魔法使いと魔法少女が紡ぐ物語   作:文鳥丸

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決して交わってはいけない二つの存在、交わった時に生まれるのは真の絶望だった。


第四話 孵卵器と聖杯

 マミのマンションに集まった一同はジェフリーを上座に座らせると、改めて彼から話を聞こうとする。何故彼がこの世界に来たのかを。

 ずっと会いたいと思っていたジェフリーなのに、いざ会ってみると何を話していいか分からずに全員が困惑するばかりであった。

 だがいつまでも睨み合っていても何の進展もないと思い、代表してほむらが口を開く。

 

「まず答えてちょうだい。何でこの世界に来たの? そしてどうやってこの世界に?」

 

 ほむらの問いかけに対して、ジェフリーはまず自分がこの世界にやってきた方法を語る。

 まずはジェフリー自身、自分の世界で彼女たちと別れてからの事を語り出す。

 ジェフリーはあれから救済集団サンクチュアリに所属して、世界の復興に勤しんでいたが、自分たちの世界にもある異変が起き、その騒動に苦しめられていたことを伝えた。

 

「セルト神は俺達の世界の侵略を不可能だと判断して、俺達の世界によく似た異界に聖杯を送りこんで異界を取りこんでから、こちらの世界に改めて侵略を試みようとしたんだ」

 

 その兆候として、異界の魔物たちの残留思念が実体化して、ジェフリーの世界に現れたことを伝えると、ジェフリーは手を空に向かって突き出す。

 空中にモヤが浮かび上がり、中から映像が浮かび上がる。

 そこにはセルト神が侵略を試みようとした三つの異界があった。

 ある異界は荒廃した世界の中で僅かな資源を奪いあい、才能のない物は皆囚人として扱われ、自由を勝ち取るために戦い続ける世界。

 ある異界は先程と同じように荒廃した世界ではあるのだが、戦っている相手は人間ではなく、神の名を持つ異形のモンスター『アラガミ』アラガミに対抗するため、戦い続ける神を食らってでも、人が生き続けようとする世界。

 ある異界は純和風の江戸時代のような世界観の中で鬼と呼ばれる異形と戦う『モノノフ』達と呼ばれる侍達が戦っている世界。

 それらの異界は金色の精神を持った戦士達のおかげで、ほとんどあってないような物扱いになっているため、そこの世界の魔物たちをジェフリーたちの世界に残留思念として持っていくのが精一杯であった。

 

「だがこの世界は別だ。世界全体で魔物の認識がある訳ではないからな」

 

 ジェフリーの言葉に全員が押し黙る。

 ざっと見ただけではあったが、異界の戦士達は全員絶望に負けない強い心を持っていることが理解出来る。

 それに比べれば、魔法少女たちの心は皆弱い物ばかり。

 絶望に項垂れそうになるが、それを払拭しようとまどかが話しかける。

 

「じゃあ、ジェフリーさんがこの世界に再び来たのって……」

 

 認めるのが怖かったがまどかは聞かずにはいられなかった。

 そしてジェフリーは話し出す。最悪の答えを。

 

「そうだ。セルト神が次に選んだ異界はここだ。奴は聖杯を用いてこの世界を侵略し、最後は俺達の世界を飲みこもうとしてやがる。それを阻止するために俺はここに来た」

 

 絞り出すように話すとジェフリーは辛そうな顔を浮かべる。

 それは自分たちの世界の都合に彼女たちを巻き込んだことへの罪悪感。

 それを払拭するためにも、ジェフリーは引き続き話を続ける。

 

「その兆候はもう表れている。お前らも接触しただろ?」

「アリスの事?」

 

 さやかに言われてジェフリーは小さく頷くと、アリスの真実を語り出す。

 

「アリスはお前達の世界の魔女じゃない。俺の世界の魔物だ」

「だからか。お前手慣れた様子で撃破していたからな」

 

 杏子のつぶやきにも答えず、ジェフリーはアリスが生まれたきっかけを語り出す。

 アリスも魔法使いの掟に従順な魔法使いであった。その結果魂が体の中で暴れ続け、抑えられず魔物と化そうとしていた。

 だがアリスには目的があった。自分の娘が生み出した危険な土地の浄化だ。

 

「だが『ワンダーランド』なんて物はどこにもなかったんだよ」

「まさか……」

 

 マミは信じたくないのか言葉に詰まったが、ジェフリーは構わずに真実を話し出す。

 

