ティアナさん迷走録:地球編   作:ポギャン

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 長らくお待たせして申し訳ありません。

今回からティアナの口調を今までの『わたし』及び『私』から『あたし』へ変更致します。なお、六話までの分は時間がある時に口調を修正していきます。

今回の終わり辺りから、ティアナの横に何時もいる存在のあのボーイッシュの美少女が登場しますのでお楽しみ下さいね。




七話:想定外の再会その一

 

 あの後、すぐに子供たちがいる場所へ購入してきたかなりの量の下着がはいっている紙鞄を持ってやって来たカリーヌは、娘ティアナが一人きりで長イスに座って泣いており、息子の才人は何時まで待っても全く来る気配が無かったので、仕方なくティアナが泣き止むのを待って、自分がこの場所にいない間起きた出来事を詳しく訊いた後にショボくれていた娘を連れて迷惑をかけたランジェリーショップへ行って、ティアナと一緒に謝るとすぐに才人を待たず愛車を置いてある一時駐車場へ向かい、才人を置いて家へ帰還していく。

 

夕方ごろになって、ようやく家に帰ってきた才人がカリーヌの激怒を喰らったことは当然だとしても、晩ご飯の時間を除いてもたっぷり4時間もの説教に、トドメとして何時もの三倍の鍛練と言う名の猛烈な母親とのマンツーマンの戦闘訓練をうけたのも、これ全て才人の自業自得なのであった。

 

ティアナは才人の恋人疑惑の当該人物について、存在を知った翌日から早速あらゆる手段を使って『高凪 春奈』に関する事柄を調べ始めていた。

 

例えば遠見の鏡を使ったり、または、まだ精度は低いもののミッドチルダー式の魔法を駆使して何とかして生成させた『サーチャー』という、ミッドチルダー式の魔導士がよく使用する魔力を元にして練り上げた主に『エリアサーチ』の魔法などを使用する時に一緒に使うような偵察用魔道具を憎き恋敵の関係者周辺に解き放って調べたり等をしていた。

 

「なになに、高凪 春奈。生年月日AD:199X年4月5日生まれ。14歳。誕生星座おひつじ座ですってぇ! この女が私や才にいと同じ星座なの、物凄くムカツク! ふぅ、ふぅ~落ち着くのよ。あたし」

 

(何処までも、あたしをイラつかせる女ね………もう、こうなったら。徹底的に高凪 春奈を才にいに解らないように追いつめて上手く始末するしかないわ……それには用意周到な策を練るひつようが有るわね……その為にはこの女に関するあらゆる情報を集めないといけないし……)

 

ティアナは最大の宿敵『高凪 春奈』の現時点でいろいろ集まった情報をmyパソコンを使って整理しながら、マルチタスクで高凪 春奈を兄にばれないよう、どういうやり方を用いてこの世から抹殺しようかといろいろなパターンを脳内シュミレーションしていた。

春休み最後のとある曜日のあさの平賀家。

 

休日は何時も用事がなければ、昼頃まで寝ているはずの才人が珍しく朝早くから起きてキッチン横にある簡易カウンターテーブルに座り母親が用意した朝食を食べていると、このところ深夜までとある目的のためにパソコンでいろいろ調べものをしていた関係で寝不足気味で、まだ頭がぼ~となっていたティアナが起きだして習慣になっている牛乳を飲もうとキッチンへ来た妹が食事中の兄を見かけ、驚きのあまり思わず声をかけていた。

 

「才にいが休みの日に朝から起きて朝食を摂ってるなんて……今日は大雨が降るわねぇ」

 

そう、ティアナがすこし皮肉をこめて呟くと

 

「別に俺が朝早く起きてめし食ってても良いだろう……そんなに驚く事もないだろ。ティア」

 

才人は驚く妹に対して、これくらい何でもないだろうと言い放っていた。

 

「ふ~ん………何だか怪しい、普段休みの日は昼まで寝ている才にいがこんな朝早く起きて食事を食べてるなんておかしいわ……誰かに逢いに何処かへ出掛けるつもりなんでしょう! 」

 

ティアナに図星を言い当てられた才人は飲んでいた牛乳がむせてテーブルに吐き出すほど、ひどく動揺していた。

 

「そ、そんな予定はいっさい無いからな……」

 

妹の問い質すような言葉に才人はすこし焦りの色をみせながらも否定するのだったが………。

 

「それはウソね。才にい嘘つく時、絶対顔に出るんだからもうバレバレなのよ。どうせ、あの女と何処かで待ち合わせしてるんでしょう」

 

そう、ティアナに指摘された才人は思わずある言葉を口にしていた。

 

「べ、別に委員長と待ち合わせなんか全くしてないぜ」

 

