魔法使いと魔法少女が紡ぐ物語   作:文鳥丸

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少女は大人になる。大人の助けを得て


第十話 進化する少女

 杏子とさやかの戦いを無事に収めた夜。

 ほむらとジェフリーは自宅で夕食を食べていたが、ジェフリーはいつもよりも更に重い空気になっていることに居心地の悪さを覚えた。

 理由は分かっている。さやかの件でほむらを怒らせてしまったことだ。

 だがジェフリーも自分が正しいと判断して行動した以上、ここで謝って終わらせるのは違うと判断して、二人は無言のまま食卓を囲んでいたが、ほむらの方がこの場を崩した。

 

「最初に言っておくわ。さやかのことに関して負い目を感じているなら、余計なお世話よ。あの時は腹も立ったけど、あなたはちゃんとその場を丸く収めてくれたわ。私よりも優秀なやり方でね」

 

 さやかの一件に関してはほむらの方が折れることで決着が付いた。

 ほむらが過去どうやって、その案件に関して決着をつけようとしたかは聞かない方がいいだろうとジェフリーは判断する。

 

「それよりも聞きたいことがあるわ」

「俺とリブロムの関係についてだろ?」

「ええ。あなたは以前、関係性に付いて魔法少女とキュゥべえのような物だと語っていたわね。それが気になってね。場合によっては……」

 

 そう言って厳しい視線をリブロムに送るが、リブロムは全く怯むことなくニヤニヤと笑い続けるだけ。

 これは自分にやましいことがないという自信の表れだろうが、それだったらキュゥべえだって同じこと。

 根本的な価値観の違いで、もしかしたらリブロムもキュゥべえと同じように人間を食い物にしている存在かもしれないという疑惑の気持ちが強まり続けていた。

 心の中にある嫌な感情を払拭するため、ほむらは真実をジェフリーに問う。

 

「簡単なことだ。お前はキュゥべえと契約して魔法少女という力を得たんだろ? 俺もそうだ。リブロムの能力でこの力を得た」

「だからそのリブロムの能力を教えなさいって言っているのよ」

 

 回りくどいジェフリーに苛立ってほむらは突っ込みを入れる。

 話が長くなるので面倒だと思いながらも、ジェフリーはあくび交じりに当時の出来事を語り出す。

 自分たちが居た世界はマーリンという凶悪な魔法使いに支配されていて、不老不死の肉体を保つためマーリンは適当に魔法使いの素体となるセルト人を選び、自分の肉体を維持するため食事をとるかのように生贄に捧げた。

 マーリンを倒すための唯一の鍵が、マーリンの秘密が書かれ、ある魔法使いの体験がそのまま体験できる日記『リブロム』

 ジェフリーは生き延びるためにリブロムを読み進め、その中で力を蓄えていき、最後にはマーリンの秘密を知った。

 

「そして最後はリブロム自身を生贄にして、その魂をこの体に宿して日記と同じ力を得たって訳だよ」

「と言ってもそれは俺じゃないがな」

 

 ケタケタと笑うリブロムに対して、ほむらは冷淡に一言「黙りなさい」とだけ言うと、リブロムは相変わらず、人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべながらだんまりを決める。

 かいつまんだ内容ではあるが納得出来る内容であり、詳しいことを聞いても自分にとってのメリットにはならないだろうと踏んだほむらはこれ以上聞くのを止める。

 

「もういいわ。そっちの話をしても構わないわ」

「分かった……じゃあ今度は俺の番だ。どうすれば俺は元の世界に戻れる?」

「それに関しては俺の方から説明するぜ」

 

 ここで今まで黙っていたリブロムが起き上がって、二人の間に割って入る。

 この件に関してはリブロムに聞くのが正解だとは分かっていたが、疲れとその場の空気の悪さでそれを忘れていたジェフリーはそのことを情けないと思いながらも、リブロムと向かい合う。

 

「まず帰る方法だが簡単だ。行きの時と同じように強力な供物を生贄にすれば向こうの世界への道は開けるよ。お前なら腐るほど持っているだろ?」

 

 リブロムが言う通り、ジェフリーが持っている供物はトップレベルの魔物が産み落とす供物を更に自分なりに改良を加えた物。

 どの供物を使ってもいつでも楽に帰れることが分かると、ジェフリーは拍子抜けしたのかため息を一つついてリブロムをどけると、改めてほむらと向かい合う。

 

「済まなかったな。変なことであたふたしちまってな」

「本当にそうよ。あなたが八つ当たりでさやかのことを言及するような人じゃないことは分かるけど、もう少しあなたにはどっしりと構えてもらいたいわ……」

「悪い……」

「その様子だとまだ話はあるみたいね。でもまずは謝罪の意思を伝える方が先よ。後片付けやってちょうだい」

 

