魔法使いと魔法少女が紡ぐ物語   作:文鳥丸

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そして男は戻るべき所へと戻る。


最終話 見滝原へ……

 アロンダイトを振るって、ジェフリーはイエティへと挑む。

 その刃は筋肉で包まれた魔物の体を切り裂き、鮮血を吹き出させたが、傷口をイエティは痒そうに指で引っかくだけでダメージがない事をアピールすると、攻撃が終わりジェフリーに一瞬の隙が出来た事を見逃さずに反撃に出る。

 両手を頭の上で組んでハンマーパンチを振り下ろすが、ジェフリーは当たる直前にバックステップで攻撃をかわすと、氷の地面が砕かれ、その場に巨大なクレーターが出来上がった。

 その衝撃はギャラリーとして見ていた4人にも伝わり、人工的な地震を前に皆その場にとどまるだけで精一杯であったが、視線は2人の戦いから目を逸らすことはなかった。

 

「出来る事ならワシらも加勢したい! じゃが……」

 

 ボーマンは自分の無力さを嘆く。

 体力は回復したが魔力の方が底を突いている状態のため、今出て行った所でジェフリーの足手まといになる事は明白。

 それは残りの3人も同じ事であり、ならばとせめてこの戦いを最後まで見守る事を選び、各々自分の想いを語り出す。

 

「もうアタシ達に出来る事はジェフリーを信じる事だけだ」

「どんな結果になっても私はジェフリーを誇りに思うよ。そしてジェフリーのためにこれからも頑張りたいって思う」

「俺もだ! 逃げ帰った臆病者と罵られても、俺は俺に出来る事をやる。そしていつか、この世界も極東のようにするんだ! 本当の意味で人々が魔法を必要としなくなるためにもな」

 

 リオーネ、コーデリア、レフティの3人は思いの丈を叫ぶと、ボーマンと並んで必死になって大声でジェフリーの応援に当たる。

 4人のエールを受けると、イエティの攻撃をかわしながらチャンスを伺っていたジェフリーのモチベーションも上がり、少しずつではあるがその距離を詰めていき、射程の範囲に入るとアロンダイトを振るうが、刃は筋肉によって防がれ致命傷を与える程では無かった。

 イエティにダメージが無いと知り、ジェフリーの顔色にも焦りの色が出る。

 確かに単純な攻撃力では今まで自分が使っていた『改魔のフォーク』よりも上だが、それではただ強力な武器を手に入れたに過ぎない。

 一番の特性であるミタマの能力を使いこなせなければ、この勝負は勝てないと判断し、ジェフリーはアロンダイトの中にあるモルドレッドに問いかける。

 

――さっきの能力はどう使えばいい? 癒の力がお前のミタマの能力なのか?

――だから分からないと言っているだろう。さっきだって言われたままに命じた結果に過ぎない。

 

 少しうんざりした様子でモルドレッドは返す。

 それはジェフリーに対しての苛立ちもあったのだろう。本質を理解してないジェフリーにモルドレッドは説教を始めた。

 

――私はミタマの造詣には深くない。だがニュアンスなら何となく分かる。思い浮かべろ、そしてイメージするんだ。私と共にアイツを救済してやりたいのだろう? ならば理屈で考えるのではない。心のままに放つんだ。自分の中に生じた力と言う物をな!

 

 まるで新人の魔法使いに言うような説教に、ジェフリーは苦笑していたが、モルドレッドが言う事は基本中の基本。

 魔法使いの力の源はイメージする事。自分のイメージをどれだけ現実に出来るかが勝利への鍵と繋がる。

 新人時代を思い出し、ジェフリーはイエティの猛攻を防ぎながらも意識を集中させ、精神の世界へと入っていく。

 真っ暗な空間の中でモルドレッドと対峙するジェフリー。

 2人は手を合わせてお互いの意識を同調させようとする。するとジェフリーの中でモルドレッドの意識が流れ込む。

 それは魔物の救済のため、己を顧みず常に生きるか死ぬかの戦に身を通じていた記憶。

 まるで自らの命を賭けて、全身全霊で戦いに挑むその姿を見ていくと、ジェフリーはポツリとつぶやく。

 