見事に妹の誘導に引っ掛かった才人はその問題の言葉を口から吐き出した直後、しまったと思える表情になって狼狽していた。

 

「ティアは『高凪 春奈』と一言も喋ってないけど……やっぱり才にいって、こういうところがウッカリしてるというか、抜けてるのよね……で、何処で待ち合わせしてるの? 」

 

ティアナは自分で追い込んでおきながら、才人のうっかりに少し呆れながらも高凪 春奈との待ち合わせ場所を問い質すのであった。

 

「べ、別に何処だっていいだろう。ティアには関係ないから、教えるつもりは無いよ」

 

才人の素っ気ない態度にティアナは口を膨らませ怒った表情になる。

 

「才にいの意地悪、ケチ! 」

 

「あぁ、俺は意地悪でケチだからティアの要望に応じられないよ」

 

ティアナの追求に対し才人は上手くはぐらかして肝心の『高凪 春奈』との待ち合わせ場所をしゃべる事はなかった。

 

「才人。そろそろ、家を出ないと間に合わなくなるわよ」

 

母カリーヌの指摘をうけた才人は慌てるようにして、残りの朝食を平らげコーヒを飲みほすと身だしなみを整え

 

「いってきま~す」

 

と、言うとキッチンを出て待ち合わせ場所へ向かっていった。

 

「ティア、何処へ行くのかしら? 」

 

ティアナが才人を追いかけるようにキッチンを出ていこうとすると、その背中へむけてカリーヌが制止しようとする言葉をかけてくる。

 

「え~と、ティアも出かけようかなぁ~と思って………」

 

声をかけられた口調から目的を母親にほぼ見抜かれていると感じたティアナはすこし焦りながらも、振り向きもせず誤魔化そうと言葉を返すのであったが……その様な娘の考えが手にとるように解っていたカリーヌにそんな浅知恵が到底通じるはずもなく。

 

「パジャマ姿で才人のあとを追い掛けようとするみっともない事は私が許可しませんからね。ティア」

 

カリーヌが全てお見通しだと告げた言葉にティアナの全身の動きが急にギクシャクし出していた。

 

「え、え~と、何の事かなぁ……ママの言ってることティア解んない。部屋に帰って着替えてくるね」

 

ティアナは才人を追うことを諦め仕方ないといった表情で自室に戻った。

 

「ほんとにあの子はしょうがない娘ね……兄の事以外なら、勉強や魔法もできて結構優秀なのだけど……才人が絡んじゃうと、途端にダメになるのはどうしてかしら? ふぅ~」

 

二階の自室へもどる愛娘ティアナの背中を見つめて、カリーヌは小声でティアナに関する事柄を一人言で呟いて最後はため息もつくほど、すこし悩んだ素振りをみせていた。

 

自室へもどるとティアナは外へ面している窓を開けると杖を振って『フライ』の呪文唱え、次の瞬間には大空へ向かって飛び立っていた。

 

(ママは詰が甘いのよ……こうやって二階からフライの魔法を使えば門まで簡単に行けちゃうんだから)

 

空へ浮かび上がり門まで滑空しながら、そう心の中で思っていたティアナだったが………カリーヌは娘がそう考えているほど甘い存在ではなかった。

 

ティアナが家の門から外へ出て才人を追いかけていった直後、娘が開けた窓を始め家中の戸締まりをしっかりして玄関の扉に鍵をかけ門を出ていく姿のカリーヌがいた。

 

「ティアはどんなに言い聞かせても素直になる子じゃないと解ってはいましたが……まさかご近所の目がある中、朝から大胆に二階からフライで飛んで出ていくなんて……ああいう無茶なところ、誰に似たのかしら? でも、まだまだ詰は甘いようね」

 

ティアナは家を出てすぐに早足で歩きながらミッドチルダー式魔法を発動させて、『サーチャー』で兄才人がいる現地点を確認中であった。

 

「さすがに才にいねぇ、もう駅に着いて電車に乗ってるようね……あれだけ毎日ママに扱きうけてたんだから、これくらい出来て当たり前だけど。それよりこの電車に乗ってるということは……新宿へ行くつもりなの? 女狐のクセに生意気ね! 態々新宿で才にいと待ち合わせするなんて、あの女! 殺しても飽き足りないわ! 」

 

何故ここまでティアナが怒っているかというと、『高凪 春奈』が才人と待ち合わせ場所に選んだ新宿には、前々からティアナがお目当てのアクセサリーショップが在り、才人に一緒に行こうと願っていた場所だったという経緯が有ったから、恋敵に先を越されたと思い怒っていたのが事実なのであった。

 

あれからティアナは携帯電話のGPS機能を使用して、才人の所在地を掴むと『遠見の鏡』の魔法を使ってより詳しい情報を見ながら駅に着くと新宿行きの電車に乗り込んでいく。

