魔法使いと魔法少女が紡ぐ物語   作:文鳥丸

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故郷とは人が最後に帰る場所


第二十六話 そして故郷へ

 杏子とほむらは異常な事態に苛立っていた。

 結界に入ろうとしても弾き返されて、門前払いを食らう理由が分からず、杏子は何度も何度も槍で結界を突き刺すが、穂先は弾き返されるばかりであり、空しい努力であった。

 

「そんな事をしても無駄に体力を消費するだけよ」

 

 諭すようにほむらは言うが、その顔には焦りの色が強く見えていた。

 ほむら自身もこの異常な状況、そして中に取り残されているジェフリーを心配していたが、どうする事も出来ない。自分達に出来る事は彼を信じて待つ、それぐらいしかないと判断して彼女は変身を解くと、仲間にテレパシーでこの状況を知らせる。

 そんな彼女の様子を見て、杏子も乱暴に槍を地面に叩き付けると変身を解く。

 そして不機嫌な表情のまま、ほむらの隣に立つと彼女に怒りをぶつけようとする。

 

「これもミタマの力だったのかよ⁉」

 

 八つ当たりだという事は分かっていても、聞かずにはいられなかった。

 乱暴な口調で聞く杏子の質問に対して、ほむらは静かに首を横に振ると淡々と語り出す。

 

「分からないわ。今の私達に出来る事は1つだけよ。彼の帰りを信じて待つ。ただそれだけよ」

 

 そう言うと何も言わずにほむらは結界を見つめる。

 これ以上の追及は無駄だと思い、杏子も彼女と一緒に中に居るであろうジェフリーの帰りを待つ事を選んだ。

 出来る事を精一杯やる。それが戦いだと分かっていたから。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 沙々は全面に出て、カガリは後方に飛んで、ジェフリーと対峙をしていた。

 ジェフリーに取っては絶体絶命の状況ではあるが、ここからでも情報を得る事は出来る。

 カガリは後方に飛んでいる事から、彼女が後方支援型のタイプだと言う事を理解し、警戒する事が出来る。

 自分のやるべき事が分かると、ジェフリーは一直線に槍を突き立てて突っ込んでいく沙々に対して、改魔のフォークをカウンターで振り下ろす。

 

「でりゃああああああああああ!」

 

 自分の身体能力だけに頼って弾丸のように突っ込んでいく、沙々の軌道は読みやすくカウンターは容易に出来たのだが、ジェフリーが振り下ろした剣は全て弾き返された。

 緑色の球体は決してハッタリでは無い事が分かり、沙々は改魔のフォークが弾き返され、武器を失って無防備になったジェフリーに向かって穂先を突き刺そうとする。

 

「その命、この優木沙々が貰い受けますわ!」

 

 だが穂先がジェフリーの心臓を貫く直前、槍から伝わってきたのは柔らかい肉の感触ではなく、固い金属のような感触であり、沙々の体は後方へと吹き飛ばされてしまう。

 何事かと思い沙々がジェフリーを見ると、そこには漆黒のフルアーマープレートで身を包んだジェフリーの姿があった。

 

「さすがルンペルだ。俺を防御に逃げさせるとはな」

 

 普段は装着しない自身が持っている最高の防御力を誇る鎧、虐剣士の縛鎧を装着したジェフリーは態勢を整えながら次の一手を考えていた。

 頭も炎で覆われていて、攻撃個所が見当たらない事に沙々は焦りを感じていて、冷や汗を流しながら、この状況を打破するはつ方法を考えようとしていた。

 

(早くしないと制限時間が……)

 

 平静を装っていたが、沙々は防御に逃げて攻撃をしようとしないジェフリーに対してどうしていいか分からない状態だった。

 天岩戸の力は絶対ではない。

 強力な切り札と言ってもよい力なので、当然消費も激しい。

 発動してから効果が継続するまでの時間は100秒が限界であり、既に20秒が経過しており、このままジェフリーが攻撃を拒否して逃げに走れば、二人がかりでも勝てるかどうか微妙な状態に沙々はその場で固まってしまう。

 

「どうしたの優木さん? 攻撃しないなら、私がやるわよ」

 

