魔法使いと魔法少女が紡ぐ物語   作:文鳥丸

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これはある平穏な日常の一コマ


第八話 魔法少女のお茶会+

 二体の魔女との対峙と言うイレギュラーな事態から一日が経過した。

 この日学校から帰ったほむらは自宅でジェフリーに近況報告を行っていた。

 まずマミのワルプルギスの夜の参戦の意思はほぼ確実な物になっている。

 自分に対しての警戒心は相変わらず強いままではあるが、ジェフリーは信頼できる実力と人望を持った人物であると判断して付いていくと。

 さやかに関しては相変わらず敵意を露わにしているが、どう言う訳か自分を転校生とは呼ばず、名字での呼び捨てにシフトが変わったことを伝えた。

 

「あなた何かしたの?」

「呼び方がややこしいから、やめてくれって頼んだだけだ」

 

 ジェフリーはあくび交じりに答える。

 実に彼らしい簡素な意見ではあるが、それが結果として良い方向へと向かっている。その事実にほむらは思わず軽やかな笑みを浮かべていたが、日付を見るとその表情はすぐに険しい物へと変わる。

 

「でもいいことばかりじゃないわ。巴さんの問題が片付いても、まだ次の問題があるわ」

「さやかの高確率での魔女化か?」

「それもあるわ。もう一つは……」

 

 そう言って、ほむらは胸元から一枚の写真を取り出す。

 盗み撮りをしたのか、こちらとは目線があっておらず群衆の中を練り歩く赤毛のポニーテールの少女がそこにはあった。

 写真を見るとジェフリーは物を取って驚愕の表情を浮かべている。

 

「何だこれは……お前絵上手いな。風景をそのまま切り取っているみたいだ……」

「これは写真よ。後で説明するから……」

 

 写真もジェフリーがいる世界には存在しない物であり、繁々と眺めるジェフリーにため息をつきながらも、ほむらはこの街に新たにやってきた佐倉杏子に付いて語り出す。

 高確率でさやかと激突し、下手をすれば共倒れの可能性だってある攻撃的な性格の魔法少女。

 だが仲間に出来ればワルプルギスの夜の討伐に多いに役立つことは必須。

 ほむらは杏子のこれまでを語り出すと、彼女の趣味、思考などを語り出して彼女に対しての印象を少しでもよくしてもらおうとジェフリーにそれらを伝えた。

 過去にはマミと共闘しても戦っていたが、ある事情によって仲違いして現在は隣町の風見野を主戦場にしていることを語った。

 

「それでなった理由だけども……」

 

 なぜ仲違いしたのか理由を語ろうとした時に、携帯の着信音が鳴り響く。

 突然のアラーム音に驚き、ジェフリーは近接武器の供物を召喚して身構えるが、ほむらは説明にも疲れたのか何も言わずに携帯の画面を開く。

 相手は本日メールアドレスを交換したばかりのマミからだ。

 

『暁美さん。突然で悪いんだけど、よければ本日親睦を深める意味を兼ねて皆でお茶会をしない? 鹿目さんも美樹さんも一緒よ。ジェフリーさんも呼んでいいわ』

 

 突然のことにほむらはため息をつくが、自分から信頼関係を築けない以上、相手の誘いに乗るのは定石。

 この旨をジェフリーに伝える。美味しいお茶とお菓子をマミが奢ってくれるが行くかどうかを。

 申し出に対してジェフリーは何も言わずに小さく頷く。

 この世界に来てからという物、細やかな料理の味付けの数々にジェフリーは感動していて、食べるたびに感謝のしるしを露わにしてしまい、ほむらが対応に困るほどであった。

 それは簡単な家庭料理程度しか作れない自分の料理にも向けられていて、重すぎる気持ちにどう返していいか分からず疲れる部分もあったが、杏子を置いていたマミのことだ。ジェフ―を連れていけば喜ぶだろうと思い、時計を見る。

