ジェフリーは異界で聖杯が猛威を揮っている事実に、そこに居る全員がショックを隠せないでいたが、それに構わずジェフリーは語り出す。自分が見滝原に行く算段を。
まずはジェフリーは自分がかつて見滝原に行っていたところを語り、そこから自分が再び見滝原に行く方法を語り出す。
「一回目に召喚された時は呼び出されたんだ。俺と魂が繋がったこいつを媒体としてな」
そう言ってジェフリーはリブロムを一同の前に差し出す。
リブロムの事は彼から聞かされている。信じられないような話だが、それは事実なのだと皆が認めるしかなかった。
「じゃが、そいつがここにある以上、お前さんが異界に行くことは不可能じゃないのか?」
繋がる先がどこにもない以上どうすることも出来ないとボーマンは判断した。
だがジェフリーは続けて語り出す。
「魂で通じ合っている存在は異界に一つ置いてある。俺の体のパーツで作りあげた魔導書が向こうの世界にはあるんだ」
「まさかお前……」
ジェフリーがやろうとしている事を思い浮かべると、リオーネは青ざめた顔を浮かべる。
そんな彼女に構わずジェフリーは自分の案を語る。
「俺のプラン。それはな異界の魔導書にこちらから直接魔力を流し込んで、今度は逆にこちらが異界に乗り込むって算段だ。死中に活を求めるって奴だよ」
あまりに大胆なプランに一同は言葉を失う。
魔力に関しては全員でジェフリーに流し込んで、後は彼の感覚だけで異界にある魔導書へと流し込めばいいのだろう。
その辺りの感覚は本人にしか分からない事、異論を挟むことなど出来ない。
だがアルトリアだけはこのプランに反対の意を示す。
「危険すぎます」
「無茶は承知の上だ。人間だって腹一杯食えば吐き出すしかないだろ。それと同じように俺と言う存在を異界に吐き出させる」
「なぜそこまで!」
まだ異界での聖杯の事情に関してはよく分かっていない。にも関わらずジェフリーは危険でもそこへ向かおうとしていた。
理由が分からずにアルトリアはつい声を荒げてしまうが、ジェフリーは凛とした表情で返す。
「あそこには恩人が、仲間が居る。俺が俺である事を取り戻させてくれた仲間がな。その仲間の世界が俺の世界の事情に巻き込まれようとしているんだ。今度は俺が皆を助ける番だ」
その真剣な表情を見てアルトリアは何も言い返す事が出来なかった。
アルトリア自身よく知っている事だ。アーサー・カムランと言う男の意思の強さを。
話しぶりからとても大事な友達だと言う事が分かり、アルトリアはこの問題について結論を出す。
「リオーネ占ってくれますか?」
突然話題を振られて戸惑いながらも、リオーネは目を閉じて意識を集中させてジェフリーがこの選択肢を選んだ場合の未来を占う。
リオーネの脳裏に映像が映し出される。
そこには色鮮やかな派手な法衣に身を包んだ少女たちと共に戦うジェフリーの姿が。
目を開け、リオーネは占いの結果を一同に伝える。
「占いでは成功すると出てるぜ」
「では命令です!」
リオーネの占いの結果を聞くと、アルトリアは一同の前に立ち、凛とした態度で一同に命令を下す。
「明日、彼を異界に送り届けるため、彼に本日と同じように魔力を提供することを宣言します。異論は認めません。では魔力を溜めるためにも本日はこれにて解散!」
有無を言わさぬアルトリアの発言に、一同は何も言わずに去っていき、一人また一人と会議室から人は居なくなる。
最後に残ったのは、アルトリア、ボーマン、リオーネの三人だけであり、ジェフリーは三人に向かって頭を下げる。
「済まない……」
「兄さんが決めた事です。私たちは何も言う事は出来ませんよ」
