魔法使いと魔法少女が紡ぐ物語   作:文鳥丸

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魔法少女と魔法使いの激突。
そこにあるのは希望か絶望か


第四話 衝突する魔法達

 この日も学校が終わった後のほむらの行動は武器の調達で始まろうとしていた。

 魔法少女に変身して、盾の中の砂時計の残量を確かめる。

 ジェフリーを召喚したことで、早くも半分を切ろうとしていた状態にため息が出る。

 ワルプルギスの夜へと挑戦する前にも、魔女との連戦やさやかと杏子との戦いも想定に入れなくてはいけない。

 だが今の武装では心もとない状態。

 自宅から出ようとした瞬間に、ちゃぶ台の上に置かれた本が話しかけてくる。

 

「どこへ行こうとしている?」

「別にどうだっていいでしょ」

 

 暇を持て余しているリブロムはほむらに話しかけるが、ほむらはそれを無視して武器の調達へと向かおうとしていた。

 素っ気ないほむらに対して、もっとコミュニケーションを取ろうとしたリブロムは床で昼寝をしているジェフリーの方に視線を向ける。

 

「魔女とやらの討伐なら、そこでグースカ寝ている間抜け面を起こした方がいいんじゃないのか?」

「その討伐を円滑に行うために必要な行動なのよ……」

 

 寝ているジェフリーを無視してほむらがドアに手をかけようとした時、起き上がる物音に行為は制された。

 ジェフリーは寝足りないのか、寝ぼけ眼を擦りながら、右手を突き出すとホログラム上になった本のページをめくり、一つの供物を取り出そうとする。

 

「何? 悪いけど、寝ぼけている人の相手をしている暇は無いわよ」

「近代兵器の略奪へ向かうんだろ……」

 

 武器の強奪に関しては話していなかったのに、あっさりと事実を言い当てたジェフリー。

 ほむらは観察眼の鋭さに驚きはしたが、倫理や論理を説かれて行為を止めるつもりはない、彼を無視して背を向けようとした瞬間に、布のような薄い生地が背中に投げつけられる。

 振り返って物を取ってみると、そこにはやたらに派手な七色の服があった。

 頭から被れるフードのようなそれを見て怪訝な顔を浮かべているほむらに対して、ジェフリーは供物の説明に入る。

 

「それは『夜遊の衣服片(改)』だ。それを着れば一般人には姿が見えなくなり、持っている物も消える。まぁ魔物が相手だと見つかりにくくなる程度だがな」

 

 七色の派手な見た目とは裏腹に効果はステルスの能力。

 確かに武器の強奪には持ってこいの供物ではあるが、本当に効果があるのか疑問にも感じたが、使える物は使い、効果がなければいつも通りに時間停止魔法を使えばいいと思い、ほむらは今度こそドアを開けて出ていく。

 

「一応借りておくわ……」

 

 それだけ言うとドアを閉めて出ていった。

 一人残された部屋でジェフリーはあくび交じりにストレッチ運動を行って、なまった体をほぐすと、右の上腕部に刻まれた刻印が疼くのを感じ、行動を起こそうとしていた。

 

「新しい刻印か、この世界で見る初めての刻印だ」

 

 新しく発言した刻印の存在にリブロムは興味深そうに、ニヤニヤと笑いながら物を見つめる。

 魔法使いに取って右腕に宿る刻印は供物と同じぐらい大切な物であり、魔物を倒した数だけ強力な刻印が術者に刻めるようになる。

 故に魔法使いとしての優秀さは右腕を見れば一目瞭然であり、依頼主との信頼のパロメーターとして刻印は重宝されるものであった。

 百戦錬磨のジェフリーが新たに選んだ刻印の存在が気になり、リブロムは体を揺らせて物を詳しく見ようとジェフリーに訴えかけると、彼はリブロムを手に取って上腕部に刻まれた刻印を見せる。

 

「ふぅむ。どうやらこれは特定の存在を探知する刻印のようだな。これを刻んでおけば、お目当ての物がどこにあるかってのが分かるみたいだ」

「そのお目当ての物ってのは恐らく魔女だろうな」

「だろうな。よし、今日からこの刻印を『千里眼の刻印』と名付けよう」

 

