魔法使いと魔法少女が紡ぐ物語   作:文鳥丸

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意思は人から人へと受け継がれる物


第二十七話 受け継いだ存在達

 扉を開けるとそこはサンクチュアリの会議室だった。

 見慣れた風景に自分が元の世界に戻ってこられたと判断したジェフリーは早速、アルトリアを探そうと身を乗り出すが、後ろから肩を叩かれると、首だけその方向を向く。

 

「よう。久しぶりだな」

 

 彼を出迎えてくれたのは、嘗ての仲間の意思を継いだ1人、サンクチュアリ専属の占い師リオーネだった。

 ジェフリーは彼女に促されるまま、椅子に腰かけるとリオーネはガラスのコップに入った水をテーブルの上に乗せる。

 

「まずは長旅ご苦労。水でも飲んでゆっくりしてくれ」

「済まない」

 

 出された物に口をつけると、ジェフリーの中で心が穏やかになる感覚を覚える。

 水分が体中を巡り、喉が潤されると、彼は一気にコップの中身を飲み干し、改めてリオーネと向き合う。

 

「皆は?」

 

 短い質問だったが、ジェフリーの言いたい事は彼女には理解出来た。

 占いで全てを理解しているリオーネは彼が知りたい事を全て話そうとする。

 

「最近は全員元アンドロメダ湖畔の近くに建設された西の都での作業で手一杯だ。本当はアンタの帰還を皆で出迎えたかったんだがな。こっちも復興を第一にしたいんだ」

 

 リオーネの意見は正論だ。

 異界の聖杯の問題は確かに重要ではあるが一番ではない。

 ゴッドドラゴンによって破壊しつくされた都市の復興、そして人々が元の生活を取り戻す事が一番の課題なのは分かっている事。

 続いてジェフリーは自分がここに戻った理由を語り出す。

 

「それで俺がここに戻ってきた理由は知っているか?」

「ああ。異界の力がこの世界にもある事を知って、それを求めに来たんだろ? 確かミタマだっけか?」

 

 リオネスの全てを見通す目の力は嫌と言う程知っている。

 その力は弟子のリオーネにしっかり受け継がれているらしく、ジェフリーは彼女の教育に感謝しながらも、更に深い所まで向かおうとした。

 

「それでミタマは? モルドレッドの奴はどこに居るんだ⁉」

「ちょっと待てオイ」

 

 モルドレッドの名を口にした瞬間、これまで穏やかだったリオーネの顔色が不機嫌な物に変わる。

 眉尻を上げて、眉間に皺を寄せたまま、彼女はジェフリーに詰め寄って、彼を睨んだままゆっくりと威圧するように話し出す。

 

「言葉に気を付けろよテメェ。アタシ達のサンクチュアリの人間は、始祖エレイン様と同格の存在なんだよ、救世主モルドレッド様はな。自らの身を挺して人々に正しい光を導いた存在を軽々しく口に出す事は許さねぇぞ!」

 

 モルドレッドの最後はジェフリーも知っている。

 人々が次々に魔へと堕ちていく中、生贄行為を厳禁としているサンクチュアリに所属していてはエレインを守れないと踏んだ彼は、自ら破門となって最後は力の限り戦い抜いて、エレインの腕の中でその一生を終えた事を。

 そんな誇り高い生き方を前にしたからこそ、サンクチュアリに集まった人々は聖杯を欲する事なく、最後まで人として生きていく事が出来た。

 それはリオネスの弟子であるリオーネも同じ事。ジェフリーは迂闊な発言を反省しながら、彼女と距離を取って自分の事情を語っていく。

 

「済まない。俺に取って奴は仲間の一人だからな。その辺りは相違の見解って奴だな」

「はぁ⁉ モルドレッド様の物語は今から100年前のそれだぞ。お前は何を言っているんだ?」

 

 ジェフリーの数奇な事情を話したのは妹だけ。

 リオーネには何も伝えていない事を思い出すと、ジェフリーは自分とリブロムの関係、マーリンに捕まった後、どうなったのかを丁寧に語り出す。

 初めはその壮絶な物語に圧倒されていたリオーネだったが、事情を全て知ると先程の無礼を詫びて、小さく頭を下げた。

 

「そうだったのか、じゃあ仕方ねぇな。だけど、ジェフリー・リブロムって魔法使いも相当数奇な運命を辿った魔法使いなんだな」

「さぁな。俺には何とも言えんよ……」

 

 そう言ってジェフリーは静かに窓の外の景色を見ようとしたが、本来の目的を思い出すと改めてリオーネを問い詰めようとする。

 

「じゃあ改めて聞くぞ、俺は夢の中でモルドレッドがこの世界でミタマになっていると言う予知夢を見た。何か心当たりは?」

「アタシは占いでアンタがここに来る事を知っただけだ。さすがにそこまでは分からないよ。だが……」

 