ティアナが乗った車輌の人が多くいて周りから見えにくい場所から、割とシンプルな真っ白のジャケットを羽織。中は清楚な白のブラウスに下のスカートは上着とお揃いの白を穿いており、ピンクブロンドの髪をアップに纏めその上からおしゃれな形のレースを使用する白色の帽子を被っていた気品を感じさせる妙齢の貴婦人がとある一点を先ほどから、さりげない感じで見つめていた。

電車が目的駅に到着してティアナがホームに降りて階段で駅のコンコースへ来ると、女子トイレをみつけ中へはいると簡易ストレージ・デバイスを起動させ才人の周辺に解き放っている『サーチャー』とリンクして、才人の居場所を確認すると即行でその目的地へ向かっていく。

 

ティアナは才人がいると思われる場所へむかうと、其処は十字路交差点であった。

 

信号待ちをしている才人と『高凪 春奈』の二人をみつけると仲良く談笑している最中だった。

 

「あの女狐! 何が参考書を買いに来ただけなのよ! これじゃあ誰がみてもデートしてる雰囲気じゃないの!! 絶対に邪魔してやる! 」

 

仲よさそうにしている兄才人と『高凪 春奈』の二人をみて、ティアナは怒り爆発寸前の状態だったので、道を歩いている通行人は美少女が禍々しい暗黒オーラを身体中から醸しだしていたからなのか解らないが、その場所を避けて通っている状況である。

 

「うん? 」

 

信号が青になったので交差点を渡っていた最中の才人は急に首筋の辺りから“ゾクッ”とした寒気を感じたから手で首筋をさすりながら、顔をすこし傾げる素振りをみせて何か怪訝な様子になっていく。

 

「どうしたの? 平賀君」

 

横で歩いていた才人の様子がすこしおかしかったからなのか、『高凪 春奈』は心配した顔で見つめ声をかける。

 

「いや、なんかさぁ、首筋に寒気感じるんだよな……風邪でもひいたかなぁ? 」

 

そう言いつつ、才人は頻りに首筋のうしろをさすっていた。

 

「大丈夫? 平賀君。春っていっても、まだ寒いから気をつけなきゃダメだよう」

小首を傾げ心配そうな顔で才人を見つめる『高凪 春奈』である。

 

「いやぁ~委員長が俺のこと心配してくれるなんて………この前と全く状況が違って嬉しいなぁ~あの時委員長に誤解されて、批難うけてさぁ……正直言うとこの世の終りがきたと思ったぐらいだから、誤解が解けた今はすごく幸せを感じるんだよなぁ~」

 

「……………もう、何言ってるのよ……平賀君ったら……そんな事より早く駅へ向かいましょう」

 

才人の思わぬ物言いに『高凪 春奈』はすこし顔を赤らめながらも、恥ずかしさを打ち消すために駅へ早く行こうと促すのであった。

 

『サーチャー』を通して、二人の天然イチャつきぶりを視ていたティアナは怒りのあまり全身をワナワナと震わせるとしばらく無言になっていたが……再起動するとショルダーバッグから、簡易ストレージ・デバイスを取り出すとミッド式魔法を起動して魔力弾を形成し『シュート・バレット』を『高凪 春奈』が通ると99・9%の確率で計算してはじき出した未来位置の通り道頭上に在ったとある小さな看板へ向けて正確に撃ち放った。

 

(これであの女狐は最低でも、大ケガ確定ね………上手くいけばもう二度とわたしと才にいの邪魔する事はできないわ………ククク……アハハハハ……)

 

『シュート・バレット』を撃ち放ちながらティアナはマルチタスク(並行処理)で危なく恐ろしい事を考えており、期待値いっぱいでその表情はキラキラと満面の笑みで光輝いていた。

 

ティアナが期待していた『高凪 春奈』への看板落下攻撃は看板が落下した瞬間。不可視の何かがぶつかったと思ったら、看板は数秒後には遥か彼方上空へ移動しており、最早地上から確認することは出来なかった。

 

「な、なに、一体何が起こったのよ? ……………これじゃあ『高凪 春奈』が怪我しないじゃないのよ!? これは……どういうことなのよ! 」

 

本当なら、今ごろ憎き恋敵である『高凪 春奈』は才人の目の前で落下した看板が直撃して大きなケガしていたハズなのに、それが不可視の何かのせいで間一髪危機を逃れ、相変わらず愛しい兄才人の横で談笑しながら信号が歩行者の順番に切り替わって、交差点を無事な姿で横断している場面を眺めていたティアナが最初は驚きの顔だったのに、最後は忌々しいと言ったような表情になって頻りに何故自分の企みが失敗したのか、悔しい表情をしていた。

 

 

