魔法使いと魔法少女が紡ぐ物語   作:文鳥丸

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怒りは人に多大な力を与える。


第八話 憤怒の力を継承した者

 美国邸に集まった魔法少女達一行。

 だがこの日のお茶会は決して穏やかな空気の中で行われる物ではなかった。

 先の見えない契約阻止の方法に自然と苛立ち募り、全員が無言で紅茶を口に運ぶさまは傍から見れば不気味その物だった。

 この嫌な空気を打開しようと、まどかが口を開く。

 

「ジェフリーさん遅いね」

 

 この場にまとめ役であるジェフリーが居ないことがこんな状態になってる原因だと思い、意見を遠回しに口にするまどか。

 だがそれで淀んだ空気が払拭される程甘くはなく、全員が力なく頷くだけであった。

 魔物との新たな戦いに対する苛立ちもあるが、重苦しい空気の原因はそれだけではない。

 

「4000年の猶予期間があるとは言え、魔物はグリーフシードを落とさないからな……」

 

 杏子が不満を漏らしたのは、魔物は魔女と違い回復アイテムであるグリーフシードを落とさない事。

 だがこれも冷静になって考えれば分かる事。魔物は魂をソウルジェムに封じ込める必要がないからだ。

 ジェフリーのおかげで魔女になる心配こそしなくてもいいが、それでも今までとは違う厳しい戦いに少女達の心は疲弊していた。

 この様子を見てほむらも項垂れてしまう。

 今までほむらはループの経験から全てを理解している状態だったが、今回は何一つ現状が分からない、探り探りの状態。

 昔の未熟者で臆病だった自分を思い出し、ほむらはどうしていいか分からず、弱音を口に出してしまう。

 

「せめて8人の協力者の一人とコンタクトを取れれば……」

「ガガガガガガガガガガガ……」

 

 ほむらが弱音を発したと同時に、机の上に置かれたカムランが奇声を発しながら体を激しく震わせる。

 そして自分の体を大きく見開いてページを一同に見せる。

 これはカムランが魔物が居る場所を教えてくれる合図。

 言葉を発する事が出来ないカムランはこうしてオーバーにリアクションすることでしか、皆に自分が何をしたいのかを伝えることが出来ない。

 初めて見る光景にキリカ達は一歩引いたところから、それを見ていたが、まどかはすぐにすり寄ってカムランの言葉を聞こうとする。

 

「大丈夫だよカムラン。皆ここに居るよ」

 

 まどかはカムランを安心させるようにページを優しく撫でながら、カムランが何を伝えようとしているのか、その言葉を待った。

 カムランはまどかの優しさを体で感じ取りながら、血で白紙のページに見滝原の地図を映し出す。

 バッテン印の目印を付けられた場所が魔物の居るところであり、大きく二つのバッテンが付けられた地点を一同は見つけた。

 一つは見滝原の真東に、もう一つは見滝原の真西に浮かび上がっていた。

 あまりに極端な場所に出現した事をマミはおかしく思う。

 

「何でこんな離れたところに……明らかにこれは戦力を分断させる罠よ」

「待て。もう一つ出る」

 

 興奮したマミを宥めるように、キリカが指さした先にもう一つバッテンが浮かび上がる。

 それは真北にある物であり、露骨すぎる分断作戦を見てキリカはため息をつくが、すぐに余裕を持った邪悪な笑みを見せる。

 

「敵は何も分かってないみたいだな。ジェフリーには二人も味方がいれば十分に使いこなせる。私達は私達でこれまでチームとして戦ってきた。遅れを取ることはない!」

 

 沈んだ空気を払拭して士気を高めるようにキリカが気合いの入った叫びを見せると、それに皆も応えようとする。

 

「キリカ。ゆまがんばるのです」

「なぎさもです!」

 

 初めにゆまとなぎさの二人が気合いの入った返事を見せる。

 幼い二人が気合いを見せると、それに他の面々も感化され年長者としての意地を見せようとする。

 

「そうだね。ゆまちゃんが頑張るのに、私達がへこたれてちゃ格好悪すぎるもん。さやかちゃん頑張っちゃうよ!」

「ジェフリーを呼ばないと……」

 

 さやかの気合いを聞き届けると、杏子は携帯電話を取り出してジェフリーと連絡を取ろうとするが、それを織莉子は手を突き出して止める。

 

「その必要はないわ。この未来は予知出来ていたわ。既にジェフリーは呼んでいるわ」

 