「娘も記憶の混濁によって他人のそれを信じたまでに過ぎない。ワンダーランドも絵空事だ。だがアリスは信じるあまり、聖杯に自分の肉体を捧げて自分自身がワンダーランドとなる事を選んだ。お前たちが戦った空間は魔女の結界じゃない。ワンダーランドだ」

 

 混ざりあおうとしている世界に少女達は圧倒される。

 だがジェフリーは止まるつもりはない。自分の意思を伝えようとほむらに話しかける。

 

「キュゥべえは?」

 

 ジェフリーが一番気になったのは恐らく聖杯と契約したであろう、キュゥべえの存在。

 聞かれたことには答える奴なので、直接聞き出して現状を把握しようとジェフリーは思い、ほむらに聞く。

 だがほむらは質問に対しても、黙って首を横に振るだけであった。

 

「最近は全く見かけないのよ。こっちも相手にしたくないから助かったとは思っているんだけど……」

「でも今回はジェフリーさんは聞きたい事がキュゥべえにあるみたいだし、呼んでみたら?」

 

 まどかの提案に対して、ほむらは小さく首を縦に振ってテレパシーでキュゥべえを相手にコンタクトを取ろうとする。

 

(キュゥべえ。話があるわ、すぐにこっちへ……)

「驚いたな本当にこっちへ来るなんて」

 

 テレパシーを送ろうとした瞬間、空中にモヤが現れそこから一つの映像が映し出される。

 そこに居たのは体の右半分が真っ黒に染まったキュゥべえ。相変わらずの無機質な瞳でこちらを見つめるだけの存在に、少女は歯ぎしりをしながらキュゥべえを睨むが、ジェフリーは先程少女達と話したトーンのままキュゥべえを相手にコンタクトを取ろうとする。

 

「今度は話してもらうぜ。俺もこの世界の住人になったんだからな」

「虚仮の一念、岩をも通すって奴だね。いいだろう話すよ。ワルプルギスの夜以降ボクに何があったかをね」

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 ワルプルギスの夜を撃破し、まどかは完全に魔法少女の契約をする気がなくなっていた。

 膨大なエネルギーの回収に失敗したキュゥべえは、地道に契約で数をこなすことを選ぼうとしたが、不思議なことに中々上手くいかなかった。

 今までは二つ返事で簡単に契約してくれる娘も少なくなかったのに、ほむら達がワルプルギスの夜を撃破してからと言う物、魔法少女の契約は全く上手くいかなくなった。

 結果として魔女も中々に生まれず、エネルギーの回収は遅々とした物になってしまった。

 キュゥべえ自身気付いてはないなかったが感じていた。焦りと言う物を。そして感情のない獣はその正体を知らなかった。これこそが絶望だと言う事を。

 トボトボと頼りない足取りで歩を進めながら、キュゥべえはつぶやく。

 

「今まで通りのやり方じゃダメだ。でもどうすれば……」

「その願い叶えてやろうか?」

 

 突然響いた声に驚き、キュゥべえは顔を上げて前を見る。

 そこには光り輝く盃があった。

 それに関しての知識はないが、キュゥべえは本能的に理解した。

 

(これはボクと同じ存在?)

 

 その気持ちが困惑と言う感情だと言う事にキュゥべえは気付いてないが、獣は盃の発する言葉に耳を傾ける。

 

「お前は宇宙のため絶望を欲しているのだろう?」

「全ては宇宙のためだよ。その為にも多くのエネルギーが必要なんだ」

「我はセルト神の意思聖杯。この世界を欲望で満たし、世界を我が物にしようとしている」

「何だって⁉」

 

 目を大きく見開き、キュゥべえは叫ぶ。

 ジェフリーの事は詳しくは知らないが、目の前にある聖杯が彼と関わりのある存在だと言う事は何となく理解出来る。

 コンタクトを取ってきた聖杯がプラスになる存在かどうかを見極めるため、キュゥべえは引き続いて話しかける。

 

「別に世界の覇権争いに興味はないよ。それで君はさっきボクの望みを叶えると言ったね? どう言う事なんだい?」

 

 一番気になったところをキュゥべえが聞くと、キュゥべえの脳内に映像が流し込まれる。

 そこには欲望に負けて人から魔物へと変貌していった愚か者達の物語。

 多くの魔物を見て、そこから放たれる欲望のエネルギーは、魔法少女が絶望して瞬間的に得られるそれよりも遥かに効率の良い物である事を即座に理解したキュゥべえは聖杯に語りかける。

 

「凄い力だ。素養のない人間からでもエネルギーを回収するだけじゃ無く、魔物になってからも継続的にエネルギーを搾取し続ける事が出来るなんて……」

「どうだインキュベーターよ。お互いのために我の力を受け入れる気はないか?」

 

