東方渡来人   作:ひまめ二号機

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二十二歩目 謎の生命体X発見

「オラァ!」

 

 霊力を纏い目の前の大岩を殴る全。衝撃で岩には徐々に罅が入りやがて砕けた。

 

「…何もないねえ」

 

 砕けた岩を見ながら呟くてゐ。二人は鉱石と食料を探しているのだ。

 

「やっぱ見つかんねえよなあ。食料も中々無いしっ!」

 

 次々に岩を破壊し道を作って行く。本来なら竹林にある食料が尽きる事は無かったのだ。兎達だけなら。ところが全が竹林にあった食料を食潰しこうして探す羽目になったのだ。

 竹林を出て山を探索し二人は河原へと出る。

 

「魚でも取るか…」

 

「別に良いけど、私は手伝わないよ」

 

「元からお前に期待はしてない」

 

 呟き素手で魚を取って行く。時折生の状態で口に放り込みてゐに石を投げられるが全は順調に魚を取って行く。

 

「微妙。微妙過ぎる。てか足りねえ」

 

「アンタには足りないだろうね」

 

「……てゐ」

 

「ん?………ああ、分かった」

 

 突然立ち上がった全にてゐは小首を傾げるが直ぐにその意味を理解しその場から退く。やがて二人の傍に現れたのは一匹の狼の姿をした妖獣。群れから逸れたのかそれとも徒党を組まないのかは分からないがどうやら一匹らしい。

 

「こいつは俺達のモンだぁ!!」

 

 全は妖獣に素早く近付きその頭に拳を振り落とす。手加減をした為死んではいないが、妖獣はその衝撃に耐え切れず地に伏した。

 

「ったく、俺達の魚を奪うとはいい度胸じゃねえか」

 

 気絶している妖獣を見降ろしながら腕を組む全。妖怪は何を食っているか分からない為そう易々と食う訳にはいかない。取り敢えず放置でもしようと全はてゐと取った魚を持ってその場から立ち去った。

 

 ◆

 

「大量っすなあ」

 

「大量だねえ」

 

 二人はほくほくとした顔で山の中を歩いて行く。全は自分の二倍程に膨れ上がっている袋を担ぎながら歩いて行く。中には野菜や生魚、生肉と言った物が入っている。

 

「これだけあったら筍がまた出て来るまで大丈夫だろ」

 

「そうだね。アンタが食いすぎなければね」

 

 てゐのツッコミに顔を逸らす全。全はふとある物に気付いた。

 

「……?なあ、てゐ。あんな所に祠なんてあったか?」

 

「ん?……う~ん、単に見落としてただけじゃない?」

 

 全の言葉にてゐは小首を傾げながら口を開く。全はその祠を物珍し気に見ながら近付いて行った。

 

「…何か珍しいものねえかな」

 

「案外とんでもない物があるかもね」

 

 全とてゐの二人が祠へと近付いて行くと違和感を感じた。

 

「何かおかしくね?」

 

 全質の目の前にあった空間が突然歪み始めたのだ。全はてゐの前に出て何時何が出ようと対応出来るよう構える。

 

「は~、久しぶりの外ね」

 

 そう言いながら歪んでいた空間から現れたのは一人の女性。背中に妖精とは違った悪魔に近い羽(?)を生やし、髪型はサイドテールの女性だ。

 

「……こんにちは」

 

「……」

 

「…こ、こんちは~」

 

 唖然とした表情のてゐの隣で全も目を丸くしながら取り敢えず挨拶をする。女性もまさか人がいるとは思わなかったのだろう。挨拶をしながらも歪みにへと再び姿を消していく。

 やがて女性がその姿を完全に隠し全とてゐは漸く目の前の事実を受け入れる。

 

「え、ちょ、ちょっと待て!今何かおかしかったぞ!?今宝じゃなくて人が出て来たぞ!!?」

 

「え、何あれ!?宝の門番的な奴なの!!?」

 

 二人は目を丸くしながら祠に触れて行くが何も起きない。やがて二人は祠の前で考え込み始める。

 

「お、おおお、落ち着けてゐ。きっと、あれだ、あれだよ、あいつがいた場所に宝があんだよ。落ち着いて時を戻すんだ。今の光景を見直そう」

 

「落ち着くのはお前だよ。と、取り敢えずあいつがいる場所に何かありそうだよね」

 

 てゐと全は再び祠を見るがやはり先程の様な変化はない。

 

「……取り敢えずまずこの食料を置いてこよう。そして明日もう一度此処に来よう」

 