「それに最後の異界は今までの異界のように放っておいても問題ないと言う雰囲気ではないしの」
「お前一人に全部を押し付けるのは情けないと思うが勘弁してくれ。お前はアタシたち全員の希望だ。頼んだぜ」
綱渡りのような作戦だとは分かっていた。
だがそれでも一同はジェフリーにすがるしかなかった。
自分たちの世界の命運を彼一人に押し付ける。
そんな孤独な戦いを再び彼に強要させる事に罪悪感を抱きながらも、皆が信じていた。
異界も聖杯の脅威から彼が救ってくれる事を。
***
異界の存在を知ってから、一夜明けた。
この日の夜にジェフリーの異界送りは決定して、魔法使いたちは彼に魔力を与えるため、全員が待機命令を与えられ、魔力の練成に勤しんでいた。
そんな中ジェフリーは一人ユグドラシルの森に居た。
ユグドラシルの幹の下に座り、顔を上げながらジェフリーはユグドラシルに話しかける。
「俺は友達であるお前と再会出来て本当に嬉しいと思っているよパーシヴァル」
『きゅうにどうしたの?』
突然話題を振られて元パーシヴァルのユグドラシルは困惑するが、ジェフリーは構わずに話を続ける。
「お前と別れてから、俺は色んな人達に出会ったよ。その中で俺は俺を見失う事になってな。そんなどうしようもない俺に俺を取り戻させてくれた友達が異界に居るんだ。でも今異界は聖杯の脅威にさらされようとしている」
『ともだちだいじ……』
「そうだな」
パーシヴァルの言葉にジェフリーは同意する。
短く単純な言葉ではあるが、それを実行するのはとても難しく大変な事。
だがそれでもやらなければいけない時はある。それが今なんだと思ったジェフリーは声に出す。
「だから俺は再び異界に向かう。俺のことを救ってくれた友達を今度は俺が救わなきゃいけないんだ! またパーシヴァルと別れるのは正直寂しいけど、異界の皆も俺にとっては大切な友達なんだ!」
パーシヴァルはこの世界で唯一ジェフリー・リブロムの中の記憶で会える友達。
そんな彼と再会出来た事はジェフリーに取って嬉しく、心の支えになった。
例えパーシヴァルが自分のことをどうとも思っていなくても、それだけは伝えておこうと思い、ジェフリーはパーシヴァルに背を向けて歩き出そうとするが、その際脳内に直接声が響く。
『いくまえにひとつだけおしえて』
「何だ?」
涙を堪えながらパーシヴァルの方を向き、ジェフリーは応対に当たる。
『ほんとうのなまえなに?』
その瞬間ジェフリーの目から一筋の涙が流れる。
パーシヴァルは決して、ジェフリーをかつての友達の記憶を受け継いだだけの魔法使いだと見ていなかったからだ。
ジェフリーは目から溢れる涙を拭いながら答える。
「アーサー・カムラン。それが俺の本名だ」
『アーサー……おぼえた。じゃあいうよアーサー』
一呼吸置いてからパーシヴァルはジェフリーの脳内に語りかける。
『アーサーもボクのたいせつなともだち。だからもどったときにはまたおはなししよう。ボクとはなせるのアーサーだけだから……』
その瞬間ジェフリーの堤防は決壊し、ユグドラシルの幹に抱き付いて泣く。
そして一しきり泣き終えると、ジェフリーは時間の許す限り、パーシヴァルと語らい続けた。
見滝原での自分だけの物語を。
***
月だけが街を照らす夜。
サンクチュアリ本部の大広間にて、サンクチュアリの全魔法使いは集まっていた。
これから行われるのは聖杯に対しての叛逆行為。
この世界を守り、人の物であり続けるためにも、異界の侵略を阻止する。
その為に唯一異界に赴ける魔法使いを送り届ける。
全員が手を繋いで意識を集中させて、自分の中の魔力をジェフリーへと注ぐ。その中にはリブロムも居た。