 それはキュゥべえがいつもやっている悪魔のささやき。

 だがキュゥべえは迷うことなく、聖杯を受け入れようとしていた。

 魔法少女システムは決して完璧な物ではない、より効率の良い方法があればそちらを優先する。

 聖杯の申し出に対してキュゥべえの答えは決まっていた。

 

「お前の能力全てを差し出せインキュベーター。そうすれば我の力を全てお前に託そう」

「どんな代償でも支払う! 全てはこの宇宙の為に!」

 

 叫びと共に聖杯は発光して消えてなくなる。

 そしてキュゥべえは感じていた。自分の中に新たな力が流れこむのを。

 それはキュゥべえの右半身が黒く染まることで確信に変わり、インキュベーターは新たな存在となって生まれ変わった。

 絶望を撒き散らす異界の聖杯となって。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 全てを聞くと少女達は圧倒されて、何も言えないでいたが、ジェフリーだけはそこから更なる情報を得ようと引き続きキュゥべえだった物に向かってコンタクトを取る。

 

「それで? お前どれだけの人間を魔物にした?」

「そうしたいところだったんだけどね。思っていた以上に聖杯の力は扱いが難しくてね。前のようにボクが頻繁に直接出向くって事が不可能になった」

 

 自由にキュゥべえが動けない、それは少女たちに取って喜ばしい事実であったが、相変わらず険しい表情は崩せなかった。だからと言ってそれが諦めるような性格ではないと知っていたから。

 

「俺が見た時、お前には8人の協力者が居たはずだ。そいつらは誰だ? 答えろ!」

 

 ジェフリーは以前に見た情報を確信に変えようとする。

 一方の少女達は協力者が居ることに不快な表情を示す。

 キュゥべえのやっている事は、人間を家畜として扱っているような物。

 存在が聖杯に変わったことから、今までと同じように出来ないと予想はしているが、それでも協力者が居たことに憤りを感じていた。

 恫喝するジェフリーにも全く動じず、キュゥべえは淡々と語る。

 

「流石に全てを答えるわけにはいかないよ、彼女たちはキーマンだ。でもボクに聖杯を与えてくれたよしみだ。最終的な目的と概要だけ教えてあげるよ」

「お前は何をやろうとしている⁉」

 

 ジェフリーの叫びを鼻で笑うと、キュゥべえは一行をまっすぐ見据えて語り出す。

 

「この世界をセルト神の物に! そして宇宙のため、この惑星を欲望で満たす! ボクの思想に賛同してくれる8人の協力者には魔物契約の力を与え、ようやく動けるようになった。鹿目まどか、君はこれから自分がどれだけ愚かな選択をしたか思い知らされるよ」

「私は間違った選択なんてしてない! 人間鹿目まどかとして、お前と戦い続けるインキュベーター!」

 

 キュゥべえの挑発に対しても、まどかは凛とした態度を崩さず、憎しみの目線を送りながら反抗する。

 だがキュゥべえは少女の憎しみにも意に介さず、自分の話を続ける。

 

「これでもボクは君ら人間の家畜の扱いよりも上等な扱いをしてきたつもりだよ。でもそれでも不満で反旗を翻すと言うなら、こっちにも考えがある」

「これ以上何をどうしようと言うの?」

「ボクらインキュベーターは君らに十分すぎる知恵を与え、その結果瞬く間に文明は築かれた。僅かな犠牲でボクらが来なければ、裸で洞穴に暮らしていたような面々がだよ。今こそ恩を返してもらう時だ」

 

 キュゥべえはほむらに対して宣言をする。

 キュゥべえの言っている意味が分からず、ほむら以外の面々は困惑するばかりであったが、ほむらは一同に対して「後で説明するわ」とだけ言うと、言葉の続きを待つ。

 

「この惑星には今70億人の人間が居る。これだけの人間が一斉に魔物と化して欲望のエネルギーを放出すれば、充分この惑星分のノルマは達成される。ボク自身がこの惑星の全てを食らい尽くすことで回収させてもらうよ」

 

 キュゥべえが発するオーラは禍々しい物であり、漆黒のオーラを放ちながら威風堂々と答える。

 その波動を昔感じたことがあるジェフリーは自分の中で思い浮かんだ最悪の仮説を話そうとする。

 

「まさかお前……」

「そのまさかだよジェフリー。全ての絶望のエネルギーはボクだけに集められるように出来た。これはグリーフシードの回収よりも余程効率が良い。8人の協力者を野に放ち、全ての絶望を食らいつくし、最後はボクがゴッドドラゴンになって、全ての人間に絶望を与える。この宇宙のためにね!」

