俺は料理人志望なんだけど…   作:イタクァ

16 / 40
今回のタイトルは『えいゆう』と読むのではありません


英雄と少女

 クローン組との出会いからまたしばらくたち、俺は学年が上がっていた。

 

 普段はモモと二人で過ごしている。モモは怖がられ、俺はモモと一緒に避けられているので基本はふたりっきりで過ごしているが、なんだかんだでうまくやれている。

 

 週末にはヒュームとの訓練、だったんだけど、実はヒュームとの訓練は月に一、二回に減ったのだ(実にうれしい)。ヒュームの仕事が忙しくなったというのもあるが(実に実にうれしい)、それ以上にクローン組との交流が優先されている。

 

 今でも月に一、二回程度の頻度であの島へ行っていて、最近では海上で迷うこともなくなったので、毎回お土産として島に向かう途中で獲れる魚介類を持っていき、俺が調理するというサイクルができている。 

 

 そういえば清楚が俺に料理を教えてくれって頼んできたんだ。どうにも自分も俺みたいにおいしい料理を作りたいのだとか。正直かなり照れる

 

 清楚は年の割にはかなり大人びているので包丁を持っても問題なく、クラウディオさんからの許可も出たので俺は初の弟子を得た。俺も毎回ウキウキしながら教えている。

 

 ついでと言っちゃなんだけど食義も修行を付けている。清楚は性格的に戦闘タイプじゃないので、いざというときに逃げられる程度の身のこなしはできたほうがいいと思い、俺がやった修行を実践させている。才能があるのか俺以上のスピードで習得しているのが少し悔しいけど…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くぞ準よ!我の球、打てるものなら打ってみよ!」

 

「うおっ!速っ!?」

 

「フハハハハ!王たる我のボールを思い知ったか!」

 

 

 

 

 ある日の夕方、俺は数人の子供と一緒に原っぱで野球をしていた。

 

 話し方的に約一名は紹介する必要がない気がするが、一応しておこう。

 

 

 

「フハハハハ!さあ、次は誰だ!また打ち取ってやろう!」

 

 

 

 こいつの名は九鬼英雄、その名の通り九鬼家の長男、つまり揚羽さんの弟だ。すさまじく態度がでかいため、あまり同年代の子供が近づかないため俺が紹介された。将来の夢はメジャーリーガー。この年齢の子供にしては凄まじい豪速球を投げるので、才能はあるんだろうな。

 

 

 

「ほら若、出番ですよ」

 

「おや、もう僕の番ですか」

 

 

 

 若と呼ばれている少年は葵冬馬。近くにある大病院、葵紋病院の院長の息子でかなりの天才。性格も温和なので女子からの人気がすごいらしい。俺はロリコンじゃないから羨ましくないけどね。

 

 もう一人は井上準。葵紋病院の副院長の息子で、冬馬の幼馴染。彼は頭脳は冬馬には及ばないが、その分運動神経がよく、文武両道の少年だ。

 

 彼らは全員隣の学校だが、英雄経由で仲良くなった。数少ない英雄の友人らしく、お互い親友と言えるほど仲がいいようだ。

 

 よく考えたら俺の男友達ってここにいる奴ら+与一だけじゃん…

 

 

 

「はい、龍二君。君の番ですよ」

 

「え?もうかよ。もう少し頑張れよ冬馬、終わるの早すぎだろう」

 

「僕は頭脳派ですから」

 

 

 

 俺が自分の友達の少なさに愕然としていると、冬馬がバットをこちらに渡してきた。

 

 

 

「次は我が友龍二か!今度も我がボールで打ち取ってやろう!」

 

「気合入ってるなー。よっしゃ!かっ飛ばしてやるぜ!」

 

「その意気やよし!食らうがよい!必殺、ヒーローボール!!」

 

「甘い!」カキィーン!

 

 

 

 いくらボールが速かろうが、ヒュームの蹴りより遅いわ!

 

 さすがに全力で振るとどこまで飛んでいくか分からないから、ある程度力を抜いたスイングで英雄のボールをかっ飛ばした。

 

 

 

「準!そちらに行ったぞ!」

 

「いや、無理だから」

 

 

 

 俺の打球は外野にいた準の遥か頭上を越え、奥の茂みに突っ込んだ。

 

 

 

「俺を打ち取ろうなんぞ百年早いわ!」

 

「くっ!さすがはわが友龍二」

 

「おーい!ボール探すの手伝ってくれ!」

 

 

 

 飛んでいったボールが見つからないらしく、準から手助けを求める声があった。

 

 ボールは一個しかなかったので、全員で茂みの中を探し回った。

 

 

 

 

 ガサガサ

 

 

 

「お、あったあった」

 

 

 

 俺は茂みのかなり奥まったところでボールを発見した。流石にやりすぎたなぁ、少し反省

 

 

「…」

 

「ん?」

 

 

 

 ふと前を見ると、白く長い髪にルビーのように真っ赤な瞳の少女が、その手に握っていたマシュマロを差し出していた。俺たち以外にもう一人誰かが近くにいるのは足音なんかが聞こえてたからわかってたけど、どうやらボールを探してるうちに随分と近くまで来てたみたいだ。

 

 

「…マシュマロ、いる?」

 

「くれるのか?ありがとう」

 

 

 

 せっかくもらえるなら、ということで俺は彼女からマシュマロを受け取った。彼女の手でつぶれて少し不格好な形ではあるけどまあ気にせず口に入れる。するとマシュマロ特有のふんわりとした甘さが口の中に広がった。

 

 

 

「うん、うまいな」

 

「よかった…」

 

「それで?こんなとこで何してたんだ?」

 

「えっと、その…」

 

 

 

 こんな茂みの奥まったところにいた理由を聞いてみると、しどろもどろになりながら何かを言おうとしていた。

 

 もしかして…

 

 

 

「もしかして俺たちと一緒に遊びたいのか?」

 

「っ!仲間に、入れてくれる?」

 

「もちろん。マシュマロをもらった恩もある。みんなに紹介するぜ」

 

「あり、がとう」

 

「そういやまだ名前を聞いてなかったな。俺は石川龍二。君は?」

 

「小雪…」

 

 

 

 

 それが俺と小雪の出会いだった

 




薄幸アルビノ少女小雪ちゃん登場



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。