 統計学上、今日の夕方から夜にかけてさやかと杏子の初衝突は起こるのだが、今はまだ日の明るい午後。

 まだ大丈夫だろうと判断して、ほむらは簡素な返事で参加の意思を告げると、立ち上がってマミのマンションへと向かう。

 ジェフリーもそれに続こうとしたが、ちゃぶ台の上に置かれたリブロムを見ると意地の悪い顔を浮かべて語り出す。

 

「まぁ本にお茶は飲めないからな。そんな物飲んだら、ふやけて使い物にならなくなるからな」

「うるせぇ! 行きたきゃサッサと行け!」

 

 ふて腐れて横になっているリブロムを見ながら、ほむらに促されてジェフリーは今度こそ家を出た。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 マミのマンションに到着すると、高層ビルを前にジェフリーが固まるかどうかほむらは心配していたが、自動ドアに対してもジェフリーは臆することなくタイミングを合わせて中へと入って行く。

 

「あなた文明の利器には驚いているばかりなのに、マンションに関しては随分と堂々としているわね」

「高いことを驚くとでも思ったのか? 天よりも高い場なら何度も経験があるし自動で開閉が出来るドアにも大して驚く物じゃない。本当に恐ろしいのは入ったら最後開かないドアの方だ」

 

 変なところで肝が据わっているジェフリーを見て、取りあえずは騒ぐことはないだろうとほむらは安心してエレベーターの前に立とうとするが、ジェフリーは非常階段でマミの居る階まで上がろうとしていた。

 

「何をしているほむら。その部屋じゃないだろマミの部屋は」

 

 危険があるのでマミのマンションでは非常時以外に非常階段は使ってはいけない規則なのだが、また騒がれるのも迷惑だと判断したほむらはジェフリーに付き合って階段でマミの階まで向かう。

 マミの部屋の前に立ちインターホンを押すと、エプロン姿のマミが二人を出迎えた。

 

「いらっしゃいませ。もう鹿目さんは来ているわよ」

 

 マミに促されて部屋へと入る。リビングには既にまどかも居て、ほむらの存在に気付くと笑顔で手を振った。

 

「美樹さんは?」

 

 座布団の上に腰かけたほむらはさやかの存在をマミに問う。

 ほむらも自分が彼女にどう見られているかというのはよく分かっている。

 様々な因縁からお互いに相容れない存在となってしまっている事を。

 決して自分たちに心を開かないほむらが特にさやかを敵視していることは、マミもまどかも分かっていることであり、状況の改善とほむらを理解することを兼ねて開かれたお茶会なのだが、不在のさやかに付いてマミは渋々語り出す。

 

「それが……暁美さんの名前を聞いたら、NGを出してしまってね。パトロールに勤しむから放っておいてほしいって」

「妥当な判断ね。私のことは魔女討伐の道具程度で考えた方がお互いのためだわ」

「ダメだよ! そんなこと言っちゃ!」

 

 自虐的に語るほむらに対してまどかは珍しく大声を上げて否定をする。

 その優しさは彼女にとって何度も見てきたもの、だがその優しさゆえに悲劇的な結末を見てきたほむらに取って、それは苦痛でしかなかった。

 まどかが語り出そうとする前に、ほむらは諭すようにゆっくりと話し出す。

 

「まどか、あなたの言いたいことは分かるわ。でも人と人の関係と言うのは一度こじれると修復が難しいのよ。今はこうするのが一番なのよ」

「じゃあ……さやかちゃんが詰め寄ってくれれば、ほむらちゃんも私たちともっと仲良しになってくれる?」

 

 目を潤ませて懇願するように語りかけるまどかの姿をまともに見ることが出来ず、ほむらは目をそらしながら俯き加減に話し出す。

 

「考えておくわ……」

 