「そ、そうだね。取り敢えずこの荷物置いてこなくちゃね」

 

「もしかしたら明日になったら何か変わってるかもしれん」

 

 全の言葉にてゐは頷くと二人は立ち上がる。

 

「一応目印付けとくか」

 

「そうだね」

 

 二人は近くにあった数本の木に印を付けると帰路へ着いた。

 

 ◆

 

 まだ朝日が昇ったばかりの薄暗い空の中、全とてゐは一通りの罠の材料を準備し祠の前に立っていた。

 

「これより、あの謎の生命体を捕獲したいと思う」

 

「ウサ!」

 

「なにその凄い可愛い返事」

 

「そんなことより早く続きを言う!」

 

「まずは俺があの謎の生命体―――以降は珍妙と名付ける―――の出て来た場所を調べる。そこから入口が分かれば侵入し速やかに宝もしくはあの珍妙を捕獲しようと思う」

 

「もし作戦が失敗すれば?」

 

「俺達に後退の二文字は無い!敵を子馬鹿にし続け戦略的撤退を計る!!」

 

「どっちだよ」

 

「もういっそのこと拳で語れば良いんじゃね?」

 

「一気に簡単になったね」

 

「作戦名『ゴリゴリ行こうぜ』これより開始する!」

 

「ウサ!」

 

 全はあの女性の出て来た場所に近付くと手を翳す。まるでそこに見えない壁があるかのようだ。

 

「……空間を弄る様な能力なら波長が合うから楽で済むんだが」

 

 全は目を瞑りながらその空間の乱れを感じ取って行く。

 

「…ん?……何か妙な場所が」

 

「もう見つかったの?」

 

「まあ、見つかったには見つかったんだが……何だろうなこれ。正直勝てる気がしなくなって来た」

 

 何時になく弱気な声にてゐは首を傾げる。

 

「何があったの?」

 

「…もう一個の世界、みたいな?」

 

「何それ?」

 

「向こうにもう一つこの世界があると思え。正直これを自力で作れたら最強だろ」

 

「でも生物が作ったとは限らないでしょ?」

 

「まあな。てゐ、俺の手握っとけ。少し強引に潜る」

 

「はいよ」

 

 てゐは全の手を握る。全はそれを確認すると離すなよ、と注意し潜り込んで行った。

 

「よっと!」

 

「うわっ!」

 

 全に引っ張られる様にてゐもその歪みへと引き摺られて行った。だが、それも一瞬。二人の目の前には別世界が広がっていた。

 

「うおっ!」

 

「きゃっ!!」

 

 全は咄嗟に結界を張り着地すると可愛らしい悲鳴を上げ落ちて来たてゐを受け止める。

 

「…死ぬかと思った」

 

 ほっ、と安堵の息を漏らすてゐを下ろしながら全は周囲を見渡す。

 

「何処だろうな此処」

 

 出てきた場所は先程までいた山の中とは大きく異なっていた。

 

「こんな中から宝を探し出すのは御免だよ」

 

「いや、お前の能力あるから何とかなるかもよ?」

 

「宝を引き当てるかは分からないでしょう」

 

「う~む」

 

「見えてるの?」

 

 目を細め周囲を見渡している全にてゐが尋ねる。

 

「微妙だなあ。流石にそこまで遠くは見えねえよ。精々此処から地上だ」

 

「いや、それでも十分凄いよ」

 

「下降りるぞ」

 

「え?」

 

 全は突然てゐを抱き上げるとその場から跳んだ。

 

「え、嘘!馬鹿、馬鹿じゃないの!?え、いや………きゃあああああああああ!!!!??」

 

 急速に迫ってくる地面に悲鳴を上げるてゐ。全は落下地点を見誤らないよう注意し衝撃を伴って大地に着地した。

 

「~~~~~~~っ!!!」

 

「だ、大丈夫?」

 

 ぶるぶると震える全にてゐは戸惑いながらも声を掛ける。

 

「ちょ、ちょっと待て。脚が痺れた」

 

「痺れたで済むってどんな脚だい?」

 

「ふーーーーーっ!!よし、治った!!」

 

 てゐを下ろして全は周囲を見渡していく。

 

「……さて、どうやって珍妙に会おうか」

 

「む~……適当に歩けば着くんじゃない」

 

「やっぱそうなるよな」

 

 二人がうんざりした様子で歩きだすと遠くから声が聞こえた。

 

「ちょっとー!そこの御二人さーん!!」

 