 物の正体が分かると、ジェフリーは千里眼の刻印を使いこなすために魔女の元へと向かおうとしていた。

 自分もまた来るべきワルプルギスの夜との対決のために強くならなくてはいけないという使命感があったから。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 武器の強奪が無事に終わり、ほむらは帰路に付いていた。

 ビルの屋上を渡って行きながら、盾の中に収めた夜遊の衣服片の威力にほむらは驚きを隠せなかった。

 服を頭から被った瞬間に、本当に自分の姿は誰にも見られなくなり、試しに自衛隊員にわざとぶつかってみたりもしたが、何かに当たった驚きしか隊員にはなく、自分の存在はそこにない物となっていた。

 おかげで武器の強奪の方は、時間停止魔法を使ったのと同じぐらい、いや時間制限という焦りがなかったので、もしかしたら使ったときよりもスムーズに事が運んだかもしれない。

 とにかくこれで武装の準備の方は万全、あとは魔法少女たちの戦力確保を優先するため、その旨をジェフリーとミーティングしようと、アパートの前に立つと変身を解いてドアを開ける。

 

「ただいま……」

 

 だがそこにジェフリーの姿はなかった。

 いつも通り暇そうに横たわっているリブロムが一冊あるだけであり、彼が今どこにいるのかをもう一人の同居人であるリブロムにほむらは聞こうとする。

 

「ジェフリーは?」

「ここだ」

 

 リブロムの返事を聞く前にジェフリーはドアを開けて部屋へと入る。

 

「ちょっと勝手に外へ出ない……」

 

 まだこの世界に関して不慣れで非常識なところが多い、ジェフリーに勝手に外へ出られるのは迷惑だと思っていたほむらは文句を言おうとしたが、彼が手に持っていた物を見てその気は無くなった。

 その手には三つのグリーフシードがあった。

 この街にまだそれだけの魔女が存在していたのかという驚きもあったが、ほんの5、6時間で三体の魔女を撃退したことにもほむらは驚いていた。

 そんな少女の心情を無視して、ジェフリーはちゃぶ台の上にグリーフシードを置くと、ほむらと向かい合って話し出す。

 

「さっき魔女の討伐に向かっていたが中々の実力だ。だが基本的なところは魔物討伐と変わらないみたいだってことが分かったよ」

「そう……あと、これありがとう助かったわ」

 

 そう言って、盾だけを召喚して夜遊の衣服片を返す。同時にちゃぶ台の上に置かれたグリーフシードを回収するほむら。

 最後のグリーフシードを盾の中に入れた瞬間、ジェフリーに腕を掴まれて盾の中をまさぐられてしまう。

 

「な! 何を⁉」

 

 突然のことに困惑するばかりのほむらを無視して、ジェフリーは奪ったマシンガンや小型拳銃を取り出すと物を繁々と眺める。

 ロムルス人が作り出している近代兵器よりもずっと高度な文明で作られているそれを理解するには、今のままでは頭が追い付かない。

 ジェフリーは頭に意識を集中させると、一気に魔力を流し込んで禁術を発動させようとしていた。

 

「ちょっと! 子供のおもちゃじゃないのよ! いい加減に……」

 

 怒ってほむらが武器を取り返そうとした瞬間だった。

 ジェフリーの頭が紫色に発光し、頭から現れたのは脳髄のビジョン。

 何が何だか分からないほむらに構わず、ジェフリーはスムーズな手つきで銃を解体していき、仕組みを理解したところで再び元の形状に戻す。

 その滑らかな手つきにほむらは息を飲んだ。

 自分だって、あれだけの動作を行うのに何回目のループで整備が出来るようになったか分からないのに、自分たちの世界よりもはるかに文明の遅れた世界の人間がそれをやれることに何も言えなくなっていた。

 ほむらが使用している武器の詳細が分かると、脳の発光は収まる。

 

「もういいでしょ? いい加減に返し……」

 

