―第三者視点
シダケタウンに、突如としてアクア団が現れた。
当初は大男を筆頭に複数もやってきて驚いたが、どういうわけか狙いは「大きな庭のきのみ屋さん」のみ。
そこそこ有名になったとはいえ、なんの変哲もない木の実店を狙う理由は解らない。しかし住民の誰もが近づけずにいた。
助けないのではない。アクア団が邪魔しているわけでもない。だがハヤシと馴染の深いミチルを含め、人々は店の前で呆然と見ているしかなかった。
その視線の先にあるのは、腕を振り回すパワフルなマリルリと、綿毛でガードしつつ舞うように避けるチルタリスとの激戦……ではなかった。
「フゥゥゥ……ハァァァッ!」
2mを超える大男―ウシオの拳が振り下ろされるが、褐色肌の少女―ヒガナは小刻みなステップに合わせて紙一重で避ける。
ヒガナは地面を容易く貫いた剛腕に手を絡ませたかと思えば、木登りのようにスルスルとウシオの肩まで登り上がっていく。
その速度たるや早業の域に達してはいるが、思考より先に行動する事の多いウシオは即座に対応し、地面から引っこ抜いた腕を振り回す。
「想像力が足りないよ!」
細身に似合わぬ強い握力と腕力を用いてしがみついたヒガナを振り払うことはできなかった。
それでもウシオはバクオングのように吠えながら、今度はヒガナを直接ひっぺがそうと反対側の腕を伸ばす。
しかし先にヒガナが動き出し、しがみついたままの腕を交差させて体を捻り、ウシオの後頭部を美脚で蹴りつける!
「ゴッ!?」
手応えならぬ足応えあり。ヒガナは動きを止めたウシオを見て口端を吊り上げる。
そのままウシオはフラリと倒れ込もうとして……しかと大地に足を乗せて踏み止まり、ニヤリと白い歯を見せて笑う。
「ウソッ!?」
「ウィィィ……ハァァァッ!」
驚愕するヒガナ。吠えるウシオ。その剛腕は腕力だけでしがみついていたヒガナを簡単に引っぺがし、遠くへ放り投げた。
遠くで見守っていた集団の方へ飛んできたので何人かが慌てて受け止めようとするが、彼女は空中で身を縮めて回転し、ザングースのように四足で着地。
ペルシアンのような身軽な着地を見たウシオは襲うことなく、ヒュウっと口笛を慣らす。
「ホッホウ!細ぇクセにやるじゃねぇカ!ケンカ好きなオレっちにはウレシイぜ!」
「そりゃどうも」
立ち上がるも前屈姿勢を取り、今にでも襲い掛かりそうなステップを刻むヒガナ。
彼女もまた軽口を叩くが、別段痛くなさそうに後頭部を抑えるウシオを見て、彼との戦闘力の差は絶望的だと悟る。
例えるなら、金髪でマッチョな「俺は悪魔だ」と言いそうな大男と対峙しているような心境だ。
さらにもう1つマズイ状況がある。
ヒガナはチラリとウシオから視線を逸らし、マリルリ相手に苦戦を強いられている己のチルタリスを見た。
『コットンガード』で綿毛を増毛させて防御力を強化したにも関わらず、マリルリは圧倒的なパワーで攻め立てている。
「ハッハァ!ガードは良いが、『はらだいこ』でパワーアップしたオレっちのマリルリにゃ敵わないゼ!やっちまえ!」
ウシオがそう言ったのを合図に、マリルリはチルタリスに向けて腹から飛びかかり、ボカスカと『じゃれつく』。
身体を覆う綿で衝撃を和らげる暇もなく、マリルリの剛腕でボカスカと殴られたチルタリスはそのまま地に伏せてしまう。
ヒガナは舌打ちしてチルタリスをボールに戻し、慰めるようにしてボールを撫でてから懐に戻し、次のボールを投擲する。
ボールからマリルリの前に出現したのは、カロス地方で発見されたドラゴンポケモン・ヌメルゴンだった。
ウシオは意外そうに首を傾げた後、何を思ったかニィっと笑い出す。
「……ハッハァン?おめぇ、もしかしてドラゴン使いカ?こいつぁ相性が良いゼ!」
「こっちは最悪だけどね」
ウシオの指摘を認めざるを得ない。ヒガナの手持ちは非戦闘員のシガナを除けばドラゴンポケモンしかいないからだ。
苦手とはいえ、育成に手抜きを感じさせない程の強さをこのマリルリは有していた。流石は幹部級というべきか。
さらに『はらだいこ』で減った体力をオボンの実で回復するという有名なコンボまで持っており、チルタリスの打点が低かったこともあり尚も健在。
とはいえ、ヒガナもチルタリスも馬鹿ではない。暗算は苦手だが。
「さぁて、とっちめてやるカ……ってヌオッ!?」
ヌメルゴンを前に不敵な笑みを浮かべるウシオだが、マリルリの変化にようやく気付いた。
―マリルリの体に真っ白な綿が纏わり付いて、身動きが取れずにいたのだ。
「な、なんだコリャ?フワフワがくっ付いてやがル!」
「ずっと避けながら『フェザーダンス』をしていたんだよ」
―『わたほうし』ではないのであしからず。
「ヌメルゴン、『ヘドロばくだん』!」
オタオタしているマリルリを指さしてヒガナが叫ぶと、ヌメルゴンの口からヘドロの塊がベッと吐きだされる。
それはマリルリを直撃し、体中に付いた綿ごとヘドロが着弾して爆発する。ちなみにお店にも集団にも向けていないのでご安心を。
ヘドロまみれになって気絶したマリルリをネットボールに戻すウシオ。
ドラゴンポケモンの弱点の1つであるフェアリータイプを崩せたのは大きい。
そう考えていたヒガナの希望を打ち砕くように、ウシオは凶悪な笑みを浮かべ、次のネットボールを放った。
「トドゼルガ!『ふぶき』ダ!」
(トドゼルガっ!?)
