2015/8/19 改稿
この島は川神市と違って電気がほとんどないため夜中の光源は星明りだけだが、それでも十分すぎるほどの光が降り注いでいた。
そんな中眠れなくて砂浜まで散歩に来た俺を待っていたのは、目を泣きはらした清楚だった。
「ど、どうしたの龍二君?、こんな時間に」
「いや、なんか寝付けなくて。清楚こそどうしたんだ?」
「私は…なんとなく海が見たくなって」
「そっか…」
赤くなった目を隠そうと、こちらを見ずに聞いてくる清楚。なんとなく気まずくて言葉少なになってしまう。
そのまま会話は終了し、お互い無言で海を見詰めていた。
ザザァーン、ザザァーン
波が砂浜に打ち上げられる音が星空に響く。その光景はまるで一枚の絵画のように美しかった。
「今日はありがとうな、初めての俺にいろいろよくしてもらって」
「えへへ、どういたしまして。こっちこそありがとうね、お昼ご飯おいしかったよ」
「はは、そう言ってもらえると本望だよ」
「うん…」
「…」
それっきりまた無言になってしまった。 そのまま会話のない時間が続く。
少し勇気を出して俺は踏み込んでみた。
「…泣いてたのか?」
「っ!?」
清楚の肩がビクッ!と震えた。
「あ、いや、別につらいなら言わなくていいからな?俺みたいに今日初めて会ったような奴が何言ってんだって感じだし…」
「…」
「唯なんて言うか、その、清楚が寂しそうに見えたからなんか力になれないかなぁ、と…」
「…」
「…悪い。少し厚かましかったな。俺もう戻るわ」
「…待って」
今日初めて会った子に何やってんだ、という軽い自己嫌悪に陥った俺は部屋に戻ろうとしたが、それを止めたのは清楚だった。
「…少し聞いてくれないかな?」
「いいのか?」
「うん。義経ちゃんたちには話せないし、龍二君ならなんとなく大丈夫かなって」
「そいつは光栄だな」
俺は清楚の近くにより、そのまま二人で砂浜に座った。
「…私たちは武士道プランで生まれたクローンでしょ?今を生きる人たちのために生み出されたもの。その中ただ一人誰のクローンかわからない私は何なんだろうって…」
清楚の言葉が砂浜に響く。
「義経ちゃんや弁慶ちゃん、与一君は自分の正体も役割もわかっているのに私は何もわからないの。ただ勉強に打ち込めばいいって言われてるけど、何のために?
自分が誰かわからない、何をすればいいのかわからない。
自分の足元が真っ暗で自分が今どこにいるのかわからない、いつかお前なんかいらないって捨てられるかもしれない!いつかみんなと離れちゃうかもしれない!それがどうしようもなく怖いの!嫌なの!」
最後には清楚の声は絶叫となってあふれ出ていた。俺はただ無言でそのすべてを聞いていく。そのまましばらく清楚の独白が続いた
どれくらい経ったろうか。清楚はため込んでいたものを全部吐き出したようで、息を切らしながらも落ち着いてきたようだ
「…ごめんね、少し興奮しちゃって」
「いや、問題ない。いろいろ吐き出して楽になったか?」
「うん。あ~思いっきり話したから少しすっきりしたっ!」
そういって清楚は立ち上がり体を伸ばした。
「聞いてくれてありがとう。おかげですっきりしたよ」
「そりゃよかった。とりあえず話を聞いてて一つ言いたいことがあるんだがいいか?」
「うん?何?」
「他の奴らは知らないが、俺はお前のことをものだなんて思ってないぞ」
「…え?」
清楚が目を見開いてこちらを見ている。
「いや、今日のお前らを見ていると英雄のクローンだってのは納得したぞ?運動神経すごかったもんな~。でもさ、別にそれで何かって感じなんだわ」
「…」
「俺にはお前らが英雄には見えなかったぞ?義経はなんか小動物みたいで見てて和むし、歴史では勇ましい与一も素直で弱気な男の子だし、弁慶もなんかダラ~ッとしてるし…。そりゃ、遺伝子は過去の英雄たちと同じなんだろうけどさ、それ以外の性格とかは周りの環境次第でどうにでもなるじゃん。だからそんなに自分の正体が誰とかってそんなに気にしなくていいと思うんだわ」