 ここはほむらに従った方が吉だろうと判断したジェフリーは皿を持って、台所へ向かい洗い物をしようとする。

 だが未だに蛇口から水が出ることになれず、時折情けない声を上げるのを見てほむらは頭を抱えてため息をつき、結局二人でやることとなった。

 

「仲睦まじいことで……」

 

 やることがないリブロムは初めて会った不愛想なほむらからは想像も出来ない姿を楽しみ、ニヤニヤと笑いながら二人を見つめていた。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 洗い物を二人で片づけると、改めて二人は向かい合う。

 話を切り出したのはジェフリー。ほむらの戦い方に付いて思うところがあり、それを聞こうとする。

 

「前に戦った舌の魔女と磁石の魔女についてのことだがな。お前戦っている途中でエレメントを変化させただろ?」

「ええ。でも魔法使いならそれは出来る物じゃないの?」

 

 自分に起こったイレギュラーな出来事は全てジェフリーの影響だろうと思っていたほむらはあっけらかんと伝える。

 だがジェフリーは首を横に振ると静かに語り出す。

 

「相手によって供物を選ぶことはするよ。だが途中で供物の属性が変えるなんてことは出来ない」

「大したことじゃないわよ。巴さんや杏子に比べれば、私の応用なんて地味な物よ……」

 

 やれたから出来た程度の感覚でほむらは捉え、覚めた表情を浮かべながら手を振って謙遜をする。

 だがそれはジェフリーに取っては凄いことであり、戦い方が分からないだけであって、ちゃんとした供物を与えれば、それを使いこなせる力はほむらにあるのではと判断したジェフリーは新たに供物を右手から召喚する。

 呼び出したのは『炎の球根(小)』と『炎の布(小)』この組み合わせは、磁石の魔女との戦いで使い方は分かっている。

 ほむらは強力な武器が手に入ったことを喜び、物を受け取ると盾だけ召喚して中にしまう。

 

「早速、模擬戦をやりましょう。使いこなせるようにならないと……」

「焦るな。もう一つある」

 

 そう言ってジェフリーが右手から召喚したのは、真っ赤に燃える心臓だった。

 脈打っているそれを見て、どのように使う物なのか困惑したほむらは恐る恐る物を受け取ると目でジェフリーに訴えかける。

 

「それは『炎魔人の心臓』だ。地面に埋めることでゴーレムを召喚できる」

「ゴーレム?」

「土から作られた人工生命体のことだ。単純な動作しか出来ないが攻撃力は……」

「いやいやゴーレムは知っているわよ」

 

 見当違いなことを言っているジェフリーに対して、呆れながらもほむらは突っ込むと恐る恐る心臓を手に取る。

 躍動が常に手から伝わってくることから高いエネルギーが予測され、逆に言えばこの供物に振り回される可能性も高い、強大な力なのだと認識させられる。

 

「使い方などは全て模擬戦で教える」

 

 それだけ言うとジェフリーは出ていき、ほむらも付いていく。

 その様子を見ていたリブロムはジェフリーがほむらに期待をしていることが分かった。

 魔人召喚の魔法は魔法使いでも上位レベルだが、使いこなすのは難しい。

 これまで一人で戦うことがほとんどで人を育てる経験などなかったであろう彼がそれをやったということは、ほむらをそれだけ信頼し、そして期待しているからだろうと思い、リブロムもまた期待していた。

 この不毛なループからの脱出を。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 以前に使った河川敷で新しい供物の練習をするほむら。

 探り探りだった初めの頃に比べれば、魔法使いの供物の使い方にも慣れ、球根の爆破のタイミングは自分の時間停止魔法と組み合わせれば、これまでの爆弾よりも効率的に、そして連携を考えて戦うことが出来る。

 布の魔法に関しては単体では威力はないが、動きの鈍い魔女や使い魔を相手にするには効率の良い供物。

 これもまた対象を選ぶことが出来る供物なので連携の邪魔にはならない。

 各々単体での使い方を覚えると、今度は連携に挑戦しようと炎の布の上に炎の球根を植える。

 

「す……凄い」

 

 早すぎる植物の成長に思わずほむらは息を飲む。

 磁石の魔女との戦いの時は無我夢中でジェフリーにまで気が回らなかったが、3分もしない内に球根は開花し、巨大なハエトリグサへと変化していた。

 ウネウネと不気味に蠢き、獲物を求めているハエトリグサに対してどうすればいいか分からないほむらだったが、ジェフリーは地面に『泥魔人の内臓』を埋め込むと、灰色のゴーレムを召喚する。