 トレイの上に人数分の紅茶とお手製のケーキを持って現れたマミは、場がすっかり暗くなっていることに絶句してしまう。

 さやかのことはもしものことがあったらテレパシーで連絡を取るよう言っておき、キュゥべえにもその旨は伝えてある。

 一つの目的が達成出来ない以上、もう一つの目的だけは達成しなくてはならないという使命感がマミを突き動かし、無理矢理にでも笑顔を浮かべるとテンションを上げてトレイの上の紅茶とケーキをガラス製の三角形のテーブルの上に並べる。

 まどかは美味しそうなケーキに目を輝かせるが、ほむらは相変わらず無表情のまま、ジェフリーはと言うと初めて見るケーキを物珍しそうに眺めていた。

 

「ごめんなさい。甘いのはお嫌いですか?」

「いや、そんなことはない。食える物なら何でも好きだ。ただ……」

「ただ何ですか?」

 

 今日のお茶会で出されたのはフルーツをたっぷり使ったロールケーキであり、ケーキの中にたっぷり詰まったラズベリー、いちご、キウイと言った色とりどりで目にも鮮やかなフルーツが入っているケーキを物珍しそうに眺めていると、ジェフリーはゆっくりと語り出す。

 

「この世界でのお菓子ってのはこんなに果物を使う物なのか? 宮廷で出される水準だぞこれは……」

 

 ここでもまた以前に言った違和感ある口上。

 まるで自分がこの世界の人間はないような言い方にマミは気になり、まどかもジェフリーの存在を詳しく知りたいという好奇心に駆られた。

 一方のほむらは意識してないことは分かるが、自分のことを不用意に話して信頼関係を崩そうとしているジェフリーに嘆きを隠すことが出来ず、手のひらで顔を覆って情けなさに頭を振った。

 

「あの前にも聞きましたけど、先程からあなたは『この世界』とか『俺の世界』とか言って、まるで自分が異世界から来た人間みたいな言い方をしてますけど……」

 

 一概には信じられない事態だが、ジェフリーが嘘をつくような性格には思えないマミは恐る恐る問いただそうとする。

 そのことを聞きたいのはまどかも同じであり、彼がいてくれればほむらのことも分かり合えるのではと言う想いから、少女は一旦ほむらへの直接のコンタクトを諦め、ジェフリーに照準を切り替える。

 

「ごめんなさいマミさん。私からもいいですか?」

「鹿目さん……いいわよ、あなたも彼に聞きたいことがあるなら聞いてちょうだい」

 

 マミの許しが貰えると、まどかは恐る恐る仏頂面を浮かべているジェフリーに対して話しかける。

 

「えっと……ジェフリーさんでいいですよね?」

「お前がそう呼びたいのならそう呼べばいい」

「じゃあジェフリーさん。今まで言えなかったこと言います。マミさんを助けてくれて、ほむらちゃんを守ってくれてありがとうございます」

 

 そう言うとまどかは立ち上がって深々と頭を下げて感謝の念を伝える。

 ほむらもマミも突然のことにキョトンとした顔を浮かべていたが、ジェフリーは相変わらず仏頂面のまま、まどかに向かって手を突き出すと座るように無言のアピールを送る。

 

「これは俺のためでもある。気にすることは……」

 

 言っている途中でジェフリーはハッとした顔を浮かべる。

 自分は異世界に召喚された身分ではあるが、どうすれば元の世界に戻るかと言うことを全く知らされていないことを。

 牢屋にいたころから取りあえずやってみると言う、行き当たりばったりな考え方は改善されていないことを反省して、その旨をリブロムに聞こうとするが彼は今ほむらの家のちゃぶ台の上。

 決してホームシックになるような世界ではないが、あの世界は間違いなく自分が生きていた世界。

 ゴッドドラゴンに崩壊された世界を復興させるためにも、自分はあそこに帰らなくてはいけないという使命感がジェフリーを突き動かすと、その場から立ち上がって帰ろうとする。

 

「急用を思い出した。あとはお前らだけでやってくれ」

「そんな! まだ来たばかりじゃないですか⁉」

「マミさんの言う通りですよ。甘い物が嫌いならコーヒーでも……」

 