 銃を取り返そうとした瞬間だった。ジェフリーの変化にほむらは固まる。

 まるで能面のように無表情になったその姿は明らかに常軌を逸した物であった。

 対処法が分からず、取りあえず銃だけは回収しようと盾の中に入れていると、ジェフリーは右手の本の中ら瓶を取り出すと、そのまま自分の頭に勢いよく叩きつける。

 瓶の中身が溢れ、中の液体がジェフリーの頭部に染み渡るとその表情に生気が戻る。

 何をやったのかはわからないが、彼が自分の問題を自分で解決したことだけは分かった。

 ようやく話ができる状態になったのを見ると、ほむらは彼が何をしようとしたのかを問いただそうとする。

 

「何がやりたいのよあなたは? こんな物使わなくても、あなたは魔法で十分に戦力は……」

「これで今までずっと戦ってきたのか?」

 

 ジェフリーがやろうとしていたのはほむらの戦力の理解。

 何度も繰り返してきたという言葉から、これまで決して芳しい結果が残せたとは思っていないジェフリーはまずは原因が何なのかを探ろうとする。

 最悪、他の魔法少女との共闘が一切出来ない状況ならばと、自分とほむらだけでワルプルギスの夜と戦うことになるだろう。

 ならパートナーの戦力を上げるのは必然だと踏んだジェフリーは、その旨をほむらに聞こうとした。

 意図を理解するとほむらはいつも通りの無表情を浮かべると、淡々と語り出す。

 

「そうよ。私の魔法は戦闘には向いていないから、こういった近代兵器で補うしか方法がないのよ」

「だがこれには限りがあるし、グリーフシードによる回復も出来ない」

 

 もっともな正論ではあるが、その発言はほむらの神経を逆なでさせる物であり無表情が崩れ、不愉快な表情をほむらは浮かべた。

 先程声色のトーンが下がった状態でほむらは話し出す。

 

「だから日々強奪に勤しんでいるのよ。そのことを悪と見出して止めようというなら、大きなお世話よ。私は愚か者には容赦しないわよ」

「愚かね……何回やっても勝てない武器を何度も使うことはそうは言わないのか?」

 

 挑発するような物言いにほむらの中で何かが壊れた音が響く。

 明らかに怒りの色を見せた表情を浮かべながら、ほむらはジェフリーの胸倉を掴んで自分の元へと引き寄せる。

 息を荒く怒りをあらわにしているほむらに対してもジェフリーは冷静その物であり、その手を解くとドアを開けて彼女を外へと誘導する。

 

「来い、模擬戦だ。お前は魔法使いの戦い方ってのが分かってないみたいだからな」

 

 この言葉はほむらの怒りを買うには十分な物だった。

 何度もループを繰り返してきた自分の人生を全否定されたと思ったほむらは、彼の後を追う。

 適当な場所を見繕うジェフリーの背中に対して、ほむらは宣戦布告のようにボソリと呟く。

 

「いいわ、ここで私に殺されるようなら、ワルプルギスの夜の討伐なんて到底不可能よ。詫びも懺悔も後悔もしないわ。あなたを殺すことになってもね」

 

 それだけ言うとほむらは押し黙り、ジェフリーも一言も発そうとしなかった。

 二人の間には不気味な無言の圧力だけが占めていて、街灯で照らされているはずの街並みも暗く感じられていた。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 誰もいない河川敷へとやってくるとジェフリーは右手の本の中から鎖を取り出してばら撒く。

 投げられた鎖は三角形を作り出し、その中から夥しい光が発生する。

 『結界の鎖(改)』が発動したのを見ると、ジェフリーはその中に入り、ほむらも続く。

 向かい合う二人はお互いに臨戦態勢に入っていて、ジェフリーは法衣姿に着替えていて、ほむらも魔法少女に変身していて、盾の中から使いなれたデザートイーグルを取り出す。

 

「最初に言っておくわ。自分が死なないなんて思わないことね……」

「格好つけてないでサッサと来い」

 

 その発言にほむらは歯ぎしりをして、引き金を引き弾丸が射出される。

 まっすぐにジェフリーの額に向けて放たれた弾丸を防いだのは彼自身の右手。

 そこから金属音が響いたことを妙に思ったが、続けてほむらは引き金を引き銃を打つ。

 上をガードされたら下を打ってと細かく狙う個所を変えたにも関わらず、右手はそれをはじき返し、ジェフリーはそのまま前進していき、ほむらとの距離を詰めていく。

 接近されては飛び道具中心の自分は不利だと判断したほむらは、バックステップで距離を取るが結界が邪魔をして壁に背を預ける形となる。

 