 思い当たる節があるのか、リオーネは一瞬口ごもる。

 その隙をジェフリーは見逃さず、彼女が包み隠している情報を引き出そうと詰め寄った。

 

「隠した所でどうにもならないだろ。言え、こっちもあまり悠長には構えてられないんだ」

 

 自分に近づくジェフリーを前に、リオーネは威圧感を覚えながらも、渋々話していく。

 サンクチュアリには専属ではないが、組織に有益な情報を提供してくれる諜報員が居る。

 普段は自分の財団に所属しており、組織と財団の掛け持ちを行っている事をリオーネは話した。

 

「そしてここからが一番重要な事だよ。そいつはアンタとも関わり合いのある人物だ」

「もったいぶらずにサッサと言え」

 

 核心に触れようとすると再び口ごもるリオーネを前にして、ジェフリーは早く話すように促すと、彼女は諜報員の名を告げた。

 

「そいつの名はコーデリア・パーソレーブ。アンタも知っている噂屋パーソレーブの孫娘さ。今彼女は持ち前の諜報能力を生かして、パーソレーブ財団の会長をやっている」

 

 嘗ての仲間を継ぐ者がまだ居た事にジェフリーは喜ぶが、それを伝えるのに何故そこまで彼女が口ごもるのかが理解出来ず、詳しい説明をリオーネに求めようとする。

 

「コーデリアはかなり性格に難ありなんだよ。恐ろしく我が儘な輩で、サンクチュアリの所属も財団を優先にする事で引き受けた程だからな」

 

 そう言ってため息をついて、疲れ切った顔を浮かべるリオーネを見て、彼女の性格の悪さをジェフリーは実感する。

 だがここで立ち止まっていても何も変わらない。ジェフリーはまず元アンドロメダ湖畔の近くに建設された街へ向かおうとリオーネに促すが、彼女は何も言わずにジェフリーに抱き付いた。

 

「何を?」

「勘違いするな。本当はあまり使っちゃいけない瞬間移動の魔法なんだが、今回は時間がない特例で使わせてもらう! 場所は目的地の一番近くのサンクチュアリ支部だ!」

 

 リオーネが何を言っているのか分からず、困惑するばかりのジェフリーだったが、次の瞬間2人の体は突風が覆う。

 この魔法をジェフリーは知っている。以前13代目ペンドラゴンがターリアの元から逃げる時に使った瞬間移動の魔法。

 何故、サンクチュアリの魔法使いである彼女が、魔法大全の持ち主しか知らない高度な瞬間移動の魔法を使えるのか疑問に思ったが、突風が吹き荒れる中リオーネは説明をする。

 

「リブロムから教えてもらったんだよ」

「それだけでか⁉ 俺だって思い出すのに長い時間を必要としたのに……」

「アンタはアンタで努力してるんだろうけど、こっちはこっちで努力してんだよ。アイツもアタシ達もな」

 

 そう言われるとジェフリーは何も言い返す事が出来なくなった。

 自分だけが前進してると思っていると言う傲慢な感情に知らず知らずの内に埋め尽くされた自分が恥ずかしかったから。

 目的地に到着するまでの間、2人の間には気まずい空気が流れていた。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 風が収まり、ジェフリーが目を開くとそこは先程の会議室を一回り小さくしたような場所であった。

 未だに自分が瞬間移動した事が信じられず、呆けるジェフリーだったが、彼の意識は野太い男の声で引き戻される。

 

「何じゃい。帰ってきたのに挨拶の一つも無しか?」

 

 呆れたような声にジェフリーは反応して、声の方向を見る。

 そこに居たのは、リオーネと同じで嘗ての仲間を継いだ存在、三代目ボーマン。

 ボーマンは巻き上げられた砂埃を手で払いながら、わざとらしく咳き込んで不機嫌なのをアピールしていた。

 突然乱入して申し訳ない気持ちがジェフリーにもあったが、今は自分の目的を話すのが先。

 使命感が彼を動かし、口を開かせる。

 

「それは済まないと思っている。だがまずは俺の話を聞いてくれ」

 

 ジェフリーは半ば強引にボーマンに自分の目的を伝える。

 占いで大体の事はリオーネから聞いたのだが、それでもボーマンはこの世界に未だにモルドレッドが滞在しているかもしれないと言う事実に驚き、声が 出なかった。

 何をどう伝えればいいのか考え込んでいると、会議室に1人の少女がやってくる。

 

「ダメね、癇癪を起こして全然話を聞いてくれないわ……兄さん⁉」

 

 問題事が解決しない事から、アルトリアはボーマンに助けを求めようとしたが、そこにジェフリーが居る事に目を丸くして驚いたが、すぐに気持ちを切り替えると何故彼がここに居るのかを聞く。

 ジェフリーは妹の質問に対して、全てを話した。

 初めはモルドレッドがまだ現世に居る事が信じられず、困惑するばかりのアルトリアだったが、可能性を信じてみようという想いがあり、ジェフリーの話を信じる事にすると、彼に次の行動への意見を求める。