 ここで今まで静観を決め込んでいたカガリが行動に出た。

 カガリは腰に備わった真ん中に穴の開いた金属製の円盤を手に取ると、ジェフリーに向けて狙いを定める。

 

「チャクラムか……」

 

 彼女の武器が予想通り後方支援型の武器である事が分かると、ジェフリーは腕を顔の全面で交差して完全に防御姿勢を取ると、投げつけるチャクラムを受け止めようと体を蹲らせる。

 

「何も分かってないわね。それで防御のつもりなの?」

 

 冷淡に見下した言葉と共にカガリはチャクラムを放つ。

 薄い金属の刃は分厚いフルアーマープレートなら、全て弾き返す事が出来る自信がジェフリーにはあり、その場から動かない事を選んだが、次の瞬間その予想は覆される。

 

「何⁉」

 

 放たれた数枚のチャクラムは全て、手足の駆動部分に突き刺さり、ジェフリーの関節からは焼けるような痛みが襲い、ジェフリーはそのままの体勢で地面へと倒れこんでしまう。

 予想外のダメージを受けた事で鎧を保つ事も出来ずに、元の状態に戻るとカガリは無防備になっている彼の頭を踏みつけながら淡々と語っていく。

 

「馬鹿ね。どんなに強固な鎧で身を守っていても、駆動部分は必ず動くようにしないといけないのよ。そこだけを狙えば撃破は容易いわ」

「理屈だけ分かっていも、そんな事を実行するには膨大な努力と経験が必要だ。それをお前みたいな子供が行えるなんて……」

 

 驚愕するジェフリーに対して、カガリは更に強く足を踏みつけ、彼の体を地面へと深くめり込ませる。

 大の字になって這いつくばるジェフリーを見ると、カガリは髪の毛を掴んで虚ろな目を浮かべている彼に対して追い打ちの言葉をかけていく。

 

「でもまぁ最後に褒めてあげようか? 天岩戸は発動している間はどんな攻撃でも無効化出来るけど、100秒が限界。時間の経過を待つ作戦は悪くはなかったけど、相手が悪すぎたわね。ここであなたの物語は終幕を迎えるわ」

 

 そう言うとカガリはジェフリーの顎を下から蹴り飛ばして、彼の体をあお向けの状態にさせた。

 全く動こうとしないジェフリーを見て、この状態なら勝てると判断した沙々は槍を持ってカガリと並ぶと、2人はトドメを刺そうとする。

 沙々は槍を突き立てて、カガリは手刀を突き立てて、各々討伐対象の心臓に向かって振り下ろす。

 

「完全にミタマを使いこなす事が出来ればこんな物よ!」

 

 沙々は目の前で横たわるジェフリーに皆苦戦したことが信じられず、悪態を付きながら槍を振り下ろすが、2人の意識が攻撃にだけ集中したのを見ると、彼の目に生気が取り戻され、2人の胸元にあるソウルジェムに向かって手を伸ばして掴む。

 

「な⁉ 何の真似ですの⁉」

「これは……」

 

 天岩戸の力が発動しているにも関わらず、自分に触れる事が出来る事が信じられず、沙々は慌てふためくが、カガリはジェフリーの狙いが分かり、素直に感心した顔を浮かべた。

 

「カガリさん⁉ 一体何がどうなっていますの⁉」

「騒がないで。天岩戸の力が有効なのは攻撃行為だけ、救済行為には対応しないわ」

 

 カガリに言われると、沙々はハッとした顔を浮かべた。

 目の前の討伐対象は、魔法少女のソウルジェムを代償に魔法使いにする事が出来る舞台変換の刻印を持っている。

 絶体絶命の状況を作って、情報を引き出させてから、彼がこの一瞬に賭けたのだと理解すると沙々は歯がゆそうな顔を浮かべていたが、カガリは余裕を持った表情を崩さないまま、ジェフリーを見下ろしていた。

 

「優しいわね。あなたを殺そうとしている私達も人間に戻してくれるの?」

「そうだ。お前達は魔法少女の呪いにこだわる必要はない。日の当たる新しい道を歩むんだ」

 

