ポケットモンスター・ライフ   作:ヤトラ

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今回ちょっと荒削りです。

ポケットモンスターの主人公ズは自分の手で切り開いて行っていますが。
ジムリーダーによって救われ道を見出した子が居たって良いと思うんだ。

3/2:後書きにてトレーナー情報追加


ポケライフ「コウキの過去と現在」

 コウキは容赦が無い。思ったことはズバっと言うし、やろうとしたら強引にやる。

 

 幼少の頃からそうで、子供相手でもズバっと言うし、間違いだと思ったら強引に正そうとする。

 イジメられっ子を助ける為にイジメっ子とケンカしたり、川に落ちたニャルマーを助けようと飛び込んで逆に溺れかけたりした。

 時にはイジメっ子が課した無理難題の為に、近所のルクシオの鈴を横取りしようとして痛い目に見ることもあった。

 

 そんな一生懸命なコウキは、いつしか同い年の子らから遠ざけられた。大人は真っ直ぐな子だと思われても、子供から見たらコウキは異端であった。

 そこまでやらなくてもと言われるのが大抵で、幾度と無理難題を吹っ掛けてきたイジメっ子は「頭がおかしい奴」と言って恐れられた。

 例外はジュンとヒカリだけ。ジュンはコウキの真っ直ぐな所を気に入り、ヒカリは声が出なくなった自分をいつも通りに接するコウキの存在がありがたかった。

 

 それでもコウキは寂しかった。だから自分を偽ることにした。

 

 本音を隠し、本やテレビで得た『常識的な子供』に沿って行動し、多数決で物事を決める。

 子供が泣いていても放っておく子が大勢居れば放っておくし、皆が無理だと言えば無理な事なのだと諦める。

 本当の自分を出せるのはジュンとヒカリ。その2人は隠すことないと言ってくれるが、子供達と遊べるならとコウキは止めなかった。

 

 自分を偽るようになってから子供達と普通に(・・・)遊ぶようになった。代わりに無気力の日が来るようになった。

 癒されるのは好物のハチミツを味わう時と、家族と親友らと接する時と、いつしか友達となったミツハニー・ビードルの2匹と遊ぶ時。

 コウキはそれで良いと思った。遠ざけられる恐怖を知ってしまったが故に、遠ざけられない為の虚偽を続けるのだ。

 

 

 

 やがて、コウキはジュンとヒカリと共に、ナナカマド博士の頼みで旅に出るようになった。

 コウキは「大人の頼み事は受けるもの」という常識(・・)に乗っ取って行動したに過ぎなかったが、博士と親友2人は1種の期待を抱いていた事を知らない。

 ミツハニー、ビートル、博士から貰ったナエトルを連れて旅に出たコウキは様々な事を学び、経験してきた。

 それでもなお、コウキは自分を偽り続けた。彼が学んだ一般常識が邪魔をし、時にはギンガ団の暴行を見てみぬ振りですらして。

 

 

 

 コウキは、ずっと世間に偽り続けるかと思っていた―――あの出会いがあるまでは。

 

 

 

 トバリシティに到着したコウキはトバリジムに向かっていると、道端で倒れている少女……スモモと出くわした。

 空腹で倒れていた彼女に持っていた蜂蜜の瓶を差し出すと、スモモは蜂蜜を口一杯に頬張り、瞬時にエネルギーに転じて復活。

 

―なお、この時コウキは初めて「エロっぽい」と思ったらしい。

 

 コウキは何故空腹で倒れていたのかと尋ねた。礼儀正しいスモモは、それに余すことなく応えた。

 うちが貧乏であること。父がスロットでお金を使いまくること。1日の食事が木の実1個であること。自分がジムリーダーであること。

 

 ジムリーダーであるなら何故体調管理に気を使わないのかとコウキが言えば、貧乏だからとスモモは応える。

 貧乏なのは父が原因だから父を追い出すなりすれば良いとコウキが言えば、あんな甲斐性なしでも自分の父親だからとスモモは応える。

 ジムリーダーは副業も許されるはずだから副業で稼げば良いのではとコウキが言えば、スモモは未熟だからジムリーダーしか考えられないと応える。

 体術も体力も良いしスポーツジムの講師に向いていると言えば、自分はジムリーダーとして真剣にやりたいからと応える。

 

 コウキは何度も何度も尋ねた。スモモはそれに真剣に応えた。

 コウキは判らなくなった。何故苦しいのに自分を変えようとしないのか。何故苦しいのに他を変えようとしないのか。

 いつしかコウキは出会ったばかりのスモモ相手に、夕日が沈むまで同じような質問を続けていた。

 