 

 その瞬間、少女達の中で何かが切れる音が響く。

 各々獲物を構えて、モヤに向かって放とうとするが、ジェフリーは手を突き出してそれを制した。

 そしてジェフリーは憎しみに満ちた目をキュゥべえに向けると、宣戦布告とばかりに叫ぶ。

 

「絶対に俺は俺の世界の歴史を繰り返させたりはしない! ロムルス神の助けも必要無い! 全て俺が終わらせてやる! 全ての因果は俺が受け止める!」

 

 ジェフリーの宣戦布告をキュゥべえが鼻で笑うと同時に、モヤは消えてなくなった。

 聞きたい事は全て話したと言わんがばかりに、それは相変わらず身勝手に自分だけの言いたいことだけを言うと、辺りは静寂に包まれた。

 ジェフリーに対して何を話しかけていいか分からない一同であったが、ジェフリーは少女たちの前に立つと膝を突いて頭を下げる。

 

「何を⁉」

 

 突然の謝罪にマミは困惑の声を上げるが、それに構わずジェフリーは真摯な顔を浮かべて語り出す。

 

「俺は取り返しの付かないことをしてしまった。この平和で穏やかな世界をセルト神に教えてしまった。多分ではあるが俺の中にある神の意思が聖杯に共鳴した結果、セルト神はここに聖杯を送り込む事に成功したんだろうよ」

「で、でも……セルト神とロムルス神の意思は、マーリンさんが受け止めて、それを生贄にしたジェフリーさんの中に封じられている状態じゃないんですか⁉」

 

 さやかの意見に対して、ジェフリーは小さく首を横に振ると、今現在分かっている見解を話し出す。

 

「こんな物ほんの一部に過ぎないよ。俺達の世界に聖杯が現れなくなったのは、あくまで聖杯を人々が欲っさなくなったから、小康状態にあるだけだ。また人々がそれを欲すればまた聖杯は現れるだろうし、ロムルス神は再び無欲の人を送るだろうよ」

「簡単そうに言っているけどよ、それ凄い事だぞ。お前分かってんのか?」

 

 杏子の突っ込みにもジェフリーは意に介さなかったが、杏子は言ってからとても辛そうな顔を浮かべた。

 欲望に負けず、人と人が手を取り合って助け合える社会。それは父親が理想とした社会なのだから。

 だがそれが全てが荒廃しきった状態で得られた事実は、決して手放しで喜べる物ではない。

 歯がゆそうな顔を浮かべながらも杏子はジェフリーの言葉の続きを待つ。

 

「だが責任は絶対に取る! 俺は必ずこの世界の聖杯も俺が生贄にして止める! 必ずこの世界をこの世界の人間の物だけにする。だから俺を許してくれ……」

「嫌よ。絶対に許さないわ」

 

 悲痛そうな顔を浮かべるジェフリーに対して、ほむらは淡々とした調子で答える。

 能面のように冷たく無表情な顔を浮かべながら、ほむらはジェフリーの顔を持ち上げる。

 まるで昔のほむらに戻ったかのような調子を見て、一同はほむらを止めようとするが、その瞬間ほむらの目からは涙が溢れ出し、ジェフリーを思い切り抱きしめた。

 

「何であなた一人で片づけようとするのよ! 私はそんなに頼りない存在だって言うの⁉ 今はまだあなたの物語の仲間たちに及ばないかもしれないけど、未来は分からないでしょ⁉ 最早、聖杯の問題はあなた一人の問題じゃないのよ! 私達を頼ってよ! 今度は私があなたに恩返しをする番よ……」

 

 泣きながら強く抱きしめるほむらに対して、ジェフリーは何も言い返すことが出来なかった。

 そのまま呆けていると、まどかがほむらを引きはがして代わりに彼女を抱きしめる。

 すると今度は杏子がジェフリーの体を持ちあげて、自分の方を向かせる。

 

「そうだ、アタシとお前はダチじゃねぇかよ。ダチが困ったら助けるのは当たり前のことだろ、アタシもほむらと同じ気持ちだ。アタシたちをもっと頼れ」

「私も精一杯頑張りますから! ジェフリーさんや皆のために美味しいご飯作って待ってますから!」

 

 まどかも杏子に続いて、自分の思いの丈を叫ぶ。

 ジェフリーは立ち上がって、一同の方を見る。

 全員が彼を出迎える体制であり、ジェフリーに対して笑顔を浮かべていた。

 穏やかな笑みを浮かべたまま、マミは語り出す。

 