もしもの時を考え、リブロムはこちらの世界に待機すると言う形を取っていて、ジェフリーに向かって魔力を注ぎこんでいた。
その隣にはリオーネが居て、ジェフリーが向かう先の異界への道を示そうとしていた。
手を合わせて魔力を練成し、両手を勢いよくかざすと空にモヤが現れそこから映像が映し出される。
それはぬいぐるみがたくさんある女の子の部屋であり、本棚の中に一つ魔導書があるのを確認するとジェフリーは立ち上がって注がれた魔力を解放して、異界の魔導書に向かって流し込む。
「聞け! カムラン!」
異界からのジェフリーの叫びはカムランにも届き、カムランは体を震わせながら本棚から落ちていき、ページを開いた状態で地面へと落ちる。
そしてジェフリーから放たれる魔力が届いて共鳴したのか、その体は赤く発光していく。
「お前は俺の分身だ! まどかを、皆を救いたいと思わないのか⁉」
叫びに対してカムランは体を震わせて精一杯のアピールをする。
言葉の通じない赤子であっても、母親がどれだけ自分を愛してくれているかは理解出来る。
言葉ではなく感覚でカムランはジェフリーの叫びに応えようと、ページを何度も何度もめくり続け、体を赤く発光させる。
「これは俺がお前を見滝原に召喚しようとした時と同じ状態じゃないか……」
リブロムや周りの魔法使いも感じていた。体に感じるビリビリとした激しい波動を。
それは肉体がここではないどこかへ送られる感覚。
それはそこに居た全員が理解していたことだった。
ジェフリーの周りは稲妻で覆われ、彼の体が少しずつ粒子と化しているのを見て、その肉体はここではないどこかへ送られる事が理解出来る。
最後のダメ押しとばかりにジェフリーはカムランに向かって思いの丈を叫ぶ。
「まどか達が大切なら、俺と共に戦え! その為に俺をお前の世界に送れ!」
叫びと共にジェフリーの体は完全に稲妻に覆われ、辺りに波動をばら撒いた。
閃光が消えてなくなると、吹っ飛ばされた一同は恐る恐る立ち上がり、辺りの様子を確認する。
そこにジェフリーの姿はなく、全員が異界に送られたと思ったが、それを確証に変えようとその視線はリオーネに向けられる。
期待を背にリオーネが手をかざしてモヤを作りあげると、その中に映像が映し出される。
そこにはカムランがあると思われる部屋の中で横たわるジェフリーの姿があった。
異界に送られたのを確認すると、リオーネは手を下げて一同と向かい合う。
「成功したみたいだな」
リオーネの言葉に全員が黙って頷く。
全てを彼一人に任せることに罪悪感を覚えたが、それでもこうしなければ聖杯の脅威に立ち向かうことは出来ない。
場を嫌な静寂が包みこむが、まとめるようにアルトリアとリブロムが一言つぶやく。
「信じましょう。兄さんは私よりも人の強さを優しさを理解している魔法使いです」
「ああ、俺じゃねぇ俺がアイツに全てを賭けたんだ。だったら俺もアーサー・カムランに賭けるぜ」
その言葉に全員が頷き、後の事を彼に任せようと決意した。
信じることが自分たちの戦いだと信じていたから。
***
目を覚ますと、そこは夕闇に包まれた部屋であった。
ジェフリーは自分の頭を撫でる固い感触に気付くと、起き上がって辺りを見回すと頭を撫でる物を取って、正体を確認する。
「カムラン……」
カムランは久しぶりにジェフリーと会うのが嬉しいのか、体を揺さぶらせて喜びを表現していた。
ジェフリーはカムランを持ち上げて、魔導書と向き合って話をする。
「まどか達は今どこに居るか分かるか?」
問いかけに対いてカムランは応えようと、ページを開くと地図を浮かび上がらせ、まどか達が居る場所を示す。