(今のはどう考えてもおかしいわ……あたし以外にあんな事できるの、ママしかいないと思えるけど……魔力の気配感じなかったから違うのかしれないねぇ………でも、ママは魔力をコントロールする事は上手いから、私に悟られずにあれくらい出来て当然と思うんだけどなぁ……あっ、才にいと泥棒女狐が行っちゃう)

 

先ほどの出来事に関してティアナがいろいろな想定を頭のなかで繰り広げていると肝心のターゲットである最愛の兄才人に寄り添っているとティアナ自身にそう思われていた『高凪 春奈』が交差点を渡りきって駅へ向かうのを見たからなのか、ティアナは慌てるように思考を中断してふたりを追いかけて信号を渡っていく。

 

「……………本当にあの子は難儀な恋をしてしまったわね……あの器量のよさならもっと無難な相手などいくらでもいるでしょうに、兄への報われない愛なんて……私にどうしろと言うのかしら……ふぅ~でも、恋するなら素敵な相手なのよね……才人は。其処だけは認めてあげるわ……」

 

先程からのティアナ一連の行為に対して、愚痴や溜め息を口から吐き出して憂鬱な気分で黄昏ている妙齢の貴婦人を思わせる雰囲気の御婦人はみごとなピンクブロンドの髪をアップで纏めその上からレースを使用した白のふんわりした豪奢できれいな帽子を軽く頭に戴いていたのは。この女性を見知っている全員が口を揃えて“平賀 カリーヌ”と呼ぶ人物その人であった。

 

あの後、すぐに兄才人と憎き恋敵の『高凪 春奈』のふたりを追いかけ追い付き尾行を再開したティアナはミッド式魔法と系統魔法の2つを交互に上手く駆使して、例えば………ウィンドの魔法で春奈のスカートを捲り衆人環視の中下着を晒して恥をかかせようとしたり……土魔法でホンの少しアスファルトの地面を急に隆起さして躓かせケガを負わせようとしたり、はたまた大勢の通行人の隙間を狙ってシュート・バレットを才人に気付かれず撃ち放ったり……更にはエア・カッターを上手く微細にコントロールして、春奈の着ている衣服をすべて切り刻み全裸にして多数の人(主に男性たちに泥棒女狐であるとティアナ自身がそう考えている春奈のあられもない姿を晒させて、それを才人に見せつけようとしていた)の前で恥を晒させようとしたりと実行したのであったが、悉く失敗していた。

 

さっきから自分と委員長の『高凪 春奈』の周りでいろいろと騒ぎが起こっていたようなので、ようやくにぶちんの才人も何かおかしいと気づき、不意に立ち止まると周囲をキョロキョロ見渡す行為をする。

 

「どうしたの。平賀くん? 」

 

すこし挙動不審な行動をする才人に対し、指摘するように春奈は意見を述べる。

 

「あ、ごめんな委員長………何かさっきから理由は上手く説明できないおかしな感じなんだけど……誰かが俺たちを視てるような気がしてさぁ? 何か嫌な気がするんだよう」

 

理由は解らないけれど、自分達が監視されてる気がして落ち着かないと言った感じで委員長こと『高凪 春奈』にそう語る才人であった。

 

「そんな事は無いと思うわ……平賀くん。考えすぎなんじゃない……もっと気を楽にしたほうが良いわ。そうする方が何時もの平賀くんらしいしね」

 

「そうか……俺の気のせいかなぁ~………やっぱり委員長はこんな時、頼りになるよなぁ~」

 

『高凪 春奈』に諭される才人だったが、本人の表情をみているとすごくそのキャッチボールみたいな会話を楽しんでいる様である。

 

「くぅ……あの女狐! もう奥さん気取りで才にいを取り込むなんて……早くあの汚物を消去しないと、いけないわね………それにしても、さっきから何で失敗ばかりするのかなぁ……そのせいであの女が調子のって才にいにチョッカイかけて我慢できないほどムカツクのよ! ………やっぱり誰かがわたしの邪魔してると思ったほうが良いわね………そうなると考えられるのは、あの手際の良さといい、私に全然気配感じさせないスキルを思うとママしかいないわ……」

 

ティアナは才人と春奈のカップル? を眼で追跡しながらも、マルチタスクを使って先程までの『高凪 春奈』に対する数々の世間一般の度をこえた嫌がらせを悉く(ことごとく)妨害した人物はどう見ても魔法使用した事といい、その洗練された手際良さを考えるとある特定の者しか思い浮かばなかった。

 

とうとう新宿駅に到着した才人と『高凪 春奈』がとある電鉄会社の駅の改札を通ってホームへ向かうのを確認したティアナは最後の手段に出ることに決めたのでしたが、その前に妨害者の意識を逸らすためにとある行動を起こそうとしていた。