 だがほむらの顔に焦りの色は無かった。

 盾から拳にはめるタイプの高圧スタンガンを取り出して装着すると、そのまま右フックで不用意に近づくジェフリーの頭部を殴り倒して体制を入れ替えようとする。

 だが殴った瞬間に違和感を覚えた。魔法で強化しているだけだと思っていたが、ジェフリーを見ると先程の法衣姿ではなく、全身に岩石を纏わりつけた岩の化け物のような姿となっていた。

 『魔石のお守り(改)』の力で、全身を岩で覆う鎧を身にまとったジェフリーはほむらの頭を掴むと勢いよく後方に投げ飛ばす。

 ほむらは空中で一回転して、壁に足をつけるとそのまま地面にずり落ちて、向かい側にいるジェフリーを見据える。

 

「その火の杖で俺を打ってみろ!」

 

 体を大の字に広げて、自分から的となるジェフリーに対してほむらは遠慮しなかった。

 スタンガンをしまうと、代わりに盾から取り出したのは二丁のサブマシンガン。

 両手にそれらを持つと連射式のサブマシンガンは勢いよく弾丸を射出し続けた。

 経験から一発も的を外す自信がない、ほむらは手ごたえを銃から感じ取り、辺りは硝煙の煙に包まれた。

 やがて弾丸が底を付き、ただ引き金が響く音だけが空しく響き渡るのを見ると、ほむらはジェフリーがいたと思われる場所を見る。

 硝煙の煙が晴れて現れたのは弾丸が岩に埋まる程度のダメージしかないジェフリーがいた。

 通常は防弾チョッキなどで体をガードしても、中の内臓は無茶苦茶になっていることが多いのだが、そんな物は魔法でどうとでもなる。

 ほむらの攻撃が止まったのを見るとジェフリーは両手を突き出して、まっすぐに突っ込んでいく。

 

「同じ手は二度も食わないわ!」

 

 ジェフリーが突っ込むよりも先にほむらは盾からバズーカ砲を取り出して、砲弾を射出する。

 まっすぐに突き進んでいく砲弾をかわすことが出来ずに、砲弾が岩に触れると同時に辺りは大爆発に巻き込まれた。

 今までならばこれで勝利を確信したほむらだが、爆炎が消えてなくなるまで油断は出来ない。

 岩で全身を覆っていても、バズーカ砲の砲弾なら大破させることが出来る。

 事実、地面には岩の破片が飛び散っていて、量からジェフリーが身にまとっていた岩と同じぐらいの量が地面には転がっている。

 サブマシンガンに弾丸を装填しなおすと、煙の中にいると思われるジェフリーに向けて突きつける。煙が晴れた時、思っていた通り仁王立ちしているジェフリーがいたが、その姿にほむらは驚く。

 

「どうした? 鎧の下に鎧を着ていることがそんなに驚くべきことなのか?」

 

 岩の鎧の下から現れたのは真っ赤に燃える炎で包まれた鎧。

 『火神のお守り(改)』を身にまとったジェフリーは首をけだるそうに動かしながら、ほむらの準備が終わるのを待つ。

 

「その鎧にさっきの岩ほどの耐久力があるとは思えないわね!」

 

 その余裕ぶった態度があまり気のいい物ではないと感じたほむらは感情に任せて引き金を引く。

 弾丸に対してジェフリーは先程と同じように大の字なって全身で受け止める。

 弾丸はは先程とは違い、埋め込まれるようなことはなかったが、岩の時とは違った意味でジェフリーにダメージはなかった。

 炎をまとった弾丸は鎧に触れると炎の勢いが消え、ジェフリーの体内に届くころには弾丸ではなく、ただの鉛玉となっていた。

 鎧の中にある不必要な鉛玉は内部から外部へと放出されていき、炎のダメージを完全に無効化していた。

 

「最初に言っておく。生半可な炎の攻撃じゃ、この鎧を貫くことはできないぞ。まだ持っているんだろ切り札って奴を?」

 