「皆同じ気持ちですよ。ひとりぼっちで戦うなんて私も許しません。あなたには、私に代わってリーダーを引き受ける役目があるんですから」

「リーダー?」

「ハイ『ピュエラ・マギ・ホーリー・カルテッド』のリーダーをです!」

 

 威風堂々と言うマミに対して、彼女以外の面々はバツの悪そうな顔を浮かべて、目を逸らした。

 奇抜な組織の名前にジェフリーは困惑するばかりだったが、マミは嬉しそうに顔をほころばせながら嬉々とした表情で語り出す。

 

「ジェフリーさんが入るから『ピュエラ・マギ・ホーリー・クインテット』ですね! 新リーダーの加入で私たちはますます強くなるわ!」

「オイ、俺はやるとは……」

「私たちは無敵よ――!」

 

 すっかり自分の世界に入りこんでいるマミにジェフリーは何も言う事が出来ずに項垂れるだけであった。

 調子に乗っているマミを杏子が制する中、最後にさやかがこの場をまとめようとする。

 

「もう私とまどかは帰りますけど、ジェフリーさん感謝してくださいよ」

「何にだ?」

「こんなカワイイ女の子を五人も一人占めにできるんですから。少しぐらいのワガママは認めてあげましょうよ」

 

 意地の悪い笑顔を浮かべるさやかに対して、ジェフリーは同意するのも嫌なのか空を向いて沈黙を貫く。

 未だにマミと杏子が騒いでいたが、さやかとまどかが帰って行くのを見ると、二人も騒ぐのを止め、ジェフリーのこれからに付いて話し出そうとする。

 

「じゃあ住処はここでいいわね?」

「また世話になる」

 

 深々と頭を下げるジェフリーに対して杏子は手を突き出して制する。

 

「だからもっとお前は堂々としてればいいんだって、それで服だが……」

「その必要はないわ。私の家に保管してあるから、明日私が持っていくわ」

 

 それだけ言うとほむらもまた自分の家へと帰ろうとするが、最後に思い出したかのように一同に振り返ると語り出す。

 

「明日早速あなたに仕事を依頼したいわジェフリー」

「どんな魔物が現れた⁉」

 

 ジェフリーは気合いが入りすぎるぐらいの返答をほむらに返す。

 この世界を自分たちの世界と同じようにするわけにはいかない。それだけがジェフリーを突き動かしていたが、ほむらは小さく首を横に振ると携帯の地図アプリを起動させて、ジェフリーに見せる。

 

「地図を見せられても俺には何が何だか……」

「ここに二名程、私達の仲間になってくれるかもしれない魔法少女が居るのよ。あなたの手で魔法使いに変えて。後説得もお願いしたいわ」

 

 マミと杏子はほむらの提案に対して驚愕の表情を浮かべた。

 ほむらは盲目的になる傾向があり、自分から進んでまどか以外の人間と深く関わろうとしない部分があるからだ。

 そんな彼女が、かつては敵対した相手と同盟を組もうとしている。その事実に二人は驚かされるばかりであったが、ほむらは続けて語る。

 

「美国織莉子、呉キリカ、これが仲間に加わってほしい二人の魔法少女の名前よ。そしてこれが顔写真」

 

 そう言ってほむらは続けて携帯に二人の写真を映し出す。

 顔を覚えたジェフリーは小さく頷いて、それをほむらに伝える。

 

「明日コンタクトを取って、改めてあなたに詳細を教えるわ」

 

 そう言ってほむらはその場を後にする。

 ドアを閉めて出て行くとほむらは足早に自分のアパートへと向かっていた。

 止まれば感情に飲みこまれるのは分かっていたから。

 

「不謹慎なのは分かっているわ。あなたが現れるのはこの世界に危機が訪れた時だけ、決して喜ぶべきことではないわ。聖杯とインキュベーターが手を組んだことは……」

 

 それは理性での発言。

 だがそれで感情は抑えられず、涙ながらにほむらはつぶやく。

 

「でも、それでも……それでも、私は!」

 

 涙が手で拭えなくなり、ハンカチを取り出すのがそれでも拭えきれず、涙ながらにほむらは天に向かって叫ぶ。

 

「あなたにもう一度会えて嬉しい! ジェフリー!」




と言う訳でこれから改めてインキュベーターと魔法使いたちの全面戦争と言う形になります。8人の協力者に関してはまた後程と言う形でお願いします。

次回はジェフリーが織莉子とキリカに出会う回になります。

次も頑張りますのでよろしくお願いします。

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