「…めて」
「それに自分の役割とかって自覚してるやつのほうが少ないと思うぞ?結局先のことなんて誰にもわからないんだからそこまで悲観的にならなくても…」
「やめて!」
らしくもなく饒舌に語ってしまった俺の声を清楚の叫びが遮った。
「龍二君にはわからないよ!自分の正体がわからない気持ちなんて!そんな風にわかったような口を利かないでよ!」
怒りの叫びを聞いた俺はどうしてあんなに語ってしまったのか、理由が分かった。
似ていたんだ、転生したばかりの時の俺に…。自分の記憶にある名前とは別の名前で呼んでくる周りに違和感と恐怖しか感じなかったあの頃の俺に。自分が□□ □□なのか、石川龍二なのか、自分がどういう存在なのかわからずに不安で不安で仕方なかった時の俺に。俺は自分で折り合いを付けて過去の自分ともしっかりと別れられたけど、清楚はまだ折り合いがつけられないでいるんだ。
「大体普通に生まれた龍二君に私の悩みを理解なんてできるわけないよ!」
「清楚」
「結局私たちは違うんだよ!それなのに…」
「葉桜清楚!」
俺の大声に清楚の叫びは止まった
「お前の名前は?」
「え?」
「いいから答えろ、お前の名前は?」
「…葉桜清楚」
「そうだ、お前は葉桜清楚だ。どこかの誰かのクローンじゃない、今ここにいるのは葉桜清楚だ」
「今、ここにいる…?」
「そう、お前はお前だ。どこかの誰かじゃない」
「少し肩の力を抜いて考えてみろよ。人間だれしも誰かの遺伝子をついで生まれてきてるんだぜ?俺はそれが両親で、清楚はそれがどこかの過去の偉人だったってだけさ。」
「それに自分の正体が不安ならこれから一人の葉桜清楚になればいいさ。クローンじゃない、ただ一人の人間として」
「葉桜清楚、になればいい…」
しばらくは俺の言葉を噛みしめているようだったが、急にその頬に涙が流れていった
「フッ、…グスッ、」
「うぇ!?いや、ちょ、なんで泣くのさ!?」
きつい言い方しすぎたかっ!?
「ち、違うの。なんだかうれしくて。今までそんなこと言ってくれた人いなくて、それで…」
「あー、…思う存分泣けばいいよ」
俺は女の子の泣き顔を見るのはあまり好きじゃないので後ろを向いて清楚のほうを見ないようにした。すると清楚が俺の背中に縋り付いて泣き出した。
俺は何も言わずに清楚の好きなようにさせていた。頭上で幾本の流れ星が流れていった。
そして翌日の朝、俺はクラウディオさんが用意してくれた船に乗って帰ることになった。
「いつでもここにきていいからな!義経は待っているぞ!」
「また一緒に遊ぼうよ!」
「辛くなったらまたおいで。いつでも慰めてあげるから」
義経たちからのうれしい言葉をいただいた。若干一名の誤解が解けなかったけど…
「…龍二君」
「おう清楚、元気になったようでよかったぜ」
「おかげさまでね」
昨日とは違って憑き物が取れたような表情になった清楚。よかったよかった。
「泣いてた時も綺麗とは思ってたけどやっぱ笑ってる顔のほうが好きだな」
「ふぇっ!?」
昨日よりも明るくていい顔になったようで俺はうれしいよ。
「なあ、クラウ爺。あれってタラシっていうやつ?」
「はい、その通りでございます。龍二様はなかなかのやり手かもしれませんねえ」
なんか弁慶とクラウディオさんがこそこそ話してる…
「これからは2,3週間に一回程度で来てください。帰りの船は用意いたします」
「来るときは走って来いと…」
「申し訳ありませんがヒュームからの命令ですので」
また迷いそうでいやだなぁ
そうこうしているうちに船が島を離れた。みんながこっちに手を振っている。俺もそれに振り返した。
次第に島が小さくなり、やがて見えなくなった。俺は次に彼らに会う日がとても楽しみだ。
その前に地獄の訓練が待ってるけど…
みんな知ってるか?これやってるの小2と小3なんだぜ(笑)