 織莉子が言うと同時にジェフリーはその場に合流する。

 そして何も言わずに地図を見ると、頭の中で場所がどこなのかを把握してその場に向かおうとする。

 

「織莉子未来を見れるか?」

 

 短い言葉ではあったがジェフリーの真意が一同には理解出来た。

 一番強力な相手をジェフリーは受け持とうとしている。

 彼の覚悟に対して織莉子も小さく首を縦に振ると、彼の未来を見ようとする。

 頭の中で映し出されたビジョンは改魔のフォークを持って、一人の少女と対峙するジェフリー。

 少女が誰なのかはジェフリーの影になって見えななかったが、その姿を見た瞬間織莉子は理解した彼女こそが聖杯の協力者なのだと。

 次に織莉子は戦っている場所を特定しようとする。

 結界はそこにはなく、周りには生い茂った木しかない。

 ここまで多くの自然が残っている場所は見滝原では一つしかない。

 自然をそのまま利用した。この街の真北にある自然公園だけ。

 一番重要なところをジェフリーに任せられる。安堵感が織莉子の中で生まれた。

 だが代償は大きかった。事細かに未来予知を行い続けた結果、織莉子はよろめいて倒れそうになる。

 

「織莉子!」

 

 それをキリカが慌てて受け止めると、織莉子は額に浮かび上がった汗をシルクのハンカチで拭きながら応対に当たる。

 

「ごめんなさい。これぐらいで倒れてしまって」

「仕方ないことだ。織莉子の魔法は繊細すぎる。本来ならこれだけの予知をした場合、グリーフシードが一個は必要だからな」

 

 キリカは織莉子に真水を飲ませながら、彼女の心音を聞き、脈を測って彼女がまだ戦える状態かどうかを見極める。

 心配そうにキリカは織莉子を見つめるが、織莉子は何も言わずに小さく頷くだけ。

 一度無様な姿を見せている彼女は強くなりたいと願い、それを実行しようとしていた。

 彼女の覚悟を踏みにじる訳にはいかない。キリカは織莉子から手を離すとゆまとなぎさを引き連れて魔物が居ると思われる場へと向かう。

 

「私達は西に向かう。皆は東を頼む!」

 

 返事も聞かずにキリカは織莉子達を引き連れて西へと向かう。

 取り残された一行は、一瞬戸惑ったがすぐに気持ちを切り替えると自分がすべきことをやろうとする。

 

「まどかは私達と一緒に来て。あなたは私達が絶対に守るわ!」

 

 以前のスライムとの戦いとは違い、まどかを守るゆまとなぎさが居ないので、その場に彼女を引き連れるのが一番安全策だとほむらは判断した。

 その案に対して他の面々も頷いて了承の意を示し、まどかはほむらに手を引かれて東の魔物が居ると思われる場へと向かった。

 今は一歩ずつでも前に進もうと心に決めながら。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 目的地に到着したまどか達は結界へと入る。

 既に変身した4人に守られながら、まどかは最奥へと向かう。

 守られながらも久しぶりに入る結界にまどかの心は恐怖心で一杯になっていた。

 あの頃はよく分からない、いざとなれば契約すればいいと言う軽い気持ちで参加していたが、全てを知った今、まどかに出来る事は彼女たちの邪魔にならないようにするしかない。

 恐怖心を忘れたいのか、まどかはほむらにすり寄る。

 そんな彼女の頭をほむらは撫でながら進んでいくと、目的の魔物と出会う。

 それはねじくれた斧を持った巨大な牛を連想させる魔物であり、魔物と対峙した瞬間に彼女たちの頭の中に魔物の名が浮かび上がる。

 

『ミノタウロス』

 

 巨大で丸々と太った肉体。手には巨大な斧が持たれているところから、パワー型の魔物だと判断した一同は杏子を中心にした陣形を組み、まどかを槍の防護壁で守ると杏子はまっすぐミノタウロスに向かって突っ込む。

 

「このクソデブが! すぐに蜂の巣にしてやるぜ!」

 

 だが穂先がミノタウロスを貫く直前に異形の体は空に浮かび上がる。

 何事かと思い一同が空を見ると、ミノタウロスは上空にポッカリと開けられた穴に吸いこまれそこから消えてなくなった。

 まるで異空間に繋がってるような穴を、少女達は呆けた顔で見つめていたが、新たな魔物が現れると同時に穴は閉じられる。

 

「何なのよ一体⁉」

 