 

「そいつは持ち主の意思に反応する植物だ。攻撃対象を選べば、自動で追尾弾を発射する」

 

 そう言って、ジェフリーは灰色のゴーレムを叩く。

 対象をそれにしろと言う意思が伝わると、ほむらはハエトリグサにゴーレムを攻撃しろと言う意思を伝える。

 

「行きなさい!」

 

 攻撃命令と共に炎の弾丸が放たれると、灰色のゴーレムの肉体は瞬く間に崩壊していき、1分もしない内にその場にゴーレムの存在はなくなり、辺りには泥の山があるだけであった。

 高い攻撃力は磁石の魔女との戦いで実証済みではあるが、ここまでとは思っておらず呆気に取られていたが、ジェフリーに呼び戻されると意識が現実に戻る。

 

「勘違いするな。ゴーレムの耐久力が極端に低いだけだ。攻撃力がある分、防御力は0に等しいからな。攻撃を受ければあっという間に崩壊する」

「使いどころを間違えれば、イタズラに自分の魔力を失う訳ね」

「そう言うことだ。次は魔人召喚をやってみろ」

 

 ジェフリーに促され、ほむらは盾から炎の心臓を取り出すと地面に埋め込む。

 するとすぐに地鳴りが起き、直感的に危険だとほむらはその場から離れると同時に地面は裂け、中から炎で包まれたゴーレムが現れる。

 咆哮を上げながら獲物を求めるゴーレムを見ると、この人工生命体もまた獲物を求めているのだと思い、ほむらはジェフリーに攻撃対象を求める。

 ジェフリーは先程と同じように灰色のゴーレムを呼び出す。

 

「それも同じように意思に反応する」

 

 言われるがままゴーレムに命令を下すと、炎で包まれたゴーレムは対象物である灰色のゴーレムに目がけて這うように進んでいき、手が届く範囲にまでの距離になると腕を振り上げて、そのまま振り下ろす。

 ハンマーパンチを食らった灰色のゴーレムは残骸一つ残らず、全ては蒸発して消えてなくなった。

 使い方を理解しようにもあまりにあっさりとした終わり方に、ほむらはどうしていいか分からない状態になっていたが、ジェフリーはため息を一つついて『魔石のお守り(改)』を発動させて、岩の鎧を体に纏うと指でこちらに引き寄せる動作を行う。

 

「今度の対象物は俺だ」

 

 ジェフリーの覚悟に感謝しながら、ほむらは小さく頷き次の獲物がジェフリーだと命令を下すと、ゴーレムは雄たけびを上げながら炎で包まれた拳を振り下ろす。

 両手を頭の上で交差して完全防御形態を取ると、ジェフリーは炎の拳を受け止める。

 衝撃だけでも相当な物であり、足はドンドン地面へと埋まっていく。

 ガードをしている腕を見ると真っ赤に燃え上がっていて、攻撃力の高さというのがよく分かる。

 だが単調すぎる内容の攻撃にほむらは疑問を感じていた。

 単体での攻撃力は最強かも知れないが、それだけの物を果たしてジェフリーが自分に託すのだろうかと。

 ほむらが自分で考えているのを見ると、ジェフリーは口元を軽く歪めながら話しかける。

 

「ブレス攻撃の命令を放ってみな」

 

 言われるがまま、ほむらはジェフリーが言うようにゴーレムに命令を出す。

 

「ブレス攻撃を放ちなさい」

 

 ゴーレムは命令を受けると口と思われる部分を開き、炎の噴射を放つ。

 瞬く間に炎で包まれるジェフリーを見ると、ほむらは思わずハッとした顔を浮かべた。

 もしもの事故の可能性も否定できない。そう判断したほむらはゴーレムに命令を下す。

 

「消えなさい! 今すぐに!」

 

 命令を受けるとゴーレムの体は地中に埋まって消えてなくなった。

 ほむらは慌てて燃え続ける人影の元へと駆け寄るが、駆け寄った時には人影は前のめりに倒れて、岩の鎧が崩壊していた。

 だが中から多少は体に炎が付着しているが無事なジェフリーが現れると、ほっとした顔を浮かべるがジェフリーは何も言わずに火が灯っている背中をほむらに向かって向ける。

 

「状態異常を軽く起こしている。ちょっと吸い取ってくれ」

「何を言って……」

 