ネットボールより出現したトドゼルガは牙を生やした口から『ふぶき』を放ち、ヌメルゴンとヒガナに冷風が襲い掛かる。
特殊防御力が高かったので何とか踏ん張っているが、ブルブルと震えているので連続して受け止めるのは危険だろう。
「言ったロ?相性が良いってヨ」
「……そうみたいだね」
ニヤリと歯を見せて笑うウシオに対し、ヒガナは強がってみせた。
氷とフェアリー。両者はドラゴンタイプにとっての天敵であり、ヒガナを窮地に追い込むには十分だった。
「さぁ!第2ラウンドの始まりダ!」
「調子に乗ると痛い目見るよ!」
それでもウシオとヒガナは、再びぶつかり合う!
―拳と蹴りで!
(いやだからポケモンバトルに集中しろよ!)
心の中で突っ込む人々だったが、ストリートファイトのような熱い格闘戦にも夢中になってしまう彼らも彼らであった。
―――
一方、裏庭はどうなっているかといえば。
「ああもうゴーさんグラエナ相手に怯えているんじゃ、あだだだ噛まないで痛い痛い!」
「いいぞグラエナ五匹衆!そのままバクオングを抑え込め!」
「ポチエナも、そのままトレーナーを押さえておくんだよ!」
5匹のグラエナに吠えられてビビるゴーさんと、ポチエナ1匹に足を噛まれるハヤシ。ローちゃんはポチエナを追い払おうと必死だ。
したっぱ2人はバクオングと畑の主を押さえつける係として命令を下している。
「くっそ、この見えない壁かってぇ!とっととネンドールを倒しちまえ!」
「ベトベトン!『どくどく』だよぉ!」
「……ダメだ、モモンの実で回復しちまう!」
大半のアクア団したっぱは畑を荒そうと動いているが、『リフレクター』と『ひかりのかべ』の二重層で手が出せない。
ならばとベトベトンやベトベターで取り囲んで毒で攻めるが、ネンドールは自分の処だけ壁を解除し、モモンの実を食べている。
「押せ押せ!数はコッチが勝って、あいだっ!?」
「ええいもう邪魔なシザリガーとサンドパンだな!」
「サメハダー持っている奴はシザリガーにぶつけてやれ!」
「誰も進化してねぇよ!それより『こうそく』スピン係!しっかり罠を払っとけよ!」
水辺ではシザリガーが、畑にはサンドパンが出現して、それぞれが得意な戦法でアクア団を挟み撃ちしていく。
押しているとはいえ多勢に無勢。半数が傷薬で回復、半数がポケモン達に指示を下すと役割分担で迎え撃つ。
ちなみに『ステルスロック』や『まきびし』はヒトデマンの『こうそくスピン』で払っているので安心だ。
「(▽▲▽# )(うちの旦那の畑に何すんのよ!)」
―ビビビビビ!
「(`■´# )(うるさいて寝れんわい!)」
―ザシュザシュッ!
「ひぃぃぃなんだこのドクケイルとザングース、めちゃくちゃTUEEEE!」
「だ、誰か助け、ぎゃーっ!」
ドクケイルの『サイケこうせん』とザングースの『きりさく』の連打がアクア団に襲い掛かる!
とはいえ畑に被害が出ては困るので(住処的に)、確固撃破に留まっているが。それでも被害は徐々に拡大しつつある。
この2匹のおかげで大人数のアクア団が徐々に減りつつある。感謝、感謝。
ちなみにエアームドことアーさんは、背中にナエトル、足元にリーフィアとカットロトムを隠して守ろうとしている。アーさんマジおとん。
大きな庭とはいえ、アクア団がざっと10人以上いるので、ポケモンも人数に比例して増えるので大乱闘。
畑の小さなポケモン達は逃げて、ハヤシに関連するポケモン達は自主的に戦ってくれるのが救いか。
さらにネンドールは任意で壁を張ったり解除できる為、畑のポケモン達は木の実を食べて自主的に回復までしてくれる。ハヤシ涙目。
「ウ、ウシオ様ぁ~!早く来て、ギャバーッ!」
ドクケイル の サイケこうせん!こうか は ばつぐんだ!
ウシオとヒガナを格闘キャラに仕立てたい作者の妄想でした(笑)
したっぱの数は不明です。1人見かけたら30人いると思ってください(どこぞのボロボロ団の如く)
畑と店はどうなるのか。次回を待て!(待たせ過ぎ?ごめんなさい)