 さやかはあまりの事に対処が追い付かなかったが、魔物は少女達を見ると咆哮をあげて襲いかかろうとする。

 魔物は腹部に巨大な目を持ち、頭部の両端には目玉がたくさん付いた翼を持っていて、その翼をはためかせると飛び上って上空から紫色の毒のビームを放つ。

 少女達は慌てて散ってビームをかわすと、新たな魔物の情報を得ようとする。

 先に脳内に飛び込んだのは魔物の名前。『バジリスク』と言う名前だけが分かったが、バジリスクは空を飛べる上にスピードも速く、全員が目で追うのがやっとの状態だった。

 

「ここは私に任せて!」

 

 ほむらは盾に触れて時間を停止させる。

 10秒が限界のため、一気に勝負をつけようと止まっているバジリスクに向かってありったけの矢を放つ。

 

(もうこれ以上時間は止められない!)

 

 限界が分かると自然と再び時は動き出す。

 バジリスクの周りは、ほむらが放った炎の矢で埋め尽くされていて時が動き出すと同時に、矢は一斉に襲いかかる。

 だが次の瞬間、バジリスクは体からありったけの毒を放って自らを毒の濃霧で囲んだ。

 濃い毒に炎の矢は到達する前に溶けてなくなり、毒のバリアで守られたバジリスクは急降下して眼下の少女達に襲いかかる。

 

「何てスピードだ!」

 

 素早い攻撃の連続に杏子は驚愕の声を上げながら逃げる。

 幻惑魔法を使って自らの幻影を作って杏子はバジリスクの急降下からの蹴りをかわしたが、地面に到着した魔物の攻撃はそれだけでは終わらない。

 飛び上って一気に杏子との距離を詰めると、爪を突きたてて一期に切り裂こうとする。

 突然の行動に対処しきれず、杏子は槍を横に突き出して申し訳程度の防御を行うが、槍は爪によって引き裂かれてしまう。

 無防備になった杏子を襲ったのはバジリスクの膝。

 膝が顔面にめり込むと、杏子の体は後方に吹っ飛ばされバジリスクは追撃のために後を追おうとする。

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

 杏子を守ろうと、これまでチャンスを伺っていたマミが行動に出る。

 バジリスクの動きが止まるのをジッと待ち、ティロ・フィナーレを放つと高エネルギーのレーザーがバジリスクを襲う。

 その場から動かないバジリスクを見て、勝負の決着を一同は願う。

 だがその期待は脆くも崩れる。

 バジリスクは全ての目を見開くと、そこから毒のレーザーを一斉に放ち、ティロ・フィナーレの砲撃にぶつける。

 二つのエネルギーがぶつかり合うと相殺されて消えた。

 

「ティロ・フィナーレと同レベルの必殺技まで持っているなんて……」

 

 マミは必殺技が破られた事にショックを隠せずに震え上がっていた。

 だがバジリスクは少女に落ち込む暇も与えず、再び空に飛び上ると遥か上空から一同を見下ろして攻撃のチャンスを伺っていた。

 ここで一気に勝負を決めないことから、バジリスクにも相当な疲労があると判断したほむらは戦力の分析を行おうとする。

 

(スピードは杏子と同レベルだから幻惑魔法もあまり効果は持てない。空を自由に飛べるから接近戦で真価を発揮するさやかは不利、巴さんのティロ・フィナーレと同レベルの砲撃も放てる……)

 

 考えれば考える程、自分達に勝ち目は無いと思ってしまいそうになるが、ほむらはバジリスクを見て一つの希望を見出そうとする。

 その華奢な見た目から打たれ強い方ではないと判断して、攻撃を一気に食らわせればこっちにも勝機はあると仮説を立てる。

 事実先程のほむらの矢の連打にも必要以上の防御行為を施した。

 それは自分の撃たれ弱さを証明しているような物。

 作戦が頭の中で固まるとほむらは皆に指示を出す。

 

「皆。空を飛んでいる時に攻撃を放つ必要はないわ。必ず向こうも攻撃に転じるため、地面に着地する時が来る。攻撃はその時に一気に行うのよ!」

 

 ほむらの檄が飛び、一同は作戦を実行しようとバジリスクを睨むが、ほむらは言いながらも不安を隠せないでいた。

 

(でもそれを実行するには高い連携技術が必要。今の状態でそれが出来るのかしら)

 

 不安からほむらは一つの結論を出そうとする。

 

(まるであの魔物。私達を迎撃するために用意されたみたい……)