 

「兄さん。次の一手は?」

「リオーネから聞いたんだが、ここの諜報員なら情報を得られると思ってだな……」

「ちょっと! 客人をほったらかしにするつもりなの!」

 

 話している途中で幼い怒鳴り声が響く。

 その声にアルトリアは小さくため息をつき、ボーマンとリオーネも苦い顔を浮かべていた。

 一同の様子を見て、悩みの種が声の主だと判断したジェフリーは、アルトリアの肩を軽く叩いて、彼女と共に声の主の元へと向かおうとする。

 ジェフリーの気遣いに感謝しながらも、食堂に向かう途中でアルトリアは声の主と、今サンクチュアリが取り組んでいる問題に付いて語る。

 

「今我々は水源の確保に取り組んでいます。ゴッドドラゴンの猛攻で多くの水源は枯れ果てたので、代わりを模索していたところ、私達はアンドロメダ湖畔の氷に目を付けました。あそこは魔法の力で絶対零度を保っています」

「それは危険だぞ。魔法の力が備わった物を口に入れれば、こっちの身に何が起こるか分からない」

 

 ジェフリーはあくまで冷静に事を進めようとする。

 飢民の実のように食べても問題ない物もあるが、それでも基本的に魔法で作られた物は人に災いをもたらす物がほとんど。

 だが彼の見解に対して、アルトリアは既に対抗案を持っていた。

 

「勿論です。ですので私達は実験を施しました。その結果、アンドロメダ湖畔の氷は飲料水として使っても問題ない事が分かりました」

「何を根拠にだ?」

「一年前から我々サンクチュアリの生活用水は全てそこから取れる水で賄いました。今はロムルス人も本部には参加していますが、セルト、ロムルス関係なく、水を飲み続けても体に異常はありません。そこから生活用水としてそこの氷を溶かして、回す事を我々は決断しました」

 

 サンクチュアリの身を呈した献身行為に対して、ジェフリーはそれ以上意見を言うのを止めた。

 彼女もまたエレインやモルドレッドが見せた金色の精神を継いだ存在だと分かると、ジェフリーは急いで食堂へと向かう。

 自分もまた彼女に誇れるような兄でありたいから。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 食堂のドアを開けると、金切り声が響き渡る。

 2人は反射的に耳を閉じると、サンクチュアリ専属のコックが一口食べただけの料理を下げながら、肩を落としてその場を後にしていて、声の主がどんな存在なのか気になり、ジェフリーが辺りを見回すと、椅子に小さくちょこんと座っているアルトリアよりも小さい、130センチぐらいの金髪の少女がそこには居た。

 

「何よアンタ?」

 

 彼の視線に気づいた少女は不機嫌な顔を浮かべたままジェフリーに接する。

 ジェフリーは屈んで少女と目線を合わせながら、ゆっくりと語っていく。

 

「別にそっちの邪魔をするつもりはない。俺は今、ここの諜報員のコーデリア・パーソレーブと言う女性を探していてだな。彼女とコンタクトを取りたいと思ってい……グォ!」

 

 話している途中でジェフリーのみぞおちに少女の小さな拳がめり込む。

 痛みに耐えながら腹を擦っている彼を無視して、少女は光を失った目でアルトリアを睨みながら語る。

 

「何? アルトリア言ってないわけ?」

「ええ……」

 

 アルトリアの返事を聞くと、少女は相変わらずの光を失った目でジェフリーを睨みながら一言言う。

 

「私がそのコーデリア・パーソレーブよ。そう言うアンタは何者なのよ?」

 

 コーデリアは突然現れたジェフリーに警戒心を強めながら質問をする。

 ジェフリーは自分はアルトリアの兄で、異界の聖杯を滅するため、ここにあるモルドレッドのミタマの力を得るため、一旦この世界に戻って来た事を彼女に告げた。

 誠意ある対応を見ると、コーデリアは椅子を1つ引いて、自分の対面に座るよう促す。

 彼女の案に乗り、ジェフリーはコーデリアと向かい合って話し合いをする事になる。

 

「それで私に何を求めるの?」

「先程話した通りだ。この世界にモルドレッドのミタマがある事までは分かっているんだ。だがどこにあるかまでが分からない。パーソレーブの耳を受け継いだ血縁者なら、そんな噂を聞いた事はないのか? 教えてくれ頼む」

 

 そう言うとジェフリーはコーデリアに向かって、頭を下げた。

 真摯な対応を見せるジェフリーを見て、彼女は少し考え込む。

 今まで彼女はその幼女を思わせる見た目から、軽く扱われる事が多々あり、その結果人を見下す傾向が強い傲慢な性格になってしまった。

 だが目の前の彼は自分を決して見た目だけで判断せず、力だけを利用しようと言う傲慢な部分も感じられない。

 ちゃんと真摯にコーデリア・パーソレーブと向き合っていると分かると、彼女は小さく口を開いた。

 

