですがね』
「男の裸に興味はねーよ」
この体はまだ小学生だから性欲なんて感じないけど、見るんだったら女性の裸のほうがいいに決まってるだろう(断言)
つか最近冬馬の言動や視線が怪しくなってきたんだが…。将来が心配だ
「つまり現場をおさえる他ないって訳だな」
『そうですね。しかしいくら虐待されていても彼女は母親のことを庇ったのでしょう?でしたら直接聞きに行くというわけにはいきませんね』
「…尾行、しかないか」
『ええ、それが一番でしょう。準には話しておきますので近いうちに決行しましょうか』
「そうだな。今回の話に英雄は関わってないからな。九鬼が絡むと大事になる」
『わかりました。では英雄には内密に進めましょうか』
「OK。ならまた今度な」
『はい、それではまた』
そういって電話を切った俺。こういうドロドロした話はあんまし得意じゃないけど、どうにかしてあげたいしな。まあ本人の意思を聞いてないからお節介になっちゃうんだけどさ…
「んじゃ、今日は解散!」
「ええ、それではまた明日」
「じゃあな龍二、小雪ちゃん」
「…うん、またね」
「じゃあな冬馬に小雪、ついでに準」
「俺おまけ!?」
そしてついに決行の日、俺たちはいつもよりも少しだけ早く切り上げ解散。みんな各々の家に向かって歩き出した。が、
「んじゃあ行くか」
「そうですね。ビデオカメラの準備はできてますよ」
「もし母親が暴れていたら俺がとりおさえるから、冬馬は撮影、準は小雪を頼むな」
「まかせろ」
「じゃあ作戦開始だ」
俺と冬馬と準はすぐさま引き返し元の原っぱに戻り、小雪の帰って行ったほうに静かに歩き出した。しばらく歩くと、小雪の姿を見つけた。つかず離れずの距離を保ちながら小雪にばれないように尾行。そのまま順調に尾行は続き、小雪の家に辿り着いた。
SIDE 小雪
「…んか……のよ…」
いつものようにあの人が私に向かって何かつぶやく。何を言ってるのかはわからないけど、そうしないとこの人は生きられないんだ。だから私は…
バシッ!
ほっぺをたたかれる。足がもつれて床に転がる。ああ、いつもと一緒なんだね
私は必要とされてる。私は愛されてるんだ…
でも、今日は少しいつもと違う
「あん…いな…れば」
「…」
私のおなかを蹴り続ける。息が苦しくなる。
「あんた…な…ければ…」
次第に何を言っていたのか聞こえてくる。
「あんたさえいなければ…あんたさえいなくなれば…あんたさえいなくなればぁああぁぁああああ!!!!!!」
…わかってしまった。ああ、私は必要とされてなかった、私は愛されてなかった。私はいらない子なんだ。
目の前が暗くなる。息ができなくなる。口から血を吐く。頭に浮かぶのは一緒に遊んでいたみんなの姿…
もう一度、会いたかったなぁ…
「小雪!!」
消えそうな意識の中で最後に聞いたのは、そんな彼の声だった。
SIDE 石川龍二
小雪の家を見つけて、どうにかして中の様子を知るために俺が耳を凝らして部屋の中の音を聞いていた。とりあえず家の中には小雪とその母親らしき人の二人。母親らしき人がなんかブツブツ言ってるのを聞きとろうと耳を凝らしていると、パンッ、と頬を叩いたような音が聞こえた。
これはマズイ!俺たちはすぐさまチャイムを鳴らしたけど、反応がない。ドアを叩いて呼びかけても返事がない。中の音を聞く限りかなり興奮してるみてーだ。
ついには中から暴れる音が聞こえて、仕方なくドアを蹴破り、家の中に突入した俺たちが見たのは、薄暗い部屋の中で蹴られ続け血を吐く小雪の姿だった。
「小雪!!」
「準、急いで彼女を!」
「了解!」
俺は突入した勢いそのまま小雪の母親らしき人物に飛び蹴りをかました。どうやら壁にぶつかりそのまま気絶したようだ。
「準!小雪の様子は!?」
「全身にあざができてるし、口から血を吐いてる!内臓が傷ついてるかもしれないから急いで病院へ運ばねえと!」
「冬馬!」
「映像はばっちりですよ」
そういってグーサインを向けてくる冬馬。撮影もできたようで、証拠も問題ない。
そして俺たちは急いで小雪を葵紋病院へ運び込んだ。
それから数日、小雪はそのまま葵紋病院で入院している。一部内臓が傷つき、全身に打撲痕。全治数か月だそうだ。
この傷と、冬馬の証拠映像により小雪の母親から親権が剥奪された。今は小雪の里親を探してる。いい里親の元で小雪はちゃんとした生活を送れるといいんだけどな
でも、肝心の小雪本人が塞ぎこんでる。実の母親に殺されかけたのだ、無理もないか。
「冬馬、小雪の様子は?」
「変わりありませんね。食事のほうは少しずつ食べ始めているのですが、それ以外では反応が全くありません」
「ん~、そりゃそうだよなぁ。キッツい話だもんなぁ」
毎日お見舞いに来ているが、今のところ話しかけても反応がない。どうにか現状を打破したいと思い今日は秘密兵器を持ってきた。
「よう、小雪。体のほうは大丈夫か?」
「…」
「お前が元気ないからみんな心配してるんだぞ?」
「…」
相も変わらず反応がない。アレをだすか
「ほれ、あーんしてみ」
「なんですか、それ?」
「ん?これはマシュマロを溶かして牛乳なんかと固めたマシュマロのムースだ。小雪マシュマロ好きだからさ、これで元気でないかなーって」
そういって俺は小雪の前にスプーンを差し出した。小雪はマシュマロの匂いに気づいたみたいで、今まで全然反応がなかったのにスプーンを生気のない瞳で見つめてから口を開けた。
俺は小雪の口にスプーンをゆっくりと差し入れた。そのまま小雪はムースを口の中で咀嚼していたようだがやがて、涙が一筋小雪の頬を伝った。
「ヒグッ、ウッ、ウウッ…」
「おーし、泣け泣け。思いっきり泣いて今度は笑え。俺たちが傍にいるからな」
「そうですよ小雪さん。あなたは一人じゃない」
「…おい、龍二。こういう時は胸をかしてやるのが男だろ」
準の言うとおりに小雪の顔を俺の胸のところに当てた。すると、
「あ、ありがどう…」
「気にすんなって。友達だろ?」
「ウ、ウエエエエエエエエエエエエエエン!」
大声で泣き出した小雪の背中を俺はやさしくなでつづけた。そんな様子を冬馬と準が微笑みながら見ていた。
この時に見せた小雪の笑顔は俺たちの中で忘れられることはないだろう。それほどにきれいな笑みだった。
少しうるさくしすぎて看護婦さんに怒られたのはご愛嬌…
主人公の紹介を次あたりに載せます