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 織莉子達は困惑していた。

 未来予知で分かっていた事でも、突然の事に織莉子を除いたアタッカーの三人は攻撃に移せないでいた。

 何しろ先程まで戦っていたバジリスクが突然ワープして、代わりにミノタウロスが現れたのだから。

 スピード型からパワー型に変化したことから、これまで行っていた作戦を変更せざるをえなく。現場の隊長であるキリカは困惑して未だに行動に移せないでいる二人に代わって、爪を突き出してまっすぐ前に突っ込む。

 

「恐れるな! あの図体だぞ。私達ならスピードで掻き回せる!」

 

 キリカは発言を行動で実現する。

 一気に飛び上って回転しながら、ミノタウロスの顔面を賽の目状に切り裂く。

 魔物は斧で防御しようとしたが、それよりも早くキリカの爪は届き、顔をズタズタの落書きにした後、横回転をしながら地面に降りていき、着地している間もダメージを与えた。

 この姿を見て、ゆまとなぎさの中にも勇気が湧く感覚が思い浮かぶ。

 

「織莉子。未来は?」

 

 最後の不安を解消しようと、なぎさは織莉子に未来がどうなっているかを聞こうとする。

 彼女の言葉に対して、織莉子は小さく首を縦に振って今のところ、悪い未来は見えてない事を伝えた。

 エールを受けると、なぎさは飛び上ってミノタウロスの顔面にシャボン玉の攻撃を食らわせる。

 傷口にシャボン玉が染み渡ると、ミノタウロスは顔を押さえて悶絶し、その隙をゆまは見逃さず、メイスを投げ飛ばして顔面にめり込ませる。

 シャボン玉の影響で防御力が落ちているので、手で押さえていても威力は凄まじく顔面にメイスがめり込んだまま、ミノタウロスの動きは止まる。

 黒い血を鼻から流しながら、仁王立ちしている様を見て、勝負を決するなら今だと判断したキリカは体に力を込めて、魔力を高めようとし、二人もそれに続こうとする。

 

「ダメ! 魔力の無駄遣いをしてはいけないわ!」

 

 ここで織莉子の叫びが届く。

 悪い未来が見えたのか、慌てて一同はクールダウンをして、ミノタウロスの姿を見る。

 ミノタウロスは顔面から鼻血を出しながらも、斧を頭上に高々と掲げてそこから聖なる気を発していた。

 何事かと思い、キリカは心眼で様子を確認する。

 先程まで橙色に染まっていて、順調に削れていた体力なのだが、今見ると緑色に染まっていて、体力が完全回復した事が分かった。

 傷が塞がると、ミノタウロスは三人に向かってタックルを食らわせる。

 愚鈍な動きではあるが、一気に勝負を決めようと距離を詰め過ぎたため、三人の体は吹っ飛ばされて壁に激突してしまう。

 

「オラクルレイ!」

 

 この状況を打破しようと、織莉子は水晶玉を宙に浮かして、そこからレーザー砲を放つ。

 だがミノタウロスは斧を掲げると、そこから紫色の毒々しいエネルギー弾を放つ。

 動きは遅く、オラクルレイに届く事はなかったが、レーザー砲とは相殺され、織莉子の攻撃が届く事はなかった。

 ダメージを食らって動きが鈍くなっている三人に向かって、ミノタウロスの斧が振り下ろされる。

 刃の斬撃こそ三人はかわしたが、それでも衝撃波の攻撃が当たり、三人の体力を削る。

 三人は反撃をして、ミノタウロスの体力を削るが、その度に魔物は斧を掲げて体力を回復させる。

 元々のタフネスさもあって、少しずつではあるがミノタウロスの方が押していた。

 

「私も!」

「ダメだ!」

 

 この様子を見て、織莉子は三人と一緒に戦おうとするが、キリカはそんな彼女に対して怒鳴り散らして動きを制する。

 

「こいつは超パワー型の魔物だ! 織莉子じゃ一瞬で切り裂かれてしまう!」

「私たちがんばるですから、織莉子もがんばってくださいです」

「こっちきちゃダメ!」

 

 三人の叫びを聞いて、織莉子は自分の仕事に専念する事を選ぶ。

 状況を打破するために行ったのは、ミノタウロスの姿を観察する事。

 未来をより良い物にする。その為に織莉子は魔法少女になった。

 初心を思い出すと、織莉子はミノタウロスと三人の姿をジッと見つめた。

 最高の未来を手に入れるために。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 ジェフリーは一人、少女と対峙していた。