ティアナが妨害者対策のためにショルダーバッグから取り出した物は『アンカーガン』モドキの地球製の部品で組立た簡易『ストレージ・デバイス』であった。

 

そのデバイスを左手に持つと駅のホームへ向かいあまり目立たない壁際の場所へいくと小さな声で高位幻術魔法の『フェイク・シルエット』を発動させると、あら不思議な事にもう一人の平賀 ティアナがニッコリとした表情でそこに佇んでいた。

 

(これで暫くの間、妨害者……たぶん……ママだと思うけど……誤魔化すことができたハズよね……じゃあ安心してホームの端にいる泥棒女狐を退治しに行くことにしましょうか……あぁ~無理して高位幻術魔法使用したからまたデバイスが故障したわ……いえ、はっきり言えば潰れたわね……簡易ストレージ・デバイスと言っても製作に時間がかかるのよね……こんな時、クロス・ミラージュが有ったらすごく楽なんだけど……無い物ねだりを言ってもしょうがないから邪魔が入らないうちにぱぱっと高凪 春奈を片付けにいこうと)

 

そう心の中でティアナがいろんな考え事しながら、人混みに紛れて必中を願いターゲットに近づいて行く。

 

ティアナはホームの人混みに紛れて、もはや宿敵ともいえる『高凪 春奈』の背後から母カリーヌに鍛えられている兄才人に気配を悟られないように細心の注意をしてようやく、後僅か50㎝のところまで近づくことに成功するとスカートのポケットに忍ばせていたシャープペンシルの杖を慎重にかつ素早く取り出すと、『高凪 春奈』の丁度心臓の位置に当たる背中のとある一点へ杖をむけて呪文を小さな声で唱え始めた(いま撃ち放とうとするこの魔法は従来のある一定の大きさの空気の塊を目標物にぶつけるだけの『エア・ハンマー』を改良して程よく高密度に圧縮して例えば人体に使用するとその命中したヵ所の外側を傷つけることなく内部の一点に衝撃をあたえ破壊する。まぁ、気功の一種とだいたい同じような作用をもたらす恐ろしい暗殺用の一撃必殺魔法である)。

 

その物騒極まりない危険な魔法『エア・ハンマースペシャル』を正に『高凪 春奈』の背中越しに心臓へ撃ち放とうとした瞬間、ティアナの背中の死角方向から白魚のようなキレイでしなやかな白のレース生地を使用した手袋を着用している手首が今にも魔法を発動させる間際のティアナの杖をそっと静に取り上げていた。

 

 

ティアナからしてみると感覚的にはかなり長いような気がしたその一連の動きは、実際の時間にすると僅か1秒くらいであった。

 

「あっ」と思わず小さな呟きを漏らすとティアナは自分の杖を取り上げた腕が伸びてきた方向へ身体ごと反転して確認すると其処には満面の笑みを浮かべて微笑んでいた母平賀 カリーヌが静に一人佇んでいた。

 

一見すると上品な貴婦人が微笑んでいる様に見えるが、ティアナ本人からするとそんな生易しい雰囲気ではなく暗黒の深淵も裸足で逃げ出す独特の恐ろしいオーラが滲み出ていて、ハッキリ言うと今すぐこの場所から全力疾走で逃げ出したい気分であったが、そんな事をするものならあっという間もなくこの世から存在を消される未来が頭におもい浮かぶのが解っているので、観念すると「ハァ~」と溜め息を1つ、つくとカリーヌへむけて一言「ごめんなさいママ」と力なく囁くと頭を垂れたティアナだった。

 

「家へ帰るわよ。ティア」

 

と、そう一言だけ娘に告げるとカリーヌはティアナの左腕を掴むとホームから立ち去って行った。

 

一連の騒ぎに対して、好きな女の子とデートみたいな感じになって有頂天の才人は何も気づくこともなく、ホームに入ってきた電車に委員長と一緒に乗り込み幸せ気分で目的地へ向かっていく。

 

一方、『高凪 春奈』暗殺を母親カリーヌに阻止されたティアナは母に腕を掴まれて、仕方なく唯々諾々となって駅の改札口を出るとカリーヌと一緒にタクシーに乗り込むと一路我が家へ帰宅するのであった。

 

タクシーに乗ってる間中母子ふたりはどちらも無言を貫き、車を降りて家へはいるとカリーヌが

 

「お話が有ります。ティア……リビングへ来なさい」

 

と娘へ告げて、二人はリビングへと向かう。

 

カリーヌがソファーへ腰を下ろすとまだ突っ立ったままのティアナに「アナタもそこに座りなさい」と娘に自分の正面のソファーへ座ることを指示する母であった。

 