 ジェフリーの説得に対しても、カガリは何も言わずにジッと彼を見下ろすだけ。

 ソウルジェムを掴まれた状態のまま、彼女は口元だけを邪悪に歪ませると一言つぶやく。

 

「やってみなさいよ」

 

 挑発するような物言いに対して、ジェフリーは右腕に力を込めるとカガリの魂を再び肉体に定着させようとする。

 だがここで妙な違和感を覚えた。

 全く手応えが感じられず、本当に自分は魂を救済出来ているかのような感覚に戸惑いを覚え始める。

 ジェフリーの中で困惑の感情が生まれたのをカガリは見逃さず、彼の顔を足で蹴り飛ばすと強引に距離を取って、彼を地面に突っ伏させた。

 そして自分のソウルジェムを手に取ると、カガリは持っていたチャクラムで自らそれを砕いて、物をバラバラに崩壊させた。

 ジェフリーは思わず目を背けようとするが、カガリは平然とした顔で立っていて、それに彼は呆然となってしまう。

 

「分かってはいても、やはり気分の良い物ではありませんわね……」

 

 沙々はカガリの行動に驚かされながらも、ジェフリーの驚いた顔が面白く、自分も胸元のソウルジェムを手に取ると、地面に落として足で勢いよく踏み潰す。

 魂が封じ込められた本体が崩壊したにも関わらず、平然と立っている2人を見て、ジェフリーは何が何だか分からずパニック状態になっていた。

 そんな彼の間抜け面が面白いのか、沙々はケタケタと下品に笑いながら種明かしをする。

 

「残念だったわねオジさん! 沙々達は聖杯の協力者になった時点で、魔法少女の呪いからは解放して人間にしてもらったのよ。そうじゃないと聖杯の力は使いこなせないからね!」

「何だって⁉」

 

 全く予想してなかった答えを聞かされて、ジェフリーの頭はパニック状態に陥っていた。

 一気に情報を多々流し込まれた事で完全に固まっているジェフリーを前にして、沙々とカガリは勝利を確信して、一気に勝負をつけようと沙々は槍を突き立て、カガリはチャクラムを指で弄んだ。

 

「まだ30秒あるけど、ここで一気に勝負を決めるわよ」

「了解」

 

 短く沙々が言うと同時に彼女は槍を持って突っ込み、その周りをチャクラムが覆う。

 完全に攻撃の態勢が整ったところで、大の字になって寝そべっているジェフリーの心臓が穂先に当たる直前、彼は最後の抵抗を行った。

 

「ご苦労、これで次に生かせられる」

 

 そう言うとジェフリーは右手を突き出して、沙々の体に魔法を施そうとする。

 

「バカなの⁉ 天岩戸が発動している間一切の攻撃は無効だって……え?」

 

 なじろうとした瞬間、沙々は自分の体の異変に気付く。

 法衣姿から漆黒の無骨なフルアーマープレートに身が包まれ、慣れない鎧に身を包まれた結果、沙々の体は穂先が当たる直前で前のめりに倒れ込み、起き上がろうとしても重すぎる鎧が原因で這いつくばる事しか出来なかった。

 

「カガリさん。助けて……」

 

 身動きが取れない事から、沙々はカガリに助けを求めようとしたが、彼女も同じように虐剣士の縛鎧を無理矢理装着させられ、身動きが取れない状態になっていた。

 捕縛と言う最も屈辱的な負け方に、沙々は悔しさに歯ぎしりをするばかりだったが、ジェフリーはゆっくりと起き上がると、彼女を無視してカガリの元へと向かう。

 

「何?」

 

 重すぎる鎧が原因で身動きが取れないカガリは不機嫌そうにジェフリーの応対に当たる。

 天岩戸で防げる対象は攻撃行為のみ、虐剣士の縛鎧を装着させた事は施しに当たるので、例え本人がそれを使いこなせなくても、それはまた別の問題。

 芋虫のように這いつくばって動く事しか出来ないが、それでもカガリは自分の怒りをぶつけようと睨みながら彼の応対に当たった。

 

「100秒まで残り10秒はあるな」

「だからなんなのよ⁉」

 