それはマミのマンションではあるが、感覚だけで道を理解するジェフリーに取って地図を見せられてもピンと来ない部分があり、困った顔を浮かべる。
「参ったな……」
どうしていいか分からずにいると、突然ドアが開く音がする。
何事かと思い、ジェフリーがドアの方向を見ると、まだ身長が一メートルにも満たない幼子が姿を現す。
「だえ?」
まどかの弟である鹿目タツヤは見知らぬジェフリーを相手にコンタクトを取ろうとする。
一方のジェフリーも初対面のタツヤにどう接していいか分からず、困った顔を浮かべていたが、藁をもすがる想いで彼にも聞きたい事を聞く。
「俺はジェフリー。まどかの友達だよ」
「ねーちゃの?」
「ああ。まどかは今どこに居るか知っているか?」
「何だお前は⁉」
話している途中で違う男の怒鳴り声が響く。
まどかの父親である鹿目知久は娘の部屋に見知らぬ男性が入っているのを見て、厳しい表情を浮かべて、ジェフリーを睨んでいた。
「タツヤを離せ! 警察を呼ぶぞ!」
激昂しきっている知久を相手に説明も面倒だと思い、ジェフリーはポケットから眠り教主の花の細粒をぶつけ、強引に眠らされた知久はフローリングの地面に激突する。
突然倒れこんだ父親をタツヤは心配するが、ジェフリーは彼の頭を優しく撫でながら一言言う。
「問題ない、10分もすれば目を覚ます」
そう言うと面倒事を回避するため、ジェフリーは玄関から出て行こうとする。
タツヤはジェフリーの言葉を信じて、知久の部屋にある自分の画用紙とクレヨンを持ち出すと絵を描き出す。
「じぇふりー! じぇふりー!」
歌いながらタツヤは絵を描き出す。
右半分には大好きな姉のまどか、左半分には会ったばかりのジェフリーが描かれる。
タツヤは信じていた。彼とはまた会えることが出来、そして今度は楽しい話が出来ることを。
***
マミのマンションに集まった一同は難しい顔を浮かべてこれからについて話し合っていた。
議題は美国織莉子と呉キリカに付いて。
まだ詳しい素性が分からず、何をやろうとしているのか分からない二人に不安は募る一方であり、仮説だけでもハッキリさせておこうと一同はほむらにそれを求めた。
四人分の目線を受けると、ほむらは困った顔を浮かべながら対応をする。
「私の意見は参考にならないわ。あの二人は間違いなく、私が経験してきた時間軸の二人とは別人よ」
「じゃあ大体の時間軸であの二人が何をしたかでいいから教えてくれる?」
マミの問いかけにほむらは小さく頷く。
未来予知能力を持つ美国織莉子は鹿目まどかが魔法少女になれば、自身の魔力を制御しきれず、ワルプルギスの夜を超える強大な魔女になる未来を見る。
その未来を回避するため、彼女はまどかを魔法少女になる前に殺そうとして、ほむらはそれと戦ったことを告げた。
「そして呉キリカはそんな彼女に付く従者よ。ハッキリ言って盲目的に美国織莉子しか見ていないから、殺人だって何のためらいもなく行えるわ」
一呼吸置いてから、ほむらは寂しそうな笑みを浮かべながら締めの言葉を言う。
「まるで少し前の私みたいにね」
自虐に走るほむらに対して、一同は何も言い返すことが出来ず、沈黙は美徳を貫くことを選んだ。
そしてほむらは本来、自分が伝えたかったことを改めて皆に伝えようとする。
「だからこそ、今までの時間軸の二人とは同じとは思えないのよ。美国織莉子の命令かも知れないけど、彼女はあそこまで他人に対して好意的な性格じゃないのよ」
ほむらの言葉に一同は改めて呉キリカの事を思い出す。
含みがある部分もあったが、曲がりなりにもちゃんとしたコンタクトを取ろうとしていた。
そこから盲目的に美国織莉子以外の存在を見ようとしない矮小な存在とは思えない。