「………私が何を話しても今のティアが納得するとは到底思わないけど……言わなくて後悔するより、言って後悔する方がまだ良いと思うからいうけど……ティア……才人とアナタは半分だけとはいえ、同じ血が繋がっている兄妹(きょうだい)なのよ」

 

真剣な眼差しで娘の瞳を見つめながらズバリ確信的な言葉を投げかけたカリーヌ。

 

母の確信にみちた言葉に対し暫くの間、無言を貫くティアナだったが、30分くらい経った時に漸く口を開きだしていた。

 

「……………今更そんな事、ママに言われなくても充分解ってるわ……でもね、才にいの事がどうしようもないほど大好きなの………好きで好きで、死ぬほど大好きなのよ! 血が繋がってる兄と、頭じゃ理解してるけど……心の中じゃ狂おしいほど、好きで好きで堪らないほど、好きで好きでどうしようも無いほど大好きなのよ……才にいの事がぁ! 」

 

普段の態度で母親だけには薄々バレていたとは思ってはいたけど、ティアナは今まで誰にも言わなかった兄才人への狂おしいほどの心情を母カリーヌへ激流の如く、自身がいま思っている兄への本心を矢継ぎ早に吐き出すように語っていく。

 

娘ティアナの異兄才人への狂喜とも思えるくらいの愛情への想いを黙って静に聴き終えるとカリーヌはおもむろに自分の考えを娘に告げだしていくのであった。

 

「……ティアの才人への想い。最初は思春期特有の妹が身近な近親の兄への憧れからきていると考えていたけど………ティアのその真剣な眼差しをみていると確かに本気な事だと窺えるわ……でもね、ティア……アナタの想いが本気だからこそ、その想いを成就させる訳にはいかないの……いえ、ティアの母としてその所業だけは絶対に認める事は出来ないわ! ………とはいえ私が無理に言い聞かせても唯々諾々とあなたが従うとは思っていないわ………だから、最低これだけは言うけど…… 先程の様に嫉妬したからといって、才人が好きになる相手の娘に大ケガさせたり、まして命を奪うほどの魔法を使用することはこのママが赦さないわ……理由は別に手塩にかけて13年も育ててきた才人を何処の誰とも知れない小娘にくれてあげるほど私も出来た母親じゃ無いから、ティアが才人の好きな女の子に嫉妬していろいろ嫌がらせする事はしょうがないと思っているわ……むしろもっとやりなさいとも思うくらいよ……だからこそ命に関わることは止めなさい……ティアが人の命を奪った事を知ったらパパの海人さんも哀しむでしょうし……そんな事になったら才人が一番苦しむわ……自分が原因で愛しい妹が自身が好きな女の子の命を奪った事を知れば真っ直ぐなくらい馬鹿正直で熱血漢の才人が苦しんで、苦しみ抜いて心が壊れてしまいそうに成りかねないから……それだけは自重して頂戴ティア……その事を約束してくれるなら後はティアが納得するまで好きにしなさい」

 

そう、半分ほどこの微妙に厄介な問題を諦めたような感じで(嫉妬に狂って恋敵をケガさしたり命を奪わなければ後はOk)仕方なく許可したカリーヌの言葉に対して、ティアナはと言うと

 

「………ほんと、本当に才にいの事ティアが愛しても良いの? ママ………」

 

と、まだ半信半疑なティアナが聞き返すとカリーヌは娘の瞳を見つめながらコクりと顔を縦に頷かせた。

 

「やったぁ! これで堂々と才にいにアプローチ出来るわ! 早速今夜から才にいの部屋に襲撃しちゃうんだから」

 

半ば諦め半分でティアナの才人への想いを許可したカリーヌの言葉を聴いたティアナは喜色満面の表情でとんでもないことを宣っていた。

 

その言葉を聴いたカリーヌは早速釘をさす一言を呟いた。

 

「淫らな事を許可した覚えはありませんよ。ティア」

 

「え~それじゃあ今までとあんまり変わらないじゃないのよ! ママのウソつき! 」

 

話が全然違うと母親に抗議するティアナだったが………。

 

「ティアの純粋に才人を慕う愛情を許可した覚えは有っても、淫ら行為を赦した覚えは無いわ。ティア」

 

淡々とした表情で理由述べたカリーヌは娘の抗議をにべもなく撥ね退ける。

 

「もう、こうなったら意地でも才にいの部屋に忍び込むわ! 」

 

ティアナの自身への宣戦布告ともとれる宣言に対して、カリーヌが大人しく引き下がるハズもなく、とある辛辣な言葉を娘に投げつける。

 

「私に対して、良い度胸をしていますね……全力で阻止するから挑んできなさい。ティア」

 

娘の堂々の夜這い宣言に対しても余裕綽々の態度でカリーヌはしゃらくさいとばかりに返り討ちしてやると言い放っていた。

 

 

 