 今まで話していなかった時間停止能力とフィニッシュに使う爆弾のことまで分かっているとは思わなかったが、これは自信があるからだろうと踏んだほむらは盾に触れて時間停止魔法を発動させる。

 自信から、もしかしたら時間停止魔法も効かないだろうと思っていたが、目の前にいるジェフリーはいつも通りに止まっている状態であり、周囲はモノクロの景色で包まれていた。

 ジェフリーの言葉通り、ほむらは今自分が持っている最大の武器、お手製の爆弾をいつも魔女を倒す時と同じぐらいの量だけ、ジェフリーを囲うように置くと再び時間を動かす。

 

「さぁこれをどう乗り越えるというの⁉」

 

 再び時間が動かした瞬間にジェフリーの周りには逃げ場はなく、爆弾で覆われていた。

 だがジェフリーに動きはなかった。ほむらは爆発の衝撃に備えて頭を抱えて爆破の瞬間を待ったが、ここで妙な違和感を覚えた。

 いつもなら爆発して辺りが爆音と爆風で覆われるのだが、待てど暮らせどあるのは静寂だけ。

 それと同時にその場には不釣り合いな冷気が辺りを包み、ほむらはその寒さに身震いする。

 

「何が一体……」

「足元を見てみな」

 

 ジェフリーの足元を言われた通り見ると、冷気の正体を知る。

 彼の足元に置かれた爆弾は全てが凍り付き、爆弾としての用途をなしていなかった。

 

「こうなってはこんなものただの置物ね……」

 

 これ以上戦っても自分はただ不用意に武器を消費するだけだと悟ったほむらは、持っていたサブマシンを捨て両手を上げて降伏のポーズを取る。

 そして魔法少女の変身も解く。戦いの火が少女の中から完全に消えたのを見ると、ジェフリーも指を鳴らして結界を解き、鎧を解除する。

 

「最後に一つだけ教えて、何で私が爆弾を使うって分かったの?」

「爆弾は俺たちも使う強力な供物だ。対抗策は炎の攻撃を完全に無効化する『氷の布(改)』これを予め地面に張っておいたのさ」

「あの時動かなかったのは、氷の布を地面に張るためだったのね……」

 

 全てが計算づくだったのに、ほむらは何も言い返すことができなかった。

 自分の実力がジェフリーに及ばないことは事実。ここでやっと自分の言い分を聞けるだけの冷静さがほむらに現れたのを見ると、ジェフリーは話をしようと壁に背を預けるとほむらの準備が出来るのを待つ。

 

「それであなたは何が言いたいの? わざわざ無能な小娘を痛めつけて、自分が優位に立つ優越感に浸りたいわけじゃないのでしょう?」

 

 ため息交じりに長い髪の毛をかきあげてほむらはジェフリーの真意を確かめる。

 皮肉がある部分もあるが、ある程度は自分を信頼してくれる傾向を感じ取ったジェフリーはここで自分の真意を話そうと右手の本の中からいくつかの供物を取り出す。

 

「小さい火の杖と、大きな火の杖を出しな」

 

 言っているそれがサブマシンガンとバズーカ砲だということが分かると、ほむらは盾のみを召喚して中から二つの武器を取り出す。

 物を受け取るとジェフリーはジッと見つめて構造を理解すると、炎で包まれた矢と卵を本から取り出す。

 

「これは?」

「『炎悪魔の矢尻(小)』と『炎竜の卵(小)』だ。炎の攻撃を中心としているお前には使いやすい武器だろうよ」

 

 そう言いながらジェフリーはサブマシンガンに炎悪魔の矢尻を詰め、バズーカ砲に炎竜の卵を詰めると呪文を詠唱して武器に供物を定着させる。

 準備が終わると手を差し出して取るようにジェスチャーで合図を送る。

 物を受け取ると、早速起きた変化にほむらの顔色が変わった。

 武器越しからでもその熱さが伝わり、慌てて手のひらの温度を調節して物を持ちなおす。

 ほむらの方の準備が終わったのを見ると、ジェフリーは女の絵が描かれた的をいくつか召喚する。

 

「試し撃ちにやってみな」

 

