ポケットモンスター・ライフ   作:ヤトラ

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のんびりコツコツ、チマチマと書きながら誤字が無いか確かめました!
見落としがない事を祈りつつ、投稿しました。(←見落としが多いタイプ)

前回のあらすじ:
ヒガナ「竜巻旋風●!」
ウシオ「●ルティメット・●トミック・●スター!」

7/4:誤字修正。報告ありがとうございました。


その44「きのみやさんと連続遭遇」

 シダケタウンの木の実専門店「大きな庭のきのみ屋さん」で起こった大騒動。

 それなりの数のアクア団が裏庭に押し寄せ、店前で大男VS褐色少女の格闘戦が始まってしばらくが経った。

 

「グエェェ、ギブ、ギブ!」

 

「じゃあ、さっさと部下達に撤退するよう命令するんだね」

 

 己の首を締め付けんと挟む細い足にバシバシと大きな手が叩くが、ヒガナはお構いなし。酸欠で力が弱まっているのだろうか。

 そんなウシオのギブアップ宣言を無視するように足に力を籠め、ウシオの頭を両の拳でグリグリするヒガナは意地の悪い笑みを浮かべていた。

 

「そ、そいつぁお断リ……グェっ!?」

 

「ほらほら、てーったい!てーったい!」

 

 日頃ストレスでも溜まっているのだろうか、嬉々としてウシオの首を絞めるヒガナはとても良い顔をしていた。

 隣で『10まんボルト』で麻痺したトドゼルガに圧し掛かっているヌメルゴンも、良い顔をしながらヌメヌメしている。

 

(((え、えげつない女の子……)))

 

―今、シダケタウンの人々の心が1つとなった瞬間であった。

 

「チ、チキショウ!わーったよ、言えばいいんダロ、言えば!」

 

「解ってくれたようだね」

 

 鍛え抜かれた鋼の身体も首絞め攻撃には敵わず、ウシオはついに降参を認める。

 ニコリと無邪気に歯を見せて笑ったヒガナは絞めていた足を緩め、どうぞ、と言わんばかりにウシオに撤退を促す。

 

「や、ヤロウども!撤退「ウシオ様ぁー!」ダ、ど、どうしたテメェら!?」

 

 裏庭に居るであろう部下達にも届くように大きな声で告げようとしたら、その部下全員が泣いて来たでゴザル。

 

「「「助けてくださいー!」」」

 

「フシャァァァッ!」

 

 大勢の部下達の背後では、恐ろしい形相をして追いかける老ザンクースが居るではないか。

 そして部下全員には擦り傷だらけで、しかも海賊チックな服装はビリビリに裂かれていた(女性は無事)。

 ちなみに、そのザングースの背後では、1匹のポチエナがキャンキャン泣きながらドクケイルに追いかけられていた。どうしてこうなった。

 

「ここのザングース滅茶苦茶強いですー!」

 

「ていうかココの庭は色々とメンドウくさいです!」

 

「もう帰りましょうよぉ!」

 

「ていうか俺達帰ります!ウシオ様も早く逃げてくださいね!」

 

 どうやら彼らにウシオを助けるという選択肢は無いらしく、すれ違い様にそう告げてからスタコラサッサと逃げ出していく。

 裏庭から追い出したザングースは止まって「二度と来るな!」と吠え、踵を返して帰っていく。ドクケイルは尚もポチエナを追いかけるが。

 

 そんな部下達の置いてけぼりを食らったウシオは目を点にして硬直し、ヒガナは気まずそうな顔を浮かべてからウシオから飛び降りる。

 綺麗に着地して立ち上がり、クルリと身を翻したヒガナはウシオに言う。

 

「なんか……ごめんなさい」

 

 ビシっと直立してからの斜め45度の、綺麗なお辞儀であった。

 

「チキショォォォ覚えてヤガレェェェ!」

 

 麻痺して倒れたトドゼルガをネットボールに戻し、止めどなく溢れる塩水を太い腕で拭ってからダッシュ。

 ドスドスと足音を立てながら人混みを掻き分けて走っていく大男の後ろ姿は、どこか哀愁が漂っていた。

 

「二度と来るなバカタレー!」

 