ティアナの『高凪 春奈』暗殺未遂の出来事から少し時を経た平賀 ティアナの女学院中等部への入学式が桜が咲き誇る曜日の今日執り行われていた。

 

何時もなら家族全員で入学式へ来る平賀家の面々であったが、父親の海人は仕事上のシフトの関係でどうしても休みが取れず残念無念であったが来られず。

 

更に才人も妹より最近は言い感じになってきた委員長こと『高凪 春奈』からの誘いを承けてネズミー印の遊園地へウキウキ気分で出掛けこれまた来られなかった。

 

だからシックな紺色の女性用スーツを着用したカリーヌだけが来るいつもと違った寂しい入学式であった。

 

ティアナが退屈な入学式を終えて、簡単な自己紹介や諸々の用事を済ませるまで校門のすぐ外で待とうとしていた母カリーヌを何とか理由を設けて先に家へ帰って貰うと。母親とのやり取りで疲れた身体を引きずるようにして自分のクラスの場所へ気だるさを感じながらも向かって歩いていると、校舎に入ってとある角を曲がり何気なく前方を見てみると其処には予想もしなかった人物が自分のすこし前を歩きながら何が珍しいのか解らないが、興味津々な表情で彼方此方を観ていた12歳くらいの紫かかった青いショートヘアーの元気溌剌で活発そうな整った顔立ちの将来性抜群のスタイル(特に楽しみなのが胸部に装着されているたわわな蕾の双丘)をこの女学院中等部の白のシンプルなデザインのブラウスに緋色のネクタイを包み込む彼女の髪に合う水色のブレザーと同色の割と短いプリーツ・スカートを自然な感じで着こなしている美少女はティアナがとても良く見知っている少女であった……但しそれは前世のミッドチルダーでの事であったが。

 

彼女を見た瞬間、ティアナは自身の身体全体にかなり強い電流が駆け巡るくらいの衝撃を感じていた。

 

(……………………………………………………………………………うそ…………どうして………ナゼ…………此処に彼女がいるの………………………)

 

あまりの衝撃的な出来事にティアナの心はいま色々な考えが嵐のように吹き荒れている最中であった。

 

時間にして1分ほどフリーズしていたところ、その後ようやく再起動したティアナは思わず前世で何度呼んだか知れない言葉を極自然に口から囁いていた「スバル」と。それが現世でのティアナにとって、生涯に渡る親友との関わりあう最初の第一声だった。

 

「うん? 」

 

と後ろの方から自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきたから、スバルが振り向くとそこに佇んでいたのはとても驚愕した表情でコチラを凝視する様に見ていたのは茜色の長い髪を黒いリボンでツインテールにしている将来的に楽しみなスタイルを誇る美少女だった。

 

でも、第97管理外世界へ来てまだ一月足らずのスバルには全く逢った覚えがない少女だったけども、躊躇なくその当該人物の美少女に声をかけて訊ねるという積極果敢な行動に出るのであった。

 

「あなた。誰かなぁ……わたしと逢ったこと有るの? 」

 

そう、スバルがティアナに訊ねると声も前世と変わらない……いや、全く同じ懐かしいあの柔らかな声を聴いたティアナは普段学校ではクールを装っていた彼女にしてはテンションが上がりまくり迂闊にもこの場合絶対に使ってはいけない念話でスバルへ語りかけるといったミスを犯してしまった。

 

<やっぱり、あんたスバルなの? >

 

<今わたしに念話で話し掛けてきたの、ひょっとして目の前に居るあなたなの? ………あれ、でもオカシイナァ……確か此処の第97管理外世界に魔法文明は無かったハズだけど……もしかして密航者なのかな? >

 

スバルからの念話を通した指摘にようやくティアナは自分が致命的な失敗をした事に気づき、顔色が急激に青ざめていき冷や汗が出た状態に陥ってしまう。

 

<先に謝るよ。わたしの父さんとギン姉。時空管理局の職員やってる関係上。見過ごすこと出来ないから、密航者の容疑があるあなたを今から拘束するので大人しくして欲しいんだけど、解ったかなぁ……>

 

そう念話でティアナに告げるとスバルは「『setup』」と呟くと白色の光が輝いたと思った瞬間には縁に青色を配し残りはすべて白を基調にしたバリア・ジャケットを展開し、額に白のハチマキリボンを巻きつけ右腕にはいまは亡き母『クイント』の形見のリボルバー・ナックル(右)を更に両足にローラーブーツを装着した凛々しいスバルがティアナの目前に姿を現していた。

 

それを見た瞬間、ティアナは一目散にこの場から逃げ去りながらもマルチタスクで念話をスバルに飛ばして思い切りよく怒鳴り散らす。

 

 