 言われた通りに横に三枚並んでいる内の真ん中の一枚に向かって引き金を引くと、サブマシンガンから炎悪魔の矢尻が射出される。

 三つ同時に放たれた矢尻たちは本来狙う予定ではなかった右と左の絵をも貫くと消えてなくなった。

 反動でほむらの体は後方に投げ飛ばされるが、自動追尾弾が自分にも使えたことにほむらは驚きを隠せなかった。

 

「呆けてないで、次は炎竜の卵を試してみな」

 

 次にジェフリーが用意した的は、先程自分が身にまとっていた魔石のお守りを中の人間が無い空の状態で人型に作り上げる。

 先程の攻撃では手も足も出なかったが、炎竜の卵の威力がどれほどの物か確かめるため、ほむらは引き金を引いてバズーカ砲から炎竜の卵を射出する。

 放物線上に放たれた卵は狙い通り岩の人型へ落下し、辺りは何個も爆弾を使ったかのような大爆発を起こした。

 煙の中で的である岩の人型がどうなっているのか気になり、見てみるとそこには何も物は存在していなかった。

 爆発によって砂と化した物が風に舞って飛んでいくだけであり、威力の高さがよく分かった。

 だが地面の方には傷一つないことに疑問を感じ、ほむらはその疑問をジェフリーにぶつける。

 

「それはな、攻撃対象にだけ反応する武器だからだ。しばらくはそれで魔女狩りに勤しんでいるといい」

「でも意外ね。近代兵器のことをあなたも知っていたなんて」

 

 自分の戦力アップができた喜びからか、先程よりも柔らかなトーンでほむらは話しかける。

 そう言えば、まだその旨に関しては話していないことを思い出してジェフリーは語り出した。

 ロムルス人とセルト人の戦争の歴史を。

 侵略者であるロムルス人から自分たちの身を守るためにセルト人は魔法を持って彼らに立ち向かった。

 だが魔法とは代償を伴う物、魔法を使っていくうちにセルト人の魔法使いたちは魔物と化していき、それがロムルス人の助けとなって戦争技術を進化させていった。

 魔法の力に対抗するため、より耐久力のある鎧や盾を作り上げていき、次第に戦力が衰えていたセルト人たちを圧倒していく。

 こうして数年に及ぶ争いはロムルス人の勝利で幕を閉じ、大陸を占有していたセルト人はロムルス人の社会に組み込まれて生きていることを話した。

 

「だがそこまでの兵器は作れなかったがな……」

「それでも魔法の方が強力なのは変わらないわ」

「それと供物の回復に関してだがこれを使え」

 

 そう言ってジェフリーが懐から取り出したのは、先程彼自身が頭に使った瓶。

 中には綺麗な透明の液体が入っていて、その正体が何なのか気になり、ほむらは目で訴えかけた。

 

「それは『リブロムの涙』だ。供物の回復にはそれを使う」

「え⁉」

 

 あの皮肉屋の本にそんな能力があるとは思わず、ほむらは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

 まだ色々と聞きたいことはあるが、時計を見ればもうすぐ日付が変わる時間帯。

 あとは実戦で理解しようと思い、ほむらは立ち上がってジェフリーにも付いてくるように合図を送る。

 

「悪かったな……」

 

 ほむらの後を追うジェフリーは小声で一言そう言う。

 頭だけ振り返って、ほむらはジェフリーの応対に当たる。

 

「何が?」

「連携を組みやすくするためとは言え、痛い思いをさせてしまったことだ。ゴメンな」

「何を言っているのよ。あなたは一発も私を殴ることなく、自分の目的を完遂させたじゃないの。私の説得と戦力増強という目的をね」

 

 そう言うとほむらは再び前を向いて歩き出そうとした。

 

「何をやっても失敗しかしなかった私と違ってね……」

 

 その声は小声であり震えていた。

 ジェフリーに気づかれないように平静を保ちながら、ほむらは無言で自宅へと戻って行った その弱音を聞いていたジェフリーは同じように小声で彼女に聞こえないように呟く。

 

「それは俺だって同じさ……」




魔法少女はかくべくして魔法使いと交わった。
供物と言う新たな力を経て


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