「どんなに鍛錬を積んでも最後は運の太い奴だけが勝つ。それが人生なのかもな……」

 

 悲しい事ではあるが、ある意味では真理を極めた発言に反応したのか、ジェフリーの脳内に1つの文字が浮かび上がる。

 『賭』の文字が浮かび上がった瞬間、ジェフリーは目を見開き、同じようにハッとした表情を浮かべているモルドレッドに聞く。

 

「見えたか?」

 

 質問に対してモルドレッドは首を小さく縦に動かす。

 まるで光明が見えたかのように晴れ晴れとした気分になり、モルドレッドは自分のミタマの力を説明し始める。

 

「我々は人間だ。神ではない。人が人を救う以上、賭けるしか方法はないだろう」

「同感だ」

「故に私のミタマは『賭』のミタマだ。全てが運任せのギャンブルな能力だが、使いこなせるか?」

 

 そう言ってニヒルに不敵な笑みを浮かべるモルドレッドに対し、ジェフリーは彼に向かって手を伸ばしその姿をアロンダイトに変えると、手に持って叫ぶ。

 

「上等だ!」

 

 叫ぶと同時に暗闇の世界は光に包まれ、2人の意識は現実へと戻る。

 確かな答えを持った状態で。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 現実に戻ったジェフリーを待っていたのは、イエティが力任せに放つ平手打ちだった。

 大振りの攻撃をジェフリーはバックステップでかわすが、風圧だけでも凄まじい物があり、ジェフリーはよろめいて後方へと倒れこんでしまい、その隙をイエティが逃すはずもなく、力任せに右足で踏み付けると、ジェフリーの口からは血反吐が出る。

 

「ジェフリー!」

 

 痛々しい彼の姿を見て、4人は玉砕各語でイエティへと突っ込もうとするが、ジェフリーは手を突き出してそれを制する。

 その間もイエティのフットスタンプの攻撃は続き、今までのダメージもあってか、全ての苛立ちをぶつけるようにイエティは何度も何度も動かなくなっているジェフリーを乱暴に足で踏み付けた。

 その攻撃はジェフリーの目に光がなくなるまで続き、攻撃に地面の方が耐えられなくなり、穴が開く寸前でイエティはフットスタンプの猛攻を止めると、自分が勝った事を誇示するかのようにその場で雄叫びを上げる。

 それはイエティの方も苦しく限界が近い事を知らせる叫び。イエティを見ると息も絶え絶えになっていて、顔が真っ青になっており、今の攻撃で体力の大半を使い果たした事が理解出来た。

 だがそれもジェフリーが倒された今では関係ない事と一同は思っていたが、レフティは何かに気付きジェフリーを指さして皆にそれを伝える。

 

「オイ、アイツ両脇につっかえ棒みたいなの置いてないか?」

「つっかえ棒?」

 

 問いかけに対してリオーネは少しうんざりした調子で返しながらも、レフティと一緒に視力を強化してジェフリーの方を見る。

 確かに彼が言うようにジェフリーの体の両脇には彼を守るように2本のつっかえ棒があった。

 その正体を確かめるため、リオーネは更に視力を強化して物の正体を見ると驚愕の声を上げる。

 

「あれはつっかえ棒じゃない! 『槍大樹のツタ』を小さくした物だ!」

「そうか狙いが分かったぞい!」

 

 ボーマンの歓喜の叫びと同時に、イエティは激しく咳き込み、口から吐血した。

 苦しそうに咳き込み続ける魔物を見て、ジェフリーはゆっくりと体を起こすと、自分を奮いたたせたいのか、作戦の説明をしだす。

 

「分厚い筋肉と濃い体毛で覆われているから、攻撃が通りにくいが、流石に足の裏には筋肉も体毛もないようだな。そこに強力な毒を流し込めば、これまで敵が存在せず、免疫力もロクに備わってない、お前は苦しむしかないな」

 

 作戦が見事に成功した事にジェフリーは意地の悪い笑みを浮かべ、一方のイエティは咳き込みながら蹲っていき、毒に苦しみ、何度も何度も口から吐血しては悲痛な叫びを上げた。

