ー亡き者が幻想の世界へー 居候の物語   作:TSUTAYA

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前編は妖夢、後編は幽々子さん回にしたつもり。


2話 桜の季節 前編 後編

幻想郷の冥界にお世話になって2ヶ月経つ。

 

どうやら死体は見つかって無い様だ、現世で葬式でもあれば成仏出来るのだろう。

亡霊になってから変わった事があった。

全く腹が減らない、当たり前なのかのかもしれないが、何故か幽々子さんは飯を食べる。それもかなりの量だ。

身体が汚れない、勿論服は動けば汚れる。

 

死ねないんだ。

これが1番辛かったかもしれない。

相変わらず悪霊が寄って来た、そして亡霊の身体を乗っ取られる。その時妖夢に襲い掛かったらしい、気が付いたら腕が切られていた。

痛みは生きていた頃と変わらない、切られた腕に怨霊が集まり再生しまた乗っ取られる。

何度か意識の覚醒とソレを繰り返して行く中で力の使い方を覚えた。

意識すると心で会話が出来る、今では奴らの簡単なコントロールもする事を覚えた。

 

幽々子さんに言われたこの力の能力は 悪霊を支配する程度の能力。

これからも成長していくらしい。

 

さて、回想は終わり。

 

 

1人で居ると考える時間だけが増える。

季節は春になったみたいだ、どうやら冥界にも四季があるみたい。

桜がちらほら咲いている。

 

(これだけの桜が満開になるとどれだけ綺麗な景色になる事か、楽しみだな。 生きている時に見たかったな、親父とお袋と。 実家はどうしているんだろうか…あれも桜だよな、立派な木だ。 なんで花が付いていないんだ?)

 

「雄介さん、こんな所に居たんですね。 今日はどうされたのですか?」

 

「うーん、桜が咲いてきたから散歩にね。一本だけ花が付いていない木を見付けたから立ち止まってしまったんだ。」

 

「そうですか、この木に花が咲くことはもうありませんよ。 さぁ、もう夕暮れです。また悪霊に取り憑かれたのかと思って心配しましたよ、帰りましょう。今日はご飯食べますか?」

 

(妖夢が話し掛けてくれる様になったのも最近だな。まぁ俺があんな事をしたんだし、彼女も腕を切ったのが後ろめたいのかな・・心配してくれたんだ、今日は食べてみるか。)

 

「大丈夫、奴らの声を無視する事も覚えたし、妖夢のおかげでなんとか力の使い方も分かったから、あんな事は2度としない。今日は頂くよ、幽々子さんの食べっぷりを見ていると食欲無くなるけど…妖夢のご飯美味しそうだし。」

 

「そうですか、なら急いで下さい。 幽々子様がもう食べ始めていたので。」

 

妖夢の後に帰ったら飯は幽々子さんが全部食べていた。

 

「雄介さんお帰りなさい。あら、何かいい事でもあったの妖夢?」

 

「いえ、それより幽々子様、雄介さんがご飯食べたいそうなので今から作ってきますね。」

 

妖夢が台所へ向かって行った。

 

「すいません、寝室だけでなくご飯までお世話になります。」

 

幽々子さんは微笑んで「そういうことね。 いいのよ、あの子あの事があってからずっと元気が無かったのよ。 久々に妖夢から話してくれたから嬉しいわ。 ご飯なんて幾らでも食べていいのよ?」

 

「ありがとうございます。 そんなに気にしていたんですか。 彼女のおかげで力のコントロールを覚えました、襲ったのも自分です。 悪い事など無いのに。」

 

「そうね、でも妖夢は優しい子なの。 人を実際に斬ってしまった。それは彼女からしたら少なからずショックは受けるわよ。」

 

(アレからずっと気にして側に居てくれたもんな・・会話は殆んど無かったけど、彼女の優しさのおかげで発狂せずに乗り越えれた。 思い出すとあの時斬った腕を見ながら泣いていた気がする。 何か出来ることはないかな。)

 

「幽々子さん、妖夢の手伝いして来ます!」

 

 

台所へ行き調理を手伝うと言ったが「素人がやると逆に迷惑ですので、時間はこれから幾らでもあります、まず見て憶えて下さい。」

言われた通り見ている事にした。

 

テキパキと調理していく、あの量をいつも1人で作るのだから当然か。

 

「雄介さん、あの時の事なんですが。 ごめんなさい!私が半人前だった為に…あんなに辛い思いをさせてしまいました。」

 

彼女が作業を中断し頭を下げてきた。

 

「何を言ってるんだよ、妖夢は悪く無いだろ?俺が勝手に襲ったんだ、斬られて当然だよ!そんな事よりも怪我をさせなかったから良かったんだ…止めてくれてありがとう。」

 

笑顔を作って頭を下げる。

 

彼女は返事はしなかったが少しまた元気が戻った様だ。

 

料理が出来た、オカズは魚に漬物、ご飯は炊きたてで美味そう。

食事の部屋に移動して2人で食べる。

 

「ん、美味い!漬物はサッパリしてるし、魚の焼き加減も丁度、ご飯も甘い。 なんか生きてる時みたいだ。」

 

自然と笑顔になってしまっていた。

 

「そんなに言っても今日はこれだけしか量はありませんからね?明日からはもっと美味しく作りますね。」

 

彼女も自然と笑顔になっていた。

それを幽々子さんが覗いていたのは内緒!