 ジェフリーが何を言っているのか意味が分からなかったほむらだが、すぐに脳内で何をすべきかというのが再生されていく。

 ソウルジェムが付着している左手を突き出して力を込めると、次々とジェフリーに灯っている炎は消えてなくなり、火傷もなくなった。

 回復魔法は使えないことはないが、あまりな得意な部類ではないのでソウルジェムの心配をしたが特に濁りらしい濁りは見られない。

 パニックになっているほむらに構わず、ジェフリーは呼吸を一つ整えると、ほむらと向かい合って話し出す。

 

「やはりな。理由は分からないが、お前にも魔法使いの力って奴が宿り出したんだろうな。自分でも兆候は感じていただろ?」

 

 ジェフリーの問いかけに対してほむらは小さく首を縦に振る。

 そして以前の二体の魔女との戦いに付いての変化について語り出す。

 魔法少女から魔女になる生い立ちが分かったこと、目を閉じれば、その魔女の弱点と現在の体力が分かることを語った。

 

「それは『心眼』と『呪部』だな。俺達はそれで攻撃の配分や目安って奴を決めている」

 

 それは思っていた通りの能力だった。

 ほむらに取って相手の体力が分かるというのと弱点が分かるのは大きな前進だった。

 それが分からなく闇雲に攻撃し続けた結果、爆弾の乱発だったり、時間停止能力を必要以上に使ったりと非効率的な戦い方をしていたのでこれはありがたかった。

 だが性格上、よく分からないというのは納得ができないほむらは自分に魔法使いの力がなぜ宿ったかの仮説を立てる。

 

「恐らくだけど、あなたの存在が私に共鳴したのかもしれないわね」

「俺の魔法使いのエネルギーが、魔法少女であるお前に移ったってことか?」

「そう考えるのが妥当なところよ……」

 

 そう言って髪をかき上げると変身を解いて、その場を後にしようとするほむら。

 ジェフリーはそんなほむらに対して一つの供物を投げつける。

 ほむらは投げられた供物に対して後ろを向いて受け止めると、小さな犬笛のような供物が手の中にあった。

 

「これは?」

「『野犬の喉笛』だ。通常ならば周囲の弱い敵を吹き飛ばす供物だ」

「悪いけどいらないわ」

 

 攻撃対象は全て討伐するのがほむらのやり方なので、こう言った間接的な武器は好ましくない。

 返そうとしたがジェフリーは続けて話を進める。

 

「だがある供物と組み合わせることで、強力な連携が可能となる。それはだな……」

 

 ジェフリーは第二の連携魔法をほむらに伝える。

 話を聞くと早速試そうとしたが、ジェフリーはそれを制する。

 ソウルジェムを指さすと結構穢れが溜まってきていて、これ以上は危険だと警鐘を鳴らしていた。

 

「魔人の召喚は魔力を多大に消費するからな。やり方はさっき教えたとおりだから今度やってみろ」

 

 言われた通り連携のやり方自体はそこまで難しい物ではない、他にも新しい供物があるからまずはそれらを使いこなすことを優先しようと決め、ほむらはリブロムの涙をソウルジェムにかけながら頷く。

 

「明日俺はさやかとの共闘に出る。お前はお前でマミと共闘するんだろう? 今日はもう休んだ方がいい」

 

 既に魔女の結界の位置をジェフリーに教えてもらっているほむらはマミとの連携を高めるため、明日教えてもらった魔女の結界へと向かうことが決まっていた。

 ジェフリーもまた新たな魔女の結界を見つけたので、夕方の約束を守りさやかとの共闘を決めていた。

 その旨は既にマミを通してさやかに伝わっていて、彼女は渋々ながらもそれを承諾した。

 さやかと言うハンデがあっても、ジェフリーが魔女に後れを取るとは思わないので、その辺りは心配していないが、ほむらの心配は別なところにあった。

 

「杏子のことをくれぐれもお願いね。あの二人の接触は現段階では共倒れの可能性が高いのよ。私じゃ出来なかったから……」

 

 その不安げな声色からこれまで幾多も苦い経験をしてきたことが理解したジェフリーは静かに頷く。

 こうして新たな力を得た少女は決意を秘め、少女に想いを託された魔法使いは覚悟を決め、帰路へと付いた。

 

「あのオジさんの方は相手にしなくてはいいわね。実力も高いし下手したら返り討ちの可能性だってあるわ」

『そうね。でも黒髪の魔法少女のソウルジェムは凄く綺麗よね』

「ええ。でも今はまだ手出し無用よ。彼女も結構な実力者だからね」

『そうね。まずは見滝原の魔法少女がどんな命の輝きを持っているのか、それを調べるのが先ね』

「今から楽しみでしょうがないわ。新しいコレクションが増えるのをね」

 

 遠くから見つめる二つの邪悪な魂に気付かず。




それは嵐の前の静けさか……

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