「私は見た目が12歳ぐらいで止まっているけど、実際はアルトリアと同い年でお酒だって飲める年齢よ。でもこの見た目から人々は皆私を下に見て、情報屋だからと酷い対応を受けてきた。だから私の父様、エルキュール・パーソレーブは情報を駆使して、荒稼ぎを行い、現在のパーソレーブ財団を築き上げた。私だって、二代目として財団をより大きな物にしようと日々身を粉にして働いているわ」

 

 そこからコーデリアの身の上話が始まる。

 しかしそれでも彼女の周りに集まるのは、金か自分に取って有益な情報を求めるだけの下衆な輩ばかり。

 そう言う人間ばかりを相手にしていた為、サンクチュアリでも彼女は気分屋の手がかかる諜報員として問題な存在となっていた。

 

「でもアンタみたいなのは初めてだよ。こんな幼い私と真摯に向き合う大人なんてね」

「俺は見た目や年齢で人を差別したりはしないよ」

 

 その言葉に嘘偽りは無いと判断したコーデリアは頭の中を整理して、膨大にある噂の中から1つ拾うと、それを彼に告げる。

 

「ミタマって奴かどうかは分からないけど、不可思議な力の源なら1つだけ心当たりがあるよ」

「それは?」

「見返りもなしにタダで教えろって言うの?」

「俺に金はない。だから体で払う、どんな魔物を救済すればいい?」

 

 いつかボーマンの万事屋でやったように、借金返済要請をジェフリーは行おうとするが、コーデリアは首を横に振ってそれを否定する。

 

「馬鹿にしないでお金ならいくらでも稼げるの。私が求めているのはそんなもんじゃない」

「じゃあ何だって言うんだ?」

 

 ジェフリーの問いかけに対して、コーデリアは厨房を指さす。

 そこでは構成員達が雑な料理をコックから受け取りながら、もさもさと食べる様が映っていて、その様子を見たコーデリアはヒステリックに叫ぶ。

 

「もう嫌なのよ私は! 食事はストレス社会に生きる私に取って数少ない楽しみなのに、出されるのは香辛料で申し訳程度の味付けをしただけの料理ばかり! 最高レベルのサンクチュアリでもそれに毛が生えた程度よ! どうしても情報を聞きたいなら、私が納得出来るような美味しい料理を持ってきて!」

 

 先程からの癇癪の原因が分かると、ジェフリーはアルトリアの方を見る。

 アルトリアは呆れたような顔を浮かべるだけであり、彼女に手を焼いている事がよく分かった。

 ジェフリーは腰に備え付けた麻袋の中から、1つ紙のパッケージで包まれた食料を手に取るとキッチンへと向かう。

 

「に、兄さん⁉ 得体の知れない物を食べさせるのはさすがにどうかと……」

 

 見慣れない物を食べさせようとするジェフリーをアルトリアは止めようとするが、彼は気にすることなく持っていた物の説明に入る。

 

「心配するな。これは極東の料理でカレーと言う物だ。本来はお前らの土産に用意したがここで使わせてもらう許せ」

「カレー?」

 

 聞き慣れない単語にそれが本当に料理なのかどうかをアルトリアは疑うが、そんな彼女の不安を解消するようにジェフリーは説明をする。

 

「俺でも作れる極東の煮込み料理だ。作り方だけ、ここのコックに任せれば後は何とかしてくれる」

 

 そう言うとジェフリーは厨房の中へと入り、コック達にカレーの作り方の指示を出す。

 その様子をアルトリアは不安そうに、コーデリアは不機嫌そうな顔で見つめ、三者三様の想いを胸にこの世界で初めてカレーの制作が行われようとしていた。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 数十分後、厨房から美味しそうな香ばしい匂いと共に、ジェフリーは皿の中に盛られたカレーと隣にはパンが置かれたトレイを持って、コーデリアの前に置く。

 初めて見るカレーを前にコーデリアの顔は完全に固まっていた。

 興味深そうにカレーに鼻を近づけ匂いを嗅ぐと、味の分析を頭の中で行う。

 

(見た目は家畜の餌みたいだけど、匂いはそこまで悪くないわね……)

 

 文句は食べてからでも遅くないだろうと判断したコーデリアはスプーンを手に取って、恐る恐るカレーを口に運ぶ。

 すると口の中で起こった反応にコーデリアは目を丸くして驚き、一言つぶやく。

 

「おいしい……」

 

 カレーを素直に美味しいと認めたコーデリアはスプーンを片手にかきこんでいき、パンと一緒に食べるとより美味しい事に気付くと、瞬く間に皿の中のカレーはなくなっていき、あっという間に完食すると満足そうな笑みを浮かべた。

 

「ごちそうさまでした……」

「どうだ感想は?」

 

 ジェフリーはコーデリアの対面に座って感想を求めると、彼女は穏やかな笑みを浮かべながら返す。

 