 夕日が沈んだ頃になって、初めてスモモからコウキに言った。

 

 

「どうして私の為に、真剣に心配してくれるんですか?」

 

 

 コウキは応えられなかった。何故自分は初対面の子をこんなに心配しているのか。

 

 何故自分は―――昔のように、ズバズバと物を言ってしまったのか。

 

 応えられず戸惑うコウキを前に、スモモは微笑みながら言葉を続けた。

 

「私は自分のことしか考えられない未熟者です。だから真剣に目の前を見て、真剣に挑んで、真剣にやり遂げる。それしか考えられないんです」

 

「なのにあなたは他人の為に真剣に考え、真剣に悩んで、そして真剣に伝えてくれた。自分のためじゃなくて、私のために言ってくれているんですよね?」

 

「それはとても嬉しくて、とても素敵なことですよ。私が出来ないだけだから、あなたは何も悪くないです」

 

「私の為に真剣になってくれて―――ありがとうございます」

 

 頭を下げて礼をして、顔を上げて微笑む彼女の言葉。

 それがとても心に響き―――心を縛っていた鎖が砕ける音が聞こえた気がした。

 

 

 そうか―――僕はずっと「ありがとう」って言って欲しくて頑張っただけだったんだ。

 

 

 それをやっと理解できたコウキは、いつの間にかボロボロと涙を零していて、スモモが必死に泣き止まそうとしているのに気付いた。

 

 

 

―――

 

 翌日の朝は、まるで生まれ変わったような気持ちで起きる事が出来た。

 清清しさを感じながらポケモンセンターを出て、己の手持ちポケモン達を出す。

 

 ドダイトス・ビークイン・スピアー・ヘラクロス・カラクナシ・フワライド。

 

 これまで共にしてきた仲間達に改めて己の本音を伝え、より一層仲が深まった所で彼らに告げる。

 

「今日はトバリジムのスモモさんに挑むよ。スモモさんは凄い人だから、今回は負けるかもしれない。だからこそいつも以上に真剣に、そして容赦なく挑もう」

 

 そう言ってトバリジムに挑戦しに行き―――餓死寸前の死屍累々を目の当たりにするのだった。

 

 ジムリーダーのスモモに聞けば、全員が貧乏で、昨日貰ったハチミツ以降何も食べていないのだという。

 もしかしてと思い手作りのハチミツ菓子を持ってきて正解だった。ジムトレーナー共々奪い合うようにして食べてくれた。

 

 

 この時、コウキのもう1つの起点が

 

「このお菓子凄く美味しいですよ!これなら素敵なお菓子職人になれますね!」

 

 ―と菓子を口一杯に頬張って幸せそうなスモモが言った言葉だった。

 

 

 

―――

 

 いつの間にかコウキはトバリジムを後にし、お菓子を作る人になろうと決意していた。

 脳裏に浮かぶのはお菓子を食べるスモモの幸せそうな笑顔。ありがとうと言って浮かべたスモモの嬉しそうな笑顔。

 あの笑顔の為になろう。そう口を漏らしたらポケモン達も賛同してくれた。彼らもコウキの作るハチミツ菓子が大好物だからだ。

 

 最初は食べ物を作る人なら何でも良いかと思ったが、そうではないとも思った。

 何故なら自分が持ってきたハチミツのお菓子は、自分が一番好きなハチミツで作った物だ。だからこそ真剣に作り、得意なお菓子となった。

 それをスモモは喜んで食べてくれた。自分が真剣に作った、自分が真剣に好きなお菓子を、真剣に食べてくれる。

 

 だからこそ、自分はお菓子職人になろう。旅を続けながら。

 

 ジュンとヒカリと再会したら「元のコウキに戻った!」と喜んでくれた。

 ヨスガジムでメリッサと対面して「ジムの仕掛けに算数とか馬鹿にしているんですか?」と言って泣かしてしまった。

 ギンガ団の悪行に容赦なく突っ込み「てめぇには血も涙もねぇのか!」と怒られた。けど容赦はしなかった。

 旅の途中で『意思』を司るシンオウの伝説のポケモン・アグノムと出会った。

 キッサキジムのスズナに恋愛と気合はどう繋がるのかと質問して「気になる子がいるのかな?」と言われ顔が赤くなった。

 ナギサジムのデンジにナギサシティの人達を代弁するように説教したら、何故か気に入られた。

 これらの合間にパティシエとしての仕事先を探したりスモモに会いに行ったりした。

 

 そして図鑑とバッジを出来る限り集めたコウキは、ソノオタウンの洋菓子店「ミエル・ドゥセ」で働き始めた。

 