「……てゐ、お前知り合いなんていたのか?」

 

「寧ろ全の知り合いだと思うよ」

 

「残念ながら俺の女性の知り合いで性格がまともな奴は殆どいないから違う」

 

「その告白はどうだろうね」

 

 二人が言葉を交わしているとやがて少女が下り立って来る。

 

「御二人さん、魔界じゃ見ない顔だね」

 

「魔界?…へ~、この世界は魔界って言うんだ」

 

 少女の言葉にていは空を仰ぐ。

 

「俺は自称渡り妖怪の渡良瀬全。こっちは因幡てゐ。それでお嬢さんの名前は?」

 

「自称ってのが木になるけど…。私の名前はサラ。この魔界の門番だよ」

 

「門番……ってことはあの珍妙は門番じゃなかったんだな」

 

「らしいね」

 

 顔を見合わせる二人にサラはこほんと咳をする。

 

「二人の言う門番が誰かは知らないけど。ここから先は通せないよ!」

 

「門番なら門を守るべきだろ」

 

「そっちが門に来なかったから仕方ない」

 

 戦闘態勢の少女に全は溜息を吐く。

 

「てゐ」

 

「早くしてねー」

 

「お前逃げんの早過ぎだろ」

 

 既に遠くへと退避しているてゐに全は呆れる。

 

「じゃあ、お嬢さん。ちょいと遊びましょうか。負けたら素直に通してもらうぜ」

 

「それはこっちの台詞!!」

 

 全は構えると転移しサラへと軽めの一撃を放つ。突然目の前に現れたことに虚を突かれサラは身体が固まるが間一髪躱す。

 

「む、躱したか。なら―――!」

 

 全は後退する更に霊力弾による追撃をする。それを撃ち落としながらサラも反撃をする。接近戦より遠距離に分があると思ったのだろう。美味く距離を散りながら迎撃して来る。能力をッ使えば距離等無意味だが此処で霊力を消費するのも勿体無い。何よりあの珍妙はかなりの強敵に全には見えた。

 

「ハハッ!」

 

 迫る妖力弾を素手で霧散させ全はサラに迫る。その速度に反応することが出来ず―――

 

「ワロス!」

 

「きゃあ!!」

 

 その額に神速の凸ピンを喰らった。走って来た勢いのままやられたことによりサラは額を押さえながら涙目になる。その様子に全は動揺しながら持っていたアイスキャンディを差し出す。

 

「ほれ、これでも食べな」

 

「……何これ」

 

「美味いものだ」

 

 サラは差し出されたアイスキャンディにおずおずと手を伸ばし全を真似る様に舐める。

 

「……甘い?」

 

「断言しろよそこは。まあ、取り敢えず俺達の価値だから此処の一番偉い奴が何処か教えてもらおうか」

 

「む、まだ負けてないよ!

 

 強気な様子で立ち上がるサラ。その姿に全は不敵な笑みを浮かべる。

 

「面白い。俺の凸ピンは百八式ある。果たして貴様は何時まで耐えられるかな?」

 

「あ、負けでいいよ」

 

「………お前門番止めた方が良いよ」

 

 あっさりと引下がる更に全は深い溜息を吐きながらてゐを呼ぶ。

 

「終わったんだ」

 

「おうよ。で、今からこの嬢ちゃんが場所を教えてくれる」

 

「そうだとも。魔界はねえ、神綺様が創ったんだよ。私達の生みの親でもあるかな」

 

「ふ~ん、んでその神綺様がいる場所は?」

 

「あっち」

 

 

「………適当だね」

 

「まあ、観光出来ると思えば。ありがとなサラの嬢ちゃん」

 

「まあ、約束だからね。じゃ~ね~!」

 

 二人にそう言うとサラは何処かへと飛んでいく。その後姿を眺めながら二人は呟いた。

 

「世界創ったって言った割にその娘達はあれ位なんだな」

 

「まあ、全員が同等の強さとは考えにくいからね。戦闘が得意ってわけじゃないんでしょ」

 

「門番ェ…」

 

「早く行こうよ。此処にいたら他にもまだ来るかもしれないよ?」

 

「そうだな。なるべく早くその神綺様とやらに会えるよう頑張ろうか」

 

 てゐに催促され全もサラが指示した方角を見る。

 

「建物は特には見えないな」

 

「まだまだ先ってことでしょう」

 

「面倒臭いな」

 

「宝の為にも頑張ろうよ」

 

 二人はのんびりとした様子で神綺がいるという場所へと歩いて行った。

 

 

 


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