「最高。こんな美味しい料理食べた事ない。これ何?」

「これは極東の名物料理でカレーと言う物らしい」

「そう……極東は食にウルサイと聞いたけど、ここまでだったとはね……」

 

 遠い目を浮かべて食事の余韻を楽しんでいるコーデリアの姿を見て、アルトリアは驚愕の表情を浮かべた。

 彼女は諜報能力に関しては右に出る物はいないが、そのワガママな性格から扱いが大変難しかった。そんな彼女に今のような穏やかな顔をさせる事が出来る事が信じられず、アルトリアは改めてジェフリーを尊敬の眼差しで見つめる。

 水を一飲みして心を落ち着かせると、コーデリアは食事の余韻に浸りながらポツポツと語っていく。

 

「それでミタマかも知れない情報をジェフリーは求めているんだよね?」

「ああ」

「それは多分、元アンドロメダ湖畔の中にあるよ。今はウェンディゴ平原って呼ばれているけどね」

 

 聞き慣れない単語を聞くと、ジェフリーは困惑の表情を浮かべるが、コーデリアはそこに付いて説明をする。

 アンドロメダ湖畔に住み着いた魔物は自身の能力で縄張りを広げていき、絶対零度の世界を作り上げ、今サンクチュアリが水源の確保に向かっている先も、まだ魔物の管轄外の端の部分から拝借しているだけであり、これからは直接主である魔物の救済を行う事で完全な水源の確保を目論もうとしていた。

 

「どんなドッペルゲンガーだ? ジャックフロストか?」

 

 氷の攻撃で代表的なのを行う魔物をジェフリーは挙げるが、コーデリアは小さく首を横に振る。

 彼女は顎でアルトリアの方をしゃくると、彼女に詳しい説明を要求させた。

 

「ウェンディゴ平原の主は聖杯と契約をした数少ない魔物です」

 

 事実を知るとジェフリーの中で使命感が生まれる。

 この世界で聖杯が猛威を揮っていたのは100年前の話。最低でもその魔物はそれだけの年月苦しんでいたのかと思うと、早く解放しなくてはと言う想いが生まれ、詳細をアルトリアから聞き出す。

 

「その名は『イエティ』元々は……」

 

 現段階で分かっているイエティの情報をアルトリアが伝えようとした時、大きな鐘の音が響く。

 何事かとジェフリーは思ったが、彼のリアクションが面白いと思ったコーデリアはその手を取って外へと向かおうとする。

 

「何? ジェフリー時計塔の存在知らないの? 遅れてる!」

「時計塔?」

「知らないなら見せてあげる! 人々の英知の結晶だよ!」

 

 そう言うとコーデリアはジェフリーを引っ張って、外へと飛び出す。

 一人にしておく訳にはいかないと判断して、アルトリアもボーマンを引き連れて、後を追う。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 連れてこられた場所はこの街の大広場。

 中央には巨大なビルを彷彿とさせる時計塔が大きくそびえたっていて、今が午後の三時だという事を鐘を鳴らして何度もアピールしていた。

 自分達の時代には時間の概念は無かったので、直接時を知らせてくれる時計が自分達の世界にも出来た事をジェフリーは素直に喜び、感慨深そうにそれをジッと見つめていて、そんな彼の様子を見て、コーデリアは意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「驚いた? まだ街の中央にしか作られてないけど、これが時計塔よ。これからは科学的に時間の配分をして、効率よく行う時代。そしていずれは奇跡も魔法も全て人の力で行えるようにしないとね」

 

 それは二度と聖杯に頼らないと言う決意表明。

 コーデリアの姿に金色の精神を見たジェフリーは軽く笑い、彼女も彼の絵身に同調して笑うと2人の間に穏やかな空気が流れるが、それはアルトリアとボーマンが乱入した事でかき消された。

 

「2人共勝手に外へ出ないで!」

「そうじゃ! それにウェンディゴ平原にジェフリーの目当てがあるなら、改めて水源確保のための編成をしないとイカンしの」

 

 ウェンディゴ平原に用事があるのは2人も同じ事。

 そこの氷を用いて、まだ水が完全に供給出来ていない場に水をもたらし、都市部の拡張を行わなくてはいけない。

 その旨を2人は改めてジェフリーに伝える。

 危険な場のため、少数精鋭でそこへと向かうのがベストと判断したアルトリアは多くの賛同者の希望を蹴り、ボーマンとリオーネだけでそこへと向かおうとしていた。

 

「私は組織の代表です。何かあったら場が解体してしまいますし、この2人にも私は本当は行ってほしくありません」

「じゃが誰かがやらにゃイカン事じゃ。革命のため、ワシは敢えて茨の道を進む事を選んだ。じゃがおんしの目当てもウェンディゴ平原にもあるんじゃろ? 利用するようでスマンが、ワシらに協力してもらう訳には……」

 