 この状態からの逆転は不可能だと判断したカガリは乱暴に返すが、彼女とは対照的にジェフリーは徹底して冷静に話を進めようとする。

 

「そう噛みつくな。俺も今までの攻撃と魔力の乱用で正直厳しい状態だ。そこで取引をしないか?」

「何が望み?」

 

 相手が話を聞いてくれる状態なのを察すると、ジェフリーは自分の要求をカガリに伝える。

 

「この勝負引き分けだ。俺はこれ以上何もしないから、そっちも今回は引くんだ」

「何ですって⁉」

 

 この発言に沙々が噛みつく。

 彼女は身動きが取れない状態ながらも、ジェフリーに詰め寄ろうとして自分の怒りをぶつける。

 

「ふざけんじゃないわよ! この鎧だっていつまでも装着出来るって訳じゃないんでしょ⁉ 鎧が外れれば、そこからまた反撃開始よ! 私とカガリさんのコンビなら、オッサン1人ぐらい……」

「黙れ!」

 

 沙々の叫びをカガリの怒声がかき消す。

 怒鳴られた事で沙々は完全に萎縮してしまい、震えながら怯えるだけであり、それ以上何も行動を起こそうとしなかったが、カガリは寝た状態のままジェフリーと交渉を行おうとする。

 

「優木さんは馬鹿よ。貴方ならこの状態からの逆転も可能でしょ? 駆動部の傷は治りにくいけど、治療が出来ないわけじゃないわ」

 

 カガリの言う通り、既に癒しの花を発動させているジェフリーの体は回復に向かっていた。

 だがそれでもジェフリーは静かに首を横に振って、これ以上の戦闘は行わない事を静かにアピールする。

 

「茉莉は俺の仲間だ。その姉を殺したとあっては、俺は茉莉に顔向け出来ない。あの沙々とか言う女もそうだ。俺の嘗ての仲間はアイツを正しい道に進めてやりたいと思っている。その想いに俺は応えたい。だからここは引いてくれ、頼む」

 

 そう言うとジェフリーはカガリに向かって頭を下げる。

 それと同時に天岩戸の効果もなくなり、虐剣士の縛鎧も消えてなくなった。

 カガリはジェフリーの姿を見ると、起き上がって沙々の体を無理矢理起こすと、異空間に通じる穴を広げる。

 

「絶対にあなたは後悔するわ。あの時私を殺しておくべきだったとね」

 

 カガリの挑発に対しても、ジェフリーは全くリアクションを起こさず、彼は黙って2人が住処に帰るのを見送った。

 戦いが終わると同時に結界の中に2人の少女が入って行くのが目に飛び込む。

 杏子はジェフリーの体を心配し、ほむらは敵の情報を聞き出そうとするが、2人の言葉は彼には届いていなかった。

 

(救うとなると、今のままじゃダメだな……)

 

 ずっと迷っていた事だが、今回の一件でジェフリーの中で決心が固まった。

 自分を求めている嘗ての仲間と向き合い、新しい物語が悲劇で終わらないよう最善を尽くそうと。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 美国邸で復帰したマミとキリカも交えて、全ての協力者が明らかになった事を告げる。

 その内の1人が茉莉の双子の姉と聞くと、一同の顔色にも緊張の色が走ったが、同時に告げようかどうか悩み、全員が対応に困っていた。

 

「茉莉の方には私がそれとなく聞いておく。だが双子の姉が居たなんて話アイツから聞いた事ないぞ」

 

 キリカは敢えてそんな役を自分から買って出る。

 先延ばしにしても何も問題は解決しないと言う事はほむらが一番分かっている事なので、彼女が代表してキリカにお礼を言う。

 

「ごめんなさい……」

「話は終わったか?」

 

 ここで今までだんまりを決め込んでいたジェフリーが言葉を発する。

 突然の事に驚かされながらも、ジェフリーは皆の注目が自分に向けられたのを見ると、ゆっくりとここ最近の事情を話し出す。

 最近、元の世界に戻ってこいと夢の中でお告げが来ている事を。

 異世界の人間からすれば元の世界がどうなっているかは気になるところ、その問題を出されると少女達は何も言い返す事が出来ず、だんまりを決め込んでしまう。

 