 その様子をジェフリーは心眼で見届けると、魔物の体は真っ赤に染まっていて救済を求めているのが分かる。

 サンクチュアリの魔法使いとして、やるべき事をやらなくてはいけないと判断したジェフリーはアロンダイトを高々と掲げ、この戦いに幕を下ろそうとする。

 

「聖剣アロンダイトよ! 今こそその力を示せ! 発動せよ『運否天賦』の力よ!」

 

 運否天賦の意味が分からず4人は困った顔を浮かべるが、彼らに構わずアロンダイトは光り輝きジェフリーの想いに応える。

 光は真っ赤に染まっていき、波動はジェフリーの身長を超えて刀身を包み込む。

 光の波動で包まれた刀身をジェフリーは前へと勢いよく突き出すと、蹲っているイエティの腹を貫き、波動は氷壁の中へと伝わっていくと消えてなくなる。

 そしてジェフリーが剣を引き抜くと同時にイエティの体はドロドロに溶解していき、その剣先にはコアがあった。

 戦いに勝利した事が分かると、レフティは声を大にしてはしゃごうとするが、それをボーマンが制そうとする。

 

「騒ぐな! ワシらの本来の目的は水源の確保じゃ!」

「だけどよ……」

 

 氷壁を指さすとリオーネは苦痛そうな顔を浮かべた。

 水源を確保するため氷を溶かすとなると、氷壁の中で眠っている魔物達を起こす事となってしまう。

 これだけ大量の魔物が一気に目覚めれば、復興が大分進んだ街がまた再び崩壊の危機に訪れる可能性をリオーネは指摘すると、ボーマンもまた苦い顔を浮かべる。

 

「ここは勇気ある撤退を選ぶしかないのか……」

「そんな事はない」

 

 早駆けの術で帰ろうとしているボーマンを制したのはジェフリー。

 彼は麻袋にコアを詰めると改めて氷壁を指さす。

 注意深く一同が氷壁を見ると中で泳いでいる魔物達を見て、驚愕の表情を浮かべた。

 

「ちょっと! 何がどうなってんのよ⁉」

 

 この状況が理解出来ないコーデリアは興奮した調子でジェフリーに詰め寄る。そんな彼女を宥めながらジェフリーはアロンダイトを見せながら説明に入る。

 

「その中に始祖モルドレッド様が……」

「真か⁉」

 

 何気なくつぶやいたリオーネの一言にボーマンは反応し、話に聞いていたモルドレッドがその場に居ると分かると、一同は慌ててアロンダイトに向かって土下座をする。

 その様子を見るとジェフリーは呆れながら一同の顔を上げさせ、改めて説明に入ろうとした。

 

「運否天賦の力でな。波動は魔物が自力で突破出来ない程度の氷壁だけ残し、中を完全な水源へと変えた。これは極東の建設技術の能力でな。確か『ダム』と言っていたな」

 

 あまりに強大な力を前に一同は圧倒されそうになっていたが、コーデリアは突っ込みを入れる。

 

「でもどうやってそこから水源を確保するのさ?」

「問題ない」

 

 そう言うと同時にジェフリーは炎竜の卵を氷壁に向かって放つ。

 小さな穴が一つ出来るとそこから勢いよく水が噴き出て、飲み込まれそうになったのを見ると一同は慌てて隼の羽を使って近くの氷壁へと昇って、その様子を見守る。

 穴は小さいのでそこから魔物が出てくる事はない。今は休眠期だが、明日になればまた猛吹雪が襲って、自然と穴も塞がる。

 こうして必要に応じて穴を開けて水源は確保すればいいとジェフリーは説明すると、祖の凄さにただただ一同は圧倒されるばかりだった。

 

「本当におんしはどんだけ凄い奴なんじゃ……」

「俺はきっかけを与えただけだ。ここからはお前達の物語だ」

 

 強引に話を終わらせると、ジェフリーは円陣を組ませ帰ろうとする。

 

「早駆けの術は俺にも教えてくれ」

「あ、ああ……」

 