 途中で口ごもるボーマン。その姿を見て、この任務が過酷な物だと言う事がジェフリーには容易に想像出来た。

 だがジェフリーの心は決まっている。人々が1日でも早く復興して元の生活を取り戻すため、そして聖杯を滅し、モルドレッドを迎える為、自分が取る行動はたった一つ。

 ジェフリーは小さく首を縦に振ると、ボーマンの手を取って固い握手を交わす。

 無言で付いていくと賛同してくれた彼に対して、ボーマンは涙ながらにその体を抱きしめて喜びをアピールした。

 

「ありがとう! 本当にありがとう! おんしこそ本物の漢じゃ! あがぁ!」

 

 感極まっているボーマンの尻を突然激痛が襲い、彼は情けない声を上げる。

 見るとコーデリアが不機嫌そうな顔を浮かべながら、改魔のフォークを片手に柄の部分で尻を殴っていて、2人の注意を自分へと向けさせていた。

 

「何をすんじゃいきなり⁉」

「2人だけで盛り上がってんじゃないわよ! その水源確保の任務、ジェフリーが行くなら私も行くよ」

「何ですって⁉」

 

 思いもよらなかったコーデリアの発言にアルトリアは驚愕の声をあげる。

 そんな彼女の態度が気に入らないのか、彼女はふて腐れた顔を浮かべながら対応をしだす。

 

「何よ? 私だってセルト人の魔法使いよ。私じゃ戦力にならないって言う訳?」

「いや来てくれる事には賛成よ。でもあなた自分には関係ないって、この任務には無関心だったのに」

「気が変わった! とにかくジェフリーが行くなら、私も行く! それだけよ!」

 

 そう叫ぶとそっぽを向いて、コーデリアはこれ以上の意義を認めようとしなかった。

 その様子を見て、ジェフリーがまた1人凍り付いた心を溶かしたと思い、アルトリアは尊敬の眼で彼を見ていたが、ジェフリーはこれからの詳細をボーマンに尋ねる。

 

「それでいつ出る?」

「オウ、リオーネの占いでは明日の明朝が一番落ち着く時期らしい、そこで瞬間移動の魔法『早駆けの術(はやがけのすべ)』で、そこへと向かい一気に中心部に居るイエティを救済して、広がった氷を全て溶かし、水源とする!」

 

 急な話ではあるが、それを嘆いている暇は無い。

 ジェフリーは早速仲間達と共にアルトリアの元へと向かい、これからの事を話し合おうと会議室へと向かおうとしたが、その時爆音が響き渡り、反射的に振り返る。

 

「うおおおおおおおおおおおお! 退いてくれ――!」

 

 視線の先にあったのは黒煙を撒き散らせながら、ゴーカートのような物に乗った青年。

 どうやら途中で制御が効かなくなったらしく、奇声ウェンディゴ平原を立てながら時計塔にぶつけて強引に止めようとしていたらしいが、それでは青年も怪我してしまうと判断したジェフリーは巨神の腕を両腕に発動させると突っ込んでくるゴーカートを受け止めた。

 その瞬間、エンジンと思われる部分から鈍い音が響いて、黒煙が辺りを覆う。

 一同は咳き込みながらも、手で黒煙を払っていたが、青年は運転席から降りて、しみじみとゴーカートを見てこれからの改善点を考えていた。

 

「動力源として石炭は間違ってないはずだ。蒸気の爆発力は立派なエネルギーになるはずだ。あとはどう制御をするか……」

「『どう制御をするか』じゃないじゃろ!」

 

 青年が自分の世界に入っている時に、ボーマンの怒鳴り声が響く。

 黒煙が晴れると、ボーマンもコーデリアも青年を責める目付きを浮かべていて、騒動を起こして全く反省してない青年を見ると、2人の怒りは一気に爆発した。

 

「全くおんしは、ちょっと目を離せばすぐガラクタ作りに走りおって! こんなもん作ってる暇があるなら、本職の鍛冶職人として、武器の制作に取りかからんかい!」

「そうよ! アンタ、鍛冶職人としては優秀なんだから、奇跡や魔法を作り出すのは私達に任せればいいのよ!」

 

 2人は鍛冶職人の青年を責めるが、青年も引く気はなく反論をする。

 

「ウルセェ! ロムルス人が奇跡や魔法を求めて何が悪い! 俺はな、ロムルス人だってやれば出来るって事を証明してやるんだ! 事実この間作ったハンググライダーは大成功だったじゃないか!」

 

 青年の口からハンググライダーと聞くと、ジェフリーの顔色が変わった。

 それはまどか達の世界に存在する気流を利用して飛行を楽しむ道具。

 異界にある物を自力で作れる青年にジェフリーは強い興味を持つと同時に、その姿に懐かしさを覚え、青年に対して一言つぶやく。

 

「パーサント……」

 

 ジェフリーのつぶやきを聞くと、激昂する青年は2人を無視して、彼の元へと向かい、彼を問い詰めていく。

 