「そしてその声の主は、死んだ中では唯一聖杯に捕食されていない仲間。そして『俺』と『俺』に取ってもっとも縁の深い仲間と言ってもいい」

「どう言う事だ?」

 

 杏子に聞かれると、ジェフリーはモルドレッドの物語を語り出す。

 嘗ては優秀なアヴァロンの魔法使いだったが、その掟に忠実過ぎた為、最後は自らも魔物となった。

 だが、魔物となった彼を当時のサンクチュアリの総帥エレインが救済した事で、彼はサンクチュアリに絶対の忠誠を誓い、掟に嫌になった魔法使いの右手を狩る事で、魔法使い達に新たな人生を与える魔法使い殺しの魔法使いとして、多くの魔法使いから尊敬の念を送られた誇り高い魔法使いである事をジェフリーは一同に伝えた。

 

「なるほど。それはジェフリーとしても、そしてサンクチュアリの正当な血筋であるアーサー・カムランとしても最も縁が深い仲間って言えるな」

 

 全ての説明を聞くと杏子は納得した顔を浮かべるが、一同はただただ圧倒的な物語を前に言葉を失うばかり。

 一同がモルドレッドの物語を理解すると、ジェフリーは意を決してここ最近の悩みを話す。

 

「今日の戦いで思い知ったよ。ただ殺すだけなら、あの8人を相手にしても出来ない事はない。だがそれじゃダメなんだ。俺はサンクチュアリ、いや人の心の美しさを人に伝えなくてはいけないんだ。その為に協力してくれる奴が居るなら、モルドレッドが俺と戦ってくれるならば、俺は奴と共闘がしたい。だから……」

 

 頭の中でうまく言葉がまとまらず、しどろもどろになりながらも、ジェフリーは自分の気持ちを少女達に伝え、一呼吸置くと最後に自分の目的を伝える。

 

「一度俺の世界に帰ろうと思うんだ。向こうの様子を見て、モルドレッドが俺の思想に賛同してくれるならすぐに戻る!」

「何ですって⁉」

 

 覚悟はしていたが、いざ本人の口から聞くとなると驚いてしまい、一同はジェフリーに詰め寄る。

 何とか心の平穏を保ちたい、さやかは織莉子に助けを求めた。

 

「美国さん。未来は見えますか⁉」

 

 慌てふためきながら聞くさやかに対して、織莉子は小さく首を横に振る。

 

「流石に異世界の未来までは分かりません。でもこの世界の未来なら!」

 

 景気付けに織莉子は意識を集中させて未来を見る。

 そこに映っていたのは自分達と共に戦うジェフリーの姿。

 ただ1つ違うのは、彼の手には白銀に輝く偃月刀が持たれていた事だ。

 その姿を見て、織莉子は無理矢理にでも自分で自分を納得させると、一同に結果を伝える。

 

「皆さん安心してください。彼は必ず私達の所に戻ってきます。彼が新たな力を持ってこっちに戻って来る事を私達は信じましょう」

「でもジェフリーいないと……」

「たいへんなのです!」

 

 ゆまとなぎさはジェフリーが居なくなる事にとてつもない不安を感じていた。

 彼はこのチームの戦力の要と言える存在。

 そんな彼が一時的にでもここからは離れる事は大きな損失。

 その事を2人は不安がっていたが、キリカは2人の前に立つと各々に拳骨を振り下ろして、辺りに鈍い音を響かせた。

 

「いたい!」

「なにするですか⁉」

「情けない事を言うからだろ! お前らがそんな調子じゃジェフリーは安心して里帰りも出来ないだろ!」

 

 涙目でゆまとなぎさはキリカに不満を訴えるが、もっともな事を言われると何も言い返す事が出来ず、2人のすすり泣く声だけが響く。

 ほむらはそんな2人の頭を優しく撫でながら、諭すように話し始める。

 

「呉さんの言う通りよ。ジェフリーは向こうに妹を残しているのよ、一度様子を見るぐらいは許してあげましょう」

「どう言う事? 私何も聞かされてないわよ⁉」

 