 ジェフリーの願いに対して、ボーマンは生返事で返して、一同の体はその場から消える。

 強大な敵イエテイ、新たに生まれた氷の中で眠る魔物と言う問題、それらは全て伝説の力で解決された。

 ワープに成功してサンクチュアリの本部にたどり着き、アルトリアは一同に労いの言葉をかけるが、それはジェフリー以外の面々には届いてなかった。

 自分の不甲斐なさに心は埋め尽くされていたから。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 水源の確保の成功から一週間の時が流れ、その間にジェフリーは早駆けの術を覚え、魔法の特色も完全に理解していた。

 どこにでも行けると言う訳ではなく、一度行った場所ならイメージをすればそこへ行けると言う物。

 強力な魔法である分、魔力の消費も激しく、一日に二回が限界と全てのルールを理解したジェフリーは今、湖畔に1人佇んでいる。

 そこは水源が確保されてから新たに生まれた場であり、それを生み出した存在と今ジェフリーはテレパシーで会話をしていた。

 

――お前が植えた種が今開花したなパーシヴァル

――うん、ぼくうれしい……

 

 ユグドラシルとなったパーシヴァルは素直に喜びを表現する。

 魔物となって世界が荒廃して大地が荒野で埋め尽くされても、パーシヴァルは諦めていなかった。

 いつか必ず息吹く日が来るだろうと、世界中にユグドラシルは胞子を放ち、今少しではあるが水を得た事で種は緑へと変わり、新たに心を安らげる場を与えてくれた。

 湖畔で1人寛ぎながら、ジェフリーはこれからの方針をパーシヴァルに語り出す。

 

――お前の息子は信頼出来る仲間に預けている。大丈夫だ、お前に似て息子も優しい子だからな。きっとお前と一緒でまっすぐに育ってくれるさ。

――うん。ゴメンね、ぼくがダメなとーさんだから。

――それは言わない約束だろ。それともう1人俺の仲間が極東に来ている。

――そうなの?

――そいつもまた運命と戦いながら新たな道を必死に模索しているよ。大丈夫だ。俺にも似たような状況で立ち直る事が出来たんだ。きっとアイツも立ち直ってくれるさ。

――そうだといいね。

 

 2人は穏やかな時間を共有し合っていたが、お昼の時計塔の鐘の音が聞こえると、ジェフリーは街へ向かって歩こうとする。

 

――じゃあここでしばしのお別れだ。昼には魔力の補充が終わって、俺は極東に向かう事になっている。また会おう。

――がんばって……

 

 パーシヴァルのエールを受けると、ジェフリーは1人歩き出す。

 自分の成すべき事をやるために。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 サンクチュアリの会議室で魔力の補充が終わったリブロムは、ジェフリーが中には居るとすぐに自分の体を模したドアを作り出して、彼を異界に送り出す用意をする。

 

「聖杯の事を頼んだぞ」

 

 リブロムのエールを受けると、ジェフリーはドアノブに手をかけようとするが、アルトリアの顔を見ると、彼女の前へと立ち話しかける。

 

「本当に駄目な兄で済まないと思っている。組織の代表なんて大役を妹に押し付けてしまってな」

「そ! そんな事私は何とも思っていません! 兄さんさえ生きていれば私はそれだけで……」

 

 話の途中でジェフリーはアルトリアの体を強く抱きしめた。

 突然の抱擁に困惑したが、アルトリアは久しぶりの兄の体温を心地よく思い、そのまま身を任せる。

 

「お前の成長をこれから見届けられない事を許してくれ。俺は俺で聖杯と戦い続けるから、俺の真似はするな。お前はアルトリア・カムランとしての物語を紡げばいい」

「ハイ……」

 

 その胸の中でアルトリアは小さく泣いた。

 それは今まで我慢していた反動なのだろうか、少しの間泣いて気持ちを落ち着かせると、アルトリアは自分から離れ、ジェフリーに面と向かった状態で命令を下す。

 

「では四代目ゴルロイスとして命令を下します。アーサー・カムラン、あなたは異界へ赴き、聖杯を滅するのです。この世界を守るため、そして向こうの世界のあなたの仲間を守るためにも!」

 

 その凜とした表情を見て、心配はないと判断したジェフリーは改めて異界に向かおうと、彼女に背を向けて、まどか達の世界へと向かおうとする。

 