「あ? 家の糞ジジイがどうかしたってのかよ⁉」

「パーサントの血縁か、お前は?」

 

 何故祖父と目の前の自分と左程年齢の変わらない青年が知り合いなのかは分からない。

 だが彼の疑問を解消しようと、青年は自己紹介を始める。

 

「ああそうだよ。パーサントは俺の糞ジジイ、俺は孫のレフティ・パーサントだよ」

 

 レフティの自己紹介が終わると、ボーマンは彼を強引に振り向かせ、説教の続きを始めようとするが、その手はジェフリーによって止められた。

 

「何を?」

「この件俺が預からせてもらう。こいつに興味を持った」

「え⁉」

 

 思いもよらなかったジェフリーの発言にボーマンは素っ頓狂な声を上げる。

 驚愕したのは彼だけはなく、コーデリアもその発言に噛みつく。

 

「ちょっと待ってよ! そんなガラクタ製造機なんて、放っておいて、早くミーティングをしないと……」

「ルートに関してはお前らに従う。イエティもそれがそこに居るってだけで、どう言う攻撃をするかは分からないんだろう。なら俺から言える作戦は1つだけだ。全力をもってぶつかる。それだけだ」

 

 もっともな意見を言われると、何も言い返せなくなり、コーデリアは黙りこくる。

 一方のレフティは興味があると言われて困惑していた。

 今まで自分が作った道具は称賛を受ける事がなかったからだ。目新しい物は皆敬遠して、これまで通りの生活から進歩しようとしない。

 それがレフティにはどうしても我慢ならない事だった。進歩しないで何が奇跡や魔法に頼らないだ。これこそ彼の信念だったからだ。

 レフティは警戒心を持ったまま、ジェフリーに接そうとする。

 

「俺に興味を持ったって何だよ?」

「お前の作った道具って奴を見せてほしい。俺ならお前のインスピレーションの手助けになるかもしれない」

「本当か?」

 

 ジェフリーの発言に強い興味を持ち、ここで初めてレフティの声色に明るい色が出る。

 質問に対して彼は小さく首を縦に振ると、レフティは花が咲いたような笑みを浮かべ、ゴーカートを背に担いで、走って行く。

 

「これはゴーカートと言って、将来的には馬車の代わりにしようって思っている交通手段だ。俺の家に来てくれ! 設計図が一杯あるからさ! 話聞かせてくれよ!」

 

 まるで子供のようにはしゃぐレフティに対して、ジェフリーは何も言わずに付いていくが、その背中を見送ったボーマンとコーデリアとこれでいいのかとアルトリアに意見を求めた。

 

「兄さんの言う事は正論ですよ。私達は私達に出来る事をやるしかない。ミーティングと言っても事実上、励まし合う事だけですからね」

「そうじゃのう。各々が各々を信頼するのも立派な戦いじゃからのう」

「明日は早いんでしょ。だったら私は先に帰って体を休ませてもらうわ」

 

 各々の間で話がまとまったのを見ると、その場は解散となる。

 しかしアルトリアには1つ納得出来ない事があった。

 戦力にならないロムルス人のレフティと親交を深めてどうなるのかと。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 自分の家に到着すると、レフティは嬉しそうにジェフリーに設計図を見せた。

 今彼が大々的に取りかかっているのは馬車に変わる交通手段。

 先程のゴーカートは試作品の1つであり、幾多もの失敗を経て今に至った事をレフティは語る。

 

「それでインスピレーションの手助けって何を話してくれるんだよ?」

 

 レフティに促されると、ジェフリーは異界の見滝原の出来事を語り出す。

 夜でも昼間のように明るい街、雷で自動に動く馬車、時計塔並みの大きさがある居住区、遠くの者と通話が出来る機械、自動で水が出る井戸等を語った。

 話を全て聞いたレフティは完全に圧倒されていた。

 

「嘘だろ。極東ってのはそこまで文化が進んでいるところだったのか……」

「全ては生活をより良くしようと思った結果だ。お前もそうなんだろ?」

 

 ジェフリーに促されるとレフティは自論を語り出す。

 人は工夫と努力でいくらでも奇跡を起こせられる物だと、自分の祖父は結局最後までうだつが上がらないまま終わったが、それは工夫と努力を怠った結果だとレフティは思っている。

 

「なのにあの糞ジジイは俺の発明を危険な物の一点張りで認めようとしなくてな。発展なくして、何が奇跡や魔法の否定だ! 話を聞けば、雷で動く馬車は聖杯の力を借りなくても可能なんだろ⁉ だったらウロボロスの無念を晴らすためにも、俺が作らなきゃいけないんだ!」

「ちょっと待て」

 

 気持ちだけが暴走しているレフティをジェフリーは宥めると、彼は本来の目的を伝えようとする。

 

「短期間でここまでの事を出来たのは凄いと思う。だがお前は本来鍛冶職人なんだろう? 皆を助けるための武器とかは作ってないのか?」

 