 

 

桜が満開になってからあの木の事は聞いてみよう。

 

今は彼女の笑顔で心が満たされた気がしたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一週間経つ。

食べてからはご飯の前にお腹が空く様になった、しかも代謝ができたのかな…トイレも行くし風呂も入る。

 

 

ー桜が満開になったー

 

 

最近悪霊の数が増えて来た、あの花が咲かない桜の木に集まっている。

 

ふと妖夢が「何年か前はこの木が元で異変が起こった事があるんですよ。」

といつも通りの日課になった散歩をしていたら話された。

 

気になったので幽々子さんに過去の事と木について聞いてみた。

 

「あの木には妖怪が封印されているの、だから花が咲かない。私には生前の記憶が無いのよ、だからその質問にはこたえられいわ。」だそうだ。

 

その木に行くといつも集まる幽霊でも古参の奴が居たらしい。話し掛けてきたので払おうとしたがしつこい。しかも存在が消えかかっている、話しを聞いてやる事にした。

 

(少年、お前にしか頼めない事がある。)

 

(なんだ?それ程にまでしつこい奴は初めてだぞ。)

 

(身体を貸してくれないか?少しの間でいいんだ、彼女に伝えたかった事がある。悪い事はしない、誓うよ!)

 

(・・何がしたいんだ?)

 

(俺は生前の幽々子の恋人なんだ、消える前に伝えたい事があるんだ。ずっと彼女の側に居たんだが…どうやら存在が曖昧らしくてな、誰にも気付いてもらえなかったんだよ。だから頼む、お前にしか視えないんだよ。)

 

(なら条件がある、絶対に彼女を悲しませる事はするな!それと意識の半分は貸す。保険だ、乗っ取れる時間は半日も無いと思う。お前は存在しているだけで限界だから・・それでもいいか?)

 

(ああ!それでいい。感謝するぞ少年。)

 

身体に霊が入る。

 

屋敷へ向かい歩く。

 

「雄介さん、今日も1人で花見ですか・・何かに憑かれています?」

 

様子を見に来た妖夢が心配そうに聞いてきた。

 

「俺は正気だから大丈夫。時間が無いんだ、コイツが幽々子と話しがしたいらしい。2人にしてもらえるかな?」

真剣な眼差しで見つめる、俺の意思で言葉を伝えたが動作は霊がした。

 

それを感じたのか妖夢は素直に「分かりました。では買い物に行って来ますので、帰りは夕方になると思います。それまではごゆっくり。」

 

屋敷の中に入る、幽々子が居た。

 

「俺に憑いた奴が話をしたいそうだ。あと半日しか存在出来ないけど、代わるね。」

 

その時姿が変わったらしい、霊の想いがそれ程強かったのだろう。

 

「誰なの?私に用があるのなら生前の知り合いかしら。」

 

「ああ。記憶が無いのは知っているよ幽々子、あえて名乗らないがお前の知り合いだ、少し話しをしようじゃないか。」

 

「ええ、いいわよ。その気配…たまに感じた覚えがあるわ。」

 

「なんだ、気付いてくれていたのか。お前は生前の記憶が無いのをずっと気にしていたよな?」

 

「ええ、そうよ。名前が言えないのならせめて私の何だったのかは教えてくれるかしら?」

 

「昔の恋人さ、ずっと側に居たんだ。最後に約束したからね、憶えていないのは分かってる。でも伝えたい事があったんだ。死んでも愛してる!ってな・・こんな曖昧な存在になって彼の身体を借りないと意思も伝えれなくてすまない。」

 

「そう、私にも恋人が居たのね。雄介さん、悪いけど・・彼との少ない時間を大切にしたいの。」

 

頷く、そして霊に心で話す。(信用してやるから、身体も意識も好きに使え。)

 

(ああ、なんて日だろうか。ありがとう!これでやっと後悔も無く逝く事が出来るだろう。)

 

 

 

 

 

そこから記憶が無い、気付いたら幽々子さんが膝枕をして頭を撫でていた。

 

「もう逝きましたよ、大丈夫ですか?」

 

ポツン

 

涙が頬に落ちる。

 

「ええ、私生前本気で彼が好きだったのよ、記憶が無くても魂で分かるの。妖夢が帰るまでこうしていていい?あの人は最後まで名前を教えてくれなかった、新しく幸せになれですって。」

 

「そっか。膝枕気持ちいい、それだけ想ってくれる人がいるのは羨ましいよ。」

 

「私は幸せ者だったのかもね、余計な事は言わなくて、心配性な人だったわ。もっと早く気付いてあげていれば・・」

 

「彼に憑かれている間ずっと幽々子さんの事しか考えれなかったんだ。悲しむのは駄目だよ、彼は最後本当に幸せだったんだから。」

 

 

彼女は頷き無言になった。

そのままゆっくりと日が沈んでいく…そして夕暮れになり妖夢が帰ってきた。

 

それからはいつも通りの幽々子さんだった。

元気そうだし、暇な時間は庭が見える部屋で歌いながら団子を食べる。

 

 

 

 

ある日たまたま見たんだ。

あの花の咲かない桜にも団子が添えられていたのを。

 

彼女が人目を盗んでこっそりとお供えしているのをね。

 

 

 

 

 

 




前編と後編に分けたのを統合。

次回へ続きます!

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