「………」
「…釣り竿折れてるぞ?」
「気のせいよ」
「いや、折れてr「折れてないわ」―――あ、そうっすか」
どうも、渡良瀬全です。食料的問題―――主に俺の食事―――から幽香の嬢ちゃんを誘って釣りをしている訳なんだが…。幽香の嬢ちゃんは我慢を知らないのか、それとも力加減を知らないのか釣り竿を折ってばかりいる。そして溢れ出る怒気によって魚など近付いて来ない。見てる分には良いけど、俺の食事問題だから笑えない。
「そう、場所よ。場所が悪いのよ!」
まぁ、あれだ。何も言うまい。
「ほれ、こっち結構釣れるからこっちで釣れや」
俺の言葉に幽香嬢は素直に従い、俺が釣っていた場所に座る。そして俺はと言うと、幽香嬢が折った釣り竿の修理だ。修理と言っても簡単なもので、折れた場所を斬り捨てて上部分を使うだけなんだが。捨てるの勿体無い。
「…………」
「…………」
「……ぬぐぐ…っ!」
「……………」
「もうっ!何で釣れないのよ!!?」
お前が子供だからだ。とか言ったら殴られるのだろう。もう少し遠回しに言うべきか…。
「落ち着きが無いからだろ」
「ふんっ!」
「痛っ!?」
これでも駄目だったらしい。腹を殴るとか酷過ぎるだろう。一匹も釣れない事が余程悔しいのか、幽香の嬢ちゃんはそのまま座り込んでもう一度釣り針を川に放る。
どうしたものか…。ふと、川を見た俺は、ある案を思いついた。
「こいつら催眠状態にすれば…」
気配を感じ取り辛くすれば幽香の嬢ちゃんでも釣れるかもしれない。俺は早速能力を使って魚達を催眠状態にする。
「あっ、やった!」
「お、良かったな」
どうやら上手くいったらしい。自分で釣り上げたからか、幽香の嬢ちゃんはとても嬉しそうだ。いや、良かった。機嫌を悪くして此処ら一帯破壊されたら堪ったもんじゃない。
「ふふん、この程度簡単よ」
一匹釣れた事で気を良くしたらしい。幽香の嬢ちゃんは胸を張って釣り針を川へと放る。いやぁ、子供らしくて良いねぇ。ちょろいちょろい。
気分を良くした幽香の嬢ちゃんを横目に俺も魚を釣って行く。この調子ならば今晩の飯も豪華になる気がする。全部魚だがな…。
「酒飲みてぇ」
「駄目親父みたいなこと言わないでちょうだい」
仕方あるまい。水ばかりだとどうしても飽きがきてしまうのだ。俺は腰に提げていた瓢箪に手を伸ばす。どうせこの程度で酔いはしないし、問題あるまいて。
「ふぇっふぇっふぇっ、足りん足りん」
せめて一樽持ってくればよかった。酒を呑む俺の姿を幽香の嬢ちゃんが変な目で見て来る。
「どしたん?」
「貴方酔ってない?」
「いんや、全然」
「その割にやけに上体がふらついてるのだけど…」
「は?……っと」
あ、ホントだ。今のは結構ヤバかった。
風邪か?いや、でもこんだけ長く生きてて風邪とかはねえよな?新しいやつか?
「あ~、俺向こうの木陰で眠ってるわ。その間俺の代わりに釣っておいてくれ」
「任せなさい。起きた時に吃驚させてあげるわ」
自信満々そうな幽香の嬢ちゃんの声。まぁ、あの魚がいなくなったら後は自力で釣んなきゃいけないんだが。
俺は木陰に入ると木に上体を預けて座り込む。眠ってりゃ治っているだろう。俺だし。目を瞑ると、思ったより早く睡魔が俺を襲ってくる。俺はそれに抗うことなく、そのまま意識を落としていった。
◆
「……んあっ?」
唐突に意識を浮上させた俺は、寝惚けた頭のまま周囲を見渡す。辺りは暗く、空には月が出ていた。どうやら随分眠っていたらしい。
眠気を吹き飛ばした俺は、先程から肩に感じる気配の正体へと目を向ける。
「起きなさいな」
俺の身体に寄りかかって眠る幽香の嬢ちゃんの肩を揺らす。しかし、幽香のちゃん嬢は小さく呻くだけで起きる気配はない。その事に小さく溜息を吐き、俺は幽香の嬢ちゃんを起こさない様に立ち上がった。
「む、結構釣ったな」
桶の中に入っている魚達を見て俺は驚嘆する。まさかここまで釣るとは思っていなかった。俺は桶と釣り竿を回収すると眠っている幽香の嬢ちゃんを負ぶう。眠って無かったらぶっ飛ばされてたな…。
「しかし、これは懐かれたのか…」
ううむ。初対面で俺のデリケートゾーンを蹴った奴が今やこうとは。結構変わるものだな。
月の光を頼りに、俺は感慨にふけながらゆっくりと足を動かして行った。