 カロス地方出身のオーナー・ルガーはソノオタウンのハチミツを使った上品で甘いお菓子を作るパティシエで、コウキもメロメロになったほどだ。

 コウキはそんな彼の下で一生懸命働いた。作り、売り、洗い、接客する。調理以外は慣れぬ事も多いが、持ち前の真剣さで頑張ってきた。

 もちろんお菓子作りの修行も忘れない。解らないと思ったら容赦なくルガーに尋ね、失敗と成功を繰り返して良いお菓子を作っていく。

 

 一部のパティシエ候補生は彼を「何でもかんでも聞かなきゃ出来ない甘ったれ」と蔑むが、ルガーは彼らにこう言った。

 

「ムッシュコウキは、客という多人数の不確定よりも、誰かの為という確定の志がありまス。故ニ明確に、そして真剣にタルトやサブレを作りマス。

 そもそも私は真剣かつ真摯に問いかけ話を聞く彼を悪いと思ったことは一度たりともありませン」

 

 ルガーの言葉は、意地悪なパティシエ候補生を黙らせ、コウキがルガーをより尊敬するようになるのには充分だった。

 ルガーもスモモと同様、コウキの真剣さを理解してくれたのだ。理解者がまた増えたことで、コウキの心は一段とやる気と向上心にあふれ出した。

 

 

 こうして彼は、ソノオタウンの見習いパティシエとして生活するようになった。

 

 

 それとは別に―――。

 

 

 

―――

 

 ある日のトバリジム。

 

 いつものように腹を空かして特訓していたスモモらの前に、2匹のハチポケモンを連れたコウキが現れた。

 

「お邪魔しまーす」

 

―甘い菓子の匂いを漂わせて。

 

 一列になって正拳突きをしていた一同は匂いにやられ、ドタバタとコウキに駆けつけた。

 

「こ、こんにちはコウキ君!きょ、今日もアレ、かな?」

 

 ゴクリと唾を飲み、ジムトレーナー共々期待の眼差しでコウキ―最近になって「さん」でなく「君」と呼ぶようになった―を見つめる。

 そんな期待の眼差しに応えるように、最近見せるようになった笑顔を浮かべながらコウキは言う。

 

「うん。新作を作ったから皆で味見(・・)して欲しいんだ」

 

 初めて持って来た時に「差し入れ」と言ったら恐縮したので、建前上は「新作の味見」として。

 どう見ても味見にしては大きすぎるハチミツのタルトを見せた後、スモモはその箱を受け取る。

 横ではビークインがポフィンの詰め合わせが入った箱を、スモモのルカリオが受け取っている。このポフィンもコウキの自信作だ。

 

「はい!しっかり味見(・・)させてもらいますね!ご馳走になります!」

 

「「「オス!」」」

 

 斜め45度の素晴らしく礼儀正しい、それでいて息のあった礼であった。

 それを合図にスモモらはタルトに群がり、実に幸せそうに食べ始めた。ルカリオやチャーレムといった格闘タイプのポケモン達もポフィンを美味しそうに食べている。

 一部の格闘家なんか「この時をどれだけ待ち望んだことか」と漢泣きするほどだ。

 

 そんな彼女ら……特に嬉し涙を零して食べるスモモの姿を見て微笑むコウキ。

 出会った時からスモモに恋しているのだと彼が知るのは、大分先の話。

 

 

 

 ハチミツのような甘い恋心を胸に、コウキはパティシエとしての修行を続ける。

 

 

 

 




●コウキ
シンオウ地方出身のポケモントレーナー♂。冷静な性格。抜け目が無い。
冷静でマイペースだが、物事には一直線に向き合う真っ直ぐな奴。容赦が無いが悪気も無い。
今はある理由でパティシエの修行をしており、お菓子作りが大の得意。ハチミツが好物。
『ダメだし』『どくづき』といった追加ダメージのある技を好む。攻撃型

コウキは『意思』を司るアグノムをモチーフにしています。

幼少の頃に怖がられた自分を認めてくれる。それがどれだけ嬉しいか。
自分の手ではなく他者の、それも著名人とは違うジムリーダーのおかげで変えられたというお話です。
強固な意志を持つコウキを、礼儀正しく真剣に挑むスモモが認め、救う。そんなエピソードでした。

後、シンオウのジムリーダーでナタネに続きスモモが好きだからです(笑)
なので当作品……というか作者内ではコウキ×スモモが熱いのです(ぇ)

最後に一言。

「あま~~~~い!(某ギャグ)」

ではでは。

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