 自分で言ってまどかは後悔してしまう。

 父親が良くコーヒーを豆から挽いているのでうっかり語ってしまったが、ここには豆もコーヒーメーカーも無い。

 それに自分では挽くことも出来ないので、自分が情けなくなりまどかはそこから何も言わなくなってしまうが、意外な人物が彼を引き止めた。

 

「二人の言う通りよジェフリー。あなたともあろう人が何をそんなに焦っているというの?」

 

 ほむらの表情はいつも通り冷淡なそれだったが、ジェフリーはその中にある感情に気づいていた。失望と怒り。

 あたふたしている自分を見て見苦しいと感じたのだろう。冷淡な目付きでジッと見つめられると何も言うことが出来ず、リブロムから話を聞くのは帰ってからでも遅くはないと思い、再びその場に腰を下ろす。

 

「では皆揃ったことだし、お茶会を始めましょうか?」

 

 気を取り直してマミが始まりの合図を出すと、皆お辞儀をしたのちに紅茶とケーキを楽しむ。

 マミとまどかは美味しいお茶とケーキに話が弾んでいる状態であり、ほむらはそんな二人を見ながら口元に軽やかな笑みを浮かべていた。

 その間も時計を見て、さやかと杏子の衝突が起こる時間が訪れることも忘れない。

 和やかな空気に包まれていたが、マミがジェフリーを見ると絶句してしまう。

 

「ロールケーキはそうやって食べる物じゃないんですけど……」

 

 ロールケーキなど食べたこともないジェフリーは巻かれたスポンジ部分を展開して、直線状になったスポンジの上に置かれたフルーツを一つずつフォークでさしながら食べていたが、あまりに一般的じゃない食べ方にマミは渋い表情を浮かべていた。

 凍り付いた場の空気に耐えきれず、ジェフリーは展開したスポンジを元のロール状に戻すと一気に口の中に放り込む。

 

「甘い……」

 

 様々なフルーツの味を一度に楽しめることが出来る本来のロールケーキの楽しみ方はしたのだが、行儀の悪さに三人の少女たちは何も言えず、反射的にマミはほむらに対して耳打ちをする。

 

「失礼だけど、あの人テーブルマナーと言う物が……」

「ごめんなさい。ちゃんと言っておくから……」

 

 その場はほむらが収めてくれたので、これ以上何も言うことはないと思いマミは引き下がった。

 まどかは豪快すぎるジェフリーの食べ方に圧倒されるところもあったが、美味しそうに食べているその姿は見ていて気持ちがいい物であり、色々あったがお茶会は成功した物だと判断して柔らかな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 一時間後、談笑と共にケーキと紅茶はなくなって、お茶会は終了となった。

 まどかはマミと一緒に後片付けをしていて、二人きりになったことでほむらは何故ジェフリーがらしくもなく、焦った行動を取ったのかを問い詰めようとする。

 

「急用が出来たなんて、あなたらしくもない言い訳ね。女性だらけの中で気まずいのなら、最初から出なければいい物を……」

「そうじゃない本当に急用が出来たんだ。リブロムに聞きたいことがある」

「何かしら?」

「俺が元の世界に帰る方法だ」

 

 急用の訳を聞くと、ほむらは何も言えなくなってしまう。

 元々勝手に自分たちが呼び出したのだから、帰る方法を教えてもらうのは必然。

 だがそれらを教えずにここまで引きずり回したことは、自分たちの落ち度だと反省し、ほむらは帰り支度の準備を始める。

 

「ごめんなさい。確かにそれは急用ね」

「お前は残れ。好感度が高い方が連携ってのも取りやすいだろう」

「そうじゃないわ。もうそろそろ杏子の件も発生しそうなのよ、戦力確保のためにもさやかとの衝突は避けないと戦力を失うことになるわ」

「暁美さん。今なんて……」

 

 その時、片付けを終えたマミが二人の元に戻ってきた。

 マミはたまたま聞いたほむらの言葉に反応して、呆けた顔を浮かべていた。

 佐倉杏子のことは誰にも話していない昔コンビを組んでいた魔法少女。

 そんなことまで知っているほむらには何か事情があるのではと、今まで不信感しかない状態からほむらへの見方が変わった瞬間でもあるが、今はそれどころではない。

 風の噂で杏子がグリーフシード確保のために、自暴自棄になって人として許されない行為にまで手を染めているとも聞いた。

 ならばそれを止めるのはかつてのパートナーとしての役割だと判断したマミは、その旨を詳しくほむらから聞こうとする。

 

「暁美さん。何であなたが佐倉さんのことを……いいえ、もうそれはこの際聞かないでおくわ。そこまでひた隠しにするのはあなたにも事情があるからでしょうから」

「感謝するわ」

「でもこれだけは答えて! 佐倉さんはこの街に戻ってきたの⁉ なら私は彼女の悲しみを憎しみを受け止めないと!」

 

 かつてのパートナーがやさぐれている。そのことに責任感を感じたマミはほむらから杏子のことを詳しく聞こうとする。

 ほむらはそんなマミを宥めながらも、杏子のことについて語り出す。

 高い確率でさやかと衝突すること、彼女を殺して自分の分の縄張りを確保することを伝えると、マミは青ざめた顔を浮かべて飛び出そうとするが、それをほむらの手で制される。

 

「巴さん落ち着いて。あなたはどこに佐倉さんが出るのかも知らないでしょう?」

「でも……」

「統計学的にこの路地裏で二人は激突する可能性が高いわ。場所は教えるからジェフリーと一緒に行ってあげなさい」

 

 そう言ってほむらはいつも持っている見滝原の地図を鞄から取り出すと、路地裏の部分に赤ペンで大きく丸印を付けた。

 土地勘がなく、千里眼の刻印のみの力で魔女を発見して戦っているジェフリーに取って地図を見せられても分からないが、この街を長年守っているベテランのマミは場を教えられるとすぐに最短ルートが頭の中で思い浮かび、杏子を止めなくてはいけないと言う使命感から何も言わずに飛び出していく。

 突然出ていったマミにまどかは驚くが、残されたジェフリーはほむらに対して問いただす。

 

「なぜお前が行こうとしない?」

「この件に関しては見ず知らずの私が行くよりも、杏子と親交があった巴さんが行く方がベストだと判断したからよ」

「それだけじゃないように俺には思えるがな……お前、自分からさやかとの接触を避けている節がないか?」

 

 その一言に、ほむらは歯ぎしりをしながら怒りを露わにした表情でジェフリーを睨み付ける。

 彼が言う通り、さやかに関しては意識して距離を取った付き合いをしているのは事実。

 根本的なところで性格が合わないという部分もあるが、過去のループの中でさやかには何度も泣かされた事実がある。

 そこからさやかの救出は諦め、魔女になっても一切の躊躇がなく殺せるようになったことから、ほむらはさやかに関しては分かり合えない存在だと脳内で決めつけてしまった。

 だがその苦しみをポッと出の存在にどうこう言われる筋合いはない。

 ほむらは感情に任せて、ジェフリーの胸倉を掴むとこちらに引き寄せて睨み付ける。

 

「ほむらちゃん、マミさん出ていったけど何が……ほむらちゃん⁉」

 

 突然出ていったマミに付いて、ほむらが何か知っているのではないかと思ったまどかは彼女に聞こうとしたが、リビングに戻って見た光景はほむらがジェフリーの胸倉を掴んで睨み付けている非日常的な光景。

 まどかは慌てて仲裁に入ろうと突っ込んでいくが、慌てて走ったために足がもつれて派手に転んでしまう。

 

「まどか⁉」

 

 頭から派手にフローリングの地面に転んだまどかを見て、ほむらは怒りを忘れてまどかに駆け寄る。

 ほむらに起こしてもらうまどかを見ると、ジェフリーもまたマミの後を追おうとしたが最後に一言ほむらに対して話しかける。

 

「あえて失礼なことを言わせてもらった。怒らせたことは謝るよ俺が悪かった」

 

 そう言って頭を下げるが、ほむらは相手にしない。構わずにジェフリーは話を進める。

 

「だがその事に付いて怒りを感じているということは、お前の中でも彼女はまだ完全にそういう存在で終わらせたくないという想いがあるんじゃないのか? 後は自分で考えてみろ」

 

 自分の意見を全て言い終えると、ジェフリーは今度こそマミを追って出ていく。

 嵐のように過ぎ去ったマミとジェフリーを見ると何も言えなくなったまどかだが、辛そうに俯いている少女を放っておくことが出来ず、その背中を擦りながらまどかは心配そうにほむらを見つめていた。

 

「そんなことをされても、私は何も話してあげることは出来ないわよ……」

「いいよそれでも。ほむらちゃんにも何か事情があるんでしょ」

 

 それだけ言うとまどかは何も言わずにほむらの背中を擦り続けた。

 手のひらから伝わる温もりはかつて感じた優しさ。

 そしてジェフリーの言葉で思い出すのは、さやかに関しての苦い思い出の数々。

 何度も何度も人魚の魔女を殺していく内に麻痺していく自分の感覚が怖く、美樹さやかと言う人間を見ようとせず、人魚の魔女を生み出す入れ物程度にしか見なくなってしまった。

 だがジェフリーの言葉で思い出してしまった。自分だってなりたくて今の自分になったわけではないことを。

 ここで泣けば一気に積み上げた物が崩壊してしまうと思ったほむらは、まどかに背中を擦られたままポツポツと呟くことで悲しみや悔しさを解消しようとする。

 

「諦めたくない。諦めたくないのに……」

 

 ほむらが何を言っているのかは分からなかったが、まどかは何も言わずに背中を擦り続けた。

 彼女から直接言葉は聞き出せなかったが、まどかは少しだけ分かった気がした。

 ほむらは決して残虐で冷酷な人間ではないと言うことを。さやかのことに付いても単純な感情で遠ざけているわけではないことを。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 路地裏で対峙するのは二人の魔法少女。

 地上から憎しみの視線を向けて見上げているのは、魔法少女に希望を見出し人々のために戦うと決めた正義の魔法少女美樹さやか。

 ビルの上から見下した笑みを浮かべて槍を突き出しているのは、魔法少女の力は自分のためだけに使うと判断した利己的な存在、佐倉杏子。

 グリーフシードを生み出さない使い魔を倒したが杏子は気に入らなく、威圧的な態度を崩さないままさやかに話しかける。

 

「馬鹿かお前は⁉ 卵産む前のニワトリ絞めてどうするんだよ?」

「何言ってんのよアンタ……」

「使い魔なんて、5、6人食わせれば魔女に成長するんだから、それまで待たなきゃグリーフシードは手に入らないだろうが! このボンクラが!」

 

 杏子は怒りに任せて叫ぶが、さやかも怯まない。

 同じように怒りに任せた叫びを放つ。

 

「じゃあ何? アンタはその5、6人の命を見殺しにするって言う訳? それが魔法少女のすることなの? 魔法少女は正義のために戦うもんでしょ⁉」

「違うな! 魔法少女の魔法の力は自分のために使ってこそだ!」

 

 堂々と杏子は言い放つとこれ以上の問答は時間の無駄だと判断し、槍を持ってさやかへ向かって突っ込む。

 攻撃の意思を見せた杏子に対して、さやかもまた剣を構えて戦闘態勢を取る。

 

「先輩の言うことに噛みついてばっかいやがってよ……言って聞かないなら、殺すしかねーだろ!」

 

 こうして二人の魔法少女は激突する。

 お互いのプライドのために。




取り戻した心は聖なる物となるか、魔を促進させるか……

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