だが分からないからこそ怖い部分があり、一同はマミが用意してくれた紅茶にも手を伸ばさず、不気味な沈黙だけが流れていた。
この状況を打破しようとまどかが口を開く。
「皆パトロールに行かなくても平気なの?」
こんな方法でしか話を逸らすことが出来ない自分がまどかは嫌になる。
だが時計を見ると、そろそろ本格的に夜になる頃であり、魔女の動きが活発化する時間帯でもある。
一同は気持ちを切り替える意味も込めて立ち上がって、外へ出ようとする。
マミが鍵を開けてドアを開くと、目の前には一人の男性が立っていて、マミは彼の胸にぶつかってしまう。
「ゴメンなさい。ええ?」
その顔を見てマミは素っ頓狂な声を上げる。
彼はよく知った存在だからだ。他の四人も立ち止まっているマミを見て、何事かと思い集まると全員が男の顔を見て絶句していた。
「久しぶりだな。皆元気そうで何より」
ジェフリーは余裕ある大人の男性の態度を崩さず、一同に接するが、皆の顔は見る見る内に険しい物に変わり、ジェフリーを逆に部屋の中に連れ込むと乱暴に押し倒す。
そしてまどか以外の四人は法衣姿に変身して、ジェフリーに向かって武器を突きつける。
「どう言うつもりだ?」
「ふざけないで! 幻惑の類だってことは分かっているのよ!」
ほむらは怒りをジェフリーにぶつけるように叫ぶ。
何が何だか分からないジェフリーは立ち上がろうとするが、その瞬間、炎の矢が床を掠めて彼の動きを制した。
「動かないで。次に変に動いたら、今度は脳天を撃ち抜くわ」
「穏やかじゃないな……」
「ふざけるな!」
ジェフリーの言葉はさやかの怒声でかき消される。
さやかと杏子は眼下のジェフリーを心底憎々しいと言った表情で睨みながら、怒鳴り散らす。
「よりにもよってもう会えないジェフリーさんに姿を変えて挑もうなんて、趣味が悪すぎるわよアンタ!」
「何を言っている? 言っている意味が分からない」
「とぼけるな! 他の連中は騙せても、幻惑使いのアタシは騙されないぞ! お前が偽者だってことぐらい分かっている!」
杏子の叫びと共に一同は武器を突きつけながら、ジェフリーとの距離を詰める。
そのヒリヒリと焼けつく感覚に、本気で自分を異物として排除しようとしていると判断したジェフリーは弁解に入ろうとする。
「本当に俺だよ、ジェフリーだよ」
「嘘よ! リブロムもないのに何でジェフリーが居るって言うのよ⁉」
「今度は俺の方からこっちに来たんだよ」
その飄々とした態度は間違いなくジェフリーの色だった。
怒鳴り散らすほむらもここで目の前のジェフリーがただの偽者とは思えられず、持っていた武器を下ろすと改めてコンタクトを取ろうとする。
「何で?」
「それはこの世界が……」
言おうとした瞬間にジェフリーは感覚で察する。
魔物が現れる感覚を肌で感じ取ると、ジェフリーは勢いよく立ち上がってドアを飛び出して目的地まで最短距離で突っ切ろうとする。
嵐のように過ぎ去ったジェフリーに一同は呆けていたが、あの様子から見てただ事ではないと判断した一同は一旦法衣姿を解除して、彼の後を追う。
「皆! 待っているからね!」
まどかは慌てて見送りの言葉をかけ、ドアを閉める。
目の前のジェフリーが本物かどうかはまだ分からない。だがまどかの中で一つの仮説が生まれていた。
また新しい物語が始まろうとしている事を。
***
ジェフリーは追いかける四人を無視して走り続け、付いた先は先日アリスと戦った場所であった。
五人がその場に立ったと同時に、空間が変化していく。
ジェフリーの目の前に居たのは、四人が苦戦した魔女アリスの姿がそこにあった。
四人は変身しようとするが、ジェフリーは手を突き出してそれを制する。