「待ってくれ!」

 

 その場になだれ込むように4人の男女が会議室に押しかける。

 魔力を供給したばかりのボーマン、リオーネ、コーデリアの3人は立つのもやっとの状態であり、レフティはそんな3人のフォローに回っていた。

 

「何事です⁉ あなた達は待機命令を与えたはずですよ!」

 

 突然の乱入をアルトリアは叱るが、一同は気にせずジェフリーの前に立つと、全員が深々と頭を下げた。

 

「何を?」

「スマン! お前さん1人に全てを任せてしまって、じゃがこれからの事はワシらでやるつもりじゃ!」

 

 最初に口を開いたのはボーマン。

 彼はこれからの自分のプランをジェフリーに伝えていく。

 ボーマンはサンクチュアリの財政管理の他にも、後進の育成の仕事もしている。

 今までは財政管理が主だったが、それはこれからコーデリアに任せて、これからは後進の育成を中心に仕事をしていく事を話した。

 

「あそこまで苦しんでいる魔物が居るとは思わなんだ! だからワシらはもっと強くなって一体でも多くの魔物を救済せねばイカン! 後の事はワシに任せてくれ。じゃからお前さんは何も気にせず異界でドンとぶつかってこい!」

 

 ボーマンに促されると、他の3人も自分の想いを語っていく。

 リオーネはより明確な未来が見えるように占いの技術を高める事、コーデリアは財団と兼任しながらもこれからはサンクチュアリの諜報員としていち早く情報を得て貢献する事を伝えた。

 

「お、俺だってやってやるぞ! 今はまだ遠く及ばないが、いつかは極東みたいにこの街を発展させてやるからな!」

「期待しているぞ」

 

 皆が皆各々の道へ向かって頑張っているのが分かると、ジェフリーは穏やかな笑みを浮かべながらアロンダイトを手にまどか達の世界へと再び旅立つ。

 リブロムを模したドアが消えてなくなるまで、一同はジェフリーの背中を追い続けた。

 いつかその背中に追い付く自分を想像しながら。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 光に向かって歩んでいくと、カムランを模したドアがジェフリーの目の前に現れる。

 これが向こうの世界に繋がる扉だと理解し、ジェフリーがドアを開けると同時に爆発音と火薬の匂いが部屋の中に響く。

 

「ジェフリーおかえりなさい!」

 

 織莉子の未来予知でジェフリーが今日帰ってくる事が分かったまどか達は、マミのマンションでジェフリーを待っていて、クラッカーを鳴らしてジェフリーを出迎えた。

 突然の事にジェフリーは阿保のように呆けていたが、クラッカー見るとその表情は見る見る内に険しくなり、アロンダイトを片手に敬遠をする。

 

「何だそれは⁉ 威力は全然大した事はないが、小型の砲台か何かか⁉」

「違うわよ! これはクラッカーと言って、この世界でのパーティーグッズよ!」

 

 相変わらず盛大な勘違いをするジェフリーに対して、ほむらは鋭い突っ込みを入れるとクラッカーの説明を始める。

 しかし物の説明を受けてもジェフリーはクラッカーが何のために存在するのか分からず「それがどうかしたのか?」と仏頂面で聞くだけ。

 理解のないジェフリーにほむらはため息をつくが、その様子を見てなぎさとゆまはキャッキャと喜んでいた。

 

「ジェフリーおもしろいです!」

「テルマエ・ロマエみたい!」

 

 まるで漫画の様なリアクションをするジェフリーを幼子二人は笑っていたが、マミがげんなりした顔を浮かべると2人に苦言を呈そうとする。

 

「それが3日に1回のペースであったら、流石に説明に疲れるでしょ?」

 

 マミの疲れ切った顔を見て、一緒に住んでいる彼女がこの事案に対して結構なストレスを感じていると分かり、2人の顔から笑顔は消え、小さく「ゴメンなさい」と言って謝った。

 そんな彼女の話し相手にキリカが出て、杏子はジェフリーが手に持っている偃月刀が気になり、詳細をジェフリーに聞こうとする。

 