 それこそがジェフリーがレフティの元を訪れた一番の理由だった。

 優秀な鍛冶職人だと言うなら、手助けになれるような武器だってある筈。

 言われるとレフティはもしもの時のために制作していた武器を取り出して見せる。

 それはまどか達の世界にあるボウガンのような武器、他にもほむらが使っていたバズーカのような武器もあり、物を見たジェフリーは十分実戦で使える代物だと判断した。

 

「立派に使える物があるじゃないか。だったら何でわざわざ浸透に時間がかかる物に取り組んでいる。急激な変化は色々と弊害を生むぞ」

「使ってくれる人が居ないんだ……」

 

 実戦の場に置いて、使い慣れない武器を使用するのは命の危険にかかわる。

 それが分かっているサンクチュアリの魔法使い達は、レフティが使った武器を使おうとはせず、既存の武器だけで戦っていた。

 項垂れるレフティを見て、ジェフリーは意見を出す。

 

「だったら有用性を証明しないと」

「模擬戦でそれは証明した! だがそれでも分かってくれなくて」

「ならお前が武器を持ってイエティの救済に向かえばいいだけだ。いいアピールになるぞ」

「何だって⁉」

 

 思いもよらないジェフリーの発言にレフティは驚愕の声を上げるが、すぐにその案を否定する。

 

「不可能だそんな事!」

「何故そう思う?」

「当たり前だろ! 俺はロムルス人だぞ! 前線に立って戦うなんて出来る訳が……」

「お前の爺さんは役にこそ立たなかったが、俺と共に魔物の討伐に赴いたぞ」

「はぁ⁉」

 

 ジェフリーの言っている意味が分からず、レフティは食いつくが、ここで彼は自分の奇妙な経緯に付いて話し出す。

 100年前の魔法使いの記憶を受け継いだ存在で、彼の祖父とも面識がある事を知ると、レフティは圧倒される。

 落ち着いて話が出来る状態になったのを見ると、何故そうなったのかを語り出す。

 借金返済の要請で自分の地位を少しでも上げたいと思ったパーサントは、ジェフリーに付いていきコバンザメのように彼の手柄を自分の物にする事を選んだ。

 

「だが結果は大失敗だよ。奴はボーマンにこっぴどく叱られたそうだ」

「当たり前だろ……」

「だがそれでも奴は現状を変えるために不可能に挑戦した」

 

 核心を突いた一言を言われ、レフティは何も言い返せなくなる。

 ここで一気に畳みかけようと、ジェフリーは一番伝えたかった事を語っていく。

 

「お前は認めてもらいたいのだろう。だったらまずは成果をあげなくてはいけない。いつだって結果だけが物を言う世の中だからな。お前はどうかな? 曲がりなりにも自分を変えようとしたお前の祖父を糞ジジイと呼んで嘲るだけをお前の言う工夫と努力なのか?」

 

 それだけ言うとジェフリーはその場を去る。

 レフティは何も言わずに佇むだけだったが、彼の中で一つの想いが生まれそうになっていた。

 世の中を変えるため、まずは自分が変わろうと言う想いが。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 翌朝、集まった一同は早速ウェンディゴ平原に向かおうと円陣を組んで、その場へと向かおうとするが、そこに1つの声が響く。

 

「オーイ! 俺も連れてってくれ――!」

 

 声の方向を一同が見るとそこにはレフティが居て、背中に大量の道具を背負って一同の輪に入ろうとしていた。

 

「何しに来た? 今回の場は遊びじゃないんじゃぞ!」

「そうだ。戦闘は魔法使いの仕事だ!」

 

 ボーマンとリオーネはレフティの参戦を拒むが、彼は引く気がなく、背中に背負った武器の中かから、全自動のボウガンを1つ取り出すと不敵な笑みを浮かべた。

 

「戦いは力だけじゃないんだよ。俺はそれを証明して見せる。糞ジジイは逃げ回ってるだけだったが、俺は違う。人は進化出来るって事を証明してやるんだよ」

 

 そう意気揚々と言うレフティを見て止めても無駄だと判断したボーマンは最後通告の様に言う。

 

「おんしを中心に助けるような真似はせんぞ。それをやってしまうと連携が乱れてしまう」

「承知の上だ」

 

 短い返答に覚悟を感じたボーマンはそれ以上何も言わない事を選んだ。

 話がまとまったのを見ると、コーデリアが一言言う。

 

「じゃあ行くよ。パパッと終わらせて、またカレーでお祝いよ!」

「行くぞ」

 

 ジェフリーが一言つぶやくと、一同の体は風と共に消えた。

 その様子を見守っていたアルトリアは皆の無事を祈って手を組んで祈りを捧げる。

 信じる事。それが自分の今の戦いだと分かっていたから。




次回は私のオリジナル魔物『イエティ』が登場します。よろしくお願いします。

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