「やはりそうか……」
アリスの姿を見ると、ジェフリーは歯ぎしりをしながら憎々そうにアリスを睨む。
一方のアリスはジェフリーの感情も意に介さず、手に持っていた鞭を振り下ろしてジェフリーを攻撃しようとするが、彼は即座に改魔のフォークを召喚するとそれを弾き飛ばして、アリスを睨む。
「ここはお前が居ていい場所じゃない!」
怒りの叫びと共に横一線に改魔のフォークが振り抜かれる。
横一文字に体に傷が付けられると、アリスは体から漆黒の血を流しながら悶絶するが、アリスもこれだけでは終わらない。
口を大きく開けてトランプを発射しようとするが、その前に炎竜の卵をジェフリーはアリスの口内に放り込む。
放たれようとしたトランプは強引に口の中に押し込まれ、口内はトランプの刃で切り裂かれる。
だが悲劇はそれだけで終わらなかった。炎竜の卵はアリスの口内で大爆発を起こし、アリスはよろめきながら後方に倒れ込む。
痙攣しているアリスに対して、ジェフリーは容赦せず何度もなども炎竜の卵を放って追撃を行っていた。
「す、凄い……」
ほんの数か月前にも彼の戦いは見ていたのだが、その時と腕が全く鈍ることなく、的確にアリスを潰そうとしているジェフリーにほむらは圧倒されていた。
その手腕を見る限り、ジェフリー一人でも大丈夫なのではと一同は思っていたが、マミは自分たちが瀕死の重傷に追いやられた技を思い出すと、ジェフリーに告げようとする。
「ジェフリーさん。その魔女はティーカップの攻撃で超スピードを発動させることが……」
「心配ない」
怯えるマミを安心させるかのように、ジェフリーは結界を指さす。
各所にあったティーカップは全て炎竜の卵によって粉砕されていて、切り札と呼べる必殺技を全てジェフリーは潰していた。
何故知るはずもない魔女の攻撃方法が分かったのか一同は疑問に思っていたが、アリスは咆哮を上げながらジェフリーに向かって突っ込む。
赤いオーラを身にまとって狂暴化しながら、アリスは口を大きく開いて火炎放射の攻撃をジェフリーに放つ。
その瞬間ジェフリーの口元は邪悪に歪む。
その場に居た四人はこの攻撃に対して、後方に逃げる物だと思っていたが、逆にジェフリーは前方に突っ込んだ。
(コイツがこう言う無茶をする時は必ず事態が進展する時だ)
コンビを組んで戦っていたこともある杏子はここで勝負は決する物だと確信した。
炎を放つアリスに対して、ジェフリーは手の中で氷鳥の羽を発動させると、体に冷気をまとった状態でアリスに突っ込む。
氷のエネルギーは炎を相殺し、そのままジェフリーは弱点の口内に目がけて突っ込み、体は口内を貫き、ジェフリーの体が飛び出る。
大口を開けたままアリスは後方に倒れ込むが、またイレギュラーな出来事が起きる。
その体はモヤとなって消えてなくなると、結界も消滅した。
見事なジェフリーの手腕に一同は呆けるばかりであったが、同時に一つの確証も持っていた。
「あなた本当にジェフリーなの? でもどうしてここに……」
「ゆっくり説明していく。俺が何故この異界に再び足を運んだのかをな」
ジェフリーの言葉に全員が黙って頷き、マミの先導の元一同は彼女のマンションへと向かう。
その様子を離れたビルの屋上から見ていた二つの影があった。
視力を魔法で強化して一同を見ていた二人は事が全て終わると話し出す。
「見事な戦い方です。キリカはどう思う?」
「私も織莉子と同じ意見さ。今まで話でしか聞いてなかったが」
キリカは織莉子の方を見ると、少し邪悪さを含んだような笑みを浮かべながら話す。
「近付きたい存在だと初めて思ったね」
そして再び魔法使いと魔法少女の物語は始まる。