 何時の間にか裏庭からやって来たハヤシは臀部を痛そうに摩りながらアクア団に向けて叫ぶ。

 ハヤシの怒りっぷりを見て相当ご立腹みたいだと思ったヒガナだが、そのハヤシがコチラへ顔を向けてビクリとする。

 

「ありがとうヒガナちゃん!君が追い払ってくれたおかげで庭を荒らされずに済んだよ!」

 

 てっきり怒り顔を向けられると思ったら笑顔を向けられたでゴザル。二度目?気にしないで。

 大事な裏庭を守りきれた事が嬉しいようで、ハヤシはヒガナの両手を取ってブンブンと縦に振って喜ぶ。

 傍から見ていた人混みもヒガナの健闘を称えて拍手喝采。これにはヒガナも照れくさそうだった。

 

 

 

「……はい、報告は以上です。連絡を終わります」

 

 その拍手の嵐の中、1人だけ隠れるようにして通信機で通話する者が居る事を知らず。

 

 

 

―――

 

 アイダダ、ポチエナに噛まれたお尻がまだ痛い……。

 

 いや、せっかくの畑を無茶苦茶に荒らされなかっただけでも良しとしよう!

 大勢のポケモンが一斉に暴れたものだから庭は少し荒れちゃったけど、これぐらいは直せる範疇だ。

 これもザンさんとクケちゃん(あの後、なんかスッキリした様子で帰宅した)、そしてヒガナちゃんのおかげだよ。

 

 けど大活躍(多分)してくれたヒガナちゃんにあげられる物と言ったら……。

 

「いいの?こんなに木の実もらっちゃって」

 

「いいのいいの。遠慮なく持っていきなさい」

 

―袋いっぱいに詰め込んだ木の実ぐらいかな。

 

 アクア団が引き払って、街の皆が解散し、店内を掃除してからしばらく経った頃。

 

 夕焼けに照らされたヒガナちゃんが、オボンやモモンといった生でも食べられる木の実をタップリ詰め込んだ袋を背負う。

 袋に飛びかかろうとするシガナちゃんの頭を撫でて、ヒガナちゃんは困ったように笑う。

 

「いくらアクア団の大男を抑えたからって、お詫びのバイトまで免除してくれるなんて……なんか悪いなぁ」

 

 やっぱり忍び込んで盗もうとした事に罪悪感を持っていたみたい。それを償おうという姿勢は良い事だよ。

 だけどしたっぱ軍団だけでも苦戦したのに、あの大男まで乱入していたら裏庭は無事では済まなかっただろう。もしもの事を考えるとゾっとする。

 だからこそお礼がしたい。明日の売り物にする予定だった新鮮な木の実ぐらいしか渡せる物が無いし、追い払ってくれた時点で罪を償ってくれたようなものだし。

 

「いやいや、僕の大事な庭とポケモン達が助かったんだ。足りないぐらいだよ」

 

「あ、じゃあ木の実パンをいくつか頂戴。乾パンがいいなぁ」

 

「君って遠慮がないね」

 

 神経が太いなぁ、この子。将来、我を通し過ぎてデッカいトラブルを起こしそうだ。

 木の実を練り込んで乾燥させたパンを幾つか詰めた袋をホクホク顔で受け取り、シガナちゃんは一層嬉しそうに飛び跳ねる。

 

「じゃあ、私は行くね。食べ物ありがとう!」

 

 そう言って、沢山の荷物+シガナちゃんを抱えているはずなのに、軽快な足取りで走っていくヒガナちゃん。

 急いでいる旅だとは聞いていたけど、足の速い子だなぁ。ていうか力持ちなんだね。頭にクケちゃんを乗せている僕が言うのも難だけど。

 

「気を付けていくんだよ~」

 

 もう声が届かないぐらいに遠くへ行っちゃったけど、おじさん心で見送る。

 ローちゃん達裏庭の番人らも手を振ってお見送り。ザンさんはいつもの場所で寝ちゃいました。

 

 さてと、見送った後は、足跡だらけの裏庭を直して……。

 

「あ、居た居た!完全に出遅れちゃったわね~」

 

 ……ん?カメラを持った人とマイクを持ったお姉さんがやってきた。

 

「あなた、この店の店主さんよね?私達テレビ局の者なんだけど、アクア団に襲われたって聞いて飛んでやって来たの!よかったらインタビューさせてもらっていいかな?」

 

「はぁ……」

 

 え?これってもしかして終わるまで帰しませんよ的な流れ?