 少女の取った行動に驚きを隠せないでいた。

 以前、13代目ペンドラゴンが瞬間移動のような魔法を行った事があるが、それとは似て非なるワープの魔法で戦っている魔物達を入れ替える事が出来ることにジェフリーは驚きを隠せないでいた。

 

「その魔法は聖杯から得た物か、それとも元々持っている魔法か?」

 

 警戒心を解かないまま、ジェフリーは目の前の少女に問いかけるが、少女は特に気にすることなく、彼を見下した目を浮かべながら一言言う。

 

「言う必要はないわ」

 

 目の前の少女もまた警戒心を解かないまま、ジェフリーと接した。

 ジェフリーはその姿をじっくりと確認する。

 金髪のツインテールに、つばの広い赤い帽子を被り、同色の露出度が高い法衣に身を包んだ少女は、手に現代の拳銃を両手に持ち、銃口をジェフリーに向けながら警戒心を高めていた。

 少しずつ距離を詰める少女を見て、情報が少ない状態で戦うのは不利だと判断したジェフリーは、少しでも彼女に対する情報を得ようと交渉を始める。

 

「さっき見た魔物は『ミノタウロス』と『バジリスク』だな? お前は憤怒の魔物との契約の力を得ているのか?」

 

 ずっと気になっていた事をジェフリーは聞く。

 キュゥべえから8人の協力者が居ると聞いた時から、この8人は各々特性を受け継いだ物だと判断した。

 聖杯による契約で魔物になった人間の心は主に八つの属性に分けられる。

 各々一つ一つ受け継いでいる物だと、ジェフリーは仮説を立てていた。

 この辺りをハッキリさせようと聞くと、少女は変わらぬ調子で答える。

 

「言う必要はないわ」

 

 頑なに秘密主義を貫こうとする少女に対して、ジェフリーは軽く苛立ちを覚える。

 その様子を見て、強い信念を彼女は持っている物だとジェフリーは判断して、聞き方を変える事にした。

 

「待て! 今回の戦いで俺はお前に殺されるかもしれないんだぞ。人生の幕引きの相手を知らないのは悲しすぎるだろ。お前は自分の敵に自分の事も知られないまま死んで満足なのか?」

 

 言葉に対して返されたのは無数の銃弾。

 乱暴に引き金を引き続け、ありったけの弾丸を少女は放つ。

 だが放たれた弾丸をジェフリーは全て、氷細工の蓋で受け止めると、そのまま突っ込んで一気に距離を詰める。

 

「甘い!」

 

 突っ込むジェフリーに対して、少女は飛び上って後ろを取ると、再び引き金を引いて弾丸を放つ。

 防御しているのは前面のみ、後方に弾丸が放たれて少女は勝利のイメージが出来上がる。

 だが次の瞬間には放たれた弾丸は弾き返された。

 少女がジェフリーの姿を見ると、その体は岩石で覆われていた。

 岩虫の甲殻を発動させると、上空で無防備な状態になっている少女に向かって回転しながら突っ込んでいく。

 回転を止めようと少女は拳銃から弾丸を放ち続けるが空しい努力。

 弾丸は全て回転する岩石によって弾き返され、体は岩石の回転に巻き込まれてしまう。

 回転に巻き込まれて体がズタズタになるのを防ごうとした少女は、弾丸を地面に向かって放って自分と岩石の間に空間を作ると、そこに逃げて体の傷を自然治癒で治そうとした。

 岩虫の甲殻を解除すると、ジェフリーは少女が立ち上がるまで待つ。

 少女はその気遣いに腹が立ち、歯ぎしりをしながらジェフリーを睨む。

 

「お前殺す!」

「自己紹介をしよう。俺の名はジェフリー、本名をアーサー・カムランと言う」

 

 突然の自己紹介に少女は戸惑うが、そんな少女に構わずジェフリーは引き続き話す。

 

「これで最後になるかもしれないんだ。せめてお前の名前と受け継いだ力ぐらい教えてくれてもいいだろう」

 

 それは交渉と言うよりは懇願に近い内容の物だった。

 ジェフリーも覚悟を持って、この戦いに挑んでいると知り、少女の中でも彼に対して真摯に向き合おうと言う想いが生まれると、一旦銃を下ろして自己紹介を始める。

 

「いいだろう。ジェフリー、これが君が最後に聞く名前だ。私の名はユウリ……」

 

 一呼吸置くと、ユウリはジェフリーがずっと知りたがっていた情報について話す。

 

「聖杯から憤怒の力を継承した協力者、憤怒のユウリだ!」




そして再び魔法少女の物語は交錯する。

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