 彼に妹が居ると言う事実を初めて知ったマミはその件に噛みつく。

 それはほむら以外の面々も同じ事であり、全員がジェフリーに詰め寄るが、その様子を見てほむらはまた呆れた顔を浮かべてしまう。

 

「あなたまた話してなかったの?」

 

 また言葉が足りずに不用意に問題事を増やすジェフリーに対して、ほむらは心底呆れていて、ジェフリーは何も言わずに首を縦に振るだけ。

 だが向こうの世界に家族を残していると言う事実を知ると、少女達の態度も先程よりも柔らかな物に変わっていた。

 

「まぁ向こうの世界に妹が居て、組織の代表まで務めているのだから、その心労は計り知れないでしょうし、私は賛成よ。こう言う時、家族の暖かさには助けられるから」

「アタシもだ。例え兄妹間の記憶がなくても、ジェフリーが彼女を大切にしてるのはよく分かる。こっちの方はアタシ達で何とかしておくから、行ってこい」

 

 マミと杏子はジェフリーを送り出す事を選んでいて、それに続いてさやかも話し出す。

 

「私はそのモルドレッドさんの話を聞きたい。私は色んな人に助けられて、今があるんだから、彼がどんな想いで戦ってきたのかを知りたい。私ジェフリーさんのためにももっと強くなりたいから!」

「美樹……よく言った!」

 

 さやかの決意表明にキリカは彼女の肩を力強く叩きエールを送ると、自分もまたジェフリーを送り出そうとしていた。

 

「こっちの方は私達が何とかしておく。非常に遺憾だが、その間ユウリも優木も殺さないでおいてやるよ。私が君の仕事を奪う訳にはいかないからな」

「私は私が見た未来を信じます。それが私の戦いだから、ゆまとなぎさもそれでいいわね?」

 

 織莉子が問いかけると、ゆまとなぎさも静かに首を縦に振って、ジェフリーを見送ろうとする。

 そして最後にほむらとまどかが一歩前に出て、彼にエールを送った。

 

「行ってきなさい。私は約束するわ、今度こそ皆で力を合わせて、1人も脱落させないであなたを出迎えるとね」

「私ももう逃げたりしない! あなたを信じ続けます! だから頑張ってください!」

 

 2人の決意表明に対して、ジェフリーは何も言わずに頷き、その日のミーティングは終わる。

 大きな戦力の喪失があったが、一同の目に迷いはなかった。

 信じる事の勇気を知っていたから。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 翌日、ジェフリーは一同が見守る中、カムランに魔力を流し込み、元の世界に帰ろうとする。

 ある程度の魔力が流れこんだのを見ると、まどか以外の面々も手をかざして、カムランに魔力を注ぎ込む。

 

『来やがったな』

 

 その皮肉めいた声はまどか達に取っては聞き慣れた声。

 どうやらリブロムもこの事態をリオーネの占いで予測していたらしく、双方の間で準備が出来ているのを知ると、少女達は更に強く魔力を注ぎ込む。

 

『こっちの準備は万全だ。テメェにもやってもらいたい仕事がいくつかある。こき使ってやるぜ!』

「上等だ」

 

 ジェフリーは口元に邪悪な笑みを浮かべると、自分の世界での戦いに意欲を燃やす。

 そして夢の中でのお告げを信じ、最後に一言リブロムに対してつぶやく。

 

「俺に取ってもお前に取っても大切な奴を迎えに行くからな」

『あ?』

 

 言葉の意味が分からず、リブロムが素っ頓狂な声を上げた所でジェフリーの転送が終わった。

 一同はジェフリーがそこに居なくなった事に喪失感を覚え、同時に大量の魔力を使った事から倦怠感を感じ、その場にへたり込んだ。

 体は疲れ切っているが、心は晴れやかな状態だった。それは皆が信じているからだ。

 彼は新たな力を持って自分達の元に戻ってくれると。




と言う訳で次回から、ジェフリーの帰郷編となって、魔法少女の皆は少しお休みになります。パワーアップして彼を見滝原に戻すつもりなので、よろしくお願いします。

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