 マイクを握るお姉さんの目はキラキラと輝いており、断ると言う選択肢が浮かばなくなる。

 この様子からして夜まで掛かりそうだ……夕飯までに終わってくれる事を祈ろう。

 

「じゃあまずは……」

 

 あ、コチラの意見は言わせてくれませんか、そうですか。

 せめてポケモン達を裏庭に送っておこっと。しばらくかかりそうだから、好きにしていてねー。

 

 

 だけどクケちゃん、テメーはダメだ。頭の上に乗っからないでよ、もう。

 

 

 

―――

 

 次の日の午前中。昨日のインタビュアーの質問攻めに疲れて寝坊しちゃった。

 二度寝してスッキリしたので、まず足跡だらけの裏庭を整備しよう。サンちゃんをボールから出し……。

 

「……」

 

 何時の間にか、裏庭に無表情の女性1人と、その部下らしい2人の男女がやってきていました。

 リーダー格らしい女の子はビシっとしたスーツ姿を着込んでいるけど、どことなく気怠そうな感じの無表情で台無し。OLさんかな?

 ゴーストみたいにパッと出て来た(僕が気付かなかっただけかも)ので少し驚いたが、どうにか表情に出さずに質問してみる。

 

「あの、失礼ですがどちら様で?」

 

「……ホムラの代理」

 

「ホムラ?……もしかして、ミナモ支店のホムラさんの事?」

 

「……そう」

 

 動くのは視線ぐらいで顔の筋肉がちっとも動いておりませんよこの子。なんか怖い。

 けどホムラさんの知り合いなら大丈夫かな。後ろの2人組も良く見たら、この間ホムラさんが連れて来た部下さんだった。

 なんかこの間みたくポケモン達が警戒しているみたいだけど……きっと能面少女が怖いからだな、うん。

 

「ところで、どのようなご用件で?」

 

「……アクア団にアタックされたと聞いて、見に行くよう言われた」

 

「耳が早いですねぇ」

 

「……今朝のニュースで見た」

 

 え?昨日インタビューしたばかりなのに、もう放送されていたの?

 そういえばお姉さんことマリさんが、テレビ見てみてねって言っていたけど……うちの情報媒介はラジオだけでした。残念!

 けど今朝ニュースで見たって言っても、幾らなんでも対応が早すぎるような気が……?

 

「カガリ様、次のスケジュールへ移行する時間です」

 

「……ん。解った」

 

 後ろの部下さんが一言。どうやらお忙しいようだ。

 頷いた能面少女(カガリさん、というらしい)は懐からメモとペンを出し、何かを書き始める。

 

「……預けた木の実の栽培は順調?」

 

「え?……ああ、ヤタピとチイラの実ですか?流石に気が早いですよ。発芽ですらしていないんですから」

 

「……そう」

 

 視線はメモに集中しつつ受け答えする中、カガリさんはビリっとメモ用紙をちぎって僕に手渡す。

 無言の圧力に少しビビりつつ、ちぎったメモ用紙を受け取る。そこにはホムラさんとカガリさんの個人番号が書いてある。

 メモ用紙を見ていたら急に風が吹いてきた。何事かと思ったら、何時の間にかカガリさん達がオオスバメを繰り出していた。

 

「……何かあったら連絡して。……じゃ」

 

 相変わらずの無表情でカガリさんがそう告げると、羽ばたくオオスバメの足に掴まってフライハイ。

 僕に向けてお辞儀した部下2人も遅れてオオスバメの足に掴まり、同じくフライハイ。羽ばたきの風が気持ちいいです。

 

 

 

―嵐みたいな人達だったなぁ……。

 

 

 

『……次のニュースです。いよいよ、ホウエンチャンピオン杯が開催されます。チャンピオン・ダイゴへの挑戦を得るべく、大勢のトレーナーが各地のジムに挑むことでしょう』

 

 

 




次回、物語的には割と飛ばします。具体的に言えばヤタピとチイラが育つぐらい。

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