<あほスバル! あんた何考えてんのよ! こんな一般人が大勢いる校舎の中でバリア・ジャケット展開して、お姉さんのギンガさんやお父さんのゲンヤさんに迷惑かかるからいますぐ止めなさいよ! >

 

<えっ? なんであなたがギン姉や父さんの名前知ってるの? ねえ、なんで、どうしてなの? >

 

逃げたティアナを全速力で追いかけながら、密航容疑者の疑いが濃厚な相手に念話で疑問を問い掛ける(因みにバリア・ジャケットを展開していても、ローラーブーツを使用するまでもないと判断したスバルは自身の有り余る体力だけでティアナを追跡中)。

 

(あたしのバカバカ、バカ……あんなこと言ったらますますスバルがあたしを怪しんで追いかけて来るの解ってるハズなのに……)

 

逃走中に考え事をしてテンパっていらん事をスバルに喋ったのを反省するティアナであるが、そこへ追いかけてくるスバルから念話が届いた。

 

<ねぇ、何であなたがわたしや家族のことをいろいろ知ってるの? ズルいよあなたの事も教えてよ>

 

<あんたバカなの! 誰が自分を追いかけてくる相手に名前を教えるのよ! もっと深く考えて行動しなさいよね。このあほスバル! あほスバル! >

 

必死で逃走中のティアナはスバルからの能天気な念話に思わず。あほスバルと念話で連呼する。

 

<あ~またあほスバルといったあぁぁぁぁ。自分だけずるい、ずるいよ。あなたの名前も、教えて、教えて、教えて、教えて、教えて、教えて、教えて、教えて、教えて、教えて、教えて、教えて、教えて、教えて、教えて、教えて、教えて、教えて、教えて、教えて、教えて、教えて、教えて、教えてよ! >

 

20回以上に渡るスバルの教えて攻撃の念話に、さすがのティアナも嫌気がさしてとうとう自分の名前を念話ではなく自身の大きな声で

 

「ティアナ……平賀 ティアナよ……親しい人はティアと呼ぶわよ……スバルの好きに呼んだらいいわ」

 

表面上は素っ気ない態度でスバルに自身の名を好きに呼べば良いと言いながらも本心じゃあティアと親しみをこめて自分の名前を親友に呼んでほしい。素直になれない、ツンデレティアナだった。

 

「ティア! 」

 

とお腹の底から力いっぱい出し切った笑顔でスバルはティアナのことを親しみをこめて叫ぶように愛称でそう呼ぶと、逃げていたティアナは急に足を止めて後ろを振り向くとそこには

 

「あぁぁぁ~どいて、『ティア』ぶつかるよ!? 」

 

そう言うが早いか、急に車……いや違ったこの場合ローラーブーツ全開中のスバルは急には止まれないとばかりにティアナを巻き込みながら廊下の一番端にある非常口の厚い扉をぶち抜いて外に転がり出て大きな樹にぶつかりようやく止まった二人であった。

 

因みにティアナは咄嗟に杖で系統魔法を使用して魔力量を最大限まで引き上げて身体強化してケガすることなくこのアクシデントを上手く切り抜けていた。スバルは元々とある事情で生まれながら頑丈だったのでモチロン無事な姿をみせていた。

 

「あんたって相変わらず後先考えないで突っ走るわね……まぁ、そこがスバルの良いところなんだけどねぇ……」

 

褒めているのか貶しているのか、どちらとも解らないティアナの言葉にスバルは「あは……アハハハ」と自嘲ぎみの渇いた笑い方をする。

 

「ねぇ、ティアは何故そこまでわたしの事を詳しいくらいに知ってるのかなぁ……もう、わたしたち友達になったから……教えてくれるよね……ティア」

 

まるで主人に叱られた哀れみタップリの仔犬みたいか表情で真っ直ぐに見つめてくるスバルの瞳をみて、ティアナは観念する様に「ハァ~」とため息をついた直後

 

「もう、スバルにそんな哀しい表情されたら隠しておけないわね………良いわスバルにはあたしの全てを教えてあげる……その代わり絶対あたしの言った事を信じなさいよ! 」

 

ティアナが自分が何故スバルやその家族たちのことを良く知っているのかをこれから話すと語ると

 

「うん! わたしティアの言うことなら絶対信じるからね」

 

朗らかな口調で言い切るスバルに対してティアナは

 

「やっぱり何も変わらないわね。スバルのそういうところ……」

 

そう言うとティアナは微笑み浮かべながら、スバルに自身の秘密を打ち明けていくのであった。

 

 

続く。

 





 これからは、今回登場したスバルはモチロン。白い冥王に空駆ける痴女様に腹黒タヌキやエターナルロリとニート侍、それからうっかりさんに犬の方達も登場させる予定ですので、よろしくお願いいたしますね。

それでは次回も無事でお逢いしましょう。


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