「それがお前の仲間のミタマが入った新しい武器か?」

「そうだ。この中にはジェフリー・リブロムとしても、アーサー・カムランとしても深い繋がりを持つ仲間モルドレッドのミタマが入っている。そしては俺はこの偃月刀を聖剣アロンダイトと命名した」

 

 アロンダイトの名前を聞くと、杏子の顔は見る見る内に険しくなっていく。

 教会の娘である杏子は、ジェフリーの物語が逸話に登場する人間達と同名なのは突っ込まないで置こうと思っていたが、流石に我慢が出来ず、何故そんな名前を付けたのかを問いただそうとする。

 

「それはお前狙っての事か?」

「何の話だ?」

「アロンダイトって名前だよ! ギャグでやっているのか⁉ だったら流石に怒るぞ!」

「言っている意味がまるで分からん。センスが悪いとでも言いたいのか?」

 

 困惑の表情を浮かべるジェフリーに対して、これ以上の問答は無駄だと判断した杏子は「もういい」と小さく言うと、他に話したい人が居るだろうと思い、その場から去る。

 杏子が去ったのを見ると、自分がどれだけの期間留守にしていたのかを織莉子に聞こうとする。

 向こうの世界とこちらの世界で時間の流れが同じとは限らないからだ。

 

「俺はどれぐらい留守にしていた?」

「10日程です」

 

 若干のタイムラグはあるが、それでも向こうで過ごした日時と大して変わらない事を知ると、ジェフリーは安堵の表情を浮かべた。

 こうしてまた全員の顔を見れる事が嬉しかったが、ジェフリーはすぐに気持ちを切り替えると自分がやるべき事をやろうとする。

 

「それでこれからの聖杯への対策だが、皆にもある魔法を覚えてもらいたい。早駆けの術と言う、分かりやすく言えば瞬間移動の魔法だが……」

「待ってください!」

 

 突然まどかの大声が響き、一同は彼女に視線を向ける。

 ジェフリーの注意も同じようにまどかへと向けられ、全員の視線を感じるとまどかは静かに語り出す。

 

「ジェフリーさん。そんな帰ってきていきなり仕事の話ばかりで寂しいです。まずは一言だけ言ってください」

 

 一瞬まどかが何を言っているのか意味が分からなかったが、こう言う時に言うべき言葉がジェフリーの頭に浮かぶと、それを素直に伝える。

 

「皆ただいま」

「おかえりなさい!」

「まものでた! ばしょここ!」

 

 穏やかな空気をこれから共有しようと言う時に、カムランの声が響く。

 白紙のページの上に地図が浮かび上がると、一同は戦闘に心を切り替えようとするが、さやかはこの状況に愚痴を漏らす。

 

「もう! 空気読んでよね!」

「その怒りは魔物にぶつけてやれ美樹。私はハラワタ煮えくり返ってしょうがないんだ!」

 

 キリカはさやかを宥めつつも、苛立った表情を前面に出して早くも変身していた。

 そんな彼女を織莉子が宥めながら、全員で魔物の救済へと向かおうとしていて、まどかは一同にエールを送る。

 

「皆! 私皆が帰ってくる事信じて待っているから!」

 

 頼もしいエールを受けてほむらは小さく頷いて、先陣を切って窓を勢いよく開ける。

 

「皆行くわよ! ここからが本当の戦いよ!」

 

 窓から変身して一同は魔物が待つ場所へと向かった。

 嘗て憎しみだけで戦っていた少女達はもう居ない。

 そこにあるのは魔物の苦しみを理解しようとする気高い魂だった。

 それを見守るまどかもまた嘗ての弱虫で傲慢な魂の持ち主ではない。

 弱虫と罵られても、見守る戦いを選んだ気高き魂。

 今、改めて聖杯と魔法使いの戦いが始まった。

 過去と未来の物語が交錯して。




と言う訳でジェフリーは見滝原に戻ってきました。
何か打ち切られた漫画の様になってしまいましたが、一身上の都合でこの物語は予告した通り、これにて終幕となります。

これから気が向けば、ソウルサクリファイスの魔物と魔法少女との物語を書くかもしれませんし、R-18版に投稿するかもしれませんが、今の所は全て不明です。

もし気が向いたら